ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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草莽崛起

草莽崛起

劇団宇宙キャンパス

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2014/12/05 (金) ~ 2014/12/09 (火)公演終了

満足度★★★★

くるものがある
 ソウモウケッキと読む。舞台は1922年(大正11年)に、1人の新聞記者が、高杉晋作が創始したことで有名な奇兵隊の生き残り、浦部 五郎に、その内実を訊ねるという設定だ。名もなく歴史の闇に溶けていった庶民勇士へのレクイエム。(追記2014.12.8)
 

ネタバレBOX

 草莽とは、草原を指すが、転じて民間、民間の士を表すのは、今更言う迄もあるまい。が、念の為。最近、日本語が碌にできない人が多過ぎるからにゃ。そういう自分にした所で大したことは無いのだが。
閑話休題。で、五郎の語るのは、奇兵隊草創期である。当然、幕末だ。明治元年迄あと5年の文久三年(1863年)、安政の大獄で吉田 松陰を失った長州は、高杉らが台頭、御殿山に建設中であった英公使館焼き討ちなどの行動で攘夷を示す。然し、藩内は、幕府に恭順を示すべきだ、との佐幕派も隠然たる勢力を持ち、攘夷派に反対して勢力は二分された為、藩内に於いてもいつ内紛が起きてもおかしくない状態にあった。而も、長州は、下関事件で外国との戦闘も覚悟せねばならず、幕府との関係は朝敵とされて以来最悪のものであった。四面楚歌である。このようなニッチもサッチも行かない状況で高杉の下、頭角を現して来たのが赤根 武人であった。高杉が、佐幕派との衝突の責任を問われて、奇兵隊から外されると、統率を任されたのが、赤根であった。然し、武士でもない所から成り上がった赤根が、自分より上位に就くことを山県 有朋は嫌う。
今作では、この確執が、赤根は冤罪と知りながら、幕府の攻撃に晒される長州を離れたとして罪に問い、斬首刑に処す、という解釈をしている。彼と共に、馴染みの店に居た3人の隊士、修造、伝之助、仙吉も共に処刑された。
奇兵隊きっての腕っこき、伊之助が、命に代えても守ると約束した赤根を助ける為に、斬首時に刑場へ到着。然し、間に合わなかった。それでも未だ命のあった友人らを助けようと奮闘するが、多勢に無勢、終に斬り殺されてしまった。止めを差したのは山県である。腰ぬけの五郎も、流石にこの時、腰の物を抜いた。だが、姉と断末魔の伊之助に、語り部として残るように赤根と約束したことを指摘され、生き残ることを決意。その後、奇兵隊を抜け、生き残りを図ったのである。五郎が、特に称揚したのは、名も無く死んでいった勇士、伊之助と皆に好かれ裏切り者として殺された赤根のことであった。
まあ、草莽の志は、己の中にそのような思想を持つ者にしか分かるまい。一般的に言われる「英雄」というのは、下衆レベル迄自らの精神を落とした人間に過ぎないが、その程度の下衆を喜ぶ手合が多いのだ。草莽とは、自らの命を賭けて義の為に闘う者の謂である。
ザ・モニュメント 記念碑

ザ・モニュメント 記念碑

KJプランニングス

プロト・シアター(東京都)

2014/12/04 (木) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

スタンディングオベーション
 文句なくこのレベルである。紛争地に関わり続けて来た人間の一人として、ここに、戦争の裸形を見るからである。これこそ、戦争の実態。安倍如き阿保が百万言を費やして決して辿りつくことのない真実である。12月7日の公演がラストだ。絶対観るべし!! (追記2014.12.6)

ネタバレBOX

 戦争は狂気だと言って、皆その真実から逃げたがる。皆が逃げたがる、その現実を見事に掬い取ったシナリオ。ステッコ役、神保 良介の熱演が光る。メイラ役、西田 夏奈子の演技も良い。演出も必要最小限で、素舞台、小道具の使い方も無駄を省き知的であり、骨太な作品を立体的に仕上げている。
喜劇王暗殺

喜劇王暗殺

トツゲキ倶楽部

d-倉庫(東京都)

2014/12/03 (水) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★

温かさと苦労人の優しさ
観客席に座って素直に楽しめるだけの芸を持った劇団と観た。要は実力派である。それだけではなく、この劇団、温かさがある。(追記2014.12.6)

