満足度★★★★★
ラムネと母の泡立ち模様
上手・下手に設えられた衝立には、大小の水玉が描かれ、ラムネの発泡を思わせる。
ネタバレBOX
オムニバス形式風だが緩やかに繋がる挿話の総体が物語を紡ぐ形式で、それぞれの場は、舞台奥に掛けられた布に浮き上がる影絵によって示される。このセンスがとても良い。
聾唖者が登場するが、ハンデを持った人々の認識の形を想像させるようで、想像力のコレスポンダンスを感じさせる点もグーなのだ。
挿話それぞれのタイトルは以下の通り。①LJK②夢芝居③へべれけ④一生のお願い⑤この子ら⑥MOTH⑦カーウェひなちゃん
描かれているのは、いわば生きていることの寂しさだ。女子高3年のトリオのうち1人は、中学時代聾唖者の同級生を苛めていた。彼女は母親が嫌いである。何故なら母はこの聾唖者の父と浮気をしていたからである。それが苛めの原因であると想像することは、難くない。然し乍ら、苛めている彼女も傷ついていた。
6話では偶然電車の中で出会った3人が、苛めっ子だった彼女に聾唖の娘が居ることを天罰、と決めつけるシーンがある。この時、聾唖の娘が「母さんを苛めるな! 」と必死になって叫ぶ!! このシーンは圧巻。この時、どぎついピンクの蛾を秋葉系ヲタク少年2人が見つけて手に止まらせているのだが、元々苛められていた少女の怨念が晴れた瞬間、落ちて死ぬ。この辺りの想像力の刺激法も上手い。
7話総てが、独立した小話としても観ることができる。同時にラムネと母をキーコンセプトとして緩やかに繋がっているので、各挿話の間は、観客に委ねられた想像力空間である。この距離感もいい。
ラストでは、元苛めっ子が、仕事を始めようとしている店のママに娘を褒められ、娘がいい子だということは、お母さんがいいからだと褒められる。そして、お母さんがいいのはお婆さんがいいからだと。彼女も経験を積んで、嫌いだった母を理解できるようになった。無沙汰していた故郷へ娘を連れて出かけてゆくことを表白して幕。
満足度★★★
Cを拝見
序盤、シリアス路線というコンセプトらしいが、カオスを描くなら、描く主体は、醒めていなければならない。そして醒めていればこのような表現には決してならない。醒めきっておらず、迷っているからこそ、このような矛盾だらけの「表現」を平気でしてしまうのである。醒めたつもりに酔うことは厳禁だと知った方が良い。
作品としては中後半部のコメディーとして作られた作品の方が、自然に受け入れられた。
役者はもっと演技の勉強をすべきである。全体として凡庸の域を出ない。
満足度★★★★★
おもろかっこいい!
とにかく、面白い。そして、中年がかっこいい。話が進んでゆくうちに、そう見えてくるのである。(追記後送)
満足度★★★★
Bサイドを拝見
ベッドに絡む独り芝居2本とダイアローグが決定的な意味を持つ1篇の短編3篇をオムニバス形式で演ずる。シナリオには、なかなか気の利いた落ちがつき、楽しめるが、惜しむらくは、若いのだから、もっと失敗を恐れず、様々なことに果敢にチャレンジしてほしいと思わせたことである。せっかく、新宿という立地の良いところで公演を打つのだから、敢えてはみだしてみること大切ではあるまいか? 若いうちの脱線・失敗は、大輪の花を咲かせる可能性も大きい。あまり行儀よくこじんまりまとまる必要はあるまい。演技では「嫁姑」を演じた飯島 弘之が気に入った。因みにB作品は三作で約50分強と尺はタイトである。
満足度★★★★★
十七戦地版チェーホフ
作・演出の柳井氏が、今作でチェーホフに挑んでいる。具体的には「三人姉妹」だ。ただでさえ外国の作品を日本で演じるのは難しい。歴史・文化・風俗・慣習などが異なるほか、家族構成や遺産相続の仕方などにも違いがあるからである。この難しさを見事に乗り切って三人姉妹の持つ独特の雰囲気を共鳴させつつ、柳井ワールドを描いて見せた。苦労の甲斐、その結果をもキチンと見せてくれるような作品である。
