かずの観てきた!クチコミ一覧

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トンマッコルへようこそ

トンマッコルへようこそ

ナッポス・ユナイテッド

Zeppブルーシアター六本木(東京都)

2016/05/04 (水) ~ 2016/05/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

桟敷童子が舞台を絶妙な色合いに
韓国で大ヒットした名作。東憲司だからこそ、という演出に加え、劇団桟敷童のおなじみのメンバーが、悲しい物語にさわやかな風を加えてみせた。劇団の本領発揮というところだろう。

国を守るためには武器を持って戦え、と言われる。武力にはそれ以上の武力が必要なのだ。では、武器を持たない人々は、本当に無力なのか?
この舞台は、武器を持っていた軍人たちによって救われた山奥の村の話だが、本当の強さとは何だろうと考えさせられる。

舞台は朝鮮戦争当時の半島だが、今はとてもリアリティを持ってのめり込める。

城塞

城塞

劇団俳優座

シアタートラム(東京都)

2016/01/06 (水) ~ 2016/01/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

この衝撃はすごい
安部公房は初演のパンフレットで「これは喜劇なんです」と書いたという。確かに、見終わってから思い起こすメタファーとしてはそう感じられるところもある。だが、これは父と息子の強烈な舞台だ。時間を止めてしまった父を破壊することで、息子も自らを破壊してしまった。戦争で財を成した家族にとっては、まだ戦争は終わっていないのだ。

特に後半の演出、そして登場する5人の俳優が見事にその仕事をやってのけた。最後の暗転で、座席に釘付けになるような衝撃はすごい。舞台芸術ならではの体験だ。

ネタバレBOX

「儀式」のために呼ばれたストリッパーを演じた野上綾花は、色気だけが自分の引き出しにない、と書いていたが、舞台を重ねて成長したんだろう。狂気が貫く色香を客席に突き刺してみせた。
Be My Baby いとしのベイビー

Be My Baby いとしのベイビー

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2016/03/03 (木) ~ 2016/03/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

何とも幸せなコメディ
カトケン事務所のコメディの選び方は秀逸だ。クレイジーフォーユーなどで知られる米国の脚本家ケン・ラドウィッグの名作。カトケン事務所は初演時と同じメンバーで再演した。

翻訳がいいのか、鵜山仁の演出がイキなのか、あちこちでしっかり笑いが起きる。幸せ感で泣けるラストシーンなど、役者たちがきっちり仕事をしていて、翻訳劇にありがちなぎこちなさがない。

加藤健一の長男と高畑淳子の長女が若い夫婦役。カトケン事務所の加藤忍も、今回も面白い。

ネタバレBOX

今日は初日で、メディアの御招待も多かったと見られる。近くの席にいたのは朝日新聞の演劇記者、見た目はOBだ。開演しても隣接の記者としゃべり続ける無神経さ、その中身も「楽屋で有名女優に駄目出しした」とか聞くもむなしい会話。終演時に至っては拍手もせずカーテンコール中に携帯を覗いて帰り支度。

舞台に酔いたいお客さんの神経を逆なでしていた。
君に贈るゲーム

君に贈るゲーム

ラッパ屋

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/12/04 (日) ~ 2022/12/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/07 (水) 14:00

座席1階

「人生いろいろ」という歌謡曲を思い出してしまった。さまざまな人生を想像しながら自分の来し方も考えたりする。劇場を出てこんなことを思い巡らせながら帰途に就く、とてもおもしろい舞台だった。ラッパ屋鈴木聡の面目躍如という感じだ。