ネタバレBOX


 チャーリー役のちゅうサンの手品、ハートウォーミングな役作りが良い。他の役者陣もバランスの良い演技で好感を持った。
 更に時代背景を神託という形でさらりと表しているのがグー。犬養首相暗殺というのが出てくるから、メインストーリーが展開する時代は1932年の5.15事件の前というのは、直ぐ特定できる仕組みだ。つまり太平洋戦争へ至る暗い時代を健全な庶民の感覚で描いている。これは、現在、情報隠蔽法である秘密保護法は、その非人間性に於いて悪法の最たるものの一つであるが、こんなものが施行される直前に、ヒューマニティー溢れる苦労人、チャーリーの温かさを対比させている点もグー。
 実際、チャップリンは来日したことがあるし、彼がユダヤ系であることも知られていよう。この史実もまた意味深ではある。
太陽龍(再演)

太陽龍(再演)

劇団龍門

明石スタジオ(東京都)

2014/12/04 (木) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★

イニシエーション
 侃々諤々の議論が続く問題を手堅く素直なシナリオに纏めた作・演出も勤める座長の村手 龍太氏の演技が良い。ことは、3.12直後の原発暴走を食い止める為に立ち上がった男達の物語だ。

ネタバレBOX

シナリオ執筆の原点は、自分達の子供であるような原発が暴走し始めた。これを止めるのは、携わってきた自分達の責任であるとして、いち早く収束作業に携わろう、と声を挙げた原発技術者OBの記事を見たことだったという。無論、現実は、今作に描かれたより更に厳しくドロドロし、アンビヴァレントな状態に当事者を置くが、今作は、実際に居たであろう、また、現在も収束作業に関わる名も知られぬ多くの現場作業員の命を賭けた、怪物としての原発との戦いを描いて、原発問題へのイニシエーションの役割を果たしていると言えよう。
 今作に描かれる収束作業最初の死者、木下 勇気の死に関し隠蔽工作を図る原子力保安院の矢野に対して、夫を亡くした身重の妻、なおみが叫ぶ「夫を返して下さい」という叫びは痛切である。
 開演前に流れている民謡も良く、劇中用いられる美空ひばりの歌が効果的。
下衆な回遊魚

下衆な回遊魚

はぶ談戯

劇場MOMO(東京都)

2014/12/02 (火) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★

欲望
確かに堕落である。そして下衆だ。描き方として、シナリオライターは、本当は何処に焦点を当てたかったのか? との疑問を持つ作りにはなっていた。ネタバレは控えるが、こういう結末なら、結末をもっと明確に出してしまった方が、演劇的にはドラマチックで締まりのある傑作になったかも知れないのに。周縁部を含めての退廃を描くのが主眼であるなら、そのような社会を作り出した背景を描き込まなければならないだろうから、もっと長大な作品になっただろう。何れにせよ、イマイチ主張がハッキリしないという感触を持った。

遺失物安置室の男/改

遺失物安置室の男/改

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2014/11/22 (土) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

掲諦 掲諦 波羅掲諦
 兎角、この世は、一切空、空即是色、これなり。(因みにタイトルは、般若心経の一節)維摩経は、一説によると仏教の本義とか。それが、判定できるほど、自分は仏教に詳しくないので、興味のある方は、ご自分で調べて頂きたい。(一部追記2014.12.4)

ネタバレBOX

 自分は以上の程度の仏教認識ではあるのだが、今作は、意外と仏教と近い所に、その認識の根底があるように感じた。平家物語の杓子定規な評価に従えば、無常感ということになるのだろうか? 何はともあれ、物にまともに向き合う、という感覚は、ユマニスムを神との「契約者」との関係で打ち立てて来た欧米文明に於いては、疎外・狂気の中でしか現れ得ないコンセプトであると考える。然るに、これが東洋的コンセプトの中に収まることによって、生き物である、ヒトとその「所有物」であった物達の関係が、逆転した“物格”ある物と遺失した物の所有者であることを証明できないヒトとのあり得べき齟齬や関係としての諸々が、示されている。遺失物を管理している男は記憶を失っているとされている為、通常、ヒトが常識と考えている関係の在り様、論理構築のパラダイムからは自由である。この為、所有者を名乗り出た者に、様々な設問をだすのだが、中でも答えにくいのは、所有者だと言い張る者が、自分自身であることの証明である。
「山椒は小粒でもピりりと辛い」

