
売春捜査官
稲村梓プロデュース
サンモールスタジオ(東京都)
2017/09/05 (火) ~ 2017/09/10 (日)公演終了
満足度★★★★
昔は演劇に興味はなかったが初演当時に評判になったことは記憶している。
それを半世紀も経った今、初めて観ることになるとは。
圧倒的なスピード感、観客を追い込む激しく無意味なセリフとアクション。
重層的な構成。
これは楽しい楽しい。評判になるのもわかるわかる。
へたな役者が演じたら目も当てられないが、この4人はフルスピードでコーナーぎりぎりを攻めて行く。
勢いあまって最終盤では早口すぎてセリフが聞き取れなかったのはご愛敬。
もっとも、時代がまるで違うので、若い人にはどんなメッセージが伝わっているのだろうか。

風間杜夫ひとり芝居「ピース」
トム・プロジェクト
俳優座劇場(東京都)
2017/09/03 (日) ~ 2017/09/10 (日)公演終了
満足度★★
風間杜夫はひとり芝居を20年も続けているという。
そこまでできるのには何か特別なものがあるのだろうと期待してでかけてみた。
だがしかし、新作でまだ練れていないのであろうか、とくに盛り上がるでもなく、テーマが深まるでもなく80分であっさりと終わってしまった。
観客は団塊の世代とその少し下がほとんどと見受けられた。
結構笑いも起きていたし、終演後は「風間さんは多芸だね」という高評価も聞こえていた。熱心なファンにとってはひとり芝居という形式は至福の時間であることは想像に難くない。まあそういうことか。

ワーニャ伯父さん
シス・カンパニー
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2017/08/27 (日) ~ 2017/09/26 (火)公演終了
満足度★★★
黒木華さんを観に新国立劇場小劇場へ行ってきた。
とはいえ、「重版出来!」や「みをつくし料理帖」とはまったく異世界のチェーホフの4大戯曲である。
音楽で言えば、ポピュラーのライブとクラシックのコンサートくらいの違いがある。
観客にも演劇研究家といった風情の白髪の方も多く見られ、場違いなところに迷い込んでしまったという不安が湧きあがってくる。
しかし、どうもそんなに構えて観るものではないようだ。
この戯曲には感動的なストーリーというようなものはない。
登場人物は貧乏らしいが悲惨な暮らしをしているわけではない。
他人を欺くような悪人はいないが特筆するほどの善人もいない。
そういう普通の人々がブチブチと愚痴をこぼす。
そんな話なのである。
今の私にこれを「面白い」と言える感性とか能力はない。
「日常の仕事は何かと思ったら請求書書きかい」とか「人妻に2人も言い寄るとは現代よりも自由だね」とかいう感想を持つくらいである。まあ、そのうち見る目もできてくるだろう。
出演者の皆さんはテレビでもお馴染みの超一流の方々である。
個人的には山崎一さんと小野武彦さんの実物にお目にかかれただけでもうれしい。
彼らにとってこのような舞台は修行の場なのであろうか。
緊張感が場内を覆っている。
しかし、ドクターだけはまるで観客に語りかけてくるような親しみのある振る舞いをしていた。
この役は作者に代わる語り部のような立ち位置になっているのだろうか。
ギターの生演奏が心に沁みた。久しぶりの「悲しき天使」はチクリと胸を刺す。