満足度★★★★★
存在の根に広がる空虚
実にチャレンジングな作品である。(追記2016.11.21)
ネタバレBOX
それは今作が存在の根に視座を持っているからだ。例えて言えば、それはハイデガーのdas seinであり、一切空 空即是色を認識する場でもあるだろう。我らが己の認識の根源に遡ろうとする時、必然的に行き着く先である。そこに現れる風景ともいうべきもの、それは諸関係が無定形で存在する場であるとでもいう他、表しようがない。当然のことながら、このような場所に己の力で行ったことのない者に簡単に理解できる話ではないのも事実である。あらゆる可能性が可能性のまま存在する。謂わば絶対自由の海の岸辺。ヒトが認識を持つ前に、環境に対してありとある感覚を用いて受容する総ての情報。光であれ、音であれ、食感や味覚、臭いなどと、それら諸器官からインプットされた総ての情報に網目を張り巡らすべく活動する脳や神経系、情報伝達系としてのパルスなどが、脳・神経と関連し、やがて関係そのものを認知し、その構造と傾向等々を理解するまでのあらゆる可能態が描かれ得る。だから、今作をひとまず理解した気になる為に必要な前提条件は、これら発生についても、バイアスを取り去って認めることから始める必要がある。
余りにも当たり前なのだが、だからこそ自らの力で疑うことをしなかった者は、常識だの習慣だの風習だの倫理観だのも取りあえず取り去って考え始めねばならない。それなしには、今作を理解したつもりになることの前提が成立し得ないからである。イラク戦争開始時にアメリカがバカげた要求を突き付けた。無い物(大量破壊兵器)が無いことを証明せよ、である。自分の知る限り、メディアでこの要求に答えることが不可能であると明言したものは無かった。だが、現実に無いならば、無いを証明する方法もあるまい。無は存在があって初めて実証の対象となり得る何かであるからだ。だから、今作の中でも同じ本質の問いが為され、自分が言うような答えが出される。
表層で語られることは、小出版社の出した書物が原因で、書店からのキャンセルを受けたり、事務所が爆破されたりとの事件に消耗してゆく社員や著者の間に渦巻く疑心暗鬼である。ネット社会特有の匿名性が、唯でさえ正体を掴み難い「敵」の不気味を増大させる。が、悪魔は、畢竟、疑心暗鬼に陥った個々人の中にこそ、生まれるのである。そのことの正しく不気味なこと!
だが、そうではなかったら? 存在することが信じられる場に居れば、そこには何らかの解決策を講じる余地があろう。然し、それらも一切が不分明な中に在るらしい、としたら? 悪魔は、何処にいるだろうか?
満足度★★★★★
炭鉱三部作第二弾
以前にも書いたことだが、桟敷童子の強みは、舞台美術迄、皆劇団員総出で作り上げてゆくことによるチームワークの良さにあるだろう。
ネタバレBOX
通常の劇団が作品の稽古でだけ一緒の時間を過ごすのとは、自ずと異なった自然な相互関係が、成立しているのである。このことは、スタニスラフスキー理論の目標である、自然な演技に繋がってゆく。更に、皆の協力によって出来上がった舞台美術は、大道具から小道具に至る迄、実に気配りの利いたレベルの高い物であり、愛着の感じられるものであることも見逃せない。
東氏の演出にも型があるのだが、これが非常にオーソドックス。芝居らしい芝居なのだが、観客の喜怒哀楽を司るツボを良く心得た、氏の演出に観客は快く載せられる快楽を味わう。音楽や、大道具、花吹雪や照明も連携して感激を盛り上げるのだが、この演出が決まっていること、役者個々人の持ち味が、クライマックスで最大限活かされている点にも注目しておきたい。