「山椒は小粒でもピりりと辛い」

チョコレイト旅団

阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)

2014/12/03 (水) ~ 2014/12/03 (水)公演終了

満足度★★★

悪戯は楽しいにゃ! !
 1周年記念公演と銘打った公演だが、番外を入れると1年で6本目と多作である。若い劇団で、シナリオは女性が書いているということもあって、今しか書けない、箸を落としただけで笑う水準のノリが基本である。そのレベルでの馬鹿馬鹿しさ、輕み、責任感の無さは、それで面白い。
 然し、ホントに長く劇団としてやってゆくつもりなら、是非ともこのノリは、あと半年で切り上げて、チェーホフに挑んでみるべきだろう。ベケットやイヨネスコ、サルトルでは無い。寺山、唐、佐藤 信でも清水 邦夫でも別役、安部 公房、つかでもない。シェイクスピアでもなければ、イプセンでもなく、チェーホフである。何故、チェーホフかと言えば、スタニスラフスキーの演技論に関わるからである。
 他にも無論、勉強すべき理論家はある。最低限、「風姿花伝」は読んで自家薬籠中のものとすべく励んで貰いたい。当然、能、歌舞伎、浄瑠璃も学ぶべきである。近松と四代目鶴屋南北は、必読。
 とはいえ、遊び心、悪戯精神は忘れなさんな! 「梁塵秘抄」にもある“遊びをせむとや、生れけむ”ハンダラ、座右の銘である。

名醫先生

名醫先生

パンドラの匣

劇場HOPE(東京都)

2014/12/02 (火) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★

大人向け苦みコメディー
チェーホフを敬愛してやまなかったというニール・サイモンの短編を舞台化した作品だ。チェーホフが医者であったことは、演劇に関心のある者の常識だが、サイモン自身、医者の真似ごとをしていたとかで、“ドク”の愛称で呼ばれていたと言うことが、会場で渡されたリーフレットに書かれている。

ネタバレBOX

 
 こんな経緯で、今作は、サイモンがチェーホフ作品をモチーフに書いたということである。どの短編も大人のブラックなジョークが効いて、アイロニカルであったり、苦みがあったり、粋だったりと楽しめる作品群である。シナリオが良く練られているし、役者陣も中々、才能豊かな人々が演じてくれるのだが、初日、カむシーンが多い役者が居たのは残念だ。
 特に気に入った役者が「くしゃみ」でブラシルホフ将軍を演じた桑島 義明、「水死芸人」で浮浪者を演じた光永 勝典、「オーディション」で若い女を演じた中島 佐知子。桑島は、将軍兼大臣の役柄なのだが、高位に在る者の鷹揚や大衆への距離感を上手く捉えて表現していたし、光永は、水死芸を演じる浮浪者の、底辺に在りながら、また苦労をしながらも生き抜いて行く者の複雑なメンタリティーを良く表現していた。中島は、オーディションを受ける際に演じた三人姉妹のラスト部分で三姉妹を演じ分けるのだが、其々の見ている世界を、ちゃんと彼女の解釈でヴィジョンとして見た上で演じている、と感じさせる演技をしている。
春のズボンと秋のブラシ

春のズボンと秋のブラシ

TANGRAM

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/11/27 (木) ~ 2014/12/01 (月)公演終了

満足度★★★★★

秀逸な舞台
地方の、民家と殆ど変らないような不思議な宿を舞台に、宿に集まった人々の日常生活を荘子の“胡蝶之夢”を重層低音のように響かせつつ、各々の人生をそれに重ね、輻輳させて掬い取った見事なシナリオで、死と生の重い話になりがちな所、停電場面を丹念に描き、ランタンや懐中電灯を用いて舞台進行をさせることで、恰も、誰しもの思い出にある修学旅行の悪戯気分を引きずり出し、不思議に明るい印象に変える魔術的手法が功を奏している。
 舞台美術も実に手の込んだ見事なものであり、音響、照明も気が利いている。無論、役者陣の演技も皆素晴らしい出来である。未だ上演中なので詳細は述べないが、ランタンなどの灯りに浮き上がる世界は幽明・閑寂、冥府的である。無論、これは、現とも夢とも知れぬ世界と繋がるのである。この辺りの連関も見事だ。

E-650(イーロッピャクゴジュウ)

E-650(イーロッピャクゴジュウ)

