
新宿八犬伝 第一巻 ー犬の誕生ー
流山児★事務所
Space早稲田(東京都)
2025/11/21 (金) ~ 2025/11/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2回目。
騒!乱!情!痴!遊!戯!性!愛!
平井和正(『幻魔大戦』や『アダルト・ウルフガイ』)の原作を唐十郎が戯曲化し、更に石川賢がメチャクチャにコミカライズしたような作品、しかも未完。(雑誌は廃刊)。
リーディングであることを足枷のようにしてみせた演出。台詞を覚えていても敢えてリーディングであることに拘らないといけない。逆説的。
去年の冬の新宿を襲った大火、風俗嬢が何人も犠牲に遭った。傴僂のV・銀太氏がピンサロ嬢(真田雪さん)とプレイ前、たぬき蕎麦の出前を取る。突然化物に変身し(犬の口吻を付けて)子宮を噛み千切る。死体は窓から下界へと落ちてゆく。
山丸莉菜さんは失踪した獣医の旦那の捜索を探偵フィリップ・マーロウ(上田和弘氏)に依頼。事務所には秘書のシャロン(荒木理恵さん)。警部(木下藤次郎氏)は連続子宮切り裂き男を追っている。上田和弘氏は内藤大助似。
ホスト軍団(兼焼肉屋経営)・バイキングと手コキ風俗嬢・深海魚の軍団がいつものように喧嘩。横断幕のようなカンペを皆で向かい合って読みながら怒鳴り合う。ホストの親玉は男装の麗人・皇帝ルドルフ(伊藤弘子さん)。テーマ曲は『風と共に去りぬ』、イメージはレット・バトラー。風俗嬢の親玉はモモコ姫(神原弘之氏)、アンドロジナス(両性具有)。
ヒロイン山丸莉菜さんが適役。失踪した夫を捜す、左目に眼帯をした若奥様、これだけでほぼ満足。劇中歌も良い。グラスに入ったバーボンの中で赤犬が何かを探し続けて彷徨っている。自分の尻尾をその何かと間違えてくるくるくるくる回り続ける。遠吠え。
雲子役橘杏奈さんが体調不良で降板、代役は演出の小林七緒さん。前回観た橘杏奈さんはド迫力だった。
珍子役向後絵梨香さんはホスト共の話を枝毛のチェックでガン無視。
安子役高信(たかのぶ)すみれさんは妙にエロい。
ヴァギ菜役山川美優さんは星井七瀬とだぶる。
レバ刺し役里美和彦氏は色気がある。
ユッケ役本間隆斗氏は万有引力に似合いそう。
ビビンバ役の達(徳永達哉)氏はユライア・フェイバーみたい。
クッパ(山下直哉氏)とヴァギ菜(山川美優さん)は『ロミオとジュリエット』のよう。
キリシマ役V・銀太氏は存在が映画的。
伊藤弘子さんと神原弘之氏が登場すると常連客がどっと沸いた。
面白いんだか面白くないんだかさっぱり判らないが観に行って良かった。山丸莉菜さんの復帰により、流山児★事務所の八犬士は出揃った。誰も顧みない場末の小劇場から世界を変革する狼煙が上がる。

真夜中に挽歌
Y.T.connection
上野ストアハウス(東京都)
2025/11/20 (木) ~ 2025/11/24 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
文学座から『太陽にほえろ!』の主人公に抜擢されてブレイクした若き松田優作。多忙な裏で同期を集めて劇団F企画を作演出で主宰。劇団解散後も、3本の舞台を個人プロデュース。朴李蘭名義だった為知る人ぞ知る話。文学座付属演劇研究所12期生の同期であった野瀬哲男氏とは一生を通じて付き合う兄弟のような関係。1978年11月初演の今作は唯一脚本が残っているものだそうだ。当時主演、とおる役を務めた野瀬哲男氏が演出に回る。
松田美由紀さんのビデオメッセージからスタート。松田優作の唯一無二の魅力はエネルギーだと話す。彼よりも演技が巧い人、ルックスが良い人は幾らでもいるが、彼のようなエネルギー、人に何かを伝えようとするエネルギーが溢れているような人はいないと。自分が松田優作に夢中になったのもそれかも知れない。作品以上のものを提供しようとする有り余るエネルギー。勝新もそうだけれど100で充分の作品に無理矢理1億ぶっ込もうとする。その溢れ返った余剰なエネルギーに心酔するのかも。
冒頭、松田優作っぽい男(上西雄大氏)が無言でステージから客席へと通り過ぎる。
青森から上京して一ヶ月、自動車整備工場で働く青年
とおる(船津祐太氏)。殺風景な倉庫を改装して暮らしている。鎮座したピカピカのバイク。何処からか船の運航する音が聴こえる。やって来た関東狂走連合京浜支部リーダーのジョージ(徳田皓己〈こうき〉氏)とその情婦ハクラン(世森響〈よもりひびき〉さん)。ディスコで知り合った都会に憧れる田舎もんを食い物にしようと企んでいる。ダセえ世間知らずの素朴な田舎もん、東北訛りの腰抜けに現実分からせてやる。
ジョージ186cm、とおる182cm、モデルの世森響さんと、手脚が長いスタイリッシュなダンスが映える。必殺シリーズを現代に置き換え漫画化した「ブラック・エンジェルズ」みたいなルックス。
映画を判ってる人間の作る舞台。しょぼい嘘がない。安っぽい誤魔化しがない。
場内に流れる松田優作の歌がかなり良かった。これは一度ちゃんと聴いた方がいいかも。
船津祐太氏は魅力的な役者。
是非観に行って頂きたい。