【第29回池袋演劇祭参加作品】『落語の国のアリス』
ラチェットレンチF
萬劇場(東京都)
2017/08/30 (水) ~ 2017/09/03 (日)公演終了
満足度★★★★
落語の「たがや」に挑戦中のダメ落語家を主人公に置いたとき、脚本家の頭に江戸と現代、「たがや」と落語家を融合させるアイディアが閃いたのであろう。
巧みな構成が光る意欲作である。
途中休憩なしの2時間20分だが適度に場面が変わって飽きさせない。
舞台セットは一つであるが江戸と現代を交互に描いて行き、最後に大団円を迎える。
構成が複雑なことと私が落語に不案内なこともあって理解できない部分もあったが、本筋は十分楽しむことができた。
遣り手婆のダミ声が耳に残る。あれを聞きにまた行きたくなってしまう。もうほんのちょっと酒とタバコで喉が焼ければ完璧だ(やっちゃ駄目ですよ(笑)。
門倉の存在感が素晴らしい。出番はそれほど多くないのに観客をすっかりコントロールしている。
白兎は社会人落語家としても活動されているとのこと、ベテラン俳優のような熟練振りであった。

鎌塚氏、腹におさめる
森崎事務所M&Oplays
本多劇場(東京都)
2017/08/05 (土) ~ 2017/08/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
「二階堂ふみは良い!」という先輩の言葉を信じて、下北沢本多劇場までやってきた。
その言葉が真実であることは舞台が始まるとすぐに証明された。
チラシの筋書き通りの「扱いにくい一人娘」が見事に目の前に出現したからである。
「宮崎あおい似の若い人」くらいの認識しかなかった私はすぐに「申し訳ありませんでした」と心の中で深く頭を垂れたのであった。
そもそも出演者が7人しかいない舞台に実力不足の役者さんの入る余地はないし、このチタルの役はストーリー的にも重要なもので、ここが弱点になっては舞台が成り立たない。
終演後にじっくりとWikipediaを読んでみるといろいろな賞も受賞しているとのこと、さもありなんと納得の演技であった。
次の舞台も必ず見させていただきますのでお許しを。
第一容疑者のヤサブロウ役の眞島秀和さんはテレビでもお馴染みだ。
いつもの眉間にしわを寄せた面倒くさい奴が基本ではあるがそこにちょっと色が付いていて楽しめる設定になっている。
主役の三宅弘城さんも大きな役ではないがテレビでたびたび見掛けるマッチョな方である。失礼ながらシリーズ物の舞台の主役をなさっているというのは意外であった。その意外性も見に行こうと思った理由のひとつではある。何でもこなす方なのであろうがこの執事役はピッタリはまっている。
他の出演者のうまさももちろんだが特に当主役の大堀こういちさんの安定した演技が印象に残った。
そういうわけで途中休憩なしの2時間5分は十分に楽しむことができた。

髑髏城の七人 Season鳥
TBS/ヴィレッヂ/劇団☆新感線
IHIステージアラウンド東京(東京都)
2017/06/27 (火) ~ 2017/09/01 (金)公演終了
満足度★★★★★
主役7+1人の中でベテラン勢を差し置いて全体の明るく溌溂とした雰囲気作りに最も貢献しているのは沙霧であろう。
よく通る明るい声、可憐で美しい肢体、手足のしなり、指先の踊りが空気を弾ませる。
演ずるは清水葉月、失礼ながら美貌を第一の売りにしている方ではない。
しかし舞台に立つと、こんな綺麗な女優さんっていました??となるのである。
単独の見せ場はなかった気がするが舞台上にいた時間は一番長く思えた。
これからフォローして行きたい女優さんである。
ところで、次の「風」では沙霧は霧丸という男になるという。
男性観客をこれ以上減らしてどうするんだと言いたい。
すぐ復活するだろうから、その次は、まあ無理だろうが広瀬すずでお願いしたい。
華やかさと切れの良さは極楽太夫にお任せだ。
キップの良いせりふ回し、芯の通った声、松雪泰子はテレビでの印象とはまた別の方向で魅力的である。
歌は満点とはいかないが情感たっぷりで聞きほれてしまった。
拍手のタイミングがなかったのが残念である。
極楽太夫はそのうち藤原紀香でお願いしたい。
熱海五郎一座でのワンマンショー部分は見事であった。