SNATCH

サンモールスタジオ(東京都)

2014/11/27 (木) ~ 2014/12/01 (月)公演終了

満足度★★★

浅い
踊りは上手いのだが、シナリオが平板で、演技も溜めの必要性を意識したり、間によるドラマツルギー構築ができるレベルにない役者が殆どである。年齢的に若いということもあるだとうが、演技に関しては、これからかなりの修練が必要である。また、シナリオライターは、少し哲学書位は読んだ方が良い。ハンナ・アーレント辺りが、入り易く20世紀の知の集大成としても、また皮相な現代への痛烈な批判者としての彼女の仕事の意義からしても良いかも知れぬ。無論、フーコーやラカン、デリダ等から入っても、ハイデガーやサルトルから入っても、スピノザ、ニーチェ、カントなどから入っても或いはウィトゲンシュタインから入っても良い。これらの哲学者を合わせ読んでも、プラトンやソクラテスらギリシャ哲学を学んでも良い。世界の捉え方が、現在の余りに平板なそれとは異なってくることだろう。先ずは、しっかり生きることを。
 今作で気に入った科白は「屑でも守りたいものはある」の一言。このレベルの科白が最低10程度は欲しい。

いとしいとしのぶーたれ乞食

いとしいとしのぶーたれ乞食

劇団演奏舞台

演奏舞台アトリエ・九段下GEKIBA(東京都)

2014/11/28 (金) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★

狂気も欲しい
 どうも清水 邦夫の作品というのは、役者の内面に強く高いテンションを維持することを要求する作品が多いように思うが、今作や楽屋は、その代表例と言えるかも知れない。清水は、良くリルケを引用するが、それは、彼自身の感性に詩的なものがあるからだろう。今作にしても、詩的感性なしに理解するのは困難だと感じる。人々は物事を率直に見る訓練をしていない場合が多いからである。
 然し乍ら、pariahとしてものを見たらどう映るか? 老婆は? ええじゃないかパック旅行の面々が旅先で留まった場所は、ええじゃないかに加わった面々、千余名が首を刎ねられた首塚であった。其処には、老爺と老婆が住んでいたが、この老カップルは、実在の者ではあるまい。ええじゃないかパックで訪れた人々に呼応して出て来た異界の者達であると考えた方が、辻褄が合うように思う。その分、この二人を演じる者には、内面的なポテンシャルの高さが要求されるのだが、老婆役の一花さん、老爺役の鈴木さん、二人とも、良い演技をしていた。他に脇を固めた未亡人役の内海さん、看護婦役の阿部さんの演技も気に入った。若手では、渡辺君の目が気に入った。
 シナリオ・演出上では、オープニングの首だけが浮かび上がるシーン。ええじゃないかパックの面々が休んだ先が、首塚であり、そこで主たるエピソードが展開されること。そして、ラスト。しゃれこうべに花がたむけられる美しい終わり方が有機的に連動していてグー。
 欲を言えば、殆ど出ずっぱりの老婆の美醜にファーストシーン以外にも変化をつけて欲しい。メイクで無理なら、照明で工夫するなどでも大分違ってくるように思う。(例えば、醜を表す時は寒色系、美を表す時は暖色系という具合に)演技が良いのだから、そういう所で女優をフォローして欲しいのだ。何れにせよ、新人も入ったこの舞台で、丁寧な作りをしている。だが、もう一つ欲を言えば、もっと爆発的な瞬間があって良いとは思う。何せ、もう棄てるものなど何も無い人々のハレの表現なのだから。

New Planet One

New Planet One

笛井事務所

明石スタジオ(東京都)

2014/11/27 (木) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★

アンテナ感度良好 ばっと
星 新一のショート・ショートから7編を選んで劇化。演目は、①来訪者②マネー・エイジ③生活維持省④伴奏者⑤ボッコちゃん⑥肩の上の秘書⑦敬服すべき一生の7本だ。笛井事務所の制作である。この事務所、いつも面白い作品を手掛ける。そういうアンテナを張り巡らせているのだろう。然し、演技の丁寧さについては、若干、疑問を持つのも事実である。今回、テキストについては、いじっていないらしいから、星 新一さんの本を読んでもらうとして、細かい所作をぞんざいに演じられると、矢張り多く舞台を観ている者から高い評価を得るのは難しいと考える。具体例は会場で書いたアンケートに記した通り。

