ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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小さな王子さま/フランドン農学校の豚

小さな王子さま/フランドン農学校の豚

座・高円寺

座・高円寺1(東京都)

2023/09/04 (月) ~ 2023/10/13 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『星の王子さま』はいつもしっくりこない。昔、初めて読んだ時はメチャクチャ感動した筈なのだが、舞台として観ると何か違う。今回も何か違った。
王子役の浅川奏瑛(かなえ)さんが中性的。何か奥山佳恵っぽい。新体操のリボンやバレエの動き。ラストの男性四人に抱えられてのイルカのような空中遊泳、宙を舞う幻想的な舞踊は印象的。
髙田恵篤氏は肉体が若い。かなり動ける。
キツネの藤村港平氏、バラの山崎眞結さんも印象的。
巨大な骨のヘビがカッコイイ。

ネタバレBOX

何故かどこからか現れた砂漠の人(?)達が飛行機を修理して水を飲ませてくれる。
脚本・演出のテレーサ・ルドヴィコさんは役者向きのルックス。

もぴプロジェクト×ピンカルンカの『星の王子さま』が一番好きかも。振付の古川琴音さん目当てで行ったが、今や彼女は・・・。
濫吹

濫吹

やみ・あがりシアター

新宿シアタートップス(東京都)

2023/09/07 (木) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素晴らしい作品。この作家は“作品”の構造そのものの面白さに手を掛け始めている。筒井康隆の『文学部唯野教授』前夜なんかに近い味わい。文芸評論家(?)の福田和也が昔書いた評論で大衆文学と純文学の違いを説いた。「部屋の間取りや家具の配置、流行のインテリアを弄るのが大衆文学」、「建物の構造そのものに手を掛けるのが純文学」。言うなれば「このフォーマットで脚本を書いて演出して上演して下さい。」という縛りの中で競い合うコンテスト世界からの逸脱。そもそもの疑問、自分達は何を演って客は何に金を払って集まっているのか?突き詰めると新興宗教の勃興になりそうな難問。ひどく面白い。この笠浦静花さんという主催のもとにおっさんが群がる理由が判った気がする。しかも実験で終わっていない。普通に作品として成立している。何かこんな感じの味わいの映画を昔観た気がするのだが到頭思い出せなかった。阪本順治の『トカレフ』のような、マッテオ・ガローネ監督のイタリア映画『ドッグマン』のような。作家の意図がはっきりしないまま、だが間違いなく確かな強い意志を見せられ続けている不安。ずっと不穏。
「らーらーらーらんすい」

席は前の方が良い。角度的に後ろからだと見えない地下の蹴込み。今作は役者の待機する蹴込みをステージ下のスペースに置き、常時公開した。待機から役のオン・オフから着替えから丸見え。メイキングと同時進行する舞台。太鼓を叩く小山優梨さん(楽曲制作も)。下から声を合わせる「いっしょしゃべり」。タイミングも完璧。

南郭濫吹(なんかくらんすい)=「南郭、濫(みだり)に吹く」。紀元前3世紀の思想家、韓非(かんぴ)の著した『韓非子』に記されているエピソード。斉(せい)の王、宣王は300人の竽(う)という管楽器の名手を集めて合奏させるのを好んだ。その中にいた南郭は楽器など出来ないが、吹く真似だけで巧く紛れ込んでいた。代が替わり、湣王(びんおう)は独奏を好んだ為慌てて逃げ出す。

小学校の登下校の旗振り当番。サボりが多い。シルバー人材センターへの外部委託にしたい副会長。いろんな意見が飛び交う。コロナ禍を経て喋ることをやめてしまったハナちゃん。誰かの言葉に合わせる「いっしょしゃべり」しかしなくなった。

役者が豪華。誰も彼もが魅力的。小劇場オールスターズ。
熱心な旗振りの加藤睦望さんは作家の分身。この人はコメディエンヌ的な役回りが多いのだが、本質は純文学。ある見えない人達の存在を代表していく依り代。田中裕子みたいになっていくだろう。
PTA会長は青木絵璃さん。気が優しく物事を自分では決められない。柔和で和やか。
気の強い副会長は柴田和美さん。ズケズケ物を言う。
副会長の旦那、区議会議員の加瀬澤拓未氏。名助演。
副会長の娘、チカナガチサトさんは自分の売りを掴んだよう。悪意のない毒舌家。
校外委員の松本裕子さんはおかずクラブのゆいPっぽいアクの強さ。強烈。
彼女の子分的な立ち位置のさんなぎさん。目を細めて喋るが時々かっと見開く。この人のファンは多いだろうな。細かい仕草を沢山仕込んでいて唸る。ペットボトルを無理矢理一本飲み干した。
引っ越してきて旗振りに加わった田久保柚香さん。表情が巧い。複雑な内面の感情を観客に伝えるのが上手。
旗振りをサボってばかりいる波世側まるさん。生活感がかなりリアル。実際に町で見るのはこんな人ばかり。
肉屋の笹井雄吾氏は柴田勝頼に見えた。

これを観れたのは運がいい。
面白かった。

ネタバレBOX

ラストのハナちゃんを自殺の道連れにしようとする加藤睦望さん。縄で首を絞める刹那、ハナちゃんはお尻を揉んでくる。母親が父によくする習癖。「私、それ弱いのよ」と苦笑した加藤さんは我に返る。密かに撒かれ続けていた種がここで芽を出し花となる名シーン。黒澤明の『どですかでん』っぽい。

