実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/12/21 (水) 14:00
座席1階
毎回舞台美術が楽しみな桟敷童子は今回、客席中段まで白い菊花が咲き乱れていた。生と死が隣り合わせにある貧民窟が舞台で、菊の花にどんな意味があるかは劇中で明かされる。さらに、今回のラストシーンも圧巻であった。舞台美術もさることながら、板垣桃子の鬼気迫る演技に目はくぎ付けとなる。ゴーリキーのどん底がこのようなアレンジとなるなんて。秀作と言わざるを得ない。
青山勝が桟敷童子に出るのを初めて見た。このような豪快な演技をする人なんだと感じ入った。「道学先生」でのイメージとはやはり、少し違っていると思う。自分には新鮮な発見だった。このほか藤吉久美子の妖艶な存在など客演ばかりが注目、というわけではない。桟敷童子のメンバーも相乗効果というのだろうか、藤吉久美子の妹役を演じた増田薫、人生訓とも言えるような謎めいた名言を吐く老婆役の鈴木めぐみ、青山が親方を演じる乞食会社「残飯屋」のメンバーで存在感を発揮したもりちえなど、いつもにまして迫力が違う。こうした役者たちの熱量を感じに行くだけでも、劇場に足を運ぶ価値はある。
貧乏な人が貧乏な人を搾取する、生きていくだけで精一杯で自分のことしか考えられない。舞台は特高警察が思想取締りを強化していた昭和の初めごろだろうが、こんな世相は過去の話ではない。物語に現代を示唆する部分はないが、気が付いたら「どん底」という時代はもう、たくさんである。また、炭坑労働は桟敷童子では定番と言われるほどよく出てくるが、今回も悲劇の引き金を引いたアイテムとして語られる。
約2時間、舞台転換も敏しょうで、息つく暇もなくラストシーンになだれ込んでいく。今回も見逃すと後悔するぞという舞台をつくってくれた。桟敷童子ファンにはすばらしいクリスマスプレゼントだ。