私の心にそっと触れて 公演情報 メメントC「私の心にそっと触れて」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2021/12/20 (月) 14:00

    座席1階

    認知症は専門である脳神経内科の元教授が認知症を患う。うすうすわかってはいるのだが「自分がそんなはずはない」と介護を拒否。必死になって寄り添う妻も疲れ果て、夫に手を上げるような状況に追い込まれていく。だが、この舞台は認知症介護の厳しさだけを伝えているのではない。認知症が進行し、既に自分だけの世界を生きるようになった人が「自分の心に何か、温かいもの」が触れてきらめく一瞬を舞台で見せるために、2時間余りの物語が展開する。

    主人公は医師、娘は弁護士。鎌倉の庭付きの家に住む裕福な家庭である。だが、病気の進行はいやがおうにもその家庭をむしばむ。さらに患者の胸の内や、こだわり、葛藤など本来は外に出ないものを周囲にさらけ出し、ぶつけていく。この点、特に、主人公が誇りをもって勤め上げてきた医師という職場へのこだわりがすごい。かつて診療した患者だったピアニストの女性を登場させ、妻が浮気を疑うという筋立てなどはかなりリアリティがある。この役を妖艶に演じた駒塚由衣という女優はとても迫力があった。

    脚本を輝かせたのは言うまでもない俳優たちだ。主人公を演じた元文学座の外山誠二、妻を演じた民藝の白石珠江。この二人の演技は出色である。特に外山は、経験したこともない認知症患者という難しい役を、強烈な迫力とリアリティーをもって演じぬいた。客席が息をのむ迫真の場面が何度も訪れ、終幕時には感涙を誘った。また、壊れていく夫を理解しようと懸命に努力するがどうしても現実を受け入れられない介護者の妻を演じた白石は、せりふだけでなく微妙な表情の暗転までクリアに演じ、胸の内が舞台からあふれてくるような芝居だった。

    認知症ケアについては、舞台で描かれたような激しい周辺症状(BPSD)をどうしたら少なくできるかという点など、大きく進んでいる。薬では治らない病気であるが、周囲が理解できなくなってもその人の魂や本質はそこにこれまでと同じようにあり続ける。今回の舞台は、本当にいろんなことを教えてくれた。

    秀作だ!

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    2021/12/20 18:42

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