いごっそうと夜のオシノビ
Nana Produce
サンモールスタジオ(東京都)
2023/01/25 (水) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#青山祥子 #有川マコト
#泉知束 #浜谷康幸
#金子さやか #鎌倉太郎
#寺十吾 #加山徹(敬称略)
初日。脚本は大好きな #横山拓也 さん。短編2本で70分。尺としては物足りないのではという疑念は不要。2時間の上演を観たような充実感。しっかり建て込んだ美術に、テーブルを替えるくらいの変化で上演される2作品だけれど、豊かに別の物語が立ち上がった。寺十吾さんの演出らしい翳りのある暗い照明もマッチ。
特筆すべきは青山祥子さん。コメディエンヌとしての資質も素晴らしいのだけれど、今作の激情は絶品。過疎の村の中年男のマドンナを、明るさと哀愁の二刀流で見事に立ち上げた。彼女を観るだけでも劇場に足を運ぶ価値あり。
あでな//いある
ほろびて/horobite
こまばアゴラ劇場(東京都)
2023/01/21 (土) ~ 2023/01/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#鈴木将一朗 #伊東沙保
#内田健司 #生越千晴
#中澤陽 #吉岡あきこ
(敬称略)初日。
フライヤーのポップさとは、もしかすると真逆で、重厚なメッセージを持つ作品。
暴力、まして暗殺やテロなど認めることなどできない。国の元トップに向けられた暴挙の理由が宗教団体への遺恨で、いまソコへ締め付けや介入が行われようとしているが、それは何だか暴漢の狙い通りになっている気がして違和感を感じてしまう。もちろん、良くないことや、良くない人と団体には改善してもらう必要はあるに決まっているけれど。収監された男の願いを叶えさせてしまっているようで腑に落ちない。
ただ、いつかあのようなことが起こる気がしていた。かの大戦を経て、この国が過ちから学び歩み歩もうとしてきた専守防衛を蔑ろにし、憲法の解釈を捻じ曲げ、集団的自衛権の行使を容認する暴挙に対しての怒りと憤りは拭えない。その上、利権を隠すために財務省の公文書や自衛隊の日報の改竄が行われたにも関わらず責任も取らない。国のトップが憲法に違反して、それを隠すために嘘をついて、それに加担させられた人が責任を感じて命を絶ってもシラを切り通す。その姿から、この国の子どもたちは何を学ぶのだろう。
話が飛躍してしまったが、ずっと胸の内にモヤモヤとしていることがムクムクと湧き上がりグルグルと廻った。
加えて、あの日のNY、WTCの様子をテレビで観ていた時のことが蘇る。世界にあるさまざまな文化や思想、世界に生きるさまざまな人たち、それを考えずにワガママを言う大国のジャイアンに媚びへつらうこの国の政治と政治家についての憤りを仕舞い込んだ禁断の玉手箱に手を伸ばしてしまった。そんなことを考えていては毎日の生活が成り立たなくなるから、考えないようにしていたけれど、130分の間は玉手箱の煙を浴びて、天から降ってくるオフィスからの悲しみに飲み込まれた。
キャストが皆さん素敵。
大好きな生越さんは憂いを纏い、その痛みに感情を揺さぶられる。
印象的だったのは中澤陽さんの激情。演出されているスペースノットブランクの作品は幾つも観ているけれど、演技を観るのは初めて。好きだったなぁ。
公演中止の報が飛び交う年始、素晴らしい観劇体験ができた。
これはリピート。
サーカスがはじまらない
プテラノドン
小劇場 楽園(東京都)
2023/01/20 (金) ~ 2023/01/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#太田知咲 #菅沼岳
#平体まひろ
#かんのひとみ #佐藤達
#海部剛史(敬称略)
初日。オリジナルと既存の作品にアレンジを加えた、短編七作のオムニバス公演。オープニングはユニットを立ち上げた三人の照れ隠しのような作品での幕開け。そこから怒涛の七作。これでもかとアプローチを変えて、いろんな顔を見せてくれる。まるでビックリ箱。万華鏡のように七変化。小劇場 楽園にカラフルな七色の虹をかけた。
客演のベテラン俳優陣が彩りを添える。屋台骨を支えるというよりも、イキイキと躍動しているように見える。それはきっと、立ち上げたメンバー三人のパーソナリティとコンセプトと姿勢によるものに違いない。
何一つ無駄を感じなかった110分。
道化がおどけて、空中ブランコで魅了し、綱渡りでハラハラさせて、猛獣使いで驚かせ……。
さぁ、サーカスがはじまった。
おやすみ、お母さん
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2023/01/18 (水) ~ 2023/02/06 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
