じべ。が投票した舞台芸術アワード!

2017年度 1-10位と総評
これはペンです

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これはペンです

H-TOA

円城塔の小説の部分部分を時に読み上げソフトによるものも挟みつつ2人の女優が読み上げ、観客はマーカーで読む部分を示した文庫本(各自1冊ずつある)を見ながら聞いたり考えたりメモを文庫に書き込んだり(!)という自由参加型(?)パフォーマンス。

ある意味「文章の洪水」の中に身を置くことになる訳で、目で元の文章を追ってはいるものの、次第に耳から入ってくるものが言葉や文章ではなく単なる「音」に感じられてしまうという「文章や言葉のゲシュタルト崩壊」を経験し、「これは文章ですか?」「これは言葉ですか?」を経ての「これは演劇ですか?」になるという……。

また、テキストに忠実だが句点がほとんどなく文章がダラダラ続く自動読み上げと部分的に意図してノイズ風にする(←子音だけ発音するらしい)生身の役者が読む文章のどちらが「文章らしく聞こえる」か?という実験のようにも感じられる。

芝居(に限ったことではないが)にはすべて用意されていて出てくるものを享受しているだけで楽しめるものと、観る側が想像力や思考力を駆使して積極的に参加(?)して楽しむものがあるが、本作は後者の極限に近いのではないか。

観ている最中にアタマの中に浮かんでは消えてゆくあれこれを楽しむ、みたいなものもアリ。そしてその場その時間の中で生じては消え行く観客の「想い」を残す文庫本というのも粋。
しかしそうするといろんな人の書き込みがある千穐楽が一番面白いんじゃね?(笑)

さよならシェルター

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さよならシェルター

のびる

時期を前後して同じ部屋をシェアしていた二組の女性(+α)を描いた85分。
冒頭部分で3つ(or more)の時制の出来事が相次いで出てくるので時期関係を把握するまでやや戸惑うし、導火線部分(伏線パート)がチョイ長(ではあるが吉田主宰のアタマの中をのぞき見するようで興味深い)ながらある人物の正体が明かされた時の爆発的な(=それまでのあれこれが短時間ですべてつながり「あれは何?」だったわずかなシーンやタイトルの意味も解る)伏線回収が快感。
また、黒い床に白でアレした美術(玄関が特に愉快)のセンスも良く、窓を開けるとか壁のスイッチを押して点灯するとかの身振りとの相乗作用アリ。
あと、壁がない(想像上の壁はある)装置につき、時として床からあおる照明で会場の白い壁に映る演者の影が独特の効果をあげて印象的。
なお、吉田主宰推しのお客様におかれましては入口に近いエリアを選択されますことをオススメ(爆)

マナミの正解

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マナミの正解

劇団ペリカン

最初にこれからご覧になる方にアドバイス。前回とコンセプトを変えてモチーフとなった乃木坂46の楽曲3曲にかなり即した部分もあるので、早めに行って当日パンフレットに掲載されている歌詞に目を通しておくことを強く推奨。ニヤリとできます。(いや、終演後の方がワカり易いか?)

悪く言えば教科書通りで優等生風、もっと悪く言えばあれこれベタだが逆に言えば基本に忠実で手堅いし、それに何より会話の上手さ(受け答え・ラリーの続け方など)や演技がそれを補って余りあるし面白い。
冒頭の高校時代の場面など誰でも似た思いをしていそうで郷愁をそそられかつ共感を抱き、物語に入り込み易くしているし、電話の交差からの全員登場は良いアクセントとなり効果抜群。
女子トリオが7~8年経ってもキャラが変わらないのもいかにも、な感じで可笑しいし、3人と言えば酔っぱらいトリオもあるある・いるいる的で楽しい。

前回ちょっと気になった舞台と客席の位置が通常と逆なので上手の席だと入口斜め上にあるオペブースの動きと薄明かりが視野に入る点も改善されていたし、総じてかなり満足。

以上、個人の、そして贔屓目での感想であることを悪しからず御了承くださいませ。(爆)

そう言えば当日パンフレットの出演者紹介、役名も併記して欲しい。次回以降の検討を望む。
劇中現実では時差のある2組の電話の会話を交差させリンクさせる手法もありがちだが、やはり実際に見ると面白いし、それに続いて登場人物が心境などを一人語りしながら次々に登場し全員揃ったところでユニゾンになるのも青臭い感じだが、登場人物の一人が「青臭い」と口にしているのでこれは確信犯的犯行?(笑)

ちなみに経験則から言えばああいう経緯で結ばれた二人は長続きしないと思うので(偏見丸出し(爆))、あの二組が破局を経て真の「正解」にたどり着く続編「それぞれの正解」を期待・(笑)