満足度★★★★★
知と傷と優しさと
時代設定は1997年、場所はリップ座という名の場末のストリップ小屋である。
ネタバレBOX
1997年といえば、バブル崩壊が、じわじわと真綿で首を絞められるように着実に実感された年として記憶している。職業に貴賤は無いとの建前は兎も角、矢張り汚れているとみられがちであり、働く当人たちの中にもそのように「自覚」している者もある場末のストリップ小屋の踊り子たちを中心にした作品だが、序盤、人口に膾炙している薄っぺらで浅薄な解釈に従って導入された物語は、破・急では、人としての苦しみや個々の事情を晒してゆくことによって個別性を獲得し、深みと社会性、加害者と被害者、噂・偏見と真実などシリアスな問題群を提起して観客をぐいぐい引き込んでゆく。無論、踊り子とひも、遊び人としてのひものシャブ問題、屑だから放っておけないとする女性の性と、彼女の局部にも塗られているシャブによる性奴隷化の現実なども炙りだされる。上演中なので、余り詳しいことは明かさないが、主人公、薫子の抱えるトラウマを中心に暴き出される“真実”は余りに過酷である。今作を観ながら自分がイメージしたのは、カラバッジョの「マグダラのマリアの法悦」であった。
満足度★★★★
一部Wキャスト
表題作をラストに据えて、1本目に「天使の夜2」2本目に「東京ポエマーズ」の三本立て。
ネタバレBOX
コメディーのオムニバスだ。名古屋の劇団なのだが、今年は8月にも東京公演を打っている。「気がつけば五・七・五」という作品で薬物依存者更生の話だった。今回もコメディーとは言いつつ扱っているテーマは、結構重い。
「天使の夜2」は、ナース達の話である。系列病院が建て替えの為、半年ほど移ってくることになったナースは、来る早々、何と死神の噂を口にした。この病院には死神が居る、と言い出したのだ。無論、この病院の者は誰一人首を縦に振らなかったが。
「東京ポエマーズ」は、無論、詩的テクニックを用いた作品だが、こちらは全員男性キャスト。因みにレディーファーストということか、1本目は、総て女性キャストである。また、演じられる言葉は、詩的テクニックを多く用いながら、所謂、詩人気取りの人々が作る作品とは反対の性格を持つような言葉遊びである。具体的には、観てちょ!
「サヨウナラなら何度でも」は、樹海に集まった自殺志願者の話を中心にカルト宗教を演じて詐欺を働いているグループの金儲けの為には、信者を自殺させることなど屁とも思っていない某「国」政治屋のような連中を扱う。今作で、カルト教団の信者以外は自殺を思いとどまるのだが、その経緯が具体的に気になる方々には観て頂きたい。
満足度★★★★★
ラディカルなダイアローグの面白さ
タケカワゼミでは、モックと呼ばれる模擬会議を通じて試験も授業も行われている。(追記後送)
ネタバレBOX
この1年間行われてきたのは、北陸州石川県安宅市という架空都市での法や条例の長所・短所について、各々が受け持った役割に応じた人物を演じつつ議論を展開することだった。無論、ディベートのように勝ち負けがある。
モックには以下の様なルールが存在する。
① モックの結論は全会一致であるべきこと。
② 保留は投票権放棄と看做される。
③ メタ発言は減点対象とされる。
④ 各々が演ずべき役は年度開始時に設定。各々が自らの演ずる役の人物設定は、会議開始前に決めて提出しなければならない。(これは会議中に各自に有利な設定がされるのを防ぐ為)尚、会議中の呼称は、演じている役の通称名を用いる。
凡そ、このようなルールに従って卒業試験が行われる。今作は、その卒業試験を巡ってのモックがメインディッシュなのだが、これが実に面白い。テーゼは「65歳以上の老人の選挙権を取り上げる」是か非か?