自分はボードゲームといえば任天堂の人生ゲームしか知らないが、今作の舞台は世界中のさまざまなボードゲームが楽しめるカフェ。やっぱり常連さんがいて、しがない中間管理職という風情のおじさんがフラリと立ち寄るところから始まる。コロナ対策のマスク着用ということもあり、顔見知りではあるが素顔は知らず。お互いをニックネームで呼び合うが、同好の士ということだけあり親密な仲間だ。
そこで会長と呼ばれていた人が体調を崩したのかこなくなっていたが、ある日突然、秘書を名乗る人が来て会長の頼みを聞いてくれという。会長は何社も会社を率いているお金持ちで、静養中の海辺の別荘にボードゲームカフェの仲間に来てもらい、一晩で孫に与える人生を考えるボードゲームを作ってほしいというのが頼みだった。
そこで冒頭の「人生いろいろ」になるわけだが、先人も書いているとおり、この仲間たちはさまざまな経歴というか、多彩な人生を送っていて、ゲームにはそうした人生のエッセンスを盛り込んでほしいのだという。さて、どんなゲームになるのか。
ゲームの企画を構想するというクリエイティブな作業を一晩でやれというのも大変だが、仲間たちはスパイスの利いた会話を交わしながら、練り上げていく。この会話劇が秀逸だ。まさに、自分が経験できなかった人生を少しずつ追体験できるような構成で、それこそ客席の一人ひとりに妄想のタネを振りまいていく。

一時間半と長くないのもすてきだ。新劇系の劇団に多いが、15分の休憩を挟んで3時間半とか、いくら名作でも客席を引きつけるには限界がある。劇団の皆さんにはこんな点を考慮してほしい。

「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。

「安全区/Nanjing」ご来場ありがとうございました。

メメントC

Geki地下Liberty(東京都)

2016/03/17 (木) ~ 2016/03/21 (月)公演終了

満足度★★★★★

今回も魅せた会話劇
旧日本軍の南京侵攻で、南京市街に設けられた「安全区」。ここを舞台に物語は展開する。
主役は日本や英国に留学経験もある中国人経済学者。日本軍の侵攻後、国民党幹部の兄から諜報活動を頼まれ、南京臨時政府にやってきた特務機関の中尉の下僕となって自宅を守ろうとする。そこに戦地を渡り歩いてきた従軍僧が訪れる。作・演出の嶽本あゆ美の手腕は、今回もこの3人の会話劇で遺憾なく発揮されている。
見どころは、この怪しげな従軍僧だ。中尉は日本軍が民間人も暴行、殺戮するなど暴虐の限りを尽くしたという欧米によるリポートへの反証をする任務を帯びていて、従軍僧に南京などの戦いの現場を聞く。だが、この従軍僧は「殺される前に殺す」「戦場になった場所にはそもそも慰安所などない。民間の女性を相手にするのは当然だ」などと、暴虐はさも当たり前だというようにうそぶく。そんな彼の傲慢とも言える言動が、何だかまっとうな話に聞こえてくるが、それが嶽本の描く戦争の狂気だと思い知らされるわけだ。
日本軍は捕虜を取らない、という指令を出していた。日本軍に大量の捕虜を国際法に則って処遇できる能力などないからだが、捕虜を取らないというなら現場は、自分たちをいつ襲うかしれない敵国住民を殺すしかない。今回の戯曲では真正面から触れてはいないが、それが南京大虐殺につながったということは容易に想像できる。

前作の「太平洋食堂」「プロキュストの寝台」でも魅せたが、今回も戦争の狂気という大テーマに、戯曲の力でもある舞台での会話の応酬で、約二時間の上演に釘付けになる。

熊本の皆さん、ぜひ見てくださいね。

ネタバレBOX

中国人経済学者を演じた立花弘行、特務機関中尉を演じた清田正浩、そして従軍僧を演じた間宮啓行。この三人の俳優は、下北沢の小劇場で息もつかせぬ迫力をまとって嶽本会話劇を演じきった。見応え十分。

さらに、この劇では効果音がきわめてうまく使われている。舞台袖で発しているスタッフの力は大きい。
イヌジニ

イヌジニ

雀組ホエールズ

OFF OFFシアター(東京都)

2015/07/15 (水) ~ 2015/07/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

おもしろい!
動物殺処分というテーマ設定に目新しさはないが、面白いし、泣ける。隣の女の子たちもハンカチ握りしめてました。舞台に引き込まれる、これが基本です。犬猫たちのキャラクター設定もとてもユニーク。それによる笑いも十分に取れている。

小中学校で公演したらどうだろうか。教育効果抜群だと思うけど。

東京裁判 pit北/区域閉館公演

東京裁判 pit北/区域閉館公演

パラドックス定数

pit北/区域(東京都)