「増える部屋」神奈川公演
Quno(旧:projecttiyo)
STスポット(神奈川県)
2025/11/20 (木) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開演前は客席に強いライトが当てられていて舞台がよく見えない。始まると色とりどりのシーツや布が天井から何枚も垂れ下がっている。どうやらこれが沢山の部屋を表現しているようだ。レイヤー(階層)が奥行きとして積み重なっていることをカーテンで表現。雑然と枕やらクッションやらタオルやら洋服やらがそこらここらに散らばっている。時折、突然シーツに投影される「うたビデオ」。ウクタ(北みれいさん)が自撮りしたその時々の気持ちを切り取ったもの。ウクタの瞬間のその気持ちが脈絡なく呟かれる。
西奥瑠菜さんと薮田凜氏の二人芝居。北みれいさん演じるウクタが自分の住んでいるシェアハウスに二人を呼ぶ。三人は大学時代の友人。
西奥瑠菜さんはイベントコーディネーターだが自分の言葉や思いがどうも上手く伝えられず企画はなかなか通らない。
薮田凜氏はコンサル会社勤務でタワマンを買うのが夢。会社の不正の証拠である書類の処分を頼まれて何処かに隠さないといけない。今日が28歳の誕生日。
ウクタの頼みはどっかに行っちゃったシベリアンハスキーの縫いぐるみを見つけて欲しい。増設されていった奇妙な作りの家の為、迷宮のようになっていて何処が何処だか分からない。二人はここが本当にウクタの部屋なのかも分からず住民に確認しようと辺りをうろつく。部屋なのか廊下なのか仕切りも曖昧なラビリンス。いつのまにか誰かの部屋にいて謝罪し、いつのまにか誰もいない部屋で取り残されている。
いろんな人間に出会うのだが互いによく分からないまんま。西奥瑠菜さんと薮田凜氏がひたすら別人役をやり続ける。変装もせずにそのまんま。それが不自然じゃないのが面白い。
妙な面白さ。感触の世界。二人が魅力的。
是非観に行って頂きたい。

THIS HOUSE
JACROW
新宿シアタートップス(東京都)
2025/11/19 (水) ~ 2025/11/25 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
T.REXの「Get It On」の合唱からスタート。
Get it on, bang a gong, get it on
ヤろうぜ、ゴングを鳴らせ、ヤろうぜ。
よっぽどグラム・ロックが好きなんだな、と思っていたがデヴィッド・ボウイの「Rock ‘n’ Roll Suicide」も「Five Years」も戯曲の指定だそうだ。
1974年2月イギリス総選挙にて労働党が政権を握る。全635議席(過半数318議席)中、労働党301議席、保守党297議席、その他36議席。法案を通すには常に少数政党の協力を仰がねばならないギリギリの事態。院内幹事=執行部はあの手この手で政権の維持を図る。
谷仲恵輔氏から幹事長の後継者に指名された熊野善啓氏は労働党政権を維持する為に試行錯誤し苦しみ抜く。自分の器に余りある仕事、だが泣き言を言っても誰も助けてはくれない。次から次へと造反、スキャンダル、病気···、トラブルの雨あられ。
保守党(俗称・トーリー党)、党のカラーは青。中流階級出身が多数。
佐藤貴也氏、今里真氏、小平伸一郎氏。
労働党、党のカラーは赤。労働者階級、労働組合出身が大多数。
谷仲恵輔氏、狩野和馬氏、熊野善啓氏、芦原健介氏、福田真夕さん。
ユージュアル・チャネル(Usual channels)=「通常の経路」と隠語で呼ばれる非公式の取り引き。与党と野党の院内幹事が議会前にするオフレコの打ち合わせ。これがあることで最低限の信頼関係が得られた。
ペアリング(Pairing)=重要な採決に参加出来ない議員がいた場合、ユージュアル・チャネルで互いの欠員数を揃えるように調整する非公式の取り引き。
奇矯な発言と突飛な行動で世間を混乱させる三原一太氏。山里亮太や鈴木もぐらっぽいか。
病身を押し老体に鞭打ち、党に身を捧げる大竹周作氏は大泉滉や本田博太郎っぽい。
どこの国でもやってることは一緒。所詮人間。
是非観に行って頂きたい。

