かずの観てきた!クチコミ一覧

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性と生の迫間で

性と生の迫間で

Lumeto

高田馬場ラビネスト(東京都)

2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/18 (木) 15:00

座席1階

デリバリーヘルスの風俗嬢とお客さんの会話劇。オムニバスのようでもあるが、舞台後半でつながっていく。つまり風俗嬢とお客さんの群像劇だ。

子づくりのためのセックスに疲れ果てて勃起不全となった男性など、さまざまな性の悩みを抱えた人が登場する。一方の風俗嬢も、身体は女性、心は男性のままで仕事をするトランスジェンダーなど、やはり胸の内に秘めた葛藤を抱えていることが舞台の進行で明らかにされる。共通しているのはどの人ももがきながらも懸命に生きているということだ。こうした通底音があるから、どんな苦難が吐露されても、舞台は一貫して前向きで明るい。

風俗嬢とそのお客さんにあるあるのような、細かな業界ネタが散りばめられていて奥が深い。お客さんのタイプも多様で、思わず引き込まれてしまう。性と生の迫間に何があるか。それは、なんだかんだといろんなことがありながらも前を向いていくという確かな思いではないか。

やむを得ないところでもあるけど、舞台転換にやや難がある。
だが、風俗での会話劇という異色な舞台を楽しむ一見の価値はある。

ネタバレBOX

事故で両まひとなった男性が車いすでラブホに入り、デリヘル嬢を呼ぶ場面がある。車いすでも入れるラブホがどれだけあるかは不明だが、これからの時代、そんなホテルがたくさんできてほしい。障害者の性を描いた舞台も見てみたいと思った。
アンネの日

アンネの日

serial number(風琴工房改め)

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/17 (水) 19:00

座席1階

生理用ナプキンの開発に取り組む会社での女性8人の群像劇。詩森ろばの名作の再演だ。扱いにくいテーマだったかもしれないが、それぞれ8人の初潮体験から幕が開き、次世代の製品開発に向かっていくという物語の流れがとても印象的。それぞれの個性が丁寧に描かれ、分かりやすい。8人の熱演も光る。価値ある2時間を体験すべきだ。

特徴的なのは、8人の中に性同一性障害の女性がいることだ。彼女は子どものころ、「神様、私にも生理をください」とお祈りをし、「女の子としての欠陥がある」と悩んでいた。その彼女が入社した経緯や、配属先の理由、部局横断の開発チームに加わるかどうかなどの展開は、その背景にいる会社の男性らの思考も含めて理不尽さや差別的扱いも浮き彫りにする。
生理の体験ができない男性には、女性がどのような身体的、精神的な苦労を重ねて生きているかを想像するきっかけになる。男女が共に活躍する社会を目指すのであれば、この劇作は政治家や行政の人たちにぜひ見てほしい。多くのヒントが詰まっている。

これは見ないと損するぞ、皆に言おうと思いながら夜の下北沢を後にした。

地獄は四角い

地獄は四角い

namu

OFF OFFシアター(東京都)

2024/01/12 (金) ~ 2024/01/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2024/01/14 (日) 14:00

座席1階

小劇場の舞台制作の裏側を演劇にした、ユニークな作品。旗揚げ公演だけに少し肩の力が抜けていない感じもあったが、カーテンコールの拍手の力強さを見ると客席の満足度は高かったと言えると思う。

本番間近になっても本が最後までできていないとか、古株の役者が劇団で経験してきた上下関係とか。小劇場あるあるが散りばめられている(と思う)。そういう面白さもあるが、やはり見たいのは「何で演劇をやり続けるの」という役者や劇作家の胸の内とか、胸の中の本当の思いだ。それを最後まで期待していたのだが、肩透かしみたいな幕引きだったのは少し寂しい。
最初に語られる話。お笑いの世界ではM1がある意味売れない芸人に引導をわたす役割をしている。小劇場の世界ではこんなイベントがないから、役者たちはモノにならなくてもダラダラと続けている。こんなイントロが強烈だっただけに、舞台にその答えを求めてしまうのは自然なのではないか。

