満足度★★★★
先週、豊洲の「髑髏城の7人(鳥)」に行ってきた。
今週は吸い寄せられるようにこちらの「アラタ」を見たが両者には誰かの仕掛けかと思わせるような興味深い対比がある。
1.どちらもできたばかりの劇場である。
しかし東京のど真中のビルと原っぱの一軒家の違いは、終演後に行き場所がたくさんあるところと、ゆりかもめに乗るしかないところの違いとなって現れる。
逆に豊洲はあれだけの感動的な大仕掛けを作ることができたが有楽町は制約が多く吊りワイヤーとかプロジェクションマッピングなどの小技にとどまっている。
2.どちらも時代劇である。もっとも「アラタ」は現代の場面もあってそこで繰り広げられるダンスも売りの一つである。ダンス好きの私はもっと長くやってほしいのだがバランスを考えるとこんなものだろう。できればこちらの衣装にもお金をかけてほしいと感じた。
3.どちらも早乙女兄弟が主役(の一人)を張っている。妖艶な兄と凛とした弟、兄の柔剛緩急自在の剣さばきは驚くばかりだが弟の求道的な動きも美しい。
4.「アラタ」は“ノンバーバル”ということでせりふはほとんどない。
あってもマイクはなく役者は普通にしゃべっているだけで後方の席に聞こえないことは想定内であろう。
一方「髑髏城」は“いのうえ歌舞伎”とも称されるように言葉に気合が入りっぱなしだ。
ノンバーバルの利点は日本人以外にもわかることである。実際、多くの外国の方をお見掛けした。
しかし最大の欠点は俳優の発した声が観客の魂を直接揺さぶるという重要な働きを放棄していることである。観客席との一体感を得るには何か仕掛けが必要だろう。
終わってから開演前の伝統芸能と前説が一部その役目を担っていたことに気づいた。
それなら重要なアイテム(鼓など)を使うべきだ。「ああ、あれさっきの鼓」と親近感が湧く。
5.俳優はオール若者とベテラン主体の違いがあって、何をやっても客が喜んでくれる「髑髏城」に対して、ちょっとのミスで白けてしまう「アラタ」は本当に大変だ。もっとも豊洲の松雪泰子は少しのミスもない最高の演技だった!
こちらでは玉野尾がEndingで面を取ると実にチャーミングであった。面をしなければ悪役に見えないとはいうものの、ああ、もったいない。
6.「アラタ」は70分で休憩なし、「髑髏城」は休憩20分を含んで3時間半近く。
70分はさすがに短いがこのまま延ばされても飽きるだけであろう。斬新なアイディアがほしいところだ。
7.すっかり完成してバリエーションで勝負する「髑髏城」とゼロから不可能ごとに挑戦中の「アラタ」、両者は真逆の立ち位置にいる。「安定を取るか革新を取るかそれはあなたの生き様次第だ」と言ってはちょっと大げさだけどね。
最後に「髑髏城」はいろいろな意味で必見であるが、いかんせんチケットが取れない。
こちらの「アラタ」は日によっては中央最前列が空いている。
皮肉に聞こえたかもしれないが、舞台が近いので手が届くほどのところで繰り広げられるチャンバラとダンスを心行くまで楽しむことができる。
*ただし、前方の席には空中のアクションやイリュージョンを十分楽しむことができないという大きな欠点がある。皆が避けることには理由があるのだ。
採点は将来性込みで4つ。