狩場の悲劇
ニ兎社
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/11/07 (金) ~ 2025/11/19 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
「妻は夫に殺された。妻を殺したのは夫。」
オウムが呪文のように繰り返す。
1884年、24歳のアントン・チェーホフが書いた唯一の長編推理小説。当時はモスクワ大学医学部を卒業し医師になる頃。戯曲で成功するのは1889年。
1880年のある夜、モスクワの新聞社に不意の来客、居眠りをしていた編集長(亀田佳明氏)は驚く。元予審判事(検察官と裁判官の一部を兼ねるような職業)セリョージャ(溝端淳平氏)は三ヶ月前に渡した自作の小説の採否を聞きに来たと。編集長はそんな事忘れていたしそもそも読んでさえいなかった。原稿を返そうとする編集長にセリョージャは今ここで冒頭部分だけでも読んでくれと迫る。自分の経験をもとに実際にあった事件を題材にした稀に見る物語なのだと熱弁。無理矢理原稿を読み上げ始めてしまう。
田舎の予審判事、セリョージャのもとに伯爵(玉置玲央氏)からの使い(ホリユウキ氏)が。伯爵とは昔からの悪友であったがここ二年間、彼がこの地を離れていた為セリョージャは静かな生活を満喫していた。また伯爵の屋敷に行けば酒池肉林、欲望に任せた暴力的な快楽に溺れ込んでしまう。理性で必死に抵抗するも気が付けば屋敷の中。沈鬱な顔をした有能な執事ウルベーニン(佐藤誓氏)、長年屋敷に仕える伯爵の元乳母(水野あやさん)、伯爵の傍に立つ見知らぬ謎のポーランド人、プシェホーツキー(加治将樹氏)。森の小さな家屋には精神を病んだ森番(石井愃一氏)が暮らす。その娘、赤いワンピースを着た19歳の美しいオーレニカ〈=オリガ〉(原田樹里〈きり〉さん)。「私の好きな五月初めの雷雨!」雷についての不思議な歌を歌っている。母が雷に打たれて亡くなったが落雷死は天国に行けるそうだ。自分もいつか雷に打たれて死にたい。誰をも夢中にさせる森の妖精オーレニカとの出逢いが全ての物語の発端。
セリョージャが原稿を読み始めると舞台上でそのままの芝居が始まってしまう。慌てる編集長。ツッコミを入れながらもセリョージャの小説の世界に立ち会う。
溝端淳平氏と亀田佳明氏コンビは『エロイカより愛を込めて』の伯爵とジェイムズ君の遣り取りみたい。このノリとボケとツッコミが作品を愛すべきものにしている。
玉置玲央氏は使い勝手が良い。どう役柄を振っても成立させてくれる。
原田樹里さんは格闘家のRENAに似てる。
加治将樹氏は見事なキャラ作り。
溝端淳平氏は沢田研二全盛期の色香。これは客を呼べるわ。非の打ち所がなかった。これぞスター。男の自分が観ても夢中になる程なのでその筋の女性には堪らんだろう。溝端氏の歌唱力を知らないが沢田研二役でミュージカルを演るべき。日本の耽美派芸能の歴史を世界に!
是非観に行って頂きたい。

寺山修司生誕90年記念・第2弾レミングー四畳半の天文学ー
演劇実験室◎万有引力
ザ・スズナリ(東京都)
2025/11/14 (金) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
レミングとは北極圏ツンドラに生息するタビネズミ。レミング現象(死の行進)とは個体数が増え過ぎたレミングが本能的に集団で海や川に飛び込んで自殺する種の個体数調整行為のこと。1958年、ディズニー制作のドキュメンタリー映画『白い荒野』で世界的に広まった。だがこれは映画としての面白さを狙ったヤラセであり、実際にはそんな事実はないそうだ···。
今作は寺山修司の最後の演出作品であり天井棧敷の最終作品。「都市とはそこに住む人々の内面を外在化したものである」。この何重もの壁によって他者と隔絶を図る都市は人間の選別と拒絶の象徴。他者を拒絶しないと手に入らない安心。
現実世界の空間は壁によって隔てられているが、壁を無くしてみたところで人間一人ひとりの自意識が壁となって他者を遮る。そこまでして壁を作り守ってきた自身の内面とは実は空っぽ、無であった。人間は無に固執して自我を保つ。実はその執着こそが人間の形そのもの。個人的妄想を守り安心を得る為に必要な壁。
髙橋優太氏、中華屋コック見習いのワン(王)。
小林桂太氏、中華屋コック見習いのツー(通)。二人はアパートに同居している。
髙田恵篤氏、ワンが床下に隠して住まわせている母親。この時代、要らなくなった高齢者は回収業者に引き取られる。見つかって処分されることを恐れて匿っている。サザエさんカット(=モガヘアー)を頭の上にタワシ3個乗せることで再現。キャラが麿赤兒氏そのもの。(2015年のPARCO制作版ではまさに麿赤兒氏が演じていた)。
ある日、突然部屋の壁が無くなりアパートは筒抜けに。パニックになる二人。
隣室に住むのは望遠鏡を持った𫝆村博氏と顔の右半分に大きな赤い痣がある山田桜子さんの兄妹。だが壁が無くなった事には気付かない。(興味を示さない)。山田桜子さんは金星人と交信していると信じている。眠る彼女を夜な夜な性的に悪戯する兄。
いなくなったアパートの住人、出口氏のエピソードが語られていく。
沢山の妄想が世界を侵食していく。誰の話も自分に都合のいい嘘ばかり。無論、俺の話もそうさ。
セーラー服姿の前田倫さんが大きな本を片手にうろついている。口ずさむ歌が綺麗。
「世界の涯てまで連れてって - Come down Moses」(モーゼよ山から降りて来い)
Come down Moses ろくでなし
Come down Moses ろくでなし
take me to the end
to the end of the word
take me to the end
to the end of the word