ほどける双子

ほどける双子

クレネリ ZERO FACTORY

小劇場 楽園(東京都)

2024/01/10 (水) ~ 2024/01/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/12 (金) 19:00

座席1階

ほぼ1年前に拝見して、心に突き刺さるようなカケラが散らばったように感じた秀作。今回は道学先生の青山勝の演出とのことで、まったく新しい舞台を見に行くつもりで下北沢へ出かけた。

作品に登場するすべての人物を演じ分けるという離れ技は、今回もお見事。そのくるくると回転する大きな瞳で演じるさまを、小劇場ならではの近接感で堪能できる。また、前回のように外の音が入らない地下の小劇場だから、没入感も半端ない。
物語は、育児ノイローゼの妻が夫に誘われ、赤ちゃんをシッターに預けて食事とオペラに出掛ける場面から始まる。幼子をシッターに預けて外出する夫婦は欧米では当たり前というが、この舞台は最初から雲行きが怪しい。そんな不穏な感じも本多真弓1人で醸し出すのだから、前回よりもパワーアップしていると言ってよいのではないか。
50分の作品だが、衝撃のラストに向かって駆け上がっていく演出は素晴らしかった。このような作品を普通に楽しむことができる下北沢。小劇場万歳だ。

ネズミ狩り 2024

ネズミ狩り 2024

劇団チャリT企画

ザ・スズナリ(東京都)

2024/01/06 (土) ~ 2024/01/08 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2024/01/07 (日) 14:00

座席1階

前回、ジャニーズ事件をテーマにした舞台はとにかくこれでもかというくらい笑ったが、今作は犯罪加害者の更生問題に正面から切り込んだ力作。再再演といい、今の時代背景に合わせてリニューアルしたという。

街中の蕎麦屋が舞台。この店の主人は少年犯罪に巻き込まれて亡くなり、長女が跡を継いでいる。犯罪被害の遺族だが、長女は父を殺害したとされる少年の死刑求刑に反対している。一方で末娘は痴漢被害のトラウマで電車に乗れないという状況になっていることもあって、死刑を求めて活動。姉妹の仲は険悪になっている。
亡くなった父親もかつては犯罪を犯し、更生して蕎麦屋を立ち上げたという経歴があると明かされる。自分と同じ境遇の少年の更生に協力してきて、積極的に少年院出の若者を雇っていることも、舞台の進行と共に分かってくる。そんな中で、サカキバラ事件を連想する元少年を雇っているのではないかというウワサが立つ。

凶悪な犯罪加害者が隣にいることに拒絶反応が起きるのは、かつても今の世の中も同じだ。元少年Aの更生を阻むのはこんな世の中である。事件から何年も経っても変わらぬ空気にはため息が出る。
しかし、舞台は死刑運動に参加する被害者の女性をキーパーソンにして、この難しい問題を客席に突きつけてくる。チャリTがこんな硬派な舞台を作っていたとは恥ずかしながら知らなかった。

役者たちの熱演も見事だ。特に姉妹の言い合いの場面の迫力は特筆もの。この展開を目撃するだけでも、舞台を見る価値がある。
この舞台が、犯罪加害者に拒絶的な世の中の空気を少しでも揺るがす力になるだろうか。舞台の力に思いを馳せる。

いい舞台だった。ぜひ見ておくべきだ。

ネタバレBOX

早割チケットを買ったら一番前の席だった。おかげで迫力満点の舞台を堪能できた。
失うものなどなにもない

失うものなどなにもない

good morning N°5

小劇場B1(東京都)

2023/12/14 (木) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/12/19 (火) 14:00

座席1階

少し早めの忘年会というかクリスマスパーティーというか。演劇には違いないが、小劇場B1がパーティー会場に変貌したような錯覚を覚えた1時間半だった。
というのも、アルコールを含めた飲食物持ち込み自由で、持ってこなかった人は劇団員がきちんと販売してくれる。(床は、飲み物をこぼしてもいいようにカバーがされていた)
舞台で俳優が使用するのと同じ小道具をパーティーグッズのように劇団員の売り子が売っている。おまけにここぞというところで鳴らせるクラッカーまで販売している。かくなるように、とことん客席に楽しんでもらおうという仕掛けにあふれていた。