#那須凜 #那須佐代子
(敬称略)初日。
母と娘の話を、実の母娘で上演。その特別な公演はやはり初日を選ぶ。年初ながら、今年の話題作になることだろう。このシチュエーションで上演できるリアル母娘は、なかなか思い浮かばない。
衝撃的問題作ではあるけれど、奇を衒うことなく丁寧に作られた。
ねじ廻る
演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)
ウエストエンドスタジオ(東京都)
2022/12/21 (水) ~ 2022/12/26 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#中原和宏 #山下直哉
#水野小論 #小山あずさ
#渋谷盛太 #鷲見友希
#國崎史人 #坂口瑛美
#和田みなみ #横室彩紀
#寄川叶絢 #大嶽典子
#奥田努 #小野健太郎
(敬称略)
無駄のない本に無駄の無い演出、素敵な俳優。素晴らしい作品が上演された。いつも使う劇場、ホームグラウンドだからということもあるだろうけれど、ハコの特性を活かした演出だった。過疎の問題もベースにして、親子、夫婦、つまりは家族の愛について、更には人生と就労についてまで考えさせられる。
糸の切れた凧のようになってしまった我が長女との関係と重なりヒリヒリした。
大好きな水野小論さんが、もうしっかり母親で、しかも高校生の。ドラマで、小さかった芦田愛菜ちゃんの先生をやっていたのだし、当然なのだけれど、感慨深い。そして何より素敵だった。
キャストの皆さんが豊かな関係性でそこに生きていた。素晴らしかった。
ゲラゲラのゲラによろしく
東京にこにこちゃん
駅前劇場(東京都)
2022/12/29 (木) ~ 2022/12/30 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#てっぺい右利き
#木乃江祐希 #三森麻美
#髙畑遊 #近藤強
#四柳智惟 #江原パジャマ
#尾形悟(敬称略)初日。
笑いの本質を考える秀作だった。誤解を恐れずに書くが、予想もしなかった人間ドラマが展開されて驚いた。冒頭から笑いが散りばめられて、客席はさまざまな場所からさまざまなタイミングで笑いが起こり、笑いのリレーのような…いや、ボールを落とさないように輪になって笑いのバレーボールをトスし続けているような感じ。
人は窮地に立たされると笑って誤魔化す。ワタシはそれを好まない。けれど、そうすることでしか心を保てないということもあるのだと、歳をとって少し分かり始めている。
近藤強さんが無敵だった。シリアスな演技が素晴らしいのだけれど、あのダンディな声でDJは痺れるし、笑いまでやられたら堪らない。
大好きな木乃江祐希さんが紛れもなくヒロインで、彼女の美貌を充分に活かした作品を久しぶりに観たような気がする。
お馴染みのキャストも安定の達者ぶり。願わくばhocotenさんも見たかった。
たった二日間の4公演では勿体無い出来栄え。でも、彼等を駅前劇場で観る時がきて、それが今作品だったのは大満足。
2022の観劇納めが素晴らしかったことを嬉しく思う。
コチラハコブネ、オウトウセヨ
ポップンマッシュルームチキン野郎
王子小劇場(東京都)
2022/12/22 (木) ~ 2022/12/28 (水)公演終了
実演鑑賞
#野口オリジナル
#横尾下下 #渡辺裕太
#井上ほたてひも
#廣瀬響乃 #増田赤カブト
#NPO法人 #小岩崎小恵
#青地洋 #今井孝祐
#大野清志 #笠原紳司
#高田淳 #辻響平
#横見恵(敬称略)
千秋楽。演劇は自由だということを改めて感じる公演だった。物語にも、上演に至るまでの劇団の背景にも、観客が感情移入していることが開演前の客席からも伝わって来た。終盤にはすすり泣く声もあちらこちらから聞こえて来た。愛されていることが伝わってきた。
自分はどんどん冷静に客観的になっていくのを感じた。同時に、思考が飛び、現実から意識が遠のいた。ゲームの話と生き物の話が必要だったのか、もう少し考えてみようと思う。
キャストも多く、小道具や衣装やメイクも華やかであるから、必然的に料金も王子小劇場にしては高め。それでも全公演売り止めには拍手を送りたい。
廣瀬響乃さんが劇団員になっていたことに驚いた。彼女の静かな会話劇を観たい。
目当ての辻響平さんは、何をやってもうまい。本当に素敵な俳優さんだ。
『ジェミニ』
余人会
イズモギャラリー(東京都)
2022/12/26 (月) ~ 2022/12/31 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#小西耕一 #木村梨恵子
#野木伶那 #河西裕介
(敬称略)初日。