くまむく~閻魔悪餓鬼温泉騒動記~
カムカムミニキーナ
座・高円寺1(東京都)
2025/11/13 (木) ~ 2025/11/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
和歌山県の熊野温泉。湯治で長期逗留の松村武氏、吉幾三みたい。
まだ赤ん坊だった頃、猟師の母親(長谷部洋子さん)が目を離している隙に熊に襲われる。泣き出す赤ん坊の声に熊は殺すことをやめた。すかさずその熊を撃ち殺す母親。それからずっと松村武氏は自分を殺さず生かしてくれた熊の恩に報いたかった。ある日、青年オグリ(夕輝壽太〈じゅった〉氏)を見かけ、彼こそがあの時の熊だと確信する。魂の転生。誰も信じてはくれないだろうが間違いない。そして彼の口ずさむ唄はあの日の母の子守唄。彼を守ることに生涯を捧げようと決める。
熊のヴィジュアルが劇団鹿殺しっぽい。手にぽっくりを付ける。
温泉宿の若女将、北久保実佑さんは松井玲奈っぽい。娘の桜木雅さん。東京から来ている客、女優の藤田記子さん、付き人の小宮夏奈子さん。
客席三面、延びた通路が四角を囲むステージ。低くなった四角部分が温泉になったりする。

再生ミセスフィクションズ3
Mrs.fictions
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2025/11/13 (木) ~ 2025/11/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
劇団の掲げる「人と人とは出会わなくてはならない」とは強烈な理念。
開場するとステージ上に岡野康弘氏が立っている。右腕は毛皮と巨大な蟹の鋏、長い尻尾が生えている。ゲルショッカーによって生み出された合成怪人か?宮内洋と永野をフュージョンしたような男。撮影可(動画不可)。
①『私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし』
初演「15 Minutes Made Anniversary」2017年8月
主人公、川鍋知記氏は冒頭既に死んでいる。臨終に居合わせた恋人の熊野ふみさん、母親の久保瑠衣香さん、父親の長井健一氏(秋元康似)の物語。
②『Yankee Go Home(ヤンキー母星に帰る)』
初演「15 Minutes Made Volume8」2010年4月
ヤンキー中学生、風邪を引いている井澤佳奈さんの家が溜まり場。ヒロシエリさんのヤンキー・キャラには感心した。使えない後輩、みしゃむーそさん。皆に崇拝されているヒカル(亀田梨紗さん)は人間じゃない。紅夜叉っぽい。
③『ミセスフィクションズの祭りの準備』
初演「15 Minutes Made Volume12」2015年7月
急遽代役となった大宮二郎氏と片腹年彦氏による『男たちの挽歌』。自分達が駄目じゃないことを証明してやるよ。
④『ミセスフィクションズのメリークリスマス(仮)』
初演「15みうっちMade」2012年12月
ミセスフィクションズのブルジョワ階級三人組、主宰の今村圭佑氏、俳優の岡野康弘氏、作演出の生駒英徳氏(現在は脱退)による労働者階級への幸せのお裾分け。
⑤『ハネムーン(仮)』
2007年未発表
作演出家の岡野康弘氏が客席に頭を下げる。この舞台は上演出来なくなりました。
5篇の短編集。
何だかこの作家、中嶋康太氏のやろうとしている感覚が伝わった。一つの曲を演奏している。だから長篇が余り好きじゃないんだろう。シチュエーションと登場人物の心象風景がリズム。役者はそれぞれの楽器。遣り取りや展開はメロディーとコード進行。台詞が歌詞で伝えたい内容は『また会えたらいいね』。②の作品内の台詞だと「また会えるといいね」。
是非観に行って頂きたい。

トミイのスカートからミシンがとびだした話
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2025/11/11 (火) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
娼婦の流転記と云えば『にっぽん昆虫記』のような作品を想像するが今作はもっと明るく元気。岡本喜八の初期作みたいにカラッとしている。娼婦じゃなくストリッパーだが、作品の雰囲気は『カルメン故郷に帰る』か。井上ひさしの『日本人のへそ』も想起。戦後、パンパンから足を洗った女性から見える世界。
戦後の混乱期、パンパン(売春婦)で貯めた金で当時高級品だったミシンを購入、足を洗って田舎に帰る富子、通称トミイ(大田真喜乃さん)。パンパン仲間と元締めのヤクザの下っ端、流しのギターや顔馴染の刑事なんかが送別会。股ぐらでせっせと稼いだ金がミシンに化けたのだ。男の一人がからかう。「まるで『トミイのスカートからミシンがとびだした話』だな。」
空襲で両親を失ったトミイと弟(森唯人氏)、妹(田村良葉〈かずは〉さん)は提灯屋の伯父(和田壮礼〈たけのり〉氏)、伯母(向井里穂子さん)の家に世話になっていた。東京で成功して地元で洋裁店を開くトミイを皆が歓迎する。新聞記者が取材に来る。敗戦から落ち込んだままの日本を希望の明るい灯りで照らしたい。女一人で成功したニュースが皆を勇気づけるかも知れない。断るトミイだったが無理矢理記事にされてしまう。
東京でパンパンをやって金を稼いだことが写真付きで週刊誌に載る。陰口嫌がらせ落書き誹謗中傷、真面目な弟はグレ出し妹は精神を病む。伯父はトミイを性的な目で見始め、夜這いを繰り返す。この辺り『どですかでん』っぽい。地元の悪ガキの一人、中島一茶氏はカズレーザー系。
地元に居られなくなったトミイは職を転々とする。衛生博覧会で踊る。優しかったパンパン仲間の律子姉(辻坂優宇さん)の言葉を思い出す。「何処にも居られなくなったらいつでもここに戻っておいでよ。」
大田真喜乃さんは面白い女優。物語が進めば進む程魅力的に。サバサバしたトミイのキャラが立ってくる。信仰もしていないのに教会に通って祈る。『罪と罰』のソーニャなんだろうな。細かいことはどうでもいい。大事なことだけ間違えなければ。
現代ならAV女優が引退して帰郷したらSNSで情報を拡散されるような話。堅気の仕事に就こうとしてもずっとネットストーカーに付きまとわれ身元をバラされてしまう。それでも何とか幸せに向かって生きていこうと思う。真っ直ぐな前向きな心だけが自分の武器だ。
THE STAR CLUB 「THE WORLD IS YOURS」
苦境に瀕した時 頼りは悪運だけ
後戻りは不可能 覚悟してやったぜ 信じる事さ
是非観に行って頂きたい。