物語はあってないようなものだ。一応、舞台設定は海外旅行の航空機。劇団員がスッチーの出で立ちで開幕前からマイクを手にしていたから、最初は飛行機の中での話かなとも思った。
パーティーゆえ、もちろん、歌あり踊りあり。だが、中村中の歌唱力は飛び抜けて高いものの、他の人たちは今ひとつでもっと何とかならなかったのだろうか。パーティーなので仕方がないかもしれないが、ちょっとお下品な出し物もあり(先人が記述した鼻くそもそうだが)、酔っぱらっていない人が多い客席では、許容範囲を超えていると思った人もいたのではないか。

これだけサービス精神旺盛な舞台をつくった劇団員の努力はすごいと思うが(有料グッズが多すぎる気も)、やはりもう少しストーリー性を持たせた展開があればよかった。これが希薄だったので単なるお祭り騒ぎに終わってしまった感じだ。舞台美術も、せっかく壁に飛行機の窓をあしらったのに、それが舞台に生かされていないのは残念だった。

藁

TinT!

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/12/17 (日) 14:00

座席1階

今日が千秋楽。40人入るかどうかという池袋の小劇場を訪ねたが、この演劇はすばらしい。あっさり終わってしまうのがいかにも惜しい。「見ないと損するぞ」と書きたいが、千秋楽では仕方がない。

舞台は1989年に起きたルーマニアの革命。民主化運動に倒された大統領と言えば、独裁者チャウシェスク。個人崇拝を高め、困窮する市民を尻目に宮殿に住み、妻とともに贅沢を尽くした。5人以上子どもを産むように国民に強制し、その結果大量のストリートチルドレンを生んだ。今作「藁」は、こうした史実を交えながら独裁者が銃殺されるまでをフィクションとして描いている。演説しているときに暴動が起き、とある田舎町の工場に大統領夫妻が逃げ込んでくるところから物語は始まる。
この工場は政府の配下にある靴工場でありながら、材料にも事欠き、工場長の夫婦は食うに食わずの生活だ。日ごろ憤怒の的としている大統領夫妻が目の前にいるという驚きのシチュエーション。工場長夫婦は表向きは忠誠の言葉を並べるが、民主化組織に寝返った軍に大統領夫妻を突き出そうと画策する。

工場長や、大統領夫妻を演じた俳優たちの迫真の演技は見事だった。ラストシーンに向かっていく時にハンカチを握り締めて涙している客席もあった。一見、そんな感動的な物語ではない。だが、工場長夫妻の一粒種がろくに医療を受けられず病死し、息子への思いが目の前の大統領夫妻への静かな怒りとして表現されている筋書きは、確かに涙を誘う。俳優たちの力に加え、こうした台本の秀逸さが感涙となるのだろう。

「TinT!」の過去作を見ると、タイトルが全部漢字一文字になっている。欧米の史実や著名人の物語をモチーフに主宰の染谷歩が劇作と演出をしている。今作の「藁」は物語の象徴となる一文字であり、過去作もきっとそういう感じなのだろう。思わず次作に期待してしまうが、次の公演予告は来年12月ということであった。

白夜

白夜

池の下

劇場MOMO(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/16 (土) 14:00

座席1階

寺山修司作品の連続上演を続ける池の下。第20弾の「白夜」は、失踪した妻を探して旅をする夫の物語だ。「不在が存在を超えていく恐怖」がテーマという。

舞台は海辺の旅館。他は満室だというのにそこだけは空いていたという部屋に、男が旅行かばんを持って入ってくる。旅の目的は消えた妻を探すことだ。ただ、実は消えたのは夫の方が先で、妻に何も言わず1年程度家を空けたのだという。近所の人によれば、妻は必死の形相で夫を探していたというから、「なぜだ」という思いを胸に夫がいなくなった妻を探しているというのは何だか変だな、とは感じる。
シンプルな舞台で、物語はハイテンポで進む。「不在の妻」の「存在」をどう描いているかがこの舞台の見どころの一つである。詳しくは見てのお楽しみだが、舞台美術に「存在」を語らせているところもあって興味深い。
結末はあっけないのだが、アングラ劇の印象も強い寺山修司がこんな戯曲を書いていたとは。白夜というタイトルも思わせぶりで、見た後にいろいろ考えてしまう効果を生んでいる。