「いっしょしゃべり」は筋肉少女帯の『ハッピーアイスクリーム』を思い出した。


偽物なのがバレて逃げ出した南郭。現代の加藤睦望さんには逃げ出す先が見付からない。ネットの網の目が至る所に張り巡らされていて過去からも現実からも他人の目からも逃れられない。何処の共同体からも拒絶されたら自殺するしかないのか。
だがラストのモノローグではその孤独感さえも「いっしょしゃべり」でしかない絶望を語る。(これは加藤睦望さんではなく笠浦静花さんの叫びだろう)。自分が何を言おうとも何を感じようとも何を思おうともSNSで既に何処かの誰かが呟いている。この先、自分自身が唯一無二のオリジナルであることすら感じることの出来ない世界への絶望感。

SNSをやめて情報を遮断するしかない。
夏の夜の夢

夏の夜の夢

イエローヘルメッツ(Produced by GMBH)

かなっくホール(神奈川県)

2023/09/08 (金) ~ 2023/09/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

“子供のためのシェイクスピア”の後継劇団。イエローヘルメッツとは、元々は開演前に一曲歌う黄色いヘルメットに黒コート集団の呼び名。今回は若松力氏が松田聖子の「SWEET MEMORIES」を歌った。ハンドクラップ、オノマトペ、腹話術人形のシェイクスピア、「ほーほーほぉぉぉ」。山崎清介氏の味のある声。小さな机や椅子をレゴブロックのように自在に配置して組み合わせる舞台美術。とは言えガチガチに原典に準拠するファンダメンタリズム(原理主義)は健在でシェイクスピアの品格を貶めない。

『夏の夜の夢』は高橋留美子調のラブコメ。妖精王が惚れ薬を使ってこの世の諍いを整理しようと試みるも、手下のパックがいい加減な仕事をすることで更に事態はこんがらがっていくというもの。惚れた腫れたの大騒ぎを笑うドタバタコメディ。

この世に要らぬ揉め事をもたらす美女ハーミアは大井川皐月さん。
誰にも相手にされない悲しいヘレナに川澄透子さん。彼女が実に良かった。
妖精の女王は劇団代表でもある鷹野梨恵子さん、凄い貫禄。若いのに大御所のオーラ。
若松力氏は月船さららさんのmétro(活動停止中)で大好きになった俳優。
8人の芝居とは思えない入れ代わり立ち代わりの妙。

このシリーズを味わわないのは実に勿体無い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

オウィディウスの『ピラマスとシスビー』をアテネの職人達が上演しようと森で稽古する。素人達が浅知恵で弄り倒してどうしようもないドタバタ芝居となるのだが、実はこの話は『ロミオとジュリエット』の元ネタ。『夏の夜の夢』と『ロミオとジュリエット』はほぼ同時期に書かれたそうで、一方はシリアスな悲劇に、もう一方はシニカルなパロディに。

あんまり子供が楽しめそうな感じではなかった。もっとてんやわんや感で賑やかしくやった方が。アテネの職人の劇中劇のくだりは同一人物が演っている為、よく判らないで終わりそう。”マニアのためのシェイクスピア“みたいな通好みの風味。でもやはりこの空間は中毒性がある。初めて観た時の、あの感覚を思い出す。また觀たい。
いつぞやは【8月27日公演中止】

いつぞやは【8月27日公演中止】

シス・カンパニー

シアタートラム(東京都)

2023/08/26 (土) ~ 2023/10/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

8/21、一番集客があるであろう窪田正孝氏が第一頚椎の剥離骨折による降板を発表。開幕まで一週間を切った状態で平原テツ氏が代役をすることに。加藤拓也氏にとって最も頼れる俳優。流石に文句なしの演技。ただ窪田正孝氏バージョンも観てみたかった。本来はどんな作品を構想していたのか。

主人公の劇作家(橋本淳氏)が5歳年上の役者の友人(平原テツ氏)と久し振りに会う。大腸癌のステージ4で、青森の実家に帰るとのこと。帰る前に何か演劇的なものをやりたくなる役者仲間達。平原テツ氏は帰省後、地元でヤンキー仲間の鈴木杏さんと再会する。劇作家は思う。「そう言えば彼は『自分の人生を舞台にしてくれ』とよく言っていたっけ」。

多分実際の友達の話なのだろう。何年か前、加藤拓也氏が三軒茶屋の居酒屋で演った芝居を観た。入場料は500円。ふざけた仲間内の下らない与太話だったが面白かった。
死んだ友達について作品を書くという行為。『ドードーが落下する』も話としては同じ系統だった。酷く突き放して冷たい目線でないと良い作品にはならない。非人間的な作業。ドキュメンタリー映画の監督が対象にもっと残酷な展開をねだるように。所詮はこんなもの、他人に供する娯楽でしかない。それを書く自分自身の醜さも冷徹に見つめて。

ネタバレBOX

まああんまり面白くない。大麻でラリってクラブでノリノリ、なんてギャグとも思えず。宙に浮く風船人形が良かった位。平原テツ氏がテーブルに反吐を吐き、それを綺麗に掃除する鈴木杏さん。たっぷり時間を掛けてステージ上の小道具を一つ一つ収納していく。この時間が自分的には一番面白いシーンだった。反吐と天井からの落下物が『た組。』のお約束。
橋本淳氏の書き込みが無さすぎてバランスが悪い。