2015/12/22 (火) ~ 2015/12/31 (木)公演終了

満足度★★★★★

見事な裁判劇
青年座の「外交官」を見てから、野木萌葱さんのファンになった。この「東京裁判」は絶対に見たいと思っていた。なんと年末押し迫ってまでやっている。しかも、パラドックス定数が劇団化したときに「東京裁判」を上演したその、東京・王子の小劇場で。その小劇場は年内で閉館という。これはもう、絶対に行くしかない。

会場は若い観客で超満員だった。ものすごい熱気の中繰り広げられた会話劇は、A級戦犯たちを弁護する5人の男たち。右上の裁判官に向かい、正面の検察官に向かい、男たちは奮闘する。戦勝国の論理で裁かれる敗戦国の政治指導者たち。私は個人的には、国家を破滅に導いた指導者たちはそれ相応の責任を取るべきだと思っているが、この弁護の男たちは、それぞれ個人的に様々な物語を抱えていて、それが、この裁判劇を奥深いものにした。

この脚本は見事だ。それを演じきった5人の俳優にも拍手を送りたい。

老いた蛙は海を目指す

老いた蛙は海を目指す

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2022/12/15 (木) ~ 2022/12/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/21 (水) 14:00

座席1階

毎回舞台美術が楽しみな桟敷童子は今回、客席中段まで白い菊花が咲き乱れていた。生と死が隣り合わせにある貧民窟が舞台で、菊の花にどんな意味があるかは劇中で明かされる。さらに、今回のラストシーンも圧巻であった。舞台美術もさることながら、板垣桃子の鬼気迫る演技に目はくぎ付けとなる。ゴーリキーのどん底がこのようなアレンジとなるなんて。秀作と言わざるを得ない。

青山勝が桟敷童子に出るのを初めて見た。このような豪快な演技をする人なんだと感じ入った。「道学先生」でのイメージとはやはり、少し違っていると思う。自分には新鮮な発見だった。このほか藤吉久美子の妖艶な存在など客演ばかりが注目、というわけではない。桟敷童子のメンバーも相乗効果というのだろうか、藤吉久美子の妹役を演じた増田薫、人生訓とも言えるような謎めいた名言を吐く老婆役の鈴木めぐみ、青山が親方を演じる乞食会社「残飯屋」のメンバーで存在感を発揮したもりちえなど、いつもにまして迫力が違う。こうした役者たちの熱量を感じに行くだけでも、劇場に足を運ぶ価値はある。

貧乏な人が貧乏な人を搾取する、生きていくだけで精一杯で自分のことしか考えられない。舞台は特高警察が思想取締りを強化していた昭和の初めごろだろうが、こんな世相は過去の話ではない。物語に現代を示唆する部分はないが、気が付いたら「どん底」という時代はもう、たくさんである。また、炭坑労働は桟敷童子では定番と言われるほどよく出てくるが、今回も悲劇の引き金を引いたアイテムとして語られる。

約2時間、舞台転換も敏しょうで、息つく暇もなくラストシーンになだれ込んでいく。今回も見逃すと後悔するぞという舞台をつくってくれた。桟敷童子ファンにはすばらしいクリスマスプレゼントだ。

二代目はクリスチャン

二代目はクリスチャン

9PROJECT

シアターX(東京都)

2021/10/08 (金) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/10/09 (土) 13:00

座席1階

映画化もされたつかこうへいの著名な作品。これを、つか作品をやり続けるこの劇団がアレンジして新たな装いで舞台化した。神戸を仕切るやくざの親分が殺された。親分には、修道院に預けられて育った敬虔なクリスチャンである娘がいた。二代目を襲名した彼女だが、愛したのは自分の父親を殺した男だった、という展開である。

主演の高野愛は上演の時が流れるほど存在感を増し、ラストシーンになだれ込んでいく。組の親分であった父親を殺した男をつかこうへいの劇団でも出演した吉田智則が演じた。最初は多数の組員が入り乱れるようにして進んでいくが、終盤に近付くにつれ、この二人に物語が昇華していく。その筋立ては非常におもしろい。

特に、かよわい感じのした修道女の高野がその小柄で、細い体から猛烈な熱量を発出する後段は見逃せない。長い日本刀を使っての殺陣は、よく訓練されていると言っていい。飛び散る汗、つばき、そして涙。これが舞台上でキラキラ輝くのだから、その迫力には客席も満足だろう。