 ​『再会(仮)』​  ​-Saikai Kakko Kari-

​『再会(仮)』​ ​-Saikai Kakko Kari-

小松台東

シアター711(東京都)

2023/12/12 (火) ~ 2023/12/19 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/12 (火) 19:00

座席1階

迫力のある二人芝居だった。父と息子という、なかなかの濃密な会話がしにくい関係なのだが、50代で亡くなった父が登場し、その年齢に近づいてきた息子と話すというシチュエーションにすることで余り違和感なくお互いの微妙な関係や、建て前と本音、そしてそれを打ち破るような感情の吐露が見どころだ。

オムニバスなのかとも思わせる構成だが、少し違う。特に説明はないが、時間の流れを思わせる状況を、東京と故郷・宮崎という二人がいた場所でクリアしている。子どものころに息子が父に対して何を感じていたのか、その心のざわつきというか違和感から物語はスタートし、次第に父の胸の内なども明らかになっていく。
自分の思いを伝えるのが少し苦手という感じの息子に、決定的な質問を突きつけられるとごまかしたり逃げたりする父。子どもに対して親が口先だけの理不尽な論理を展開して逃げるというのはよくある話だが、そうした「あるある」も客席の共感を呼ぶ。
小さな劇場だけに、この二人の役者のよく通る声、驚くほど大きい怒声などは迫力がある。終演時の客席の反応もよく、力強いカーテンコールが送られていた。

巨匠

巨匠

劇団民藝

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/12/10 (日) 13:30

座席1階

民藝が木下順二の「巨匠」を上演するのは、今回が5回目という。このほかにも多くの木下作品をやり続けてきた老舗劇団にとって、思いが俳優たちにこもっている舞台に仕上がっている。

主役の老俳優役の西川明は、民藝のレジェンド的名優が担ってきた役ということで、相当なプレッシャーを感じたと、出演者鼎談で話している。レジェンドを受け継いでいくさまを、舞台を通して客席は見守ることができる。
この物語は、ドイツに占領された先の大戦時、普通の人たちが暮らす住宅にゲシュタポが突然踏みこんでくることで大きく展開する。ドイツ軍への妨害工作への報復として、その場に居合わせた5人のうち4人の知識人を選んで銃殺するとして尋問をはじめる。老俳優の身分証は簿記係となっていて「あなたはよろしい」とはじかれるが、老俳優は自分は俳優だと強く主張。知識人と認められれば命はないのに、「ならばシェークスピアのマクベスの短剣シーンの演技をやってみろ」と言われ、その場で迫真の演技を展開する。
この老俳優が銃殺されたかどうかは、もともとの作品とは異なるようだが、この場面が最大のクライマックスだ。なぜ、演劇をやるのか、なぜ演劇で生きてきたのか。老俳優の演技はこうした問いに答えを出そうかとするかのようである。

座付きのベテラン演出家の丹野郁弓がキレのいいコンパクトな演出をいている。若い俳優たちがベテランの役作りを目の当たりにして、次の世代に劇団が続いてほしいという思いもこもっているようだった。

扉座版 二代目はクリスチャン―ALL YOU NEED IS PASSION 2023―

扉座版 二代目はクリスチャン―ALL YOU NEED IS PASSION 2023―

劇団扉座

紀伊國屋ホール(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

鑑賞日2023/12/02 (土) 13:00

座席1階

扉座の「幻冬舎プレゼンツ」による芝居を初めて見た。何で幻冬舎なのかということは、パンフレットに書いてあった。主宰の横内謙介は高校時代、まさに本日の紀伊国屋ホールへつか公演を見るために通い、そこで幻冬舎の社長見城徹(当時は月刊カドカワ編集長)に出会う。そして後に、公演会場の紀伊国屋ホールを何とか埋めようと、見城に告知を頼み込んだのだという。それ以来の関係だとか。
なるほど、そういうことで今作「二代目はクリスチャン」につながるのか。幻冬舎プレゼンツではつか作品を上演し続けているという。

