劇王2020
日本劇作家協会東海支部
長久手市文化の家 風のホール(愛知県)
2020/02/08 (土) ~ 2020/02/09 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2020/02/09 (日)
決勝に残った
「残像」
「死ぬ時に思い出さない今日という一日」
「天国と地獄」
…はいずれも極めて秀逸で、かなり趣味にも合いました。
『ツアー』+『タワー』
ままごと
長久手市文化の家 森のホール(愛知県)
2020/01/25 (土) ~ 2020/01/26 (日)公演終了
警部と探偵、その助手と殺人鬼
劇団芝居屋かいとうらんま
瑞穂市総合センターサンシャインホール(岐阜県)
2020/01/18 (土) ~ 2020/01/19 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2020/01/19 (日)
お馴染みジュリアーノ警部の舞台に、BLANK BLANK BRAINの迷探偵コンビ蘭子&珠理が殴り込み… ツッコミ不在でボケの3乗、舞台上で留まることなくボケ倒す。かいとうらんま不動の定番キャラの存在感に… 遂に拮抗できるキャラを、しかも若手から生み出した価値は非常に大きい。本公演での客の評判の高さに対応して… まさしく機を見るに敏なり!の投入は大成功でしたね。
『ムンク l 幽霊 l イプセン』 劇場パフォーマンス
第七劇場
愛知県芸術劇場 小ホール(愛知県)
2020/01/10 (金) ~ 2020/01/10 (金)公演終了
満足度★★★★★
因習による呪縛の辛み、そこからはみ出す精神の苦しみ、マイノリティの足掻きが空気感として迫ってくる。あぁ…やっぱり鳴海さんの演出って好きだなぁ。特に今回は環境音と暗がりの効果に痺れまくった。美術館パフォーマンス(ムンク作「イプセン『幽霊』からの一場面」の実物を前にしての演劇)もセットの企画で面白い取り組みでした。)
私たちは何も知らない
ニ兎社
三重県文化会館(三重県)
2020/01/10 (金) ~ 2020/01/10 (金)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2020/01/10 (金)
日本の女性解放活動の思想的礎の一つとなった雑誌「青鞜」編集部を舞台に、平塚らいてうを核にした一癖も二癖もある女性達が口角泡を飛ばす議論を重ねる。
史実の人物たちの原文を大事にしてなのか、硬い語調ながらも その風体は現代に寄せているところにギャップとしての面白さがある一方で、昔から変わらぬ問題を今と重ね合わせようとしている感触があった。
シンプルながら多彩な顔を見せ 尚且つ多機能な舞台装置も強い印象を残し、特殊な照明効果(?)による遠くの霞んだ空気感の演出には感動すら覚えた。音楽も含めて思いの他 ポップな味わいもありましたね。
青鞜編集部員達は相互に批評精神に溢れ… ある種 硬派な言葉を交わしながらも、その一方でゴシップ好きの井戸端会議的な趣きも重なる描写なところは ある意味で意外だったが、そういうモノなのか… そこに作り手の意図の有りや無しや。
基本、史実を追っている感覚で小気味良いテンポだが… 何となくやや単調?…何となく距離感があって観ていて中に入り込めない感触もあったが、それは私が男だからなのかも。
一方で、終盤の話運びの処理は上手いなと思った。仄かに今が重なっていくのが いかにも永井愛作品の佇まい。意外に奔放であったり、何のかんの何より自分本位な人物像も印象的だったし、その晒された環境として「女の敵は女」って思わせる瞬間が多かったのも納得感を生んだ。
女性に限らず… 虐げられた者が何かを変えようとする時、その足を最も引っ張り傷を負わせる障害は「虐げた者」ではなく、同じ環境にありながら「その環境に順応して上手く世渡りした者」… もっと始末が悪いのは「それに耐えて、自己肯定的にそこに価値を見出してしてしまった者(自分が耐えたのを誤りとされるのが許せないパターン)」…という現実。
庇った身体を背中から撃たれる光景は、今なお続く日常に思えた。
あしたの空地で会いましょう
くじら座なごや
ユースクエア(名古屋市青少年交流プラザ) (愛知県)
2019/05/25 (土) ~ 2019/05/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/05/25 (土)
60分の高校演劇に…人物を減らす潤色をした筈なのに、いつの間にか80分になったという… いいよね、ただ鵜呑みにするでなくリスペクトから更に膨らんでいく二次創作性。原作 越智優作品大好きの主宰 利藤さんと 潤色演出 台越さんの制作過程での衝突は想像に難くないが、その結果として生みだされた作品の付加価値はとても大きく、潤色の域を超えている創作性を感じた。
人物の整理や今時に合わせたディテール変更のみならず、大きな追加の機内シーンは のり子の対極であるフーコを深彫りし、緊迫度を増した社会の揶揄に空き地を絡めた追加シーンは作品テーマの深彫りを感じさせた。