ペドロ・アルモドバルの『ペイン・アンド・グローリー』という傑作自伝映画がある。かつて世界的名声を誇った映画監督、今では病による全身の痛みを癒す為、ヘロイン中毒となっている。想い出す幼き日々、同性愛に目覚めることとなった出逢い。失った恋人との偶然の再会が、もう一度生き直す切っ掛けを生む。久し振りに撮り始める新作は勿論この作品自身。
過去と現在と撮影中の映画が混合して魔法をかける不思議な時間。他人の話なのに観客の魂が再生される。
演るんならそんな作品を期待してしまう。

窪田正孝氏目当ての女性客が多かったと思う。感想を聞いてみたい。忖度なしで。
無理して自分の経験から物語を捻り出す必要はない。じっとその時まで溜めておけばいい。長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』なんか舞台化すれば合うのではないか。

平原テツ氏は役作りの為にわざとハゲを作っているのか?
たまの「さよなら人類」が耳に残る。
越後拓哉氏。
SHINE SHOW!

SHINE SHOW!

東宝

シアタークリエ(東京都)

2023/08/18 (金) ~ 2023/09/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

三谷幸喜の『ラヂオの時間』を映画館で初めて観た時、劇場中が大爆笑、拍手喝采。理想のコメディだと大満足。(その後、何度か観たがそこまで面白く感じられなかった。あの時の劇場は神がかっていた)。
今作もその系統の作品で、観客が心から拍手を贈っている。前の席の老夫婦が「面白いねえ」と言い合っているのが味わい深い。冨坂友氏がまた新たなステージに立った瞬間。彼を知らない人達が一斉に注目。TVや映画へと活躍の場は広がるだろう。小劇場の傑作をブラッシュアップして商業演劇の場に掛けるのはプロデューサーの正しい判断。今後増えていくのでは。
冨坂作品の魅力は言葉と理屈を使った、相手への説得。絶対に曲がる筈のない意志を曲げてみせる驚きのディベート術。ロゴス(論理)、パトス(共感)、エトス(信頼)。(ただ使い過ぎると観客への効果は薄れていく)。

去年、恵比寿の小劇場で5日間だけやった作品。大絶賛でCoRich舞台芸術アワード!第1位を獲得。観ておくべきだった。

元宝塚女優、長身スラリの朝夏まなとさん。早口の長台詞も聴き取り易く完璧。
その部下となる小越(おごえ)勇輝氏は小柄で二人のシルエットのバランスが抜群。
司会役の西村直人氏は「たいめいけん」3代目シェフ・茂出木浩司を思わせる。
もう一人の司会者役、鹿島ゆきこさん。掛け合いが見事。
花乃(かの)まりあさんはマジで元乃木坂だと思って観ていた。自虐ギャグが凄えなあ、と。
栗原沙也加さんの『ロマンスの神様』は見事。とても楽しそうに歌うので、会場中が盛り上がる。
木内(きのうち)健人氏の『粉雪』は凄かった。カラオケのレベルではない。
中川晃教氏は名前をよく聞くのだが、流石プロの歌手。『楓』で唸らせる。
斉藤コータ氏は固定ファンがいるのか、やたら受けていた。
ゲスト歌手役の山下雷舞氏は甲津拓平と草野大悟を足した感じ。
制作アシスタント役の前田友里子さんは里村明衣子
の貫禄。何か売れそう。

場所柄もあり、この系の作品が観客に一番支持されるのでは。豪華なショーでお正月なんかに合いそう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ラストの展開が好きじゃない。音痴の朝夏まなとさんが必死に『とんぼ』を歌うのは違うと思う。途中に小越勇輝氏のモノローグを入れて「僕には必死な先輩の歌声がこんなふうに聴こえていた」、からのガチ美声熱唱で良かった。
元彼と彼女と今彼の『楓』を巡る三角関係も泣かせて欲しかった。
TOTEM 真空と高み

TOTEM 真空と高み

山海塾

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/08/30 (水) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開演時刻になると、現時点で空席のままである指定席の無効が宣言される。劇場スタッフが最前列より順に、空席に座りたい者を募り誘導していく。ちょっとしたカルチャーショック。今後こうなっていくのか。

開演前はドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第二楽章「家路」が延々と掛かる。小学校の下校の時間を知らせる、例のアレだ。軽い鬱な気分。舞台美術は粉の撒かれたステージが四分割、中心には謎の立方体の塔、モノリスのような謎めいたクリスタル。(中西夏之氏の作品「カルテット 着陸と着水X」)。バックに二つの巨大な金属の円の枠。左右端からゆっくりと中央に動いていき、交差しては互いを入れ替わるように元の位置へ。
テーマは陰陽だろうか。対称的な二つの事物が世界を構築している様。
音楽が凄く良かった。冨田勲っぽいシンセサイザーによるミニマル・ミュージック。加古隆氏と吉川洋一郎氏。伊藤詳による『ブッダ』のイメージアルバムを思い出した。

