実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/06/06 (木) 14:00
座席1階
客演の音無美紀子のための舞台であるといっても過言でない。それほど全編にわたって圧巻の演技、存在感だった。彼女の求心力に触発されたかのように、脇を固める劇団員たちが輝いていった。
今回は、日本の民俗伝承、逸話に出てきそうな生け贄・人柱伝説がテーマ。地域の平穏のために、親亡き子や障害を持つ子らを生け贄として育てるという伝説で、サジキドウジはこれに「阿呆丸」という名を冠して物語にした。戦争の足音が近づいている昭和初期が舞台だ。
音無はこの「阿呆村」の女頭目の役。山の神様から動物の命をいただいて生計を立てている九州の山村で、女頭目の息子、その孫という家族、狩猟をなりわいとする村の男たち、隣町からやってくる火薬問屋の娘など、村を舞台にした人間関係が、山深き地に計画された戦争物資の輸送のための鉄道建設をきっかけに大きく変化していく。
舞台が進んでいくと、「生け贄」は古き時代の民俗伝承などではなく、まさにお国のために命をささげる戦争のことだと分かってくる。直接それに言及するような場面があるわけではないが、メタファーとして物語を支えている。ここがサジキドウジのすごいところだ。
もう一つ、いつも注目の舞台美術。今回は派手な演出ではないものの、十分に客席を満足させる出来栄えだ。そのテーマカラーは赤。舞台が真っ赤に染まる中で、役者たちの絶叫に客席の目はくぎ付けになる。
今作も、ファンとしては見逃せない仕上がりだ。サジキドウジの世界観に没入できる秀作と言ってよい。