そして劇作構造に手を加えたのも大きい。元々の作品もメタ的な味付けがしてあったが、この企画自体のテーマでもある「大人が作る高校演劇」の視点が強く取り込まれたのではないか。台越さん&座組が本作に取り組んだ際の「生の想い」が二重のメタ的構造を形作って冒頭とラストに厚みを持たせた。
すれちがいコメディの夜
有頂天演劇Collaborations
ユースクエア(名古屋市青少年交流プラザ) (愛知県)
2019/12/26 (木) ~ 2019/12/28 (土)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/12/28 (土)
入れ替わり立ち替わり…これでもかとすれ違い続ける人々が行き交う雑踏。ほんのり群像劇を味わっている感覚になっていたところで…急速に始まる連鎖の仕掛けが巧妙。なんて優しい作為。クリスマス感を味わい損ねた人にオススメ
ぽじ
山口企画
K・Dハポン(愛知県)
2019/12/20 (金) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/12/22 (日)
愛する男を巡っての女同士のマウントの取り合い。神経を逆撫でする冷徹な言葉選び、如何に相手を傷つけるかを極める繊細な戦術が展開されて背筋が凍る。前半は2人が感情の温度を低めに保っているのが、逆に怖さを引き立てた。
そして現実の修羅場を見せながら次第に…観る者を何とも不思議な「混沌の海」に突き落としてくるのが面白い。
障子の国のティンカーベル
体現帝国
ユースクエア(名古屋市青少年交流プラザ) (愛知県)
2019/12/22 (日) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/12/22 (日)
わりと舞台と客席の距離をとる傾向の強いユースクエア上演にしては、ものすごく舞台が近かった。最前列センターで まるで紙芝居を観るような距離感。…それどころか、客席が舞台に呑み込まれている感覚すら湧く…とても一人芝居とは思えない縦横無尽のステージングが圧巻でした。1ステだったからか、まだ磨いている最中の感触もあったけど、創意は十二分に伝わってきた。
そして中身は…タイトルの既視感が予兆する様に、「ピーターパン」の世界というよりは「鏡の国のアリス」みたいな不条理世界の感覚を背景に湛えた印象でした。野田秀樹作品というと、観たことがあるのは壱劇屋「TABOO」ぐらいなので造詣はほぼ無いけど、和洋折衷、古典のアレンジ(いや魔改造?)、昭和感漂う空気が… 今となってはあまり見慣れぬ舞台として、むしろ新鮮さを感じさせました。あ、でもティンクのメンヘラ感は、むしろ現代に通じるかも笑。
おやすまなさい
ナビロフト
ナビロフト(愛知県)
2019/12/19 (木) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/12/21 (土)
ちょっと不思議ちゃんな女性と頭痛を抱えた気怠げな女性…他愛もない日常劇? いや仄かに不条理劇?
何とも言い難い時間が過ぎていき…出来事がファンタジーめいてくる… その先に見えてくるモノが この世界の立ち位置を一変させる!
あぁ、フライヤーだ。あの不思議な絵が如実にこの空気を表しているかもしれない。
この散らかった部屋、2人の何気ない日常の振る舞い… いまこの舞台上にある全てのモノへ向ける眼差しを揺さぶる… 世界の色が変わる。
キャスティングのバランスも不思議な感触を生んで面白かったです。
5seconds
まつプロ
G/Pit(愛知県)
2019/12/20 (金) ~ 2020/01/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/12/21 (土)
コレは凄い… 脚本の濃厚さを物の見事に具現化した演出/役者の力量たるや申し分ない。
現実の航空機事故をモチーフにしたドキュメンタリー的な作品だが、空気感は… そう、好評だった刈馬演劇設計社「異邦人の庭」を想像して貰えは良いと思う。それがまた別のベクトルで鋭さを増した。
近年稀に見る程に 神経を逆撫でしてくる篠原タイヨヲさんの演技に… 何故か逆にグイグイ引き込まれて、それを受けるカズ祥さんが… 徐々に彼の輪郭を露わにしていく構図。終始ヒリヒリする空気が堪らない。
そして事件として語られる以上に、機長の晒されていた環境を浮かび上がらせていくのに息を呑んだ。
私の好みに合ったのは言うまでもないが、役者の表現としてすこぶる出来が良いと思う。あおきりで観るのとは全く違う姿を観れる新鮮さもあり、何より… あおきりでの方針とは一転、公演期間中もネタバレフリーを公言してて、史実と言うこともあるだろうけど、本作の価値が「生でコレを体験すること」に他ならないのだ…と言う強烈な自負を感じて、またそこに痺れた。
inseparable 変半身(かわりみ)