満足度★★★
もうちっと勉強しないとね
敗戦を終戦と言い換えたりしている割には、ベタな体制批判の科白もあったりで、リアリティーはイマイチである。が、大筋では、一応、GIと日本女性の恋の問題や、実際あった敗戦前後の特攻と死、銃後の者達の戦後などは、一応押さえられている。
ネタバレBOX
然し、サンフランシスコ講和には触れていても、同日結ばれた日米行政協定に一切触れていないのは、勉強不足も甚だしい。何故ならば、アメリカの対日支配の根幹は、こちらにあるからであり、現在、名前が変わって実質が引き継がれた日米地位協定をベースに2+2が重ねられ、これらによって先日強行採決された安保法制が現実化したからである。
そういうレベルでの今作にとって唯一の救いは、被ばくの問題をキチンと提起しえたことである。エートスプロジェクトを含む核推進派の強力な隠蔽・矮小化政策と自民・公明党の展望無き施策によって痛めつけられている被ばく者たちの不安を少なくとも観客に伝え得たと観た。
演技では十八番で働く若者を演じた武田 亮汰、研究者役の竹村 とよ志、GIを演じたKOBA、幽霊を演じた加藤 照夫、さちこを演じた永田 佳代が気に入った。
満足度★★★
植物的に生きればアートなのではにゃい
先ず、登場するのは、全く猫らしくない猫、隣家の作家、研究者とその恋人でOLの女。
ネタバレBOX
大して金は無いのでルームシェアをしている3人である。研究者として登場しているのに、海外に出たことが無い、そのくせ学会には結構出ている。(こんなこと現実にあり得ない)自分の友人は研究者がたくさんいるが、学会は何も国内ばかりではないから、今時、研究者で海外に出たことが無いなどあり得ない。この極楽蜻蛉ぶりは度し難い! いつまで経っても、未だ だろう。
窓が大きな役割を占めているのだが、無論、これは、外界への精神の開口部である。然るに登場人物総てが、植物的で、動物のように打って出る、という思考形態ではない。寧ろ、漂う。花粉が、虫や風によって運ばれ受精するように基本的には受け身なのである。その受け身を保っている限り決して「まだ」を己の力で超えることはできない。但しその事実は淡々と描かれていた。
Special thanksとして、自分の大好きな詩人、長田 弘の名が挙がっているが、「猫に未来はない」を書いたこの詩人は、もっとアグレッシブだと自分は考えている。こんなに優れた詩人を、自分達の出汁に使えると思っているのだとしたら大いなる勘違いだろう。
満足度★★★★
もったいない
三部作の第二部ということのようだが、勿体ない作りである。自分は、今日、3~4分遅れて劇場に到着したため、既に公演は始まっていた。当然、入れるタイミングを待って案内して頂いたので、話の内容についていけない部分があるのではないか? との懸念があり、二名の方にお尋ねしたのだが、どうやら、筋を追える時刻には見始めていたらしい。この前提が正しいと仮定して以下の文章を書いてゆく。
登場人物相互の関係がとても分かり難い。テーマがはっきりしており、科白自体には、考えさせるもの、深いと感じさせるものが鏤められているのに、そして役者陣は頑張っているのに勿体ないと思わせるのである。原因は、為政者が大衆を管理する時の方法論の差異という形でシナリオが書かれていないことと、演出が、その点をキチンと作者に対して突き詰めていな点にあるのではないか? 自分には時間が限られているので、劇団HPは拝見していない。偶に他劇団HPを拝見しても、こちらの必要とする情報を得る為にはとても回りくどい作業をせねばならぬのが殆どだ。現在、時間的にタイトな状況にある自分には、その時間はない。
そもそも勧善懲悪ではない作品を目指したハズであるが、二項対立の単純を三項対立にするだけで累乗の意味する所が違ってくるのだ。まして、今作は、更に対立項が多い。最低限弁証法の意味する所をキチンと理解してからシナリオを紡がないとカオスに陥りかねない。シナリオライターは、この点に留意すべきである。
満足度★★★★★
命と信頼
今回オープニングで結構長めの尺で映像が入る。(追記後送)
ネタバレBOX
そこで、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行くハズが、総ての作業は怖いおばあさんの命令でおじいさんが引き受けている。おまけにおばあさんは寝転がって飲んだくれ、風呂は先風呂、上がってからは、体を揉ませる有様。ちょっとでも逆らえば、鞭が飛び、包丁を持って追っかけまわされる。
桃だって赤ん坊ではない。何と30年も桃の中で過ごし齢を重ねた青年である。更に誰もが感じたハズの桃太郎が入っていたのに、桃を切って桃太郎迄傷つけなかったのはどうして? という素朴な疑問にも答えが用意されている。(種明かしは観劇してちょ!)