現れる四人の修行僧、左耳にだけ大きな耳飾り。次に現れるニ人には右耳にだけ耳飾り。白い繭のような耳飾りを下げた者も登場。ソロで踊る蝉丸氏の場面の曲が良い。舞台下から(?)青いライトが灯ると、発光した四面のステージは水面に見えてくる。舞踏による禅、瞑想。

これだけ実験的な空間に関わらず、居眠り客は見当たらなかった。見巧者の集結。

カーテン・コールは『アメイジング・グレイス』。熱狂的な外人客が喝采を叫び、劇団四季並みに繰り返された。これは外人の方がダイレクトに興奮する分野。

ネタバレBOX

自分は死んだ筈が、気が付くと月の裏側のような荒涼とした場所に立っている。死後の世界か、はたまた地獄か?ゴータマ・シッダッタの見付けた四諦八正道を駆使して、“自分”という執着からの解放を望む。修行に次ぐ修行の日々。遥か彼方に見える懐かしき地球。「十牛図」のように全てから解放されたのちには、その全てが新鮮で愛おしく思える。
そんなふうに妄想して観ていた。観劇という瞑想体験。

The ピーズ『月面の主』

懐かしそうに立って地球を見ている
こんな筈ではないとガラクタ集めさ
消えた色に消える匂い
付いて行けばよかった
あん時本当にいい匂いがした
旅のマシーン

旅のマシーン

実弾生活

駅前劇場(東京都)

2023/08/31 (木) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2023年1月5日、インコさんがパーキンソン病を公表。それすら笑いにする姿勢に、「何かこの人凄いな」と感じ入った。
新作オムニバス・コント、インコさんの独特のセンス。右手は小刻みに震えている。信者が集った初日、求めるのは他に替えが効かない唯一無二の世界観。もう笑いよりも心地好さを求めている気がした。この座組に観客席から参加して、また次回も行きたいな、と。確かに次も気になる。彼の笑いのアンテナに何が引っ掛かるのか?

物販の綺麗な娘(小山まりあさん)が最高だった。おっさん達は財布の紐が緩みっ放し。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

伊藤美穂さんの会場人気の高さ。拷問のようなハイヒール、白目を剝いた壮絶な死に顔。
中尾ちひろさんの不細工な泣き顔。訳の判らない独特な空気感。中毒性がある。
原紗友里さんの声優とは思えない暴れっぷり。
こば小林氏はヘイポーに見えた。

②『シネコンの衝突』の中尾ちひろさんの名言。「私、売られるの?」
③『AJITAMA』のラーメン屋開店ネタが面白かった。心の声が大量に炸裂。
④『ヴァチカンより来たる』の虫歯菌ネタも最高。
ヨーコさん

ヨーコさん

演劇集団円

吉祥寺シアター(東京都)

2023/08/26 (土) ~ 2023/09/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『100万回生きたねこ』も作者の佐野洋子さんも全く知らずに観劇。役者も全く分からない。お父さん役が『ペリクリーズ』の主演・石原由宇氏だったのは判った。
主演の「ヨーコさん」役の谷川清美さんは圧倒的。桃井かおりみたいな感じで好き放題ステージに君臨する。ガチガチに構築された空間を縦横無尽に泳ぎ回る魚。参った。
もう一人の「ヨーコさん」、6歳の自分であり同じ名前の猫役の大橋繭子さん。いや凄え女優がいるなあと驚いたが、『ペリクリーズ』で一番気になったヴァンプだった。うわマジか?同一人物か?この劇団に恐れをなす。
「ヨーコさん」が憎んで憎んでどうしようもなく憎んだ母親役は清水透湖(とうこ)さん。堪らなく胸が痛む。例えそれが母親ではなかったとしても、観客一人ひとりがそれぞれの痛みの記憶を喚び起こす。
早逝した天才の兄役は岩崎正寛(まさのり)氏。「蛙を窓から飛ばせ!」「時間の尻尾を捕まえろ!」、名言多数。
中野風音(ふうね)さん演ずる岸田今日子がドッカンドッカン受けた。
音楽の西井夕紀子さん作曲の名曲揃い。歌と踊りは最高。ジョリー!

作品の完成度が物凄い。西原理恵子✕80年代小劇場。作家や『100万回生きたねこ』を知っていればもっと楽しめた筈。やはり帰りに絵本を買ってしまった。
母親との関係にトラウマ(のようなもの)を抱えている女性は絶対観た方が良い。この圧倒的な演劇空間は体験して全く損はない。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

80年代の演劇っぽい感じ。もう既に古典芸能の感すらある。演劇定型文のような展開。「ここテストに出るぞ」みたいな。
『100万回生きたねこ』の内容を作品内でだぶらせて、カタルシスに持って行くべきか。猫の存在が母親と同等ぐらいに重要。
くるみ割り人形

くるみ割り人形

谷桃子バレエ団

日生劇場(東京都)

2023/08/25 (金) ~ 2023/08/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

面白かった。クララは齊藤耀さん、王子は今井智也氏、金平糖の精は山口緋奈子さん、ドロッセルマイヤーは齊藤拓氏、デコレーションケーキ・プリマは永倉凛さん。

今井智也氏は人気あるだろうな。少女漫画みたいなルックス。チャイコフスキーはPOP。現代に生まれても抜群の作曲センス。
バレエは脚の芸術。伝説のニジンスキーなんて、どんなだったのか観てみたいもの。
バレエを体験出来る素晴らしい機会。ずっと続けて欲しい。

