泳ぐ機関車
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2015/12/05 (土) ~ 2015/12/15 (火)公演終了
満足度★★★★★
今作もヒマワリに元気が出る
「オバケの太陽」に続いて、私はこの炭鉱三部作を拝見した。前作に続いて胸を打つ物語、それを力演する客演を含めた出演者たち。手作り感あふれるが迫力ある舞台セット。見事でした。
悲しく、やるせない、救いようのない展開だが、前を向ける。その舞台装置が機関車であり、ヒマワリなのだ。炭鉱の底に沈む海として、水の使い方も効果的で、演出の勝利。
もし、あなたがこの小劇場から明日への勇気がほしいなら、見逃す手はありません。
イヌジニ
雀組ホエールズ
OFF OFFシアター(東京都)
2015/07/15 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
おもしろい!
動物殺処分というテーマ設定に目新しさはないが、面白いし、泣ける。隣の女の子たちもハンカチ握りしめてました。舞台に引き込まれる、これが基本です。犬猫たちのキャラクター設定もとてもユニーク。それによる笑いも十分に取れている。
小中学校で公演したらどうだろうか。教育効果抜群だと思うけど。
KARASAWAGI-2022
山の羊舍
小劇場 楽園(東京都)
2022/12/09 (金) ~ 2022/12/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/12/09 (金) 14:00
座席1階
シェイクスピアがこのように今風によみがえるとは驚きだ。登場人物がスマホを手に検索したり、写真を見せ合う。不貞の「証拠」は、原作のように込み入った演技をしてふしだらであるといううわさを立てるのではなく、ベッドインの写真を画像で流す(もちろん、これは画像合成であったというオチだが)。そのほかにも動画を小道具に使い、下北沢の「楽園」という客席数わずかな小劇場で上演するためかぎゅっと圧縮して1幕もの2時間にまとめ上げるところなど、斬新だった。
圧縮したと言っても、原作のせりふはしっかりと生かされている。速射砲のように会話をぶつけ合う出演者たちの練度も高かった。イケメン・美女の配役は見事だと思う。ビアトリスを演じた演劇集団円の大橋繭子、ヒアローを演じた兒林美沙紀はどきっとするほどきれいだった。
とにかくシェイクスピアをこのように楽しませてくれる舞台はそうないだろう。わずか 三日間の上演。見逃すと損した気分になるかも。
トンマッコルへようこそ
ナッポス・ユナイテッド
Zeppブルーシアター六本木(東京都)
2016/05/04 (水) ~ 2016/05/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
桟敷童子が舞台を絶妙な色合いに
韓国で大ヒットした名作。東憲司だからこそ、という演出に加え、劇団桟敷童のおなじみのメンバーが、悲しい物語にさわやかな風を加えてみせた。劇団の本領発揮というところだろう。
国を守るためには武器を持って戦え、と言われる。武力にはそれ以上の武力が必要なのだ。では、武器を持たない人々は、本当に無力なのか?
この舞台は、武器を持っていた軍人たちによって救われた山奥の村の話だが、本当の強さとは何だろうと考えさせられる。
舞台は朝鮮戦争当時の半島だが、今はとてもリアリティを持ってのめり込める。
白い花を隠す
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2017/02/28 (火) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2017/03/05 (日) 14:00
座席1階
従軍慰安婦の国際市民法廷をめぐるNHK番組の改変事件を、家族の人間模様をうまく絡めて描いた力作だ。台本の完成度の高さに感動する。石原燃という劇作家はこれまで見たことはなかったけど、注目すべき社会派作家だ。
ドキュメンタリーは、現場の人たちの声をきちんと伝えることが最低限の基盤だ。それを政治的圧力によって時の政権が変えてしまうのは、表現の自由の侵害で立派な憲法違反だ。しかし、メディアの端くれといえども制作会社の社員たちにも生活がある。特に巨大なNHKから干されてしまえば、会社が行き詰まって「路頭に迷う」ことになる。プロデューサー一人では戦えない。組織が存亡を賭けて戦うのは、ましてや現実的ではないのである。こうやって表現の自由はねじ曲げられ、抑圧された物言えぬ社会が作られていくのだ。
石原氏はこの事件を題材に戯曲化するのに3年をかけたという。十分に温め、考え、完成度を高めた作品だ。これを演じたカンパニーの役者たちにも拍手を送りたい。
米国でトランプ政権がメディアと対決し、自由な言論が厳しい局面に立たされている今、この戯曲を世に問う意味は大きい。