インド象 首がもげる

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インド象 首がもげる

ハダカハレンチ

程よく笑える会話とちょっと変わった状況でツカんでおいてからそれぞれの想いが激突するクライマックスに向かう構成が巧みでもう一つの落とし方も粋というか洒落ているというかで上手く、さらに「あれ?」で終わらせるのも見事。これも好きだなぁ。
で、ふと「大学版ナイゲン」のような気も……と言うか、メンバーの中にナイゲン経験のある国府台高校出身者がいるかも?などと妄想したり。(笑)
(ちなみにこの日のソワレに「ナイゲン(2017年版)」を観た)
終盤、ハイジはさくらが望んだものではなくほんの些細な希望を叶える。さくらが望んだ希望に関しては「そこまではっきり考えているなら自分で叶えることができるでしょ」というハイジの心遣い/優しさ/思いやりがステキ。
その後の最終場で「あれ、アイツもガネーシャだったの?」と思わせるのも粋だよね。
あと、クライマックスの討論でハイジが他者の気を変えさせようとして自らやめたり、さくらが力を使おうとするハイジを止めるのもイイ。

変な子ちゃん

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変な子ちゃん

kazakami

「青と遺伝子シリーズ」は理系の話だが、本作を0とする「存在と証明シリーズ」は文系の様子。中盤あたりから芸術とは?才能とは?なんてことがアタマの中を駆け巡る(後述)。また、奏絵のコミュ障っぽさと春真に猛抗議する時の彩歌の演技が真に迫っていて説得力があった。

奏絵の描いた絵に魅かれる彩歌、彩歌を最初は拒絶するがその歌を耳にして彼女を理解し自分と通ずるものを感じる奏絵……言葉を交わさずとも通じ合えるというの、似た体験をちょくちょくするので共感。
奏絵のコミュ障を緩和し、ひきこもりの義春を外出させた彩歌は内向的な人に外向性をもたらす「触媒」か?(笑)
また、奏絵のことを思って去ろうとする彩歌に「泣いた赤おに」の青鬼をも想起……そう言えば彩歌の衣装は青だし奏絵の衣装は赤だし、さしずめ本作は結末も勘案すると「幸福な泣いた赤おに」?

春真が彩歌に「もう奏絵と関わらないでくれ」と頼む場面で浮かんだのは「芸術家か人間性か」的なこと。しかしその二択ではなく「新たな面が現出する」ということもあろう。春真は「今までの売れ線の絵ではなくなる」ことを恐れたということか。芸術家の作風の変化は是か非か?の問題でもある。
絵画でなく言葉でコミュニケーションがとれるようになることでその後の絵が駄目になるならそれまでの絵は「何らかの欠損」によって産み出されていたことにならないか? それは「真の芸術」か? また、その欠損が補填されることで失われるようならそれは「真の才能」とは言えないのではないか?

奏絵が描く絵、彩歌と理解し合う前は暗い色彩でとがった部分もあるが、それ以後は柔らかくて色合いも明るくなる。毎回それをその場で描いている依田玲奈さんってば……。

あと、義春・春真兄弟の父親は名前に「春」の字が使われているよね?(笑)

春。いつかの雨の匂い/夏。つかの間の虹

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春。いつかの雨の匂い/夏。つかの間の虹

劇団皇帝ケチャップ

【春。いつかの雨の匂い】
基本的にはある時期のいろいろな人々を見せて横に拡がる「夏。」に対して、その中の一組の夫婦の過去とその後を見せ縦に掘り下げる「春。」と差別化したのが妙案。
最初は両作の関係を「T」の字型かと思ったが途中で「÷」かな?に代わり最終的には「十」だったか、的な。(ワカるかな?:いずれも横棒が「夏。」)
登場人物が少なく物語の軸が1本通っているだけにこちらの方がワカり易いかも(「夏。」の手法を知った上で観ればなおさら)。
で、実はこちらの断片は「夏。」にちりばめられていて、そんなことも含めてスターウォーズのep.3(シスの復讐)あるいはローグ・ワンを観るとep.4(新たなる希望)が観たくなるように、これも2作を観るとまたもう一方を観たくなるという……謀ったな!(笑)

褒め過ぎてもアレなんでちょいと釘。
夏、春とも稀に「会話」でなく「単なる台詞の応酬」になったのが惜しい。
芝居は基本的に次に〈自分が〉言うことが決められていて本人は言うべきことがワカっているけれど、実生活での会話では相手が思いもよらないことを言ったり、自分が言いたくないことを言わなくてはならなかったりするワケで、間が空いたりゆっくりになったりする……その緩急や間がないと不自然に感じられてしまう。
皇帝ケチャップの芝居は会話の中にちょっと巧い言い回しが入り、でもそれが極めて自然で大笑いを呼ぶあざとさのようなものがないというのが大きな魅力と考えるので、間の取り方など更に精度を上げればもっと良くなると思う。

あと、本作のように正続の関係ではない関連作が残念(?)なのは、「観る順を逆にして観直す」ことができないところ。
観た記憶を一旦保存して忘れて逆順で観てから保存した記憶を戻して両者を較べることができたらなぁ……などとSFチックなことも考えてしまった。(笑)
終盤、美佳子が由香里を刺すのではないかと思い、次の場が由香里の大河ドラマ出演会見前だったので「まさかそこに乱入?」とか、往年の某角川映画よろしく会見後に刺すとかも想像してしまった(笑)
「晩春。悲劇の予感」なんてフレーズも……。