まるでポツドールのよう。松坂桃李が主演した『娼年』のような設定。なのにカラッとサラッとドライな手触り。気心の知れたメンバーから生まれる空気の安定感を楽しんだ。
自分のコンプレックスや自信の無さと向き合う時間になって、共感したり切なくなったり。若者の希望を破らないように、踏み躙ることのないようにしなくてはいけないなと自分に言い聞かせた。
大好きな木村梨恵子さんからサラリとあんな台詞を聞かされたら堪らん。すぐにおさらいでも研修でもお願いしたい。
久しぶりに観た『おまけ演劇』のグダグダ感も愛しかった。
アホロートルの叛逆
札幌ハムプロジェクト★東京支部
池袋GEKIBA(東京都)
2022/12/15 (木) ~ 2022/12/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#荒井幸夫 #川口檸檬
#河村杏里 #後藤文一郎
#昆野祐希 #すがの公
#杉木隆幸 #傍嶋史紀
#ナカムラユーキ #籔中耕
#中村真沙海 #渡辺ゆぱ
(敬称略)
精神の病は、先天性でないなら、過度で長時間のストレスによって引き起こされることがほとんどではなかろうか。強制的な措置でも任意でも、その病院や施設で過ごす時間に救いがあるか否かは、なかなかに難しい問題。仲間の存在は救いでありながら、時には最後の引き金を引いてしまうことだってあるはず。今や依存症は現代病のエース。アルコールやドラッグばかりでなく、ネット依存も相当な闇だ。そうした重いモノをテーマにしつつも、合唱を持ち込んだことでライトなタッチで口当たりをよくしていたように思う。合唱って、まるまる不登校だったとかではなければみんな経験してるよね。やっぱり合唱って不思議な力がある。
イイ大人が、真剣に取り組んで子どもっぽく見える、イイ演劇だった。
夜明けの寄り鯨
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2022/12/01 (木) ~ 2022/12/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#小島聖 #池岡亮介
#小久保寿人 #森川由樹
#岡崎さつき #阿岐之将一
#楠見薫 #荒谷清水
#横山拓也 #大澤遊
(敬称略)初日からの2回目。またとんでもない作品が生まれた。最初に言っておくが、絶対に観ておくべき。
恋は止められない。幾つになっても素敵な人にトキメク気持ちは止められない。ましてや二十歳前後の若者なら尚更。そして恋する者はいつだって疑心暗鬼。自分にも相手にも他人にも。自分が受け入れられない時には防衛本能が働くのは仕方ない。恋の痛手のさざ波は、コントロールを失い暴走する。凪のように穏やかに見えた友情にポツリポツリと落としてしまった雫が、文字通り波紋を広げて、やがて嵐を呼び荒れ狂った時化が優しい家族まで道連れにしてうねり始める。
語弊を恐れずに書くが、新国立劇場演劇研修所の修了生の世間的認知度は高いとは言えないだろう。けれども、同じ場所で学び身につけたスキルの共通項を持った彼等が生み出す、相手を見て聞いて動かされて表出し転がっていく物語の強度は圧倒的で、観る者の感情を揺さぶり飲み込んでいく。
自分の正義が他者の正義になり得るか否か。完全なる思想なんて無い。思想は常に矛盾を孕んでいる。
大学生の娘を持つ親として、我が子とその友を大切に思う親の気持ちがよくわかる。かつて自分が大学の仲間を何度か実家に招いた宴で嬉しそうにもてなし飲んでいた両親の姿が蘇った。
無かったことにしたい悲しい出来事。封印したい過ち。それを引き起こしてしまった自責の念。救えなかった自責の念。関わる誰もが抱いたやるせなさがヒリヒリと染みる。
目の前でドラマの中に生きてみせてくれた素晴らしいキャストに拍手を送りたい。
期待を裏切らず素晴らしい本を書き上げた横山さんに大喝采を。
そして、あの美術、あの照明を演出した大澤さんを讃えたい。
ラストや美術について、初日終演後に横山さんに「どこまでト書に書き込んだのか」訊ねた。優れた脚本家と優れた演出家の融合から生まれた素晴らしい演劇作品が、たくさんの人に届くことを願ってやまない。
三人姉妹
アトリエ・センターフォワード
シアターX(東京都)
2022/12/07 (水) ~ 2022/12/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
#藤堂海 #安藤瞳
#北澤小枝子 #矢内文章
#みょんふぁ #本郷弦
#根本大介 #岡田篤弥
#山岡よしき #三瓶裕史
#今井聡 #西澤香夏
#堂下勝気 #あさ朝子
(敬称略)
何度観た作品だろうか。自分史上、最も多くのカンパニーで観た作品かもしれない。その時々に良さがあって、キャラクターの見え方もさまざま。これだけの不朽の名作であれば、俳優も役への思いが強まるのは必然。きっと、自分ならではの役作りをトライしたに違いない。