有限会社quinada
三重県文化会館(三重県)
2019/12/14 (土) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/12/15 (日)
近未来SF的な設定で強力に興味を引かれる導入。そこに異物(ムネオ)が現れる所から急速に予想の斜め上を駆け抜けていった… 脳内にパラダイムシフトを強いる…そんな悦びも危うさも感じる演劇。
裏付けなし(一見そう見える)の論理的な飛躍により醸される「カルト的な空気」は、それだけで胸に拒絶感を湧き起こすけど、メタ的に描き出される神話的… 創世記的な二重世界の構成が… そんな社会通念的な禁忌の裏にも、一抹の真理があるのかも…って思わせる感覚を湧き立たせるのは、興味深くもあり、恐ろしくもあり。
とりあえず、端々の極めて強いアイロニーに、やっぱり現実世界には絶望感しか残らない後味だけど(苦笑)、最早…そこで残された時間をどう生きていくか…って考えにシフトしていく内なる感覚はちょっとヤバみ有り。後ろ向きなのか前向きなのか… ワケ分からん新たなる終末観かな。
全般的に独特な気持ち悪さを醸すのが印象的(悪い意味では無い)。前に観た松井周作品が2014年の「地下室」でその時の感触も少し蘇った。(余談だが、芝居観始めの年でのアレは忘れられない笑。)
あと、とりあえずもうピュアな気持ちで相撲を観ることができなくなった、どうしてくれる笑。
『荒れ野』
穂の国とよはし芸術劇場PLAT【指定管理者:(公財)豊橋文化振興財団】
穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース(愛知県)
2019/12/13 (金) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/12/14 (土)
まさしく精神の荒れ野かなぁ…。大人の振る舞いの中に隠れて 荒廃してしまった関係性。観ていて気持ちの持っていきようがとても難しい芝居でした。思えば… 舞台上で幾度か口ずさまれるあの昭和歌謡の問い掛けがそのまま突き付けられている感じ。 思わせぶりを躱しておいて… 寄せては返す波のように繰り返される疑惑。自分でも分からなくなっている本音が徐々に姿を表していく… それが切ない…とかの一言では済まされないモヤモヤ感が濃い。
多様な人生の吹き溜りの様に、舞台に怨念の様な想いが拗れて積もっていく感じでした。
汝、隣人より目の前の人を愛せよ。
team.ups!
円頓寺Les Piliers(レピリエ)(愛知県)
2019/12/13 (金) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/12/14 (土)
この家族の…互いの噛み合わない価値観を認めた上で適度な距離感を模索し…繋がりを切らない様に足掻く姿には納得感がある。理性と感情のバランスが好きだ。
好きな演出って言ってたのは、視点を変えた「同じシーンのリプレイ」の多用で、そこから隠れた別の心情を窺わせる趣向。手法自体が珍しいわけではないが、チューニングが自分の思考にうまくハマって、観ながらにして物語を反芻・咀嚼させてくれる感触が自分の観劇スタイルに相性が良かった。
黒塚
ハラプロジェクト
七ツ寺共同スタジオ(愛知県)
2019/12/07 (土) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★
鑑賞日2019/12/07 (土)
黒塚として… 話の筋はかなりストレートだったけど、その分 感情もダイレクトに伝わってくる感じで、琵琶の音色がそれを実に良く後押ししてた。最後の展開がオリジナリティ溢れる感じで、祭るということの成り立ち… 鎮魂、供養の趣きが新鮮に感じられた。
卒業式、実行
劇団バッカスの水族館
ナビロフト(愛知県)
2019/11/29 (金) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/12/01 (日)
アガリスク作品特有の… 嵐の様に次から次へとトラブル発生、そして作品全編に敷き詰められる伏線に…その怒涛の回収… 笑いに巻き込む勢いと畳み掛ける感じは相変わらずで、その点 ドタバタコメディとしては安定して面白い。でも、これまでバッカスが扱ったアガリスク作品とは異なる… 明らかにモヤモヤする異質さがあるのは否めないんだよね。
サカシマ
廃墟文藝部
千種文化小劇場(愛知県)
2019/11/29 (金) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/11/30 (土)
100mの高さから飛び降りた少女の… 余命5秒の中に凝縮された走馬灯の物語。
最初に観た2ステ目…あのラストシーンの後の客席の空気が強烈に印象に残る。どう反応して良いのか惑い… 逡巡し… 誰一人拍手できなかったあの時間。そして… 思わず息を呑んだ落下の冒頭シーンも含めて、見事な始まりと締め括り。勿論、内容については甚だしく観る人を選ぶ作品だが… 少なくともその鮮烈さだけはきっと群を抜いた鋭さで万人に届いたと思う。その点では廃墟文藝部史上ダントツなのは間違いない。