それぞれの役者が、つかこうへいが散りばめたと思われる印象深いせりふを発散していく。「なぜ? 大したことじゃありませんよ。ただ、気に入らねえだけです」というのは組員の一人だが、こうした脇役にも深いせりふを与えている、会話劇としてもいい感じで楽しめる舞台である。

舌っ足らずの関西弁はご愛敬か。

私の心にそっと触れて

私の心にそっと触れて

メメントC

新宿スターフィールド(東京都)

2021/12/16 (木) ~ 2021/12/22 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/12/20 (月) 14:00

座席1階

認知症は専門である脳神経内科の元教授が認知症を患う。うすうすわかってはいるのだが「自分がそんなはずはない」と介護を拒否。必死になって寄り添う妻も疲れ果て、夫に手を上げるような状況に追い込まれていく。だが、この舞台は認知症介護の厳しさだけを伝えているのではない。認知症が進行し、既に自分だけの世界を生きるようになった人が「自分の心に何か、温かいもの」が触れてきらめく一瞬を舞台で見せるために、2時間余りの物語が展開する。

主人公は医師、娘は弁護士。鎌倉の庭付きの家に住む裕福な家庭である。だが、病気の進行はいやがおうにもその家庭をむしばむ。さらに患者の胸の内や、こだわり、葛藤など本来は外に出ないものを周囲にさらけ出し、ぶつけていく。この点、特に、主人公が誇りをもって勤め上げてきた医師という職場へのこだわりがすごい。かつて診療した患者だったピアニストの女性を登場させ、妻が浮気を疑うという筋立てなどはかなりリアリティがある。この役を妖艶に演じた駒塚由衣という女優はとても迫力があった。

脚本を輝かせたのは言うまでもない俳優たちだ。主人公を演じた元文学座の外山誠二、妻を演じた民藝の白石珠江。この二人の演技は出色である。特に外山は、経験したこともない認知症患者という難しい役を、強烈な迫力とリアリティーをもって演じぬいた。客席が息をのむ迫真の場面が何度も訪れ、終幕時には感涙を誘った。また、壊れていく夫を理解しようと懸命に努力するがどうしても現実を受け入れられない介護者の妻を演じた白石は、せりふだけでなく微妙な表情の暗転までクリアに演じ、胸の内が舞台からあふれてくるような芝居だった。

認知症ケアについては、舞台で描かれたような激しい周辺症状(BPSD)をどうしたら少なくできるかという点など、大きく進んでいる。薬では治らない病気であるが、周囲が理解できなくなってもその人の魂や本質はそこにこれまでと同じようにあり続ける。今回の舞台は、本当にいろんなことを教えてくれた。

秀作だ!

ファクトチェック

ファクトチェック

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋ホール(東京都)

2021/09/17 (金) ~ 2021/09/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2021/09/23 (木) 13:30

座席1階

中津留ワールド炸裂、といった3時間であった。15分の休憩を挟むが、長く感じられない迫真の舞台だった。

物語はある新聞社の政治部に、社会部の特ダネ記者だったアグレッシブな男が異動してくるところから始まる。現政権(自民党と菅内閣を風刺してある)の一方的で民の声を聴かない政治を、その政治の中枢に食い込んで変えてやろう、という男だ。彼は官房長官会見(当時、まだ菅氏は官房長官だった)に後輩記者を黙らせて割り込み、さっそく官房長官に質問を連発する。官邸の会見は報道官が仕切っていて、官邸クラブの加盟社が優遇されるようなところがある。この会社は加盟社なのだが、再質問なし、というルールを無視して質問を連発する。
もちろん、公式の記者会見なのだから、記者クラブの内輪のルールなど取材には関係ない。だが、日ごろルールをぶち壊すような記者はいないから、官邸サイドににらまれることになるかと思ったら、なぜか、官房長官が気に入って特定の記者だけの懇談に来ないかと誘う。

メディアは権力の監視が役割である。ウオッチドッグ(番犬)と呼ばれ、政権が怪しい方向に行くときに激しく吠えて警鐘を鳴らすのが役割である。この主人公の記者もまさに、このジャーナリズムの本質を行く男だったのだが、中津留ワールドのおもしろいところで、この男が官邸側のうまい取り込み(ここはネタバレするので書かないが)で外堀を埋められ、結局政権の首がすっ飛ぶような隠された議事録の部分を報じないという選択に追い込まれるのだ。