ネタバレBOX

Ally J. Levine氏によると、1892年、ロシア・サンクトペテルブルク初演の『くるみ割り人形』は大不評に終わった。しかし1954年、ジョージ・バランシン率いるニューヨーク・シティ・バレエ団により、この作品は大ヒット作と生まれ変わることに。彼はバレエ教室の子供達に出演機会を与えたかった。8歳から12歳の子供達に、能力に応じて役を割り振る。ステージ上で経験を積み、テクニックを上げることで更なる役がもたらされる。子供のバレエ教育としての作品へと。そしてその子供達が親になった時、自分の子供にやらせたいのはこの作品。経験の通過儀礼としてのバレエ。世代を越えて共通言語として残るバレエ。

子供の頃、カラヤン指揮の『くるみ割り人形』をずっと聴いていた。それがどんな場面なのかも分からぬままに妄想して。いざ目の当たりにすると、ちょっと勿体ない使い方。基本的にはいろんな踊りを宮廷で眺める品評会スタイル。物語にバレエが溶け込めば傑作足り得るのだろう。バレエであることを忘れる位、物語にのめり込ませさえすれば。理想の『くるみ割り人形』を誰かが完成させて欲しい。『銀河鉄道の夜』と世界観が被る気がする。
せかいいちのねこ

せかいいちのねこ

日生劇場

日生劇場(東京都)

2023/08/19 (土) ~ 2023/08/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ヒグチユウコさんの絵本の世界。舞台中に描かれた花やキノコや胞子は、グロテスクな深海の風景にも見える不思議。原生林の生い茂る樹海深く、美しく怖ろしい無意識の底。宙を飛ぶトビウオ、艶めかしい陰葉植物。この美的感覚はテレーサ・ルドヴィコの『ピノッキオ』とだぶり、やはりサントリーのウイスキー・ローヤルCM「ランボー編」を思い出す。こういう無意識内を旅する世界観は小川ちひろさんの人形美術、人形劇団ひとみ座とすこぶる相性がいい。美術の松生紘子さんによる絵本をめくると背景が飛び出してくるような工夫の効いたセット。
被り物の猫達を演ずる山田うんさん率いるダンスカンパニー「Co.山田うん」。バレエのような軽快で派手な振り付けが印象に残る。後ろ脚をクイッと宙空に蹴る。

主人公ニャンコ役は松本美里さん。往年の大山のぶ代風味で子供達を夢中にさせる。
子供部屋のぬいぐるみ達が夜中になって動き出すというのは『トイ・ストーリー』の世界観。驚くのはぼっちゃんの趣味。へびにたこ、そして謎の生物アノマロ。蝉の幼虫だと思っていたが、5億年前に生息したアノマロカリスのことだった。勿論、化石でしか存在しない。このマニアックな陣容がニャンコに忠告。ぼっちゃんの成長と共に薄れていくであろうぬいぐるみへの愛情。不安を掻き立てられたニャンコは本物の猫になる為にアノマロに跨がり、「ねこのヒゲ」を集める冒険の旅へ。

曲はQUEENや久石譲っぽかった。「こうしてこうしてこうなって〜」と、これまでの展開をダイジェストで説明するブリッジ曲が最高。その度に物凄いスピードで何度もコミカルに全登場人物が踊りまくる。この演出は見事。

何とも言えない不思議な後味。やたら脳裏に引っ掛かる世界観。大人の絵本。

2020ネンマツ?

2020ネンマツ?

劇団ダブルデック

シアター風姿花伝(東京都)

2023/08/11 (金) ~ 2023/08/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

開場すぐにガチガチの集客と熱気。何だこりゃ、異様なムード。客のノリもさっぱり理解不能。アウェイの感覚で覗き見た。ドリフターズ&志村けんRespect。「シェー」なんかもあった。笑いの種類的には全く好みじゃない。上京大学生のコンパのノリ。「うわ、こりゃ失敗した」と思いつつ、凄く練られている構成、繰り返されるブリッジ曲とドリフ・ダンスに段々と嵌っていく。90分のリズムネタとして秀逸。台詞から合いの手から表情から全て完成された一本の作品。この系の笑いが嫌いな自分でも面白かったのだから、好みの観客には絶品だろう。
「この人、好きだな」と思っていた女優が終演後調べたらマタハルさんだった。何か良いよね。

ネットの大型番組、5人の挑戦者が賞金一億円を掛けて夢を追う。馬術選手(吉川瑛紀〈ひでき〉氏)、ピン芸人(ワタナ・ベリヨさん)、料理人(マタハルさん)、モテたい男(加藤将隆氏)、歌手になりたい女(小山ごろーさん)。コロナで番組が中断され、3年後まさかの再開。

ネタバレBOX

アフタートークで謎が解けた。FM NACK5のパーソナリティ、斉藤百香さんがゲスト出演の回。熱狂的なリスナー・ファンが集結していたのだった。異様なノリの納得がいった。今の時代にもこれだけ濃いファンを獲得できるのなら、ラジオというコンテンツも面白い。小劇場を根城とする劇団と相性がいいのかも。
メルセデス・アイス MERCEDES ICE

メルセデス・アイス MERCEDES ICE

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/08/11 (金) ~ 2023/08/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