だが、明らかにいつもの扉座とは雰囲気が違う。笑いのポイントは扉座版と言えばそうかもしれないが、何となくぎこちなくいつもの切れ味がない。ネタには福島第一原発事故とかいろいろ入っているのだが、滑ったところも目立つ。
9プロジェクトとか、東京都北区のつか劇団の流れをくむつかこうへいの舞台に親しんでいるせいか、これだけ大きな劇場でやるつか作品に何となく居心地の悪さを感じていたのかもしれない。セットもろくにない、平場で俳優たちがぶつかり合って汗やつばを飛ばしあうというイメージだったからだ。今作、冒頭に出てくる舞台美術は刑務所の大きな門。それが厳かに開き、二代目となる主役の女性(死んだ組長の妻)が登場する。ここではおーすごいと思ったのだが、舞台が進むにつれて違和感が強くなる。
不幸なことにラストシーンの兄弟盃の場面には閉口した。垂れ幕の大きな文字にスポンサーの見城徹の名前が。これはいくら何でもやりすぎではないのか。

こうした違和感を除いては、役者たちの熱演はいつものように好感が持てた。ただ、二代目役の伴美奈子はベテランなのにせりふが滞る場面があり、殺陣も迫力を欠いている。もっと若い俳優を抜擢するという手はなかったのだろうか。

カーテンコールではスタンディングオベーションをしている人も目立ち、ファンには受け入れられていることを実感した。自分のような感想を持つ人は少ないのかもしれないが、とにかくいつもの扉座とは違うということを理解して劇場に向かった方がいいと思う。

ネタバレBOX

舞台の場外で度肝を抜かれる。幻冬舎プレゼンツの舞台では毎回こうなのかもしれないが、民放テレビ各局の社長名で飾られたかぐわしい香りを漂わせている生花で、ロビーが埋め尽くされているのだ。これも幻冬舎の御力なんでしょうか。
これってお客さんと何か関係があるの?と、舞台で感じた違和感にとどめを刺してしまった。これさえなかったら、もっと好印象が持てたと思う。
空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/11/30 (木) 14:00

座席1階

約2時間の間、舞台に視線がくぎ付けになった。久しぶりにこのような体験をした。マチネの舞台は昼食後でもあり、眠気を誘うもの。だが、この舞台は冒頭から目が離せない。気が付いたら、ラストシーンに向かって突っ走っていた。スタンディングオベーションがあってもおかしくない、強烈な拍手が舞台の成功を表していた。

桟敷童子の舞台はまず、美術だ。今作は森の保全という林業がテーマだけに、左右に深い森の木々を模したセットが組まれている。ここを「空師」と呼ばれる木の高所で作業をする職人を演じる俳優が軽業師よろしく演技をしながら登り降りする。男女は関係ない。板垣桃子、もりちえ、大手忍の看板女優たちの軽快な動きは目を見張るばかりだ。
冒頭の演出がハートをつかむ。音楽の選択もすばらしい。「ラ・カンパネラ」がこのように使われるとは想像もしなかった。
タイトルの「空ヲ喰ラウ」は一番天空に近いところで作業をする空師の人生を象徴する。空と一体化する、というイメージだ。極めて狭い山の頂上に立ち、両手で空を抱きしめる感じ。桟敷童子らしいタイトルだ。
物語は、空師の仕事を守ってきた二つの組をめぐって展開されていく。外部からの流入に抵抗感を持つ山村の生え抜きと、都会から「逃げて」来た若者。これらの人間関係や人生もこの舞台の見どころである。

舞台美術を堪能するだけでもこの劇団の舞台は見る価値があるとかつて書いた。今作は度肝を抜くような舞台美術ではないが、完成度は高い。劇場入口に模型が展示してあるのをお見逃しなく。今作も見ないと損するレベル。劇団員の奮闘に心から拍手を送りたい。