言草(ことのは)Pillow Talk

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言草(ことのは)Pillow Talk

まるけ

タイトルに関連した言葉にちなんだ複数の連作を併走させ、最後にそれらを1つにまとめてさらにもう一段落とす構成が見事。構成だけでなく各編もそれぞれシカケがあるし、時事問題揶揄もあるし楽しいのなんの。感服!
いくつかは元ネタを知らないとピンとこないかもしれないが、幸いにしてほぼ(全部かも?)ワカったし、最後にまとめるための伏線にもうっすら気付いていたのでホント楽しめた。
「あの作家」や「古典のアレ」のリミックス、時事ネタである不祥事オンパレード、言葉遊びやあの手この手のリンクなど鮮やかだし、いささか苦しい無理矢理気味の結び付けもかえって可笑しい。
枕に関するネタはダブルミーニングの「枕営業」、筆名が「石に漱ぎ流れに枕す」に由来する夏目漱石リミックス(冒頭場面には「草枕」の一節も)、落研の新人が主人公の「噺のマクラ」、枕草子が絡む平安の女官たち、タクラマカン高原ならぬ「マクラタカン高原」派兵。
欲を言えば古典落語リミックスに「寝床」が欲しかったし、せっかくなので「枕詞」ネタがあっても良かったかな、とも。

各編の主人公の相手のオトコを同じ女優が演じており、「もしや伏線?」と疑っていたら案の定それが同一人物という設定で各編を束ね、さらに落研パートで出てきた夢落ちで締めるのが巧み。

弟兄

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弟兄

ゆうめい

中学時代に受けたいじめの相手への演劇青年の復讐を通して描くいじめ被害者の「闇」…。
陰惨ないじめに対する強い憤りを表現しつつ娯楽性も持たせ(もちろん不謹慎さなどない)、心身の痛みを観客に感じさせながらも後味が悪くはないという奇蹟のバランスを成立させた秀作。これがたった3ステージなんて惜しい。

どうやらかなり実体験に近いらしく、それを晒すのはズルいという気もするが、それよりもこういう形で表現したこと(とできるようになったこと)がスゴいかも?
いじめに関して被害者は実名なのに加害者側が匿名なことについても考えさ せられる。が、個人でそれをやっちゃあマズくないか? 肉親を殺した相手を見つけて殺すようなもんじゃないのか?……というのはいじめられなかった立場だから言えるのか?とさらに考えさせられたりも。

また、常々思っている「悪役(憎まれ役・仇役)が巧いと芝居が引き立ち観客の感情移入を強める」は本作でも証明され、それどころか役者それぞれの表現力に舌を巻いた。

好き嫌いがあるだろうから一概にオススメとは言わないが、少なくともσ(^-^)をして観劇直後に多弁にさせた芝居ではあった。

なお、終演後の帰路にキング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」と「ポセイドンのめざめ」を聴いたら、観終わって抱いた気持ちにかなりフィットしたことを蛇足ながら付記しておく。(笑)
主人公の大学時代にできたカノジョが、やはり以前いじめに遭っていたが、かつての加害者が事故死したことを知って悲しむ、というのもイイし、主人公が「自分だったら躍り上がるのに」と思うのも解る気がした。
高校での「弟」を使ったラストも絶妙で巧いが、その「弟」が、よりによってほんの2日前に千穐楽を迎えたアマヤドリ「銀髪」でも使われていたセグウェイに乗って登場するとは! その再登場のしかたにふと「ジーザス・クライスト・スーパースター」のユダを思い出した。(ワカるかな?)

『時参不斗狐嫁入』

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『時参不斗狐嫁入』

劇団やぶさか

やぶさか版2.5次元と言おうか「ノイタミナ」枠で放映されたアニメの舞台化のようなノリが圧倒的に愉しい。
笑い、サスベンス、アクションに加えて恋愛の本質(?)的なものもしっかり編み込んで感動させるのもさすがだし、殺陣のシンクロ(=主人公と守護するものの剣さばき)や客席通路の花道的用法、それに霊道(?)の表現なども◎。
キャラクターを如実に示す衣装も毎度ながらお見事。

ギジレン歌劇団

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ギジレン歌劇団

guizillen

大長編(135分)ミュージカル・コントにして膨大な才能の無駄遣い。がしかし、「こんなんでイイだろ」なんていい加減なものでなく、ホンキでマジメに取り組んだ悪ふざけだから長くてもちゃんと最後まで楽しめるんじゃないか? 楽曲のクオリティも無駄に高いし。ホント、「馬鹿も休み休みやってよね」(爆)
ところでこれ、「誰がそんな量喰うんだよ、そもそもそんなにそびえ立たせたら食べにくいだろ!」なドカ盛りの料理って似てないか?(笑)

総評

比較的多くの方がご覧になるであろう中堅・ベテランは外して若手・新参系に特化し、着想/発想や技法が独特にして好みなものという指針で選んだ10本。
順位は公演期間・会場キャパ・「観てきた!」コメント数なども加味して決めた。

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