凄い好きな話。ティム・バートンは即映画化すべき。こういう話を創作出来る才能に憧れる。子供の頃、夜布団で読み始めたら面白過ぎて読み終わるまで眠れなかった系の物語。雰囲気は『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』。舞台美術も凝りに凝っている。こういうのこそが真の子供向け。子供はメチャクチャ好きな筈。チケットが高すぎるのが残念。

今泉舞さん目当てで何の情報も入れずに観た。知らない役者ばかりだったが全員最高の座組。(松尾諭〈さとる〉氏だけ『シン・ゴジラ』で知ってた)。

ある街に巨大な高層タワーが数十年掛けて建設され始める。巨大な影を落とす為、Shadow Pointと呼ばれた。皆がそれを嫌ったが、一人の女の子だけはその工事を愛した。
ロージー役東野絢香さん、この人の表情が魅力的。いい配役。ずっと観ていられる。
彼女のお母さんドール役は大場みなみさん、偉く綺麗だった。
魚屋の一家の息子、ティモシー(斉藤悠氏)も“影のタワー”を好きだった為、いつしか二人は付き合い始める。
その母親サンドラ役は今泉舞さん。二役を演じて間違いない存在感。

タイトルロールの細田佳央太(かなた)氏は「影のタワーの王子」として君臨する。
ハーフっぽい美人がいるな、と思っていたらヒロイン・豊原江理佳さん。ラッパ屋の『2.8次元』を観ていた。華がある。

客席通路を駆けずり回って子供達を喜ばせる演出。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

蜘蛛の巣のマント、鼠の毛皮のマント、センスがいい。トルテが美味そう。タワーもカッコイイ。
朗読劇『ひめゆり』

朗読劇『ひめゆり』

新国立劇場演劇研修所

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2023/08/10 (木) ~ 2023/08/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

実話実名だけに逃げが効かない。これを実体験した人間がこの世に実在することに打ちのめされる。きちんと時系列で「ひめゆり学徒隊」を説明してくれるので理解がし易い。たった三ヶ月の話なのか。嘘みたいだ。
石垣島出身の原作者の宮良ルリさん(飯田桃子さん)の視点から、彼女達が何を体験したのかを克明に描く。島から共に沖縄県立女子師範学校一部に合格した根岸美利さん、小林未来さん、松村こりささん。皆学校の先生になる筈だった。
極限の状況でも人間は人間であろうとする。教師は生徒一人ひとりを守ろうとし、生徒は教師を信じ抜く。死ぬことよりも怖いことが非国民にされること。地獄の不条理の中、気高く在ろうとする。

演出も一流。太田博少尉作詞、音楽教師・東風平恵位(こちんだけいい)作曲の「別れの曲」が名曲。
是非観に行って頂きたい。

ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。

ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。

劇団身体ゲンゴロウ

シアターバビロンの流れのほとりにて(東京都)

2023/08/06 (日) ~ 2023/08/11 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

痛み痛み痛み。ノストラダムスの大予言を生き延びた2000年生まれのミレニアム・ベイビーズ。2012年小学六年生、あるクラスのささやかな青春。前年には東日本大震災で地獄を見せ付けられた被災地が舞台。
痛み痛み痛み。虐めでしか安心出来ない人間関係。やられたくなければやるしかない。誰もが誰かを憎んでいる。惨めな劣等感を癒す為には更なる弱者を踏み躙るしかない。痛みの連鎖。惨めな連鎖。
勿論誰一人幸せにはなれない。誰もが心の底の憂鬱を引き受けて生きるしかない。

男子と主人公の母親役をやった柳町明里さんは雰囲気がある。

ネタバレBOX

amazarashiの「夏を待っていました」みたいな鮮烈な絵が欲しい。何度も聴き直したくなるのはその力。こういう作品には『リリイ・シュシュのすべて』もそうだけれど圧倒的な美しさが必須。醜さの説明は簡単で、でもそれだけでは人の心を打たない。陰惨な事件は求めずとも連日世界中に撒き散らされているだろう。藤子不二雄Ⓐの漫画、『少年時代』なんか今思い返しても素晴らしかった。
ソフトボールの試合のシーンなど演出がずば抜けている部分もあるが、全体的に無駄が多い。要らない情報ばかり。絶対に裏切らない親友に裏切られてこそ映画。「まあそうだろうな」の連発では安い。作家のやりたいことが判るだけに歯痒い。
主人公とりょうの関係性を軸に少年の視点から見えたちっぽけな世界から綴っていくべき。全員のドラマを公平に語ろうとするから物語があやふやになってしまった。(匂わせる程度でいい)。

母親の恋愛が相手の息子の訴えで消えるのはドラマとしておかしい。りょうの行動が突発的で発達障害っぽい。視点が混線、混乱、何を見せたいのか作家の肚が決まっていない。もう一手踏み込んで欲しい。
桜の園

桜の園

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2023/08/07 (月) ~ 2023/08/29 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原田美枝子さんは生で観れるだけで有り難い存在。八嶋智人(やしまのりと)氏は今作の主人公でもある。松尾貴史氏は凄い存在感。成河氏は足が速い。川島海荷さんだとはなかなか気付かなかった。世界一不幸な駄目男、前原滉(こう)氏。村井國夫氏は久保酎吉テイスト。竪山隼太氏はカッコイイ。安藤玉恵さんは味がある。川上友里さんは好き放題。チェーンソー片手の不穏な永島敬三氏。中上サツキさんの役がよく分からなかった。

