1
鶴かもしれない2016
EPOCH MAN〈エポックマン〉
2016年の年の初めに観た1本が、1年後の今も忘れられない。終わった瞬間「もう一度観たい」と思った数少ない作品。脚本・演出・出演小沢道成、再演だというが何度でも観たい。ラジカセから流れる台詞との掛け合いの見事さ、あっと驚く劇場の使い方、生き生きとした台詞と声、そして何よりひとりの表現者が自分のすべてを駆使して創り上げるパワーの結集に圧倒された。
2
治天ノ君【次回公演は来年5月!】
劇団チョコレートケーキ
再演を待ち焦がれた作品。無駄の無い台詞と重厚な演出、お辞儀やしぐさの一つひとつが雄弁に語る、豊かな表現世界が帰ってきたことに感謝したい。脚本と演出・役者陣が揃って、フィクションを超えたひとつの歴史観を立ち上がらせる素晴らしい舞台。このジャンルではチョコレートケーキが頭一つ抜きん出ていると言えるだろう。
3
パール食堂のマリア
青☆組
ぜひ観たかった作品の再演。港町のセットには高低差と奥行きがあり、そこかしこで様々な人生が繰り広げられる。群像劇に相応しい、美しく懐かしい街並みだ。人はこんなにも痛みと哀しみを背負いながら、それでも誰かと寄り添いながら生きていくものなのか。儚く哀しい思いにこそ神は宿るという、青☆組の原点を見るような思いがする。
4
うちの犬はサイコロを振るのをやめた
ポップンマッシュルームチキン野郎
再演だがやっぱりすごい作品。被り物にもほどがあるというくらいの被り物芝居(マッサージチェアが大活躍する)で、超シリアスなテーマを扱うという、その振れ幅の大きさでは群を抜く劇団。主演の犬ゴルバチョフを演じる加藤慎吾さんのほぼぬいぐるみ状態の芝居が素晴らしくて泣ける。劇団員一人ひとりがそれぞれ粒立っていて、誰にフォーカスしても楽しい。これからも吹原幸太さんの才能を信じてついて行きたい。
5
ニッポン・サポート・センター
青年団
平田オリザ氏久々の新作はまさに時代を言い当てる様相を呈している。駆け込み寺的なNPO法人の職員の緊張感と、ボランティアの緩さとのギャップが超リアル。NPO法人の事務所の相談室が”カラオケ業者が作った”防音の部屋で、これがまた素晴らしい場面転換の役割を果たす。定点観察のような舞台でありながらストーリーの切り替えが鮮やかで、台詞と演出の妙を存分に堪能した。
6
ルルドの森(平成28年版)
バンタムクラスステージ
再演ではあるが、劇団の存在感が光る名作。他劇団とは全く違うアプローチで人間の裏側をえぐる、その切っ先の鋭さは天下一品。バンタムの軽妙な作品も魅力的だが、笑いも救いも無いどこまでも暗澹とした思いだけが残るこのダークなテイストは大変貴重だと思う。こんなに銃声の似合う劇団、他に無い。
7
「ヴルルの島 」
おぼんろ
美しい物の中で暮らしたい、汚いゴミは遠くの島へ捨ててしまえという、いつかどこかの国が言い出しそうな設定が巧い。ポンコツロボット「アゲタガリ」のキャラが秀逸。言葉少なく一本調子なのに、一番泣かせるのはなぜだろう。人間が忘れてしまった「ブレない一途な思い」を体現しているからではないか、と思った。メンバーが紡ぐおぼんろの世界観が鮮やかに打ち出された作品。
8
AQUA
メガバックスコレクション
純粋さと狂気は背中合わせ、そんなことを思わせる作品。謎の多い少女の過去が明らかになるにつれて、そら怖ろしいキャラがちらちらし始める。そのあたりの加減が絶妙で、一時も目を離せない緊張感あふれる舞台だった。怒涛の公演数と作品のバリエーションに目を見張るものがある。作者の豊かな発想と創作力に脱帽。
9
コーラないんですけど
渡辺源四郎商店
過度の期待と甘やかしの末に息子を引きこもりにしてしまった母親が、息子の代わりに戦地へ赴こうとする…過激なテーマかと思いきや、ごくごくありふれた親子関係が描かれる。ただし近未来の日本は世間知らずな親子の思惑をはるかに超えていた。取り返しのつかないことがあふれている世の中を憂い、切り取って見せるのはなべげんの真骨頂。親子が入れ替わって演じる回想シーンなどの演出が面白い。役者の個性が存分に活かされたあてがきの脚本が巧い。
10
鈍色の水槽
ロデオ★座★ヘヴン
強引とも思える設定が次第に自然な事のように思えてくる…このプロセスこそが作家柳井祥緒さんの持ち味ではないか。人知を超えたところに人の心の普遍性を描き出す手法がここでも生きている。登場人物の素朴なキャラが、異様な事態の中でリアルな空気を生む。映像の使い方が素晴らしく巧い。