そして公演前から… 煽る様に出てきていた内容に踏み込んだ言葉たちは、作中でも ずっしり意味ありげにその存在感を主張した。
終わってみれば実に端的で… でも直ぐには意味が分からず… でも頭にこびりつき… 観た後には確実に作品のイメージを代表していると伝わるフレーズが凄いな… 冴えわたっている。
ノア版 ワーニャオジサン
ノアノオモチャバコ
ナンジャーレ(愛知県)
2019/11/29 (金) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2019/11/29 (金)
チェーホフ「ワーニャ伯父さん」の翻案現代劇。翻案ゆえに… 原作の誰が本作の誰にあたるか考える楽しみもあるが、それに留まらない仕掛けもあって、登場人物の機能が効果的に分散されている様だ。
敢えて原作の名で言うとワーニャの「狂気」を垣間見せる幻想的な表現には… ノアノオモチャバコ特有のあの絵画的な演出はとても合うね。嵩の増された登場人物群は… ここでも効果的に思えた。
そして… ただ蔑ろにされるよりも もっと辛い仕打ちがある… そんな仕掛けは、たぶん翻案オリジナルの核だと思うけど… ただ!… それで終わらないどんでん返し? …ワーニャは終盤にえらいサラっと言って済ましたけど、あれ、そこまでの空気の前提が更にひっくり返るよね? 更に…更にもっと辛いどん底に突き落としたよね? 彼の最後に取った選択も然もありなんな悲劇でした。ここら辺の表現は…しっかり現代にいや増す孤独感にシンクロしてて、チェーホフを今 観る意義を感じることができた。
そして… ソーニャのあの…チェーホフで最も美しいとされる台詞はもちろん登場してくるわけですが、ストレートプレイだとアレはキリスト教的な宗教観を背景に強く感じるのですが、この場においてはその匂いはさほどでなく… 「それでも生きていくしかないじゃないか」という一種の悟りの感覚が… 神抜きでも生まれ得る自然さを感じた… 庶民の現実、一種の諦観の様な泥臭さだろうか。
町じゅうのゴミ捨て場にパンダ
はねるつみき
G/Pit(愛知県)
2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/11/27 (水)
美術音響照明小道具で目を惹く工夫が盛り沢山。独特な舞台装置…埋め尽くされたゴミ袋、その一つとして微妙な相違で表現されたパンダ、役者の一挙手一投足を まるで遊んでいるかの様に映し出すステップを生む踏台と音響。それらが何かしらの暗喩を観客に勝手に想像させながら、普通の演劇とは異なる感覚をエンタメ的に楽しませる多様さがあった。
しかし作品を咀嚼していくと、それでもやはり この芝居の要(カナメ)は… 紡がれる「言葉」だと思わせる。
常住さんの生み出す言葉は本当に強力で、でもこれまで…ちょっと分かり難いところが広い理解を阻んでいたのだが、そこに潤色/演出の安保さんが入ることで、ス~っと呑み込みやすくなった印象だ。その協業にも本作の大きな価値を感じる。
あの記憶の記録
劇団チョコレートケーキ
名古屋市東文化小劇場(愛知県)
2019/11/26 (火) ~ 2019/11/26 (火)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/11/26 (火)
BSで既観なのだが… 分かっていても臓腑に響く… 生で強烈に伝わる「地獄で罪を犯した人間」の魂の慟哭。否応なく人を狂気に陥れる…ある感情。
そこには… 綺麗事も理想論も大局観も… 一切の理屈を机上の空論と思わせる強度がある。観るものを突き落とす…二重三重に張り巡らされた心理の落とし穴が巧妙だ。そこには何一つ万全の解決策などなく… ただ確実に…どこかに遺恨を残し… 誰かしらが被害を被る選択肢しか存在しない。
どの銃口の先にも必ず彼の人がいる… まさしく至言。しかしそうしない先にも万人を救う手立ては決して見えない… そういう厳しさのある作品だった。厳然として… 連綿と続く世界の「負の歴史」を前に… 安易な希望で口当たりだけを良くする生温さが一切ないのが実に良い。
如何なる最善の選択肢も… 結局、その人… その人達にとっての最善でしかなく、人はそうやって凌ぎを削って生きる他はないのか…と、改めて感じさせる。
せめて手の届く範囲の幸せを願う… みっともなくても そういう選択をする。それに関わる限り…どんな背景と理由があっても その行為の肯定を許さなかった父の姿は印象的でした。息子に語り掛ける言葉は観客に向けられた言葉でもあるのだろうなぁ。
その一方で、父との別れ際に先生がとった態度にも…身の回りの幸せだけに甘んじない…彼女の思う最善への信念が窺える。
受け入れられる想いを双方に感じられるからこその名作。然るべくして再演が続く作品であることに改めて納得。