二代目はクリスチャン
9PROJECT
シアターX(東京都)
2021/10/08 (金) ~ 2021/10/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2021/10/09 (土) 13:00
座席1階
映画化もされたつかこうへいの著名な作品。これを、つか作品をやり続けるこの劇団がアレンジして新たな装いで舞台化した。神戸を仕切るやくざの親分が殺された。親分には、修道院に預けられて育った敬虔なクリスチャンである娘がいた。二代目を襲名した彼女だが、愛したのは自分の父親を殺した男だった、という展開である。
主演の高野愛は上演の時が流れるほど存在感を増し、ラストシーンになだれ込んでいく。組の親分であった父親を殺した男をつかこうへいの劇団でも出演した吉田智則が演じた。最初は多数の組員が入り乱れるようにして進んでいくが、終盤に近付くにつれ、この二人に物語が昇華していく。その筋立ては非常におもしろい。
特に、かよわい感じのした修道女の高野がその小柄で、細い体から猛烈な熱量を発出する後段は見逃せない。長い日本刀を使っての殺陣は、よく訓練されていると言っていい。飛び散る汗、つばき、そして涙。これが舞台上でキラキラ輝くのだから、その迫力には客席も満足だろう。
それぞれの役者が、つかこうへいが散りばめたと思われる印象深いせりふを発散していく。「なぜ? 大したことじゃありませんよ。ただ、気に入らねえだけです」というのは組員の一人だが、こうした脇役にも深いせりふを与えている、会話劇としてもいい感じで楽しめる舞台である。
舌っ足らずの関西弁はご愛敬か。
Be My Baby いとしのベイビー
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2016/03/03 (木) ~ 2016/03/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
何とも幸せなコメディ
カトケン事務所のコメディの選び方は秀逸だ。クレイジーフォーユーなどで知られる米国の脚本家ケン・ラドウィッグの名作。カトケン事務所は初演時と同じメンバーで再演した。
翻訳がいいのか、鵜山仁の演出がイキなのか、あちこちでしっかり笑いが起きる。幸せ感で泣けるラストシーンなど、役者たちがきっちり仕事をしていて、翻訳劇にありがちなぎこちなさがない。
加藤健一の長男と高畑淳子の長女が若い夫婦役。カトケン事務所の加藤忍も、今回も面白い。
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2015/11/08 (日) ~ 2015/11/21 (土)公演終了
満足度★★★★★
マキノノゾミの舞台に酔った!
原作は三島由紀夫の近代能楽集で、卒塔婆小町と熊野から。マキノノゾミがこれを大胆にアレンジして、魅惑の舞台に仕上げた。
舞台はネットカフェだ。いきなり、ももクロの強烈なメロディーで幕開け。渋谷・道玄坂のネットカフェに居着いた連中が主役である。中でも、いきなり仙人のような風貌で現れた一路真輝には度肝を抜かれる。
時空を超える「能」の世界よろしく、一路真輝があでやかなドレスで登場するときは、二・二六事件前夜だ。シンプルな演出もさることながら、ネットカフェに巣くう人たちの生態をベースに、ほかの登場人物も同様に時空を超えていく。
三島が舞台を見たら何と言うだろうか。演劇の持つ創造性、観客の想像力を大いに刺激する秀逸な舞台だと言える。
見ないと損しますよ。
君に贈るゲーム
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2022/12/04 (日) ~ 2022/12/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/12/07 (水) 14:00
座席1階
「人生いろいろ」という歌謡曲を思い出してしまった。さまざまな人生を想像しながら自分の来し方も考えたりする。劇場を出てこんなことを思い巡らせながら帰途に就く、とてもおもしろい舞台だった。ラッパ屋鈴木聡の面目躍如という感じだ。
自分はボードゲームといえば任天堂の人生ゲームしか知らないが、今作の舞台は世界中のさまざまなボードゲームが楽しめるカフェ。やっぱり常連さんがいて、しがない中間管理職という風情のおじさんがフラリと立ち寄るところから始まる。コロナ対策のマスク着用ということもあり、顔見知りではあるが素顔は知らず。お互いをニックネームで呼び合うが、同好の士ということだけあり親密な仲間だ。
そこで会長と呼ばれていた人が体調を崩したのかこなくなっていたが、ある日突然、秘書を名乗る人が来て会長の頼みを聞いてくれという。会長は何社も会社を率いているお金持ちで、静養中の海辺の別荘にボードゲームカフェの仲間に来てもらい、一晩で孫に与える人生を考えるボードゲームを作ってほしいというのが頼みだった。