受け取ったイメージとしては、男性キャラクターが思いの外、明るい感じがした。これまでアイツもコイツももっと卑屈で陰気なイメージを抱いていたので、案外ポップに見えて、嫌われていたり愛せなかったりする人に思えなかった。誰かを欺いている人ばかりの陰湿な空気が、曇天のロシアの気候を代弁しているような作品だと認識していたので、サラリとした手触りに仕上がっているような気がした。
今作の最大のポイントはイリーナではなかろうか。未成熟の雰囲気を受け取る作品が多かったけれど、北澤さんは芯のある三女を立ち上げたと感じる。大好きな安藤さんの二女は黒を纏っても妖艶で、藤堂さんの長女は穏やかだった。
これまでとはひと味違う三人姉妹が育ったと思う。
口火
イサカライティング
アトリエ春風舎(東京都)
2022/12/08 (木) ~ 2022/12/12 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#毛利悟巳 #桂川明日哥
#金定和沙 #堀夏子
#小野晃太朗(敬称略)
初日。宇宙だった。宇宙を感じた。幼い頃からずっと漠然とした憧れを宇宙に抱いている。ココから見る宇宙は果てしなく広がっていて、物理的にしか物事を考えることが出来ない愚かな自分は途方に暮れて、思考を変換し、巨大で俯瞰できる場所からの視点に移して宇宙を外側から見る。それはミクロの微生物の世界をココから見ていることと一致させて考える。その規模や比率が果たしてマッチしているのかは分からないし、問題とはしない……という、半世紀以上も脳内に抱いている思考を初めて言葉にしてみた。そうしてみたくなる世界があった。
時間には限りがあることと、無限にある分からないことを考えて、ほんの少しのことでも分かったり分かった気になったりすることの価値について喜びを見出してみたりする時間になった。
目の前にある見えることと聞こえることを感じながら考えたい。きっと観る度、聴く度に、感じるものや考えることは深まったり広がったりするに違いない。
自問自答しているような会話に、心を耕されていくような感覚。
人間の素晴らしさと愚かさについて考える。そこへ優しく誘ってくれる。脳が疲労した。
そして、光と美術に衣装、何より俳優が美しくて幸せだった。
余談■劇場に早く着いて開場を待つワタシに、温かい飲み物を持って来てくれる主宰の優しさが、そのまま作品の血となって流れていることを感じた。温かい気持ちで帰路の電車に揺られている。
蛍
第27班
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2022/12/02 (金) ~ 2022/12/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#鈴木あかり #佐藤新太
#大垣友 #もりみさき
#高橋茉琴 #松田将希
#小関えりか #髙橋龍児
#松本みゆき #石井舞
#久保磨介 #成瀬志帆
#佐藤美輝 #小野里茉莉
(敬称略)
勾配が交差するようなセットが印象的だった初演を思い浮かべて、思い出を辿るような……おさらいするような気持ちで観た。
独立しているように見える幾つもの物語を、紐解くように手繰り寄せていくと、アレとコレとが繋がっていたり絡まっていたり。
喜びと悲しみが背中合わせに存在して、優しさの隣に残酷さが潜んでいる。理不尽なことが世の中には存在していて、救われる人がいて、絶望する人がいる。人生は摩訶不思議なんだ。
野球でもサッカーでも、クローザーという立場……役割を担う人がいる。松本みゆきさんが、穏やかに、そして見事に締めくくった。闇の中に浮かび上がるホタルの如く、あの人たち全員の未来を希望の光が照らしていますように。
セクシードライバー
毛皮族
北千住BUoY(東京都)
2022/11/30 (水) ~ 2022/12/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#遠藤留奈 #鈴木将一朗
#江本純子(敬称略)
千秋楽。
江本さんは、ずっと演劇のカタチを追求して突き進んでいる。やりたいことをやる、やり続ける勇気を毎回たくさん与えてくれる。
映像(映画)と演劇(生の舞台)の融合。さらに音楽と照明も。その上、演技エリアのバリアフリー。どこまでも進化して広げていく開拓者。
ただ、今回は演劇の部分は無い。必ず映像があって、活弁士のように声を当てるのだが、それを映っている本人がやるところが面白い。映画などで行われるアテレコ(アフレコ)をレコーディングではなくライブでやる。人間同士、俳優同士であればその場で調整できるだろうけれど、映像は待ってくれないし