モモンバのくくり罠

モモンバのくくり罠

iaku

シアタートラム(東京都)

2023/11/24 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/11/27 (月) 14:00

座席1階

iakuの劇作家横山拓也による今作は、罠を山中に仕掛けてシカやイノシシを捕って自家消費分だけ食べるという自給自足の生活をしている一家の物語。「なないろ満月」が上演した横山作品「ハイツブリが飛ぶのを」は大災害による避難所を舞台にした人間ドラマだったが、「モモンバ」は人里離れた生活という異色の日常をベースにした人間ドラマだ。こうした着眼点が、多くのファンを引きつける魅力になっているのだろう。

モモンバと小学生にあだ名を付けられた「野生の母」を演じた枝元萌は、横山作品にはぴったりのキャラクターであるし、卓越した演技がそれを裏打ちしている。滋賀県出身だけにネイティブ関西弁であるのも、微妙なボケとツッコミの間合いが自然と流れていくという長所になっている。特にせりふがギャグであるわけでもないのに笑えるのは、横山台本の魅力を引き出すのに彼女が適役であるということを示している。
今回の「狩猟」という非日常性をベースにした人間関係なのだが、やはり普遍的な要素もたくさんある人間ドラマであると筆者は訴えているようだ。親から子に受け継がせたいもの、子が長じたときにそれをどう自分の中で受け止めているのか。また、結婚して夫婦になり、支え合ってきたものの中年となって自分のこれからの人生に向き合う夫の姿など、舞台が「狩猟」でなくても客席の琴線に触れる展開となっている。

あれもこれも詰め込もうとしないところが、横山作品の優れたところであると思う。いい作品なのにいろんな観点や見方を詰め込んで上演時間が延びる作品が散見されるだけに、切れ味鋭い物語展開は、やはり今回も出色であった。

わが友、第五福竜丸

わが友、第五福竜丸

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2023/11/17 (金) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/20 (月) 19:00

座席1階

燐光群らしさ爆発の舞台。米国の水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸の軌跡をたどる物語だ。

冒頭は記念館の場面から始まる。時系列的には少し行ったり来たりするが、ラストに向かっては時計が逆回転するかのように盛り上がっていく。短い台詞を次々にリレーするような展開は坂手洋二のおなじみの舞台回し。福島の原発事故などへ話を飛ばし、客席へのメッセージを次々に投げ込んでいく。
しかし、今回はやや詰め込みすぎの感も。役者も大変だったと思うが、2時間半を超える舞台への疲労感が客席に停滞していた。

客席に

つか版・忠臣蔵

つか版・忠臣蔵

9PROJECT

上野ストアハウス(東京都)

2023/11/15 (水) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/16 (木) 19:00

座席1階

つかこうへいを上演し続けている9プロ。今作は大衆演劇の香り漂うつか版忠臣蔵だ。前節で忠臣蔵の物語を簡単に演じてみせるので、忠臣蔵を知らない人でも十分に楽しめる。丁寧な作りであると思う。
つかこうへいが忠臣蔵をアレンジするとこうなるのか、という少し驚きというか、新鮮味があった。大衆演劇的な演出、さらにアングラ劇ではおなじみのドーンと来る音響や音楽。さらに、汗とつばが飛ぶ俳優たちの熱演、これは9プロの売りとなるところだろう。
どのように討ち入りを果たすのか、当時の人気作家と競うようにして作っていくという忠臣蔵を俯瞰したような舞台設定はやはり、新鮮だ。忠臣蔵ファンにも新しい見方を提示するのではないだろうか。
若い女性が多い客席。カーテンコールの拍手も力強かったということは、皆が十分に2時間の舞台を楽しんだ証拠だろう。

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/14 (火) 13:00

座席1階

時は終戦直後、日本の植民地だった中国・大連に取り残された日本人の物語。「きらめく星座」などのように戦火の足音が聞こえるような戯曲ではないが、背景には戦争があり、庶民を明るく描いた物語だ。22年ぶりの再演という。