舞台は、朝廷が未だ地方豪族を抑え切れてはいない時代。豪族同士の戦いも数多く行われた後、有力豪族と朝廷のみが生き残っていた。桃たちが討伐軍となって出向く牡仁一族支配地には、不思議な力を持つという神(ビリケンのパロディー)が祭られ、彼らを襲ってきた他豪族を打ち滅ぼして得た戦利品の金銀財宝も多いと言われていた。
満足度★★★★★
命についての想像力
科学少年だった。生物学者になりたかった。だが、生き物が好きでそういう道に進みたいと思ったのに、そうなる為には、大好きな生き物を殺さねばならぬ現実が待っていることを知った。結果、大学では文学を選んだ。言葉によって訴える術を持たぬ動物たちの為にも、弱者の為にも、言葉によって彼らを生かす為に。(追記後送)
満足度★★★★★
命に対する想像力
科学少年だった。生物学者になりたかった。だが、生き物が好きでそういう道に進みたいと思ったのに、そうなる為には、大好きな生き物を殺さねばならぬ現実が待っていることを知った。結果、大学では文学を選んだ。言葉によって訴える術を持たぬ動物たちの為にも、弱者の為にも、言葉によって彼らを生かす為に。(追記後送)
満足度★★★
う~む
大和 鳴海(A)、相原 真志(B)、中島 羽飛(C)の3人が書いた①友達のままで(A)②将来の夢(B)③君の隣のジャビット君(C)④お願いお父さん(C)⑤諦める(A)⑥私を旅行に連れてって(C)⑦ハーフ&ハーフ(C)⑧馬につぎ込む住民税(C)8編をオムニバス形式で仕込んだコント集。各パートがキャラ的に繋がっていたりというのはあったりするのだが、各挿話間をどう繋ぐのかのトータルな視点は余り無いようである。イマイチメリハリが効いていないように感じた。また、時に政治的な話題や、シュールな手法が取られるが、これも徹底性や卓越した批評意識が乏しい為、切れがない。(追記後送)
満足度★★★★★
Bキャストを拝見
大火で有名な明暦年間、絵画の名門・狩野派では、浅草に近い田原町の彼らの隠れ家で2人の天才が鎬を削っていた。
ネタバレBOX
片や名家に生まれながらそのような生活を嫌い絵師の世界に入った変わり者の菱川、して残る1人は、友竹である。当時当主探幽には、息子・幸之助があったが、画才は到底2人に及ぶべくもない。そこで幕府御用絵師としては2人のうちのどちらかが選ばれることになっており、どちらが選ばれるか最終決戦の為の作品に挑んでいた。だが、菱川の才も友竹の才もいずれ劣らぬ天賦のものと師匠の探幽の観る所に客観性はあるにせよ、両雄共に己より相手が勝っているのではないか? と内心戦々恐々たるものがあった。然るに友竹にはこの期に及んで迷いがあった。自分が本当に描きたい物が何なのか? ハッキリ掴めていなかったのである。菱川は、既にそれを見つけたようで淡々と画業に励んでいた。だが、彼は労咳に侵されてもいた。ライバルの行く末や如何に? という興味と共に、天才2人と女たちの想いを載せて物語は進んでゆく。
物語自体の面白さ、丁寧な作りと共に、本当に後代を育てようと序盤、音楽を多用して若い役者達のメンタルをケアしつつ役に馴染ませ科白自体によって表現する者が心得るべき姿勢・価値観を示しながら舞台づくりをしている演出家の仕事が素晴らしい。卒業公演なのだが、役者陣もホントに一所懸命で好感を持った。初心を忘れず自分の納得のゆく仕事をし続けて欲しい。若干、噛む所もあったが、卒業を祝ってこの点はマイナスしないでおく。
満足度★★★
発想だけでは
「おこらないで」「ためになるね」「くそったれの世界」3本のオムニバス。「おこらないで」は発想がグー。確かにこれも一つの平和の形ではある。但し、どこか一本抜けた。
標題作「くそったれの世界」は登場人物総てがクソッタレ! である。三作いずれも、深みや捻りに欠ける。作家は更に丁寧に、自らの内側をキチンと探索してゆく姿勢がないと、直ぐ底が割れてしまう。
満足度★★★★
異化効果
高村 光太郎の「暗愚小傳」を読んでインスパイアされた平田 オリザの作を川口 典成が演出した作品だが、川口は、カントールひいてはブレヒトの異化効果を狙って今作を作っている。
ネタバレBOX
1917年辺りからほぼ10年おきの時代を4パートに分け、光太郎、智恵子、光太郎の友人夏木、永井荷風、宮澤 賢治、ら表現する者らを中心として変遷する時代の空気と表現者としてそれぞれが時代、殊に国家総動員法が制定された軍国主義下に於いて如何様に生き、敗戦時・後、軍事政権下を表現する者として生きた各々が如何に総括したかに関する微妙で泡立つような生き死にを描いた。無論、他に医師だの、日系2世、3世のアメリカ人だの、近所のおばさんだの様々な日常的伏線と社会を表すキャラの配置と目配りも欠けていない。