そこで冒頭の「人生いろいろ」になるわけだが、先人も書いているとおり、この仲間たちはさまざまな経歴というか、多彩な人生を送っていて、ゲームにはそうした人生のエッセンスを盛り込んでほしいのだという。さて、どんなゲームになるのか。
ゲームの企画を構想するというクリエイティブな作業を一晩でやれというのも大変だが、仲間たちはスパイスの利いた会話を交わしながら、練り上げていく。この会話劇が秀逸だ。まさに、自分が経験できなかった人生を少しずつ追体験できるような構成で、それこそ客席の一人ひとりに妄想のタネを振りまいていく。
一時間半と長くないのもすてきだ。新劇系の劇団に多いが、15分の休憩を挟んで3時間半とか、いくら名作でも客席を引きつけるには限界がある。劇団の皆さんにはこんな点を考慮してほしい。
彼女たち
劇団BDP
CBGKシブゲキ!!(東京都)
2018/09/20 (木) ~ 2018/09/24 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/09/20 (木) 18:30
座席1階
嶽本あゆみ演出で、3度目再演のこの舞台はどんな変化を遂げたのか。この演出家は舞台を作り上げる為に徹底的に取材を重ねるから、かなり、ドラスティックな化学反応があったのではないだろうか。
10代の若い俳優たちの舞台だから、荒削りなところはある。だが、演技もダンスも歌も、完成度が高い。台詞もはっきりしているし、舞台上の動きもメリハリがある。学園ものだけに、ミスが出ると学芸会のようになってしまう危険性があるが、完成度の高さでクリアし、その分ハツラツなまぶしさを堪能することができる。
「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。
メメントC
Geki地下Liberty(東京都)
2016/03/17 (木) ~ 2016/03/21 (月)公演終了
満足度★★★★★
今回も魅せた会話劇
旧日本軍の南京侵攻で、南京市街に設けられた「安全区」。ここを舞台に物語は展開する。
主役は日本や英国に留学経験もある中国人経済学者。日本軍の侵攻後、国民党幹部の兄から諜報活動を頼まれ、南京臨時政府にやってきた特務機関の中尉の下僕となって自宅を守ろうとする。そこに戦地を渡り歩いてきた従軍僧が訪れる。作・演出の嶽本あゆ美の手腕は、今回もこの3人の会話劇で遺憾なく発揮されている。
見どころは、この怪しげな従軍僧だ。中尉は日本軍が民間人も暴行、殺戮するなど暴虐の限りを尽くしたという欧米によるリポートへの反証をする任務を帯びていて、従軍僧に南京などの戦いの現場を聞く。だが、この従軍僧は「殺される前に殺す」「戦場になった場所にはそもそも慰安所などない。民間の女性を相手にするのは当然だ」などと、暴虐はさも当たり前だというようにうそぶく。そんな彼の傲慢とも言える言動が、何だかまっとうな話に聞こえてくるが、それが嶽本の描く戦争の狂気だと思い知らされるわけだ。
日本軍は捕虜を取らない、という指令を出していた。日本軍に大量の捕虜を国際法に則って処遇できる能力などないからだが、捕虜を取らないというなら現場は、自分たちをいつ襲うかしれない敵国住民を殺すしかない。今回の戯曲では真正面から触れてはいないが、それが南京大虐殺につながったということは容易に想像できる。
前作の「太平洋食堂」「プロキュストの寝台」でも魅せたが、今回も戦争の狂気という大テーマに、戯曲の力でもある舞台での会話の応酬で、約二時間の上演に釘付けになる。
熊本の皆さん、ぜひ見てくださいね。
The Dark City
温泉ドラゴン
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2018/10/15 (月) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/16 (火) 14:00
座席1階
価格4,000円
終戦直後の埼玉県本庄町(現・本庄市)。銘仙の闇取引で暴力団が牛耳り、警察も検察もその仲間という小さな町。そんな暴力の街はおかしいと書いた朝日新聞本庄通信部の記者に対する元暴力団組員の町議による殴打事件をきっかけに、新聞がキャンペーンを張り、市民が立ち上がる。本庄事件と呼ばれるこの経緯を題材に、社会派劇作家シライケイタが今に暮らす市民に訴える。「本当に、生きているか。立ち上がっているか」と。
唐組で暮らした怪優・大久保鷹がひときわ、光を放つ。舞台が現代と70年前を行き来する構成で、出演俳優は一人何役もこなすのだが、70年後の今に生きる老人を演じる大久保が、この70年前の事件の意味をストレートに客席に問い掛けるさまは、圧巻だ。まさにぴったりの配役であると言える。