Beautiful
東宝
帝国劇場(東京都)
2017/07/26 (水) ~ 2017/08/26 (土)公演終了
満足度★★★★
ソニンってあの「カレーライスの女」のソニンなの?
まるで別人だ。
溌溂として美しく歌もうまい、アメリカン・ポップの雰囲気を見事に体現している!
こんな素敵な女優さんになっていたとは。
今まで知らなくてごめんなさい。
「ロッキー・ホラー・ショー」も絶対行くよ。

アラタ~ALATA~
スタジオアルタ
オルタナティブシアター(東京都)
2017/07/07 (金) ~ 2017/12/23 (土)公演終了
満足度★★★★
先週、豊洲の「髑髏城の7人(鳥)」に行ってきた。
今週は吸い寄せられるようにこちらの「アラタ」を見たが両者には誰かの仕掛けかと思わせるような興味深い対比がある。
1.どちらもできたばかりの劇場である。
しかし東京のど真中のビルと原っぱの一軒家の違いは、終演後に行き場所がたくさんあるところと、ゆりかもめに乗るしかないところの違いとなって現れる。
逆に豊洲はあれだけの感動的な大仕掛けを作ることができたが有楽町は制約が多く吊りワイヤーとかプロジェクションマッピングなどの小技にとどまっている。
2.どちらも時代劇である。もっとも「アラタ」は現代の場面もあってそこで繰り広げられるダンスも売りの一つである。ダンス好きの私はもっと長くやってほしいのだがバランスを考えるとこんなものだろう。できればこちらの衣装にもお金をかけてほしいと感じた。
3.どちらも早乙女兄弟が主役(の一人)を張っている。妖艶な兄と凛とした弟、兄の柔剛緩急自在の剣さばきは驚くばかりだが弟の求道的な動きも美しい。
4.「アラタ」は“ノンバーバル”ということでせりふはほとんどない。
あってもマイクはなく役者は普通にしゃべっているだけで後方の席に聞こえないことは想定内であろう。
一方「髑髏城」は“いのうえ歌舞伎”とも称されるように言葉に気合が入りっぱなしだ。
ノンバーバルの利点は日本人以外にもわかることである。実際、多くの外国の方をお見掛けした。
しかし最大の欠点は俳優の発した声が観客の魂を直接揺さぶるという重要な働きを放棄していることである。観客席との一体感を得るには何か仕掛けが必要だろう。
終わってから開演前の伝統芸能と前説が一部その役目を担っていたことに気づいた。
それなら重要なアイテム(鼓など)を使うべきだ。「ああ、あれさっきの鼓」と親近感が湧く。
5.俳優はオール若者とベテラン主体の違いがあって、何をやっても客が喜んでくれる「髑髏城」に対して、ちょっとのミスで白けてしまう「アラタ」は本当に大変だ。もっとも豊洲の松雪泰子は少しのミスもない最高の演技だった!
こちらでは玉野尾がEndingで面を取ると実にチャーミングであった。面をしなければ悪役に見えないとはいうものの、ああ、もったいない。
6.「アラタ」は70分で休憩なし、「髑髏城」は休憩20分を含んで3時間半近く。
70分はさすがに短いがこのまま延ばされても飽きるだけであろう。斬新なアイディアがほしいところだ。
7.すっかり完成してバリエーションで勝負する「髑髏城」とゼロから不可能ごとに挑戦中の「アラタ」、両者は真逆の立ち位置にいる。「安定を取るか革新を取るかそれはあなたの生き様次第だ」と言ってはちょっと大げさだけどね。
最後に「髑髏城」はいろいろな意味で必見であるが、いかんせんチケットが取れない。
こちらの「アラタ」は日によっては中央最前列が空いている。
皮肉に聞こえたかもしれないが、舞台が近いので手が届くほどのところで繰り広げられるチャンバラとダンスを心行くまで楽しむことができる。
*ただし、前方の席には空中のアクションやイリュージョンを十分楽しむことができないという大きな欠点がある。皆が避けることには理由があるのだ。
採点は将来性込みで4つ。