核心となる議事録のネタが、東京電力福島第一原発の事故による汚染水放出に関連したものであり、総理の前任者(安倍さんである)が東京五輪招致に際してアンダーコントロールと言ったことで官僚の仕事が捻じ曲げられていくところがあってとても興味深い。これは安倍前首相が「私の妻がかかわっていたら国会議員も辞める」と答弁したモリカケ問題の裏映しであるからだ。担当の官僚が自殺する(舞台では事件に巻き込まれたとにおわせるくだりもあるが)ところも、赤木さんの自殺をトレースしているようで、リアリティーが増してくる。

政治部の記者がここまで腐っているか、と言われると「実際はここまでひどくはないだろう」とは思う。しかし、結果的に政権のやりたい放題を許しているわけだから、「番犬」の仕事を果たしているとは残念ながら言えないだろう。

現実の政治やメディアの報道ぶりを想起しながら、エンターテイメントとしても十分に面白い、楽しめる舞台である。厳しい中津留ワールドに全力で応えようとした青年劇場の意気込みも感じる。
ただ、取材相手(家族にもだが)に対して怒鳴るような主人公の口調がとても気になった。芝居であるからある程度は仕方ないとは言えるが、取材相手をやり込めるようなやり方をする人は優秀な記者とはいえないからだ。この人は何を熱くなっているんだろうか、と私は冷めてしまった。それを割り引いても、この舞台はお勧めだ。

泳ぐ機関車

泳ぐ機関車

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/15 (火)公演終了

満足度★★★★★

今作もヒマワリに元気が出る
「オバケの太陽」に続いて、私はこの炭鉱三部作を拝見した。前作に続いて胸を打つ物語、それを力演する客演を含めた出演者たち。手作り感あふれるが迫力ある舞台セット。見事でした。

悲しく、やるせない、救いようのない展開だが、前を向ける。その舞台装置が機関車であり、ヒマワリなのだ。炭鉱の底に沈む海として、水の使い方も効果的で、演出の勝利。

もし、あなたがこの小劇場から明日への勇気がほしいなら、見逃す手はありません。

ネタバレBOX

末の弟、語り手であり、主演なのだが、小柄で表情豊かな大手忍のハマリ役ではないか。感動を牽引する舞台である。
ミュージカル『HEADS UP !』

ミュージカル『HEADS UP !』

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2015/11/13 (金) ~ 2015/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

劇場愛を共有できる
舞台の仕込みからバラシまで、普通の演劇では滅多に見られない裏方さんたちを主人公にしたミュージカル。「普段、僕たち(俳優)は裏方さんへのリスペクトが足りない」と言うラサール石井の渾身のステージ。

客席を巻き込んだ物語の展開、お客を楽しませようとするサービス精神。ラサールならではの展開だ。ノリが良くてギャグ満載。今回はさらに、ラサールが胸に持ち続けてきた「劇場への愛」が描かれる。
感動のラストシーンも。スタオベは当然の帰結だ。

ネタバレBOX

主演の哀川翔がバック宙をするかどうかが注目されていたが、私が見た時は一回、見事に決まった。哀川の娘さんの初舞台も見どころだ。
消失

消失

ナイロン100℃

本多劇場(東京都)

2015/12/05 (土) ~ 2015/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

示唆に富む、ケラ流の笑い
同一キャストでの11年ぶりの再演。なぜ今、この演目をケラさんがやるのか。示唆に富む舞台となった。
出演者の年齢設定も年相応に上げてある。40過ぎでの結婚話も何だか、リアリティがあって笑える。戦争が終わった直後という場面も古さを感じない。初演時よりも、現実感があるのが怖い。
大倉孝二、犬山イヌコらのナイロンの役者たちも、何だか迫力があるのは現実感を台本から感じているからではないのか。客演だがナイロンのメンバーみたいな八嶋智人の立ち回りも息がぴったり。

もう、これは「近未来」の話ではない。この舞台からはいろんな怖さが提示される。ケラ流の笑いに流されながら、悪夢を見てみるのも
「消失」の楽しみ方だと思う。

ネタバレBOX

初めて見る人は、まさかロボットだったとは、と驚天動地。これも現実に近づいています。
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』