ネタバレBOX

第二幕、天野はなさんがメイド服姿でトランスでノリノリに踊る。そこが今作一番の見せ場。市川しんぺー氏は「8.6秒バズーカー」のはまやねんのコスプレに見えた。
終わり方を見付けられぬままずるずるずるずるエピローグが続いていくよくあるあの感じ。自分にとっては喜劇でも悲劇でもなく、ただの失敗作。外人を有難がるのはもうやめにしよう。
ガチガチに日本映画の本流で滅びゆく者達の侘び寂びにこだわったほうがいい。徹底してうんざりした悲劇が過ぎて、どこか笑えてくるような喜劇が望ましい。

これが古典のリライトではなく、完全な新作だった場合、訳が分からないホン。誰もが知る古典の現代風解釈という視点だけで成立している。
原田美枝子さんの役は大竹しのぶさんに見えた。演出家の好み?
六英花 朽葉

六英花 朽葉

あやめ十八番

座・高円寺1(東京都)

2023/08/05 (土) ~ 2023/08/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

〈大正ロマン〉
こちらの配役も甲乙付け難い傑作。2回目だけに今回の方が面白く感じた。もう一度観てみたい程。
中野亜美さんのジェスチャーは本当に絵になる。無声映画のカリカチュアライズした動きがピッタリ。この人は凄い。

こんな作品を観せられるとただただ参る。2つのヴァージョンを観ないと勿体ない。まだ観るべき余地があるのでは。広瀬正の小説みたいに読めば読む程、世界が広がっていく。2つの異なる役を当たり前のように演じる役者達。恐ろしい。

ネタバレBOX

クライマックスの火事の絵が弱かった。(東京大空襲に繋げるにはもっと火勢が欲しい)。

説明が欲しかった部分。

昭和2年(1927年)「口話教育の父」と呼ばれた西川吉之助が手話を一切認めない口話法教育を推進。読唇術で相手の言葉を読み取り、口の形を真似ることで発声を覚えさせた。昭和8年(1933年)鳩山一郎文部大臣が手話を明確に否定。ろう学校でも手話は全面的に禁止された。1996年「ろう文化宣言」等により「聴文化」に対して、手話や視覚を基本とした「ろう文化」という考え方が広まる。国が手話を公式に認めたのは2009年。

筆談は恥ずべきことという考え方が広まり、悲観した苗は自殺に至る。(「昭和モダン」の中野亜美さんの持つ悲劇性がこの役にぴったり)。

作家の書く小説にだぶって聾唖者の娼婦、苗の物語が綴られる。玉の井の私娼街、「この先、道は狭いですが抜けられます」の看板に、ここから決して抜けられない娼婦達への皮肉を思う。
この話こそ小説内なのではないかと思える仕掛けが随所に見られる。苗の死の走馬灯に朽葉が語る『散り行く花』の活弁が重なる。何処からが虚構で何処までが虚構なのか、全てを観客の解釈に委ねている。

ラストの台詞も凄い。「人生が一本の無声映画なら、私達活弁士はその作品が出来うる限り魅力的であるよう熱弁を振るわないといけない。せめてそれだけは約束しような。」
朗読劇『この子たちの夏』1945・ヒロシマ ナガサキ

朗読劇『この子たちの夏』1945・ヒロシマ ナガサキ

公益社団法人 国際演劇協会(ITI/UNESCO)日本センター/地人会新社

シアタートラム(東京都)

2023/08/05 (土) ~ 2023/08/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全員号泣。アメリカで大ヒット中の『バービー』と『オッペンハイマー』。「Barbenheimer(バーベンハイマー)」なんて造語が生まれSNS上で二作の合成画像がバズり、ミーム(ネットの流行り)となっている。バービーの髪型にキノコ雲を合成してアフロヘアーにしたものや原爆投下を背景にオッペンハイマー博士の肩に乗った笑顔のバービー。それに「忘れられない夏になりそう」なんてワーナー公式アカウントが好意的にコメント。こうなると世界唯一の被爆国日本は黙っていられない。署名運動にまで発展した。自分は「たかがパロディじゃないか」と冷ややかに思っていたが、今作を観て考えを改めた。日本人だけはこの十字架を何処までも背負っていかないといけない。逆に日本人が忘れてしまえば一つの不幸話に消費されてしまう。これは日本人が民族として語り継ぐべき民話であり、神話だ。この口承文学は永遠のもの。

1985年初演の被爆した母子の手記の朗読劇。一度は足を運ぶ価値は十分にある。誰もが皆知っている話なのに初めて聞くような痛みと衝撃。地獄とこの世の終わり。何故自分がこんな目に遭わないといけないのか?そしてこの体験に意味はあるのか?外国人の感想を聞きたい。

「今までの悪かったところを許してね。母さん、よか場所ばとっとくけんね」

「女夜叉になって
 おまえたちを殺したものを
 憎んで 憎んで 憎み殺してやりたいが
 今は
 母さんは空になって
 おまえたちのために鳩をとばそう
 まめつぶになって消えてゆくまで
 とばしつづけよう」