『はりこみ』
殿様ランチ
駅前劇場(東京都)
2025/11/12 (水) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
強盗殺人容疑の主犯が逃亡中。立ち寄りそうな場所ということで元交際相手(今泉舞さん)のマンションの向かいの空き室を借りて刑事達が張り込む。服部ひろとし氏、こくぼつよし氏、相樂孝仁(さがらこうじん)氏。女性の行動を監視する為、彼女の足繁く通うフィットネス・スポーツジムに潜入する刑事(大井川皐月さん)。ジムのオーナーでトレーナーでもある小笠原佳秀氏は女性会員の憧れの的。彼に夢中のはてなさんは半分ストーカー。更なる新人刑事の応援も入り混沌とする現場。
応援に入る斉藤麻衣子さんは正義感が異常に強い女刑事。父親も刑事だったが殉職。独特なファッションセンス。
発達障害の松田龍平みたいな原住達斗氏は父親が大物のキャリア組。
彼の指導を任された園田裕樹氏の困惑。
小笠原佳秀氏は武田修宏っぽい。
警察病院のカウンセリング・アドバイザー、篠原彩さん。この人が裏のMVP。ソフトな受け答えがプロ。
鶴町憲氏はロバート秋山のようなキャラで『絶対に笑ってはいけない』シリーズを彷彿とさせる。
張り込みを続けるマンションの部屋のセットがよく出来ている。前の住人が出て行ってまだハウスクリーニングも済んでいない。跡がある壁紙や妙な生活感。
テンポの良い笑いで会場が沸く。板垣雄亮氏独特のセンス。人物の内面の掘り下げに興味があるのだろう。着眼点がオリジナル。
是非観に行って頂きたい。

陽炎座
花組芝居
博品館劇場(東京都)
2025/11/11 (火) ~ 2025/11/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「あやめ十八番」を観ていると「花組芝居」を観なきゃいけない気になる。一度は観ておこう、でも歌舞伎か···、難しそうだな。
人通りのない静まり返った町の寂し気な横丁、何やら聴こえて来る鳴り物の音。何かやっているみたいだな。その音に誘われた一人の男、里神楽の狂言方(作家)である小林大介氏。同じく背広を着込んだ紳士・丸川敬之氏と着物姿の美しい女(ひと)、品子(永澤洋氏)。こんな所に芝居小屋?義太夫、長唄、囃子が揃い、狐(桂憲一氏)、狸(黒澤風太氏)、猫(髙橋凜氏)が踊る。「迷子の迷子の迷子やあい」。探している迷子の名前を聞くと「迷子の迷子のお稲(いな)さんやあい」。享年19の亡くなった娘らしい。その名に覚えがある小林大介氏、そして品子。死んだ娘をどうやって見つけるというのか?帰りたがる丸川敬之氏、筋の先を知りたがる品子。
鈴木清順の『陽炎座』しか知らなかったが、元はこんな話だったとは。非常に面白い芝居。芸に色気がある。次回作も観たい。
是非観に行って頂きたい。

さらば黄昏
阿佐ヶ谷スパイダース
小劇場 楽園(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈Ver.B〉
人口500人程の小さな町、踊田(おどりだ)。駐在所に暮らす定年間近の警察官、中村まこと氏。新たに赴任して来た若手、大久保祥太郎氏。町役場の長塚圭史氏。
背景は水墨画のような山の稜線が壁やブラインドに跨って描かれているもの。
MVPは志甫(しほ)まゆ子さん。オープニングから強烈。どんどん話に熱がこもり、いつしか「楽園」の観客にまで話し掛け同意を求める。圧倒的話術で観客は虜に。
そして中村まこと氏と村岡希美さんのワードがなかなか出て来ない掛け合いトーク。アドリヴのように見えるがきっちり脚本なのだろう。もう芸だな。
観客の想像力を刺激する構成。阪本順治の『トカレフ』みたい。
是非観に行って頂きたい。

