1
治天ノ君
劇団チョコレートケーキ
2013年断トツの1位は、テーマを選ぶ視点の新しさと普遍性、無駄の無い台詞、憑依したかのように隙のない役者陣と全ての点で心をわしづかみにされたこの舞台。再演も含めて年3回の公演全てが素晴らしいクオリティを保っていることは驚異的でさえある。
フィクションながら歴史認識を新たにさせる説得力に満ち、皇后役の松本紀保さんが語りもこなすという構成が巧み。
玉座以外セットらしきものも無い舞台に、”根こそぎ持って行かれる”感覚を味わった。
今度は一体何を観せてくれるのか、次回作が心から待たれる。
2
獣のための倫理学
十七戦地
30年前の事件を“ロールプレイメソッド”という手法で解き明かしていくという設定がまず秀逸。
小出しにされる真実によって、秘密を抱えたメンバーたちの心の揺れがダイレクトに伝わってくる巧みな構成が光る。
大胆な発想と緻密さのバランスも良く、静謐な正義感が清々しい。
時に騒然とするロールプレイをまとめる玲子のキャラクターが要となっており、演じる関根信一さんが素晴らしかった。
3
『もしイタ』2013ツアー
青森中央高校演劇部
震災で家族と野球のチームメイトを喪った少年が、転校先で野球部に誘われる。
そこにコーチとして現われたのは「イタコ」の婆さんだった…というコメディ仕立てながら、今年一番ボロ泣きした作品。
プロ顔負けの演技力も素晴らしいが、この“震災を真っ向から扱ってしかも面白い芝居”を高校生が引っ提げて全国どこへでも行くという行動力に、演劇人としての心意気を感じる。
作品を通じて、自分に関係ないことはすぐ忘れる私たちを痛烈に批判し、「人を励ますには勇気が要る」事をストレートに訴えかける畑澤氏と高校生達に敬意を表したい。
ボロ泣きの涙は、作品のクオリティと同時に演じる高校生たちの120%の姿に希望を見いだしたからに他ならない。
4
『起て、飢えたる者よ』ご来場ありがとうございました!
劇団チョコレートケーキ
浅間山荘事件を扱ったこの作品は、“人は誰でも思想と教育によって驚くべき変貌を遂げる”ということを教えてくれる。
ことばによって相手を服従させやがて組織に君臨するのは、この間まで夫に服従するだけだった平凡な管理人の妻である。
人の心に巣食う“服従と暴力への欲望”を巧みに利用した閉ざされた組織は、かくも凄惨に崩壊するという顛末。
最後に警官隊へライフルを向けるのはたったひとり残った管理人の妻、というブラックなラスト、演じる渋谷はるかさんの振れ幅の大きさと自在な台詞が素晴らしかった。
5
ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!
おぼんろ
血液からウイルスを作ることが出来る一族ビョードロ、その生き残りが最強の細菌兵器「ジョウキゲン」を生み出したことから起こる悲劇。
何と言っても魅力は彫りの深いジョウキゲンのキャラクターと、それを演じるわかばやしめぐみさんだろう。
無邪気でテンションの高い台詞の中に、存在の矛盾に悩むジョウキゲンの孤独をにじませて素晴らしかった。
このキャラを生み出す若き主催、末原拓馬さんの豊かな物語力にますます期待したい。
あの豊かな表現空間には確かに人を魅了するものがある。
6
て
ハイバイ
5本の指の如くどうしようもなくつながっている「て」のような存在、それが「家族」であることの哀しみと可笑しさが痛いほど伝わってくる作品。
壮絶な家庭内暴力を扱った作品なのに、ハイバイ特有の“渦中の人は必死だが傍から見ると時に滑稽”という冷めた視点が効いている。
視点を変えて同じシーンを2度見せる構成が秀逸。
笑いながら泣き、泣きながら笑う、そのBGMはもちろん「リバーサイドホテル」である。
7
来訪者(作・演出:中津留章仁)
TRASHMASTERS
日本と中国が戦争に突入する、という今現在も笑えない状況を芝居にした意欲作。
リアリティのある展開もさることながら、その背景にある「国を動かすのは個人の感情」という素朴な事実を見せるのが上手い。
例によって素晴らしいセットの二部構成が、“環境が思考回路を作る”事を視覚的に見せてくれて秀逸。
前半と後半でセットも大きく変わるが、同時に役者の顔も激変するところが毎回楽しい。
8
国語の時間
風琴工房
劇場に入った途端泣きたくなるような美しい舞台美術が印象的。
政治に翻弄される人々の価値観、人の生き方を左右する教育と言語、
そして訥々とした母の手紙の朗読に涙が止まらなかった。
自国の言葉を操るとは、何と重いことなのだろう。
私には忘れられない「歴史の時間」となった。
9
初雪の味
青☆組
清々しい会津の居間を舞台に4年間にわたる年の瀬を描く家族の物語。
くり返される家族の挨拶、少しずつ変わって行く子どもたち、母の衰え…。
「旅をしないのも勇ましいことだ」という一言に、家と共に朽ちていく人生への温かい気持ちがこめられていて涙が止まらなかった。
母を演じた羽場睦子さんのたたずまいが素晴らしい。
滅びゆくものたちへの切なる思いが言葉になり、言葉にならない部分は充実の役者陣が繊細に表現する。
はらはらとこぼれていくような美しい舞台だった。
10
Call me Call you
劇団6番シード
手堅さとエンターテイメント性を併せ持つ6番シードの魅力が存分に活かされた作品。
舞台上に超リアルなトレーラー内部を再現、その警察側の交渉ブースを舞台に、宇田川美樹さん演じる“オバちゃん交渉人”が活躍するという設定で、これが面白かった。
犯人との緊迫したやり取りとオバちゃんの温かい人柄が上手くミックスして、心理戦に厚みが増した。
犯人役の藤堂瞬さんが9割がた声のみの出演だが、複雑な犯人像を繊細に表現して素晴らしかった。