超想戦隊ジャスティンファイブVS破壊王デストンキング~煌めく流星~

超想戦隊ジャスティンファイブVS破壊王デストンキング~煌めく流星~

〒機巧ぽすと〒 (からくりぽすと)

ART THEATER かもめ座(東京都)

2014/11/27 (木) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★

善悪神学論争と人
 正義などと矢鱈にノタマウ のは、子供を除けば、政治屋、アメリカの政治屋・プロパガンディスト、こういう輩に踊らされるアホ、そしてそれで金儲けをする連中と相場が決まっている。機巧ポストが、今回挑んだのは、こんなジャンルである。えっ!! という声を発したファンも多かろう。そこは、何である。
 ちゃんと、神学的テーゼが提起されている。即ち、正義=善であるならば、それは、如何様に証明されうるのか? についてである。結論から言えば、悪無しに善は善足り得るのか? という疑問でもある。
 今作では、人間を介して、混沌を見せ、混沌の中で喘ぐ者として悪を呈示しているようにも見える。そして、それは、人間的な悪であって、デモーニッシュな悪ではない。この辺りに今作の面白みがあろう。但し、これらに対して有効な物差しを持っている訳ではない点が、判断保留の原因だと考えられる。
 因みにギリシャの知は、カオスを整除してクロノスが王に就き、クロノスを倒してゼウスが頂点に立ったが、ギリシャの神々は、浮気もすれば、嫉妬もし、その性格は、人間の映し鏡と捉える方が良いと考えられるから、こちらも、人間とそれを越える者とのいわばキメラなのだが、カオスに対して整除するものとしてのクロノスが介在している点、定規を持っていると言い得るようには思う。

翡翠の抄

翡翠の抄

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2014/11/26 (水) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★

其々のドラマを深く作り込んでおかないと 仇討への必然性が伝わらない
保元・平治の乱から壇ノ浦、更に衣川の戦いで義経が頼朝の襲撃に遭って自害する辺り迄の歴史を踏まえ、源平各々の魂魄が、現代の人間に憑依して仇を討つ為に闘う、というストーリーなのだが、仇討ちという発想は現代では死んでしまった概念なので、仇打ちせねば気が済まない、当時の人々の怨みつらみを更に深く描かなければ、どうもしっくりこない。三話位に分けて、上演しても良いのではなかろうか? 上演時間総体は、4時間半から6時間位を見当に。
 いつも通り、役者の力は非常に高く、丁寧に演じているのだが、シナリオが余りに性急と感じた。惜しい。

ハミダスダス!

ハミダスダス!

stick out

劇場MOMO(東京都)

2014/11/26 (水) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★

まだ表層的
 ミヒャエル・エンデのMomoをベースにしてはいるが、原作をなぞってもしょうがないので、無論、オリジナル台本である。時間泥棒が登場する点が共通で、後は、モモの子孫になっていたり、人々に溶け込む力を持っている点等で似通った点があるだけである。
 構成は2本立て。1本目は、若者から、大人への責任追及。どうして、こんな世界にしたのか? である。核汚染を中核とする環境汚染、戦争・紛争、差別・被差別、苛め、虐待、不信、モンスターペアレンツ等々。答えを見出す方途の一つとして、MOMO的な世界を呈示する2本目が作られている。未来とは、何もかも未知数の世界だ、という定義が、我らの救いになるか否か。それは、我らの手の内に未来を取り戻せるか否かに掛かっており、それは、時間を我らが支配するのか、それとも、時間泥棒によって奪われるという比喩で表されているように、我らが時間に支配されるのか? との問いでもあるだろう。
 今作で感心したのは、照明が実に効果的に使用されていることである。照明担当の腕、センスを高く評価したい。
 ところで、ホントの解決策を見出す為には、一人一人が、自分の人生をキチンと背負うことから始めなければなるまい。

怪盗先生、教壇に立つ。

怪盗先生、教壇に立つ。

劇団だるま座

アトリエだるま座(東京都)

2014/11/26 (水) ~ 2014/12/03 (水)公演終了

満足度★★★★★

Aチームを拝見

 いつもながら、実に丁寧な作り。良く練られたシナリオに、ベテラン勢の達者な芸、滲む人生経験の豊かさに対し、主要な役どころを演じる若手は、キャラをキチンと立てて過不足のない華を咲かせている。この辺りがだるま座の強みだろう。
 壮大な、発想を日常的な学校という場に落とし込む手腕や、隋所に擽りを入れて、笑わせながらぐいぐい引っ張りつつ、人生の苦さ、傷み、悩みを織り交ぜ、最後には、キチンとほのかな希望を見せる。作劇のバランスは、王道である。上演中なので、詳しい筋は述べないが、秀作。