フェイクニュースなどが横行し、ジャーナリズムに背を向ける人が目立つ今。しかし、ジャーナリズムとは民主主義を支える基盤であり、書く自由はすなわち、私たちが生きる自由だ。これが政権や暴力団で切り取られていくとすれば、それは、生きる自由を制限された戦前・戦中に戻ることになる。
新聞は書いているのか。市民はそれを手に立ち上がっているのか。
民主主義であるはずのわが国で、独裁政権のようなやりたい放題が通る今。声を上げることの重要性を、見た人たちに強く訴えかける。70年前の市民の力を今、思い起こしたい。
藍ノ色、沁ミル指二
演劇集団円
吉祥寺シアター(東京都)
2018/10/18 (木) ~ 2018/10/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/10/23 (火) 19:00
座席1階
心を揺さぶる家族劇だ。藍染という、ビジネスからはみ出してしまった伝統芸術を横糸に、家族の思いを縦糸に、ここでしか作れない色の布が織りあがった。
タイトルの沁みる指に、という言葉が象徴的だ。藍染の仕事は指が染め上がってしまう。自分の娘を仕事場から遠ざける、というのも、家族の関係に微妙な影を落としていた。お父さんとおじいちゃんは自分の好きな仕事をして、稼ぎや子育ては女たちに押し付け。当たり前だからと従ってきた妻や娘たち。男たちはそんな思いに気付くよしなもなかった。
三人きょうだいの妹を演じた木原ゆいがいい。舞台のリード役を自然にこなしていた。無口だが誠実な職人であり、きょうだいの父を演じた金田明夫はさすがだった。
お母さんが一緒
ブス会*
ザ・スズナリ(東京都)
2015/11/19 (木) ~ 2015/11/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
強烈トークバトルを楽しもう
ブス会初の家族劇とか。母親を喜ばせようと温泉旅館に行った三姉妹のバトルトークが強烈で、これがメチャクチャおもしろい。
よそでは絶対に見せないだろう本音が炸裂。息をつく間もなく激しく展開する。笑いに巻き込まれ、トークの展開に共感したり、反面教師だとズキッと来たり。恐らく、大半の男はビビる。女兄弟のない私には新鮮な感動すらあった。
脚本・演出のペヤンヌマキの痛快さは、今回も遺憾なく発揮されている。最後の落とし所も秀逸だ。
ミュージカル『HEADS UP !』
KAAT神奈川芸術劇場
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2015/11/13 (金) ~ 2015/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
劇場愛を共有できる
舞台の仕込みからバラシまで、普通の演劇では滅多に見られない裏方さんたちを主人公にしたミュージカル。「普段、僕たち(俳優)は裏方さんへのリスペクトが足りない」と言うラサール石井の渾身のステージ。
客席を巻き込んだ物語の展開、お客を楽しませようとするサービス精神。ラサールならではの展開だ。ノリが良くてギャグ満載。今回はさらに、ラサールが胸に持ち続けてきた「劇場への愛」が描かれる。
感動のラストシーンも。スタオベは当然の帰結だ。
ラスト・イン・ラプソディ
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2015/11/18 (水) ~ 2015/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
胸を打たれる人間模様
行き場のない患者を受け入れている診療所が舞台。入院できるベッドがあるので診療所というより病院か。実際にはあり得ない診療所であるが、患者たちの物語はリアルだ。
格差社会、そして貧困。どこの病院も受け入れないであろう人たちに、過去を持つ医師らスタッフが真正面から向き合う。患者たちはそれぞれ複座な事情を抱えているが、舞台は患者の今とこれからを中心に描かれる。
幅広い層を持つ俳優座の俳優たちだからこそ演じられる舞台。いかに死ぬかということは、どう生きるかということ。見る人の心に突きつけている、見事な舞台だ。
その恋、覚え無し
劇団桟敷童子
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/27 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/08 (土) 18:00
座席1階
桟敷童子の舞台いつも迫力がある。この演目はいつもに増して力強かった。嵐を表現する天井からの激しい流水の音に勝たないと聞こえないのだから、当然かもしれないが、役者さんは大変である。今回は4人の盲目祈祷師を演じた女優4人のパワーが際立っていた。
山岳信仰色濃い山里の物語。村の少女が失踪し、神隠しに遭ったのではと村の総力を挙げての山狩りが始まる。女漁師が水車に絡んで目にけがを負う事件が起き、舞台は緊迫度を増す。