現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2015/11/08 (日) ~ 2015/11/21 (土)公演終了

満足度★★★★★

マキノノゾミの舞台に酔った!
原作は三島由紀夫の近代能楽集で、卒塔婆小町と熊野から。マキノノゾミがこれを大胆にアレンジして、魅惑の舞台に仕上げた。

舞台はネットカフェだ。いきなり、ももクロの強烈なメロディーで幕開け。渋谷・道玄坂のネットカフェに居着いた連中が主役である。中でも、いきなり仙人のような風貌で現れた一路真輝には度肝を抜かれる。

時空を超える「能」の世界よろしく、一路真輝があでやかなドレスで登場するときは、二・二六事件前夜だ。シンプルな演出もさることながら、ネットカフェに巣くう人たちの生態をベースに、ほかの登場人物も同様に時空を超えていく。

三島が舞台を見たら何と言うだろうか。演劇の持つ創造性、観客の想像力を大いに刺激する秀逸な舞台だと言える。

見ないと損しますよ。

ネタバレBOX

デイトレーダー、危険ドラッグ。今風のキーワードがちりばめられた物語の展開に目が離せない。ネタバレ専用といっても書くのをためらわれるおもしろさ。これはやっぱり生で見るしかない
うしろの正面だあれ

うしろの正面だあれ

山の羊舍

小劇場B1(東京都)

2015/11/04 (水) ~ 2015/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

蟻地獄を演じる4人
舞台には、演劇集団円と文学座からの男女2人ずつの俳優。気の弱い男性が、姉妹と父がそれとなく、意図的に(笑)巻き起こす会話に絡め取られ、蟻地獄に落ちていく。個人的には、今年春から始まった「別役実フェスティバル」参加作品の中で1,2を争う不条理劇の秀作だと思う。

オールナイトフジのレギュラーで、声優としても知られる山崎美貴の妖艶かつ冷徹な美しさに引き込まれる。その妹役、谷川清美は眉毛を微妙に動かす絶妙な演技を見せてくれる。会場は自由席で座れる下北沢小劇場B1。ぜひ、前の方で観劇されることをお勧めします。

ネタバレBOX

気の弱さというか、思慮深い遠慮が命取りになっていく。これは、われわれの日超生活でもよくあること。冒頭に出てくる姉妹の枕をめぐっての会話は、その後の強烈な展開を予感させる、秀逸な場面なのでご注目!
焼肉ドラゴン

焼肉ドラゴン

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2016/03/07 (月) ~ 2016/03/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

見逃すと、損するぞ!
開幕前にも幕間にも、客席を楽しませる演出がある。そこで「以前にこれを見たことがある人」との問いに、驚くほど多くの人が手を挙げた。こんなに熱烈に支持されている舞台だということを、見終わって痛いほど思い知らされる。また明日も見たい、と心の底から感じる舞台はそう滅多にあるものではない。

歴史の流れに翻弄される在日韓国人家族たちを真正面から本音ベースで描いている。笑いもあるし、見ていて楽しく、元気が出る舞台だ。だが、本当に心を揺さぶる理由は、名もなき人たちが懸命に生きようとする姿を描き切っていることだ。在日の人たちの行き場のない怒りとか、さまざまな要素があるが、本当に泣けるのは、自分と等身大の人間として見ることができるからだろう。

鄭義信の三部作の一つだ。残り2作も、断然見たくなる。

最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-

最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-

劇団扉座

紀伊國屋ホール(東京都)

2022/12/13 (火) ~ 2022/12/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2022/12/14 (水) 14:00

座席1階

エノケン全盛期の作品を数多く書いた作家、菊谷栄の物語。最後の伝令とは、中国戦線に赴くために青森に集結した旧陸軍部隊に東京から赴いた菊谷に、劇団員からのメッセージを伝えに走った青森出身の女優のこと。劇中では彼女がなぜ菊谷のいる東京の劇団に入ったかの経緯も明かされ、戦時下の暗い時代に夢と希望を追った女性の人間像も描かれる。