全段通しリーディング 仮名手本忠臣蔵

全段通しリーディング 仮名手本忠臣蔵

遊戯空間

浅草木馬亭(東京都)

2014/11/26 (水) ~ 2014/11/27 (木)公演終了

満足度★★★★★

「仮名手本忠臣蔵」べし観る
演劇に携わって本物を目指すなら、必見の舞台である。上演は、本日11月27日、13時からと18時からの2回を残すのみ。足を運んで損は無い。
 大序の兜改めから討ち入りの十一段目までの一挙上演である。テキストは、浄瑠璃原文から構成し、主要登場人物は割愛していない。一方、今作は、文楽・歌舞伎の所作、節回しはなく衣裳は簡略化され、舞台美術も無い。但し、現在では上演されることの殆ど無いサブストリームをも全段通しで観ることによって、何故、忠臣蔵が、国民的戯曲になっているのかが、良く理解できる。

ネタバレBOX


 メインストリームは今更言うには及ぶまい。その深さを味わって貰えば良い。因みに、古典には、縁の薄い人々にもぜひ、観て貰いたい作品である。何故なら、まつろわぬ姿勢が、人気作品となった原点にあると考えられるからである。
 由良助は、無論、大石 内蔵助、高 師直は、吉良 上野介である。即ち、吉良という体制側権力者に対する異議申し立てが、今作の本流であるが、その首謀者の名に、由比 小雪の苗字から一字採られているのも意味深なら、楯突いた当の相手、吉良の首を獲った点でも慶安の変で本懐を遂げることなく果てた、由比の無念をも晴らす内容があるのであり、表現する者の意図する所を感じさせる。同時にそれが、一種の精神的代理戦争の様相を呈し、江戸幕府によってがんじがらめにされた庶民の誇りが、辛うじてお上に楯突くことを応援することにあったのも、無論のことだからである。
 このシナリオが実に優れているのは、このような日本の特殊な社会とそこで暮らす人々の独自でレアな生き方を抉って見せているからであり、日本が江戸時代と現在に於いて、本質的に一切変わっていないことを証拠だてても居るからである。だから、サブストリームが見直されなければならないのである。
 ところで、演出の篠本 賢一は、日本の古典芸能である能に長く携わってきただけに、歌舞伎や文楽、更にはそれらが成長し隆盛を迎えた時代の背景にも詳しい。その底力が演出に活きている。登場人物が、舞台上のどの位置に座を占めるかで、役の人物の軽重とその役割をメタレベルで見事に示している※。
  この演出によって、今作は、単なるリーディングを越え、通常の演劇の齎す立体感を醸し出している。役者陣も立ち居振る舞いの所作こそ少ないものの、その表情の作り方、間、勘所を捉えた発声などで、千変万化の人情を巧みに表現するだけの芸達者が多い。感心したのは、演出を手掛けながら演技もする篠本の間と発声、魂魄の込め方についてである。
  ※(つまり、立体化しているということだ。もっと分かり易く説明しておこう。スノーデンの暴露によって確証が掴めたように、アメリカは、世界中から、例えば携帯電話顧客の位置情報をプリズムと呼ばれる盗聴システムによって盗んで、他の諸情報、地図・気温・気象データ・緯度・経度データ・時刻データ等々と照合して個々人のプライベートデータを相当程度正確に掴むことが出来る。特定の個人に特化すれば、その行動パターンから、性格や付き合う人間のタイプ迄原理的にはかなりな精度で突きとめることができるのはあきらかだ。これは、直接電話等を盗聴するデータと異なり、いくら集めても個人の特定に至らないという言い訳が可能な限りに於いて多くの人間の類型的な動きを追えるタイプのデータだということだ。これが、メタ情報である。そしてアメリカは、現代という短い時間の中で、世界中という空間でこのメタデータ収集を行っている。
  篠本の用いているのはこのようなデータの演劇的類型化、即ち古典時代からの人間観察に基づく類型化であろう。空間的には狭い代わりに時間的に長い。だから演劇的に用いれば、人間の行動パターンの類型として定式化され得る。そして、この点に気がつく演出家はそうそう居まい。仮に気がついても、それを舞台上で観客に伝えるには、作品に描かれている世界観や歴史観、価値観に基づいた正確な座標軸が同時に必要である。篠本は今回の演出でその双方を持っていることを示した。そして、出演している役者の演技はこれに応えようとしている。)
 おまけに今回、鳴り物は、生である。タイミングの妙も味わえる。而も、小屋は、浅草寺直ぐの木馬亭。通常、ベしゃり芸人の出る小屋であるから、リーディングにはうってつけ。こういう小屋の選定も憎いではないか? 長丁場なので途中、10分の休憩が入る。
ヒトヒトヒト