存在証明
劇団俳優座
シアタートラム(東京都)
2025/11/08 (土) ~ 2025/11/15 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ミステリー好きなら堪らない傑作。海外戯曲だと思っていたが長田育恵さんのオリジナルとは!眞鍋卓嗣氏の演出も冴え渡る。(場面転換のタイミングが決まる)。そして杉山至氏の舞台美術がMVP。背景は直方体で組まれた無機質な壁面。これが収納家具のように引き出されると、忽ち別のセットに早替り。いろんな美術が様々な場所に仕込まれている。トランスフォーマーのような見事さ。黒板にチョークで数式を書き付ける音が響き渡る。
素数について前知識があった方が楽しめる。今作に入りにくい人はそこで躓いていると思う。素数とは自然に存在する数字。その他の数字は素数の合成数である。例えば2、3、5、7は素数であるが4、6、8、9は合成数。4(2×2)、6(2×3)、8(2×2×2)、9(3×3)。素数とはそれ自体で独立しているオリジナルな存在。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンが1859年に立てた仮説「リーマン予想」。素数の出現に規則性があることを予想した。(166年前の仮説が未だに解明されず、証明できた者には100万ドルの賞金が付けられている。更に現在、素数の分布は量子力学における量子カオスのランダムな数値と類似していることが判明。この解明は物理学にまで波及することに)。
主人公は保(たもつ)亜美さん。1977年、精神病院で働く炊事婦。院長(河内浩氏)と理事長(安藤みどりさん)に呼び出され、ある患者(椎名慧都さん)から話を聴き出すことを頼まれる。彼女が選ばれた理由は、父親が高名な数学者ジョン・エデンサー・リトルウッドだった為。
1911年、ケンブリッジ大学のフェロー(研究員)である数学者、ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディ(志村史人氏)。人付き合いが悪く頑迷偏屈な男。ある夜、真逆のクリケット選手でもあるスポーツ万能で快活なフェロー、ジョン・エデンサー・リトルウッド(野々山貴之氏)と出会う。クリケットの熱狂的ファンであったハーディはリトルウッドに興味を持つ。二人は共通の課題である「リーマン予想」について夜通し語り合う。この二人だったら世紀の難問も解ける気がした。
二つの年代が同時進行する面白さ。素数の謎を解き明かし、この世界の摂理を我が物とせよ。
雰囲気はショーン・コネリー主演の『薔薇の名前』なんかを思い出した。『イミテーション・ゲーム』というベネディクト・カンバーバッチがアラン・チューリングを演じた作品も思い返していたら、ズバリ、アラン・チューリングも登場する。
志村史人氏は姜尚中(カン・サンジュン)っぽくカッコイイ。 インテリの色気。
野々山貴之氏は市川猿之助っぽい。
こういうのが観たかった!観ているだけで頭が良くなるような錯覚。数学で世界を宇宙の真理を解き明かし、人間の知性の辿り着ける最果てまで行こう。
是非観に行って頂きたい。

とりあえずの死
劇団1980
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2025/11/06 (木) ~ 2025/11/10 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
伊藤弘子さんの代表作になってもおかしくない作品。伊藤弘子ファンは見逃す訳にはいかない。メイク、衣装、美術、照明、役者陣、目一杯金も労力もかけた総力戦。これが「劇団1980」、通称ハチマルだ!
創立者である藤田傳氏が1992年に書き下ろした戯曲。
旧満洲国ハルピンにある中国から帰国できなかった外国人だけを収容する中国国営哈爾濱(ハルピン)外僑(がいきょう)養老院。4人の中国残留婦人が1989年の今も暮らしている。酒が飲みたくてたまらない伊藤弘子さん、日本からの手紙を待つ早野ゆかりさん、懐中時計の修理を待つ新井純さん、何かを隠している上野裕子さん、全員70代。養老院のスタッフとして韓国人の小谷佳加さんが大忙し。
4人にはまだ満洲国にいた頃の若い自分が分身のように見えている。
伊藤弘子さんには角田萌果さん。旦那である神原弘之氏の残した詳細な日記ノート。
早野ゆかりさんには光木麻美さん。関東軍でラッパを吹いていた曽田昇吾氏。
惚けかけている新井純さんには真っ赤なドレスの磯部莉菜子さん、山田ひとみさん。
上野裕子さんには山川美優さん。
メイクが秀逸。京劇やイタリアの道化師のような過剰な化粧が効いている。伊藤弘子さんも本当にそうなのか確信が持てない位。よくこんな脚本が書けたものだ。伝えようとするものが大き過ぎる。イタリア映画の感覚。
いつか日本に帰る日を夢見ている老女達。敗戦後の地獄を敵国で這いずり回って生き延びてきた。何もかもを失って残るのは遠い故郷への想い。きっと自分に手を差し伸べてくれる人がいつか必ずやって来る。
是非観に行って頂きたい。

