Medicine メディスン 公演情報 世田谷パブリックシアター「Medicine メディスン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    精神病院らしい施設の一室で行われる演劇治療らしい。その出来次第では退院できるのではないかと、ジョン(田中圭)は期待を持つ。老人の紛争で現れる音響兼役者のメアリー(奈緒)、ロブスターの着ぐるみで現れる、エネルギッシュに指示を下す俳優のメアリー2(富山えり子)、そしてドラマー(荒井康太)。彼らがジョンの治療劇の出演者、音響だ。メアリー2がブースに入るときに起こる強風など、演出家の工夫かと思いきや、すべて台本の指定らしい。かなり凝った戯曲である。

    「気分はどうだね」「いいです」「何でここに来たんだと思うかね」「僕がほかの人と違うから…」…医師とジョンらしき会話の録音が、舞台にいる4人以外の、監視者の存在を示す。二人のメアリーは、雇い主と携帯で話したりもする。こちらからは見えないが、相手からは見えると思わせる「視線の政治学」が可視化されている。監視と監禁の中での、1年に一度の治療劇。両親の愛情の薄かった幼少時代(赤ん坊の人形も使う)、いじめ、そして、施設の庭で花咲いた恋と退院の夢…。歌ったり、踊ったり、走ったり。劇中劇を出たり入ったり。振幅の激しい感情と、ダンススタジオのような動きはすさまじかった。

    ネタバレBOX

    治療劇は、実は施設の巧妙な罠というべきものだった。ジョンの一生を振り返って、自己を見つめさせるというのは見せかけだけ。彼に、施設内で恋した経験を思い出させ、その時の外へ出たいという望みが、結局みじめな別れと虐待しかもたらさなかったことを思い知らせる。「ここにいるのが正義です」と屈服させるのが狙いなのだ。

    メアリー(奈緒)はそれを知っているから「私たちのやっていることは、彼に残酷すぎないか」と躊躇を見せ、メアリー2(富山えり子)をブースに閉じ込めもする。しかしメアリー2はそんなメアリーの迷いなど歯牙にもかけず、(施設側の)台本通りに彼をどん底に叩き込んで、次の子ども劇場へと去っていく。

    最後にスピーカーから流れる、年老いたジョンの声は、彼がすでに何十年も施設に閉じ込められていることを暗示する。メアリーが、最後はジョンに寄り添って終わる。せめてものジョンへの慰めなのだろう。にしても、残るもやもやが大きい。もう少しわかりよくしてほしかった。

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    2024/05/09 23:25

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