ヒトヒトヒト

キリンバズウカ

武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)

2014/11/23 (日) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

永遠の中間
要領だけ良く、他人を出し抜くことだけを目指して、迷走する現代社会を鋭く風刺。話の持って行き方が上手い。
(現在、公演中なので楽日以降に更に追記する)

ネタバレBOX

 どちらかというと、価値観をハッキリさせ、正義が、悪がとシャカリキになっていた時代と、それほど、明確に価値体系なんか位置づけられないんじゃにゃいの? とゆるやかに構える時代とのギャップを含め“移行する・常に中間でしかあり得ない”人間という存在の在り様を描いて秀逸。
AMMP[aemp]

AMMP[aemp]

劇団たくあん

吉祥寺櫂スタジオ(東京都)

2014/11/23 (日) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

近未来の恋
高性能アンドロイドが人格を持ち、人間と同じような感情を持つようになった時代と場所を描いた近未来という設定だ。但し、今作が書かれたのは2006年、この時点での設定は2014年であったが、世界のロボット工学は、未だ此処まで発達していない。(追記2014.11.26)

ネタバレBOX

 
 何れにせよ、今作で描かれたようなアンドロイドが作られるのは、そう遠い将来ではあるまい。プロトタイプが出来てしまえば、その後の発達は半端なものでは無いハズだ。従って今作に描かれたようなことは、現実化する時の為に考えておかなければならない問題だと考える。
 人格を持ったアンドロイドと人間の関係をどうするかという問題を、一つのロールプレイングゲームとしても考えられる“愛”の問題として再提起したのが、後半部である。研究助手を務めているアンドロイドが、開発者に恋してしまった。これだけなら、ありきたりで陳腐な展開になっただろうが、アメリカ映画でもブロードウェイでも、愛は金科玉条の如く表現され、他の多くの問題点を覆い隠す愚衆操作に使用されている。おまけに、最近は殊にその傾向が露骨で食傷気味だ。
  が、今作の愛の形は、無論、純愛である。その純愛を詩人の夢見る形“愛して死ぬ”という完全形で表現している点で爽やかだ。くだらないプロパガンダが無いのである。
 舞台美術、演出、演技も質の高いものであった。この劇団、今後が楽しみだ。
言の葉の散りぬるを

言の葉の散りぬるを

wordleafproject

高田馬場ラビネスト(東京都)

2014/11/21 (金) ~ 2014/11/24 (月)公演終了

満足度★★★★

言の葉とひと と
 シナリオが適度に複雑で楽しめる。オープニングでの言の葉の説明や言葉と人の関係を示すシーンで謎の多い“いろは”うたを用い、行燈のような火を灯して黒子が舞うシーンも幻想的であり気に入った導入部である。演出のセンス、シナリオライターの言語感覚の良さを感じた。

ネタバレBOX

 講談師は声の大きいことも芸の内とはいえ、箱が狭いのだから、余り声を張り上げるのは如何か? と思う。噛んだ役者が何人か居たが、この点も注意したい。
 全体として、シナリオ、演出、舞台美術、演技、何れも良い出来である。言の葉の意味する所迄、深く考え、言葉の重みを考察している点、ミュータントとしての術者が、被差別者であるとの捉え方が良い。この視点が、妖怪としての天邪鬼を呼び込み、彼らが相通じることで、余計者・被差別者として最小単位でアイデンティファイされている点も見逃すべきではなかろう。
 初見だが、延びシロを感じる劇団である。間のとり方を更に研究し、予算に余裕があれば、スモークを焚いて妖かしの雰囲気でも演出すれば、更に効果的な舞台になろう。

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