浅草の庶民の娯楽、喜劇や華やかなレビュー。舞台では冒頭から、楽しい歌と踊りが展開する。しかし、エノケンの全幅の信頼を受けていた菊谷は、召集令状を受けて黙って青森へと姿を消す。伝令に走ったのは、青森出身の女優だ。なにせ会話は強烈な青森弁だから、何を言っているかはあまり分からない。それでもこの役を演じた北村由海は、体当たりの演技で劇団員からのメッセージを伝えていくところがとても印象的だ。

舞台の真骨頂は、菊谷がどんな思いで伍長として青森の若者たちを束ね、戦地に赴いたかというところだ。出撃前夜の宴席を通して、その無念さと、吹っ切ってきたはずの吹っ切れない気持ちが痛いほど伝わってくる。劇団員たちの思いは、菊谷を無傷のまま戦地から故国に返してほしいという点に尽きる。それを受けて、菊谷の部下の若い兵隊たちは「100%完全に敵をたたきのめし、伍長殿をお返しします」と叫ぶ。だが、菊谷の独白では、自分たちがたたきのめす敵軍の兵士たちにも恋人や家族があり、やはり無傷のまま帰ってきてほしいとの一点を願っているだろうという趣旨のせりふがある。どちらかが倒れるまで戦うのが戦争だ。戦時下では劇場の扉は開かないと、強烈なメッセージが客席に届く。

そうしたせりふなどに胸を打たれ、鮮やかなダンスに目を奪われ、一時代を築いた浅草の舞台芸術が描かれる。ラストシーンに近いあたりで登場する見送りの場面がとてもいい。涙あり、笑いありで、客席の大きな拍手はいつまでも絶えなかった。扉座渾身の力作だと思う。

空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

鑑賞日2023/11/30 (木) 14:00

座席1階

約2時間の間、舞台に視線がくぎ付けになった。久しぶりにこのような体験をした。マチネの舞台は昼食後でもあり、眠気を誘うもの。だが、この舞台は冒頭から目が離せない。気が付いたら、ラストシーンに向かって突っ走っていた。スタンディングオベーションがあってもおかしくない、強烈な拍手が舞台の成功を表していた。

桟敷童子の舞台はまず、美術だ。今作は森の保全という林業がテーマだけに、左右に深い森の木々を模したセットが組まれている。ここを「空師」と呼ばれる木の高所で作業をする職人を演じる俳優が軽業師よろしく演技をしながら登り降りする。男女は関係ない。板垣桃子、もりちえ、大手忍の看板女優たちの軽快な動きは目を見張るばかりだ。
冒頭の演出がハートをつかむ。音楽の選択もすばらしい。「ラ・カンパネラ」がこのように使われるとは想像もしなかった。
タイトルの「空ヲ喰ラウ」は一番天空に近いところで作業をする空師の人生を象徴する。空と一体化する、というイメージだ。極めて狭い山の頂上に立ち、両手で空を抱きしめる感じ。桟敷童子らしいタイトルだ。
物語は、空師の仕事を守ってきた二つの組をめぐって展開されていく。外部からの流入に抵抗感を持つ山村の生え抜きと、都会から「逃げて」来た若者。これらの人間関係や人生もこの舞台の見どころである。

舞台美術を堪能するだけでもこの劇団の舞台は見る価値があるとかつて書いた。今作は度肝を抜くような舞台美術ではないが、完成度は高い。劇場入口に模型が展示してあるのをお見逃しなく。今作も見ないと損するレベル。劇団員の奮闘に心から拍手を送りたい。

煙が目にしみる

煙が目にしみる

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2018/05/03 (木) ~ 2018/05/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2018/05/04 (金) 14:00

カトケン事務所の真骨頂。涙と笑いの舞台は本当に得意なのは分かっているのだけど、しっかり期待に応えるというか、安定感抜群なのである。
毎回のことだが、加藤健一の立ち回りがいい。今回は老女姿で派手な動きや台詞はないが、舞台が進むにつれ主導権を握り、存在感がぐっと増す。加藤の淡々とした台詞一つ一つに涙と爆笑を絞られる。ハンカチは必ず持っていきましょう。

ネタバレBOX

加藤健一の役はボケ老人。そのボケに何とイタコをやらせる。その脚本も秀逸と言わざるを得ない。

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