風神雷神図
糸あやつり人形「一糸座」
赤坂RED/THEATER(東京都)
2025/11/05 (水) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
外人客が多い。家族もいた。謎めいた客層。全公演のチケットを買っている人もいた。
開場して中に入ると白い死霊犬オス(田村泰二郎氏)が白塗り褌一丁で通路やステージを這い回っている。暫くすると白い死霊犬メス(Kみかるmicoさん)が登場。白塗りに下着姿、乳首を前貼り的なもので隠している。面白いのが観客は慣れているのか特に反応もせず談笑を続けていること。異化効果のクセが凄い。江戸伝内氏と結城一糸氏が登場し紋付袴の着付け。二人の奥さんである結城民子さんと結城まりなさんが手伝い、かなり時間を掛けてきちんとやっている。やっと終わり二人共正座して観客に深々と頭を下げる。長い沈黙。何も起こらない。突如暗転、轟音ノイズ。ゲロゲリゲゲゲを思わすような破壊的ノイズが耳をつんざき強いストロボ照明がフラッシュを繰り返す。
台本・構成・演出+朗唱=芥正彦氏79歳。客席中央右端に立ち、マイクで詩をがなる。
下手前のスペースに音楽・灰野敬二氏73歳。晩年の内田裕也や往年の早川義夫のようなロン毛にグラサン。『ファントム・オブ・パラダイス』のポール・ウィリアムズのような妖気。横に長いハーディ・ガーディをフィッシュピックのようなT字型の物で叩く。ひたすらノイズノイズノイズ。時折奇声。パーカッション。
チラシに書かれた宮台真司氏の檄文が迫力。「暗闇で名状しがたい力が降ってきて僕を貫いた。(中略)すべきことが確定した。我々の時空からこの力が失われた訳を知り、力を回復する方法を探るぞと。」

高知パルプ生コン事件
燐光群
「劇」小劇場(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
主演の永瀬美陽(みはる)さんが可愛かった。福永マリカさんに似てるような。ミニスカの登場シーンから惹き付けられる。
土台はアジプロ演劇(革命の思想を大衆に説く手段としての演劇)だが、驚くことに観客の為にSFをまぶしてある。近未来である2026年からタイムスリップしてしまった永瀬美陽さん。気が付くとそこは1970年(昭和45年)の高知県高知市旭町早朝。高知パルプ工業社で働く円城寺あやさんに保護される。円城寺あやさんは物分かりが良く観客に取って面倒臭い遣り取りをすっ飛ばしてくれるのが有難い。永瀬美陽さんは知っていた。来年、ここで何が起きるのかを。
1950年に操業を始めた高知パルプ工業社、旭川から江ノ口川へと一日あたり13500tもの亜硫酸系パルプ廃液を垂れ流し続けた。更に江ノ口川から浦戸湾へと流れ込む廃液は生態系を壊滅させる。魚は死に周辺住民は健康被害に苦しんだ。奇形魚、ドブの臭い、どす黒い水、ヘドロの層。浦戸湾で揚がった魚は買い手がつかなくなる。江ノ口川沿いの旅館は余りの悪臭で客は逃げ出し女中は辞めていった。
記憶喪失の謎の男、大西孝洋氏。夏八木勲と和田良覚を足したような風貌。佐渡旅館の女将、森尾舞さんが面倒を見てやることに。一体彼は何者なのか?
果たしてこれからここで何が起こるのか?
是非観に行って頂きたい。

地味な労働者三部作
Ahwooo
新宿眼科画廊(東京都)
2025/10/31 (金) ~ 2025/11/02 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
〈東京ver〉
①Ahwooo「すぐやるか すぐにやるなよ 考えろ(上の句)」
如月萌さんの経営する会社が神戸の海岸通に引っ越し。友達のハイソの専業主婦・牧野亜希子さんがお祝いに駆け付けた。まだダンボールだらけの事務所、何処に何があるのか分からない。その内の一つに謎の文言が書かれた紙の束が。リストラした従業員の誰かの嫌がらせか?
②わたしとともに現前×mooncuproof「キャッチャー・イン・ザ・フトン」
末延ゆうひさんの一人芝居。会社を辞めて実家に帰って来た病んだニート、ダンボールの山の中でハローワークカードを探す。散々なボロボロの自分の半生を思い返しながら。幼い日、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』に心を揺さぶられたこと。
③排気口「海につながる湯船のほうへ」
大学の卒業旅行として佐藤暉(あきら)氏、坂本ヤマト氏、中村ボリさん、大久保佑南(ゆうな)さんが海へ向かう。バスを間違えて仕方なく山奥のひなびた旅館に泊まることに。番頭の坂本ヤマト氏は「この村には守って貰わねばならない決まりがある」と語る。
末延ゆうひさんは要チェック。
是非観に行って頂きたい。

我ら宇宙の塵
EPOCH MAN〈エポックマン〉
新宿シアタートップス(東京都)
2025/10/19 (日) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
客入れSEにデヴィッド・ボウイ「I Wish You Would」が流れる。何故かそれだけで気分が良い。
ステージ上に置かれた椅子に突っ伏して寝ている宇佐美星太郎(しょうたろう)少年のパペット。幼稚園児位の大きさ。肌はフェルト生地っぽく見える。毛玉が付いている。背面は全て壁面に貼り付けたようなLEDビジョン。どうなっているんだか分からないが迫力満点。星太郎は首の後ろの下辺りにグリップが付いている。後頭部の真ん中にも掴む部分が。左手でグリップを掴み、右手で頭部もしくは他の部分を動かす。歩く時は自分の靴の上に星太郎の足を載せて一緒に動く。床に大量に散乱している紙には何がが書かれている。床の穴から次々と人々が出て来て開幕。
多分、今作が評価されているのは語り口なのだろう。一見何の話なのか全容が見えない。『インターステラー』的なものを期待していたが全く違った。どちらかと言えばジョディ・フォスターの『コンタクト』か。
小沢道成氏を初めて認識した。星太郎を操演。
異儀田夏葉さんは観る度に美しくなっているように感じる。プラネタリウムの背景が高速で移動する度、一人パニックを起こす設定は面白い。
渡邊りょう氏は今回も流石の強キャラ。今年何度観たことか。泣き上戸、笑い上戸の発達障害。彼の小太郎のエピソードからぐんと面白くなった。
※しょうたろう=正太郎だと思っていたので「鉄人28号」から名付けたのかと誤解。