以前の「オバケの太陽」でも度肝を抜かれたが、衝撃のラストシーンだ。目が見えない人は素晴らしい景色なんて見えないと考えがちだが、目で見るのでなく心で感じるものだと気付かされる。
ゼブラ
ONEOR8
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2018/12/04 (火) ~ 2018/12/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/12/09 (日) 15:00
座席1階
2005年初演のこの劇団自信作。再演にあたり、満を持しての登場だ。「大家さんと僕」で手塚治虫賞を受賞した異例の芸人、矢部太郎がいい味を出している。これから北海道や岩手などで地方公演もあるという。その地域の皆さん、見ないと損するぞ。
人気作とあって、本日千秋楽には午前中に追加公演が組まれた。客席を埋めた千秋楽のお客さんはちょっとおとなしかったようだが、かなり大笑いできる部分も多く、成功していると思う。普通なら、もっと笑いの渦が起きてもおかしくない。
ゼブラとは白黒のシマウマ。これがお葬式の白黒の幕につながるのだが、4姉妹それぞれに女手一つで育ててくれた亡くなった母親への思いが舞台に交錯する。この交わり方のテンポがよくて、まったく飽きさせない展開で舞台は進んでいく。認知症と思われる症状で入院して最期を迎えた母親の気持ちも涙を誘った。
やはり脚本の妙なのだろう。作・演出の田村孝裕は配られたパンフレットで「20年たってもソコソコの劇団」と謙遜するが、同時に書いている「底力」を見せつけている。4女それぞれの性格がおもしろいし、それぞれが大人になって抱えている事情も面白い。末っ子を元モーニング娘。の新垣里沙が演じている。まあまあの存在感だ。
あえて言えば、矢部太郎のために作ったとしか思えない最後の最後の部分は余計だった。わたし的に言わせてもらえば、その手前で暗転、幕切れにした方が感動が倍増した。
葬儀の生前予約、というのは今風だ。また数年後、例えば劇団30周年でもやってみてほしい。また、違った空気感で笑ったり泣いたりできるのではないか。
一人ミュージカル「壁の中の妖精」
Pカンパニー
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/05/10 (金) 14:00
座席1階
春風ひとみ、見事というしかない。間違いなく彼女ならではの一人舞台であり、高度な一人ミュージカルだ。何度も再演を重ねている、木山事務所の作品では上演回数1位というが、見ていない人はぜひ、見た人もあの感動をもう一度味わいたい。
舞台はスペイン内戦。フランコ圧政のなか、30年もの間自宅の壁の中に隠れて生き続けた革命の闘士、その男と妻、娘の物語を春風ひとみがナレーターも含めて一人で演じる。演じるのは幼女から老女まで、性別も年代も超える。舞台を目一杯使い、客席まで巻き込んで物語をかき立てる。
ピアノとギターの音楽、効果音。さらにデフォルメされた影絵。上演を重ね練り上げられた舞台を一体化し、見事な芸術作品に昇華させた。
これは、一つの至宝。見ないと損するぞ。
√ ルート
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2019/09/04 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/09/04 (水) 19:00
座席1階
興味深い作品が続くPカンパニーの「罪と罰」シリーズ。今回は道徳の教科化をテーマにいじめゼロのモデル校の小学校を舞台にしたいじめ自殺の物語。真正面から今の教育問題の一番リアルなところに切り込んだ。
道徳の公開授業のための会議から、物語がスタートする。授業を行う女性教師の子どもが熱を出したと保育園から電話があるが、これが舞台後段の伏線となり、強烈な結末を描き出していく。
原作を書いた山谷典子は文学座の俳優であり、劇作家だ。タイトルのルートは言うまでもなく平方根なのだが、この記号に込めたストレートなメッセージがラストシーンで意外な人物から明かされる。そのメッセージが、われわれ大人に厳しい問いかけをしてくる。それはいじめ自殺という形で12歳の命を切ってしまった少女への、大人社会からの贖罪だ。
政府が導入した道徳の教科化は、人の内心を点数化するのかと大きな議論になったが、それよりも今回の舞台は、こんな大人たちに道徳を語る資格があるのか、と訴えている。教師同士の会話や、さりげない学校の風景など、よく取材され練られた作品だ。最後のモノローグのような場面がやや長いな、と思ったが、気になったところはそれくらい。テンポよく進む1時間40分の簡潔な舞台だけに、終幕後に感じた心の震えがより大きくなる。
今日が開幕日。間違いなく秀作だ。見逃すと損するぞ。