連鎖街と呼ばれる繁華街のホテルで二人の劇作家が、占領軍ロシアの関係者の前で演じる30分の余興的な演劇の台本を書くように命じられているが、ほとんど筆は進まず、逃亡しようかと考えたりしている。どんな演劇をするのか、それぞれ新劇と大衆演劇の分野の二人だが、やっぱり気が進まないようだ。こんな設定から始まり、15分の休憩を挟んで3時間の上演。最後は人間関係の修復なども戯曲の中でやってしまうという流れで、一貫して明るく描かれている。
2幕は歌唱シーンも多く、ミュージカルを見ているようだ。そうなってくると、こまつ座初出演という宝塚月組トップスターだった霧矢大夢の実力発揮というところか。音楽はピアノ演奏だけで展開されるが、なかなかの腕前で感心してしまう。

実際は日本への引き揚げをめぐって暗い世の中だったと思うが、そんな中でもたくましく生きる庶民の姿が描かれるのは、ああ、やっぱり井上ひさしの戯曲だなあ、と安心感も抜群。

『ことばにない』後編

『ことばにない』後編

ムニ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/11/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/11 (土) 11:00

座席1階

前編の4時間に加え、今回の後編も4時間余り。観客も大変だが、役者は精神的にも肉体的にもさらにハードだったろう。後編は3場で幕間の休憩は10分だけ。トイレに行くのがやっとという中で、濃密な演劇を堪能した。前編よりもはるかにブラッシュアップし、迫力も増した。長時間だけに登場人物それぞれの苦悩や思いが丁寧に描かれていた。

レズビアンという性的少数者がテーマの一つ。高校演劇部の顧問だった先生がレズビアンであることのカミングアウトと共に演劇の未完成台本を残して死亡。演劇部員だった4人の女性が新たなテキストを加えて戯曲として上演しようとする物語だ。
物語の柱は登場人物の人生と人間関係。演劇は言葉を舞台で紡いでいく芸術だと思うが、タイトルにある「ことばにない」というフレーズのように、言語化できない思い、考え方なども絡み合わせて映像的な舞台に仕上げてある。
演出は前編に比べて格段に進歩し、長丁場なのに客席を飽きさせることはない。まず冒頭のシーンがとても印象的だ。薄いカーテンの幕を効果的に使い、照明は単純化。歌や踊りを盛り込んで会話劇を補完するという荒技もあった。演出的な意図を持ってカーテンに言葉を映し出したり、早変わりの衣装も効果的だった。中心をなす女優たちの熱演もいい。これだけの長丁場で、しかもかなりの長せりふが乱発されていたから、俳優たちの苦労が偲ばれる。
だが、これらがすべて、この舞台を成功に導いた要素である。主宰の劇作家、宮崎玲奈は後編を「物語を書いて死ぬという選択肢しかないと思いながら」後編を書いたという。煩悶するがごとくの戯曲を俳優たちは見事に支えて見せた。

蛇足だろうが、踊りはよかったが歌はちょっと。ミュージカルでないからそのあたりを求めすぎてはいけないが、あえて歌わせなくてもよかったと思わないでもない。

前編を見てない人でも楽しめる。ただし、覚悟を持って劇場に行く必要がある。

ネタバレBOX

こまばアゴラのトイレは空いている個室に男女問わず順番に入るユニセックス的なシステム。おそらく各個室に、「ムニ」が用意した生理用品が置いてあった。このような配慮がなされているのを(自分が男性だから分からなかっただけかもしれないが)初めて見た。このほかにも登場人物のサインを入れた折り紙を配るなど、長丁場を見てもらう観客への細やかな配慮は特筆してよい。
みひつのこい

みひつのこい

東京タンバリン

SCOOL(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/11/14 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/10 (金) 15:00

座席1階

「みひつのこい」は未必の故意で、殺人事件などの場合、強烈な殺意はないものの「死んでも構わない」という思いで殺人行為を行った時に、未必の故意という言葉が使われる。今作でも殺人事件が取り上げられるが、ちょっと違うかな、と思う。この事件は未必の故意ではないかも。