華岡青洲の妻
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2025/10/26 (日) ~ 2025/11/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
華岡青洲、江戸時代和歌山県の医師。外科手術を行なうにあたり、麻酔薬の開発こそ必須だと知る。十年間動物実験を重ね、六種類の毒草を調合して麻酔薬を作る。曼陀羅華(まんだらげ=チョウセンアサガオ)、トリカブト、白芷(びゃくし=ヨロイグサ)、当帰、川芎(せんきゅう)、天南星(てんなんしょう)。全身麻酔薬として発明した麻沸散(=通仙散)。だが実際に人間に投与する為には更なる人体実験が必須。十数人の親族の協力があったとされる。
1804年、記録に残る所では世界初、全身麻酔での乳癌手術に成功。(アメリカでウィリアム・モートンがエーテル麻酔での手術を成功させたのは1846年)。
それ以前の外科手術は患者に激痛をひたすら我慢させる悲惨なものだった。
一番今作を象徴するのが現在では使われていない江戸時代の紀州弁。語尾にOshiが付く独特の語感。「〜のし」「〜よし」「〜とし」と音として面白い。この会話を女性陣が柔らかく紡ぐ屋敷にはゆったりと漂う優しげな空気感。これが後半、どろどろ煮えたぎる修羅界へと堕ちた屋敷にて見事なる異化効果を上げる。小面(こおもて)を被った般若達の口にする雅な方言として。
華岡青洲(幼名・雲平〈うんぺい〉) 釆澤靖起(うねざわやすゆき)氏
妻・加恵(かえ) 吉野実紗さん
母・於継(おつぎ) 小野洋子さん
妹・於勝(おかつ) 太田しづかさん
妹・小陸(こりく) 平体まひろさん
原作者有吉佐和子は華岡青洲の偉業よりも嫁姑の確執に焦点を当てた。母・於継を杉村春子が演じた舞台は大評判、当たり役となった。女優陣の織り成す剥き出しの生き様こそが人気の所以。
8歳の時、美しくて賢いと噂で聞く於継をどうしても見たくなり、乳母に頼んで隣村まで足を伸ばした加恵。夏の照りつける太陽の下、垣根越しにこっそり庭を覗き見ると無数の気違い茄子(キチガイナスビ)の真白な花が狂ったように咲き乱れている。その中に凛と立つ於継の横顔。余りの美しさに眩暈がする。真白で清らかな美しい花と於継を重ねて見た幼き加恵。その正体が気違い茄子=チョウセンアサガオ=曼陀羅華であることを後に知る。実に巧い文学的仕掛け。
是非観に行って頂きたい。

デンジャラス・ドア
劇団アンパサンド
ザ・スズナリ(東京都)
2025/10/23 (木) ~ 2025/10/29 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
2023年4月に「爍綽(しゃくしゃく)と」(=女優・佐久間麻由さんの企画ソロユニット)の第一回公演として脚本・演出したものをセルフカバー。TOKYO MXにて全3話のドラマとしても放送されている。安藤奎さんが初監督。
永遠の主人公・西出結さんは過酷な職場の新入社員。仕事もまだ覚えられず戦力にはなっていない。常に運が悪く日常の細々な事でもタイミングが合わない。悪い星の下に生まれてきた。
優しい先輩の永井若葉さんは沢山話し掛けてくれるのだが結構面倒臭い。ロッカーにお菓子を大量所持している。社会人の娘と暮らしている。
安藤奎さんも優しい。図書館で本を借りている。
安藤輪子(わこ)さんは「資本主義」に対して思うところがある。カレーはある店でしか食べられないがそこが閉店してしまった。
西田麻耶さんは部長のビリヤードのような指図に苛ついている。間接的に人を使わず直接本人に言えよ。
藤谷理子さんはスピリチュアルか宗教にハマっていて「人生は魂を磨く修行の場だ」と念じながら苦行のように働いている。ミスが多い。
リーダー格だった「ミツザキさん」が辞めてから職場の苛酷さが増した。皆満足に食事休憩も取れず長引く残業で帰れない。
西出結さんはオフィスの片開きのスライド式ドアが開けると間を置いて勝手に閉まる事が気になってしょうがない。そもそもそういう設計のものではない。一体どういう仕組なのか?
とにかく会話が面白い。細かいワードのセンスが冴えている。各々のキャラがかなり細かく設定されており、それが観客に丁寧に共有されていく。その為、会話の流れが脱線する様も観客の予測通りで皆ニヤニヤしながら眺めることとなる。ああこの人、絶対話の流れを堰き止めるよなあ、とか。この人、やたらと面倒臭い拘りがあるよなあ、とか。逆に全く予想もつかない方角に会話がすっ飛んでいく痛快さも。