ネタバレBOX

やはり胸を打つのは母と子の物語なのだろう。原爆を抜きにしても悲痛な別れに心が張り裂ける。ただ思うのは家族なしで死んでいった無数の人達。誰にも思い返して貰うこともなく歴史の闇に消え去った。想って貰えるだけ幸せなのかも知れない。
六英花 朽葉

六英花 朽葉

あやめ十八番

座・高円寺1(東京都)

2023/08/05 (土) ~ 2023/08/09 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

〈昭和モダン〉
周防正行の失敗作、『カツベン!』にガッカリした映画ファンに贈る無声映画の活動弁士もの。「映画の父」と呼ばれるD・W・グリフィス監督、リリアン・ギッシュ主演の『散り行く花』が印象的に使われる。昔何故か自分もこの作品に嵌っていてサントラまで買ったことがある。スタンリー・キューブリックが『シャイニング』でカットごと引用してオマージュを捧げた。そしてやはりウディ・アレン『ギター弾きの恋』だろう。とにかく演劇と映画の境目に生じる一瞬のきらめきがこの劇団の強み。痛みと慈しみ。昔どうしようもなく好きだったバンドの曲が不意に流れてきたような、あの気持ち。ずっと可愛がっていたけれどいなくなってしまった野良猫、似たような猫を久し振りに見掛けたような感慨。いつも不思議な気持ちにさせてくれる。

六英花(6枚の花弁を持つ肥後系の花菖蒲)。

主演の金子侑加さんは観る度に美しくなっていく。今作ではもう全盛期の森下愛子だった。文句なしの看板女優。声色が化物。
中野亜美さんは泣かせてくれる。今作が代表作になるのでは。モブの役の身振り手振りも最高。ファンは絶対観逃してはならない。間違いなく泣ける。
鈴木彩愛さんも最高だった。
田久保柚香さんの発する痛み。

何重にも仕組まれた映画の構造。その人生ですら映写してしまう。映像と音の組み合わせのモンタージュ。貪るように喰らいつく観客。彼等は何を求めているのか?自分等は何を観せたいのか?

是非観に行って頂きたい。

朗読音楽劇 ひめゆりの唄 2023

朗読音楽劇 ひめゆりの唄 2023

ひめゆりの唄2023上演実行委員会

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2023/08/04 (金) ~ 2023/08/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

オープニングは上石神井琉球エイサー会。大太鼓のリズムが美しく勇ましい。締太鼓、パーランクーがリズムで絡み合う複雑な構造。大したもの。
脚本構成とピアノ演奏の野崎倫央氏、カーテンの袖に隠れてしまっているのが勿体無い。ステージでずっとピアノを弾き続けて欲しかった。
出演者は台本片手に朗読と歌、楽曲のレベルが高く歌も本物。実力派で揃えた。
現代の日本、大嶋奈緒美さんは沖縄から上京して家庭を持っている。沖縄のお婆ちゃんがぽつりぽつりと重い口を開いて語り出したのは、遠き少女時代の話。十六歳で「ひめゆり学徒隊」に動員させられた、あの日々のこと。
先生になるのが夢だった谷口あかりさんは林耕太郎氏との仄かな恋心を冷やかされる普通の少女。弟(上原麻夢さん)にからかわれ、優しい母(桑野結女凛さん)に励まされ。当たり前のような日々が地獄に変わる悪夢。少女の一人、仁科ありささんに見覚えがあったような。

凄く丁寧に作られているので好印象。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

シナリオをもう少し捻った方がいいかも。直球すぎる。朗読劇はラジオドラマと同じくト書きが武器になる。観客の想像力を巧く刺激すれば無限の情景を無料で見せることだって出来る。お婆ちゃんが私と娘に語る額縁を作る方法もあった。話したことと話せなかったこと。話したかったことと話したくなかったこと。
エルマーとりゅう

エルマーとりゅう

人形劇団プーク

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/07/27 (木) ~ 2023/07/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ずっと気になっていた人形劇団プーク。やっと観ることが出来た。林由未さん造形の人形、人間は正面の顔に比べ横顔はぐっと押し潰されている。不思議な造形だった。2.5次元?
『エルマーのぼうけん』シリーズも有名な割に一度も読んだことがなかった。
話は2作目。どうぶつ島に囚われていたりゅうの子供ボリスを野良猫ミミと一緒に救い出した9歳のエルマー。さて、がれき町の家に帰ろうとりゅうの背に乗って飛び立つも嵐に遭ってカナリヤ島に墜落。そこのカナリヤ王国は狂気に満ち溢れていた。

音楽の富貴(ふうき)晴美さんはケルト音楽っぽい曲調で唸らせる。
出遣い(役者が顔出しで人形を動かすスタイル)で行われる為、役者の表情も見えて盛り上がる。皆声がアニメ声で歌える。会場を埋めた子供達を如何に楽しませるか?子供に受けるシーンが想像もつかない場面なので驚いた。(「志村、うしろ!」が一番受けていた)。
嵐の表現で灰色のビニール製の無数のフリンジを靡かせて二人の役者がぐるぐる廻る。印象的。

何か皆楽しそうに演っていて、昔田舎町で観た場末のサーカス団みたいにいい感じ。

ネタバレBOX

楽譜が暗号で、その曲に付けられた王家に代々伝わる歌が宝のありか。「歌の内容そのまんまじゃねえか、気付けよ!」と思いつつ。

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