劇場は舞台と客席がつながっている小さなスペースで、目の前、1メートルの距離で役者さんの迫力ある演技を堪能できる。
開演前に目につくのは、殺人捜査で見られる被害者が倒れていた状況を示す人型のロープ。誰がどう殺されることになったのかという物語が始まる。

東京タンバリンが得意とする人間関係をめぐる会話劇。今回は「星を見る」という小さなサークルが舞台だ。星を見るというちょっとロマンチックな香りがするところに、少し怖いムードが漂う。
なぜ、タイトルが平仮名となっているかは見ているうちに分かる。こんな仕掛けも見どころだ。

フートボールの時間

フートボールの時間

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2023/10/26 (木) ~ 2023/11/01 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/11/01 (水) 14:00

いい舞台だった。女性に良妻賢母という役割が求められていた時代、校長の示唆もあってフートボール(サッカー)を始めた女子学生たちと先生の物語。香川県の丸亀高等女学校が舞台となっている。

役者たちはいずれも、いい演技だった。特に、フートボールをめぐって後任の校長と対立し、ボールに穴を開けて処分するよう命じられる体操の教師を演じた堺小春、冒頭から登場する女学校を顧客に持つ写真館の娘を演じた井上向日葵の熱演が光った。恐らく台本にも相当関与したと思われる瀬戸山美咲の力量が後押ししていると思われる。
特に、ラストシーンは感動的であると共に示唆的だ。今でも女性の社会進出という点ではガラスの天井があるのが現実だが、それでも当時と比較してこのようなラストシーンを設定したのは素直に客席の胸を打った。理屈ではない感動。これはやはり舞台の力だと思う。これを味わうだけでもこの舞台は見る価値がある。

振り袖姿の女子生徒たちがボールを蹴るシーンが後段などにある。ダンスなども交えてうまく演出してあったとは思うが、本音を言えばやはり、本当にボールを蹴ってほしい。台本通りにボールが転がらなくてもいい。ボールを蹴ることは彼女たちにとって、自由へのキックなのだから。

ラスト★アクションヒーロー ~地方都市に手を出すな~

ラスト★アクションヒーロー ~地方都市に手を出すな~

劇団スーパー・エキセントリック・シアター(SET)

サンシャイン劇場(東京都)

2023/10/19 (木) ~ 2023/10/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鑑賞日2023/10/27 (金) 13:00

SETの最新作は、著名俳優などの客演を求めず劇団員を中心に構成したアクションもの。タイトルから、三宅裕司と小倉久寛によるアクションが「ラスト」なのかと思ったが、きっとそうではない(今後も期待)。これまでの舞台で、高齢者は高齢者なりのアクションを披露してきた二人だが、今作では派手な立ち回りはなく、若手俳優が切れ味鋭い戦闘シーンを披露し、世代交代を印象づけた。

パンフレットで三宅と小倉がかつて自分たちが行ってきたアクションの訓練を振り返っていておもしろい。中心となった二人の若手俳優たちも相当なけいこを積んできたと思われ、高い身体能力と若さゆえのパワーも加わって圧倒した。派手に舞台美術をぶっ壊す場面が続き、仮面ライダーとかテレビの刑事物とか今ではあまり見られなくなったアクション場面を生の舞台で堪能できる。当然、想定外のことも起きるわけで、そのあたりはちゃんとカーテンコールの場面で振り返ってくれる。
想定外なのは「高齢」俳優がせりふを飛ばしたりする場面だ。今日はせりふを口ごもったのに続いて言うべき言葉を失念した微妙な空白に、客席は大爆笑で応えた。やはり、SETの舞台でおもしろいのはこうした役者たちの素の演技だ。

そういう意味では、客席が(私が)いつも楽しみにしている三宅と小倉の掛け合いが今日は少なかったような気がする。もともと台本がそうなっていたのかもしれないが、少し残念。ラストシーンはギョッとする場面で終結する。小倉さん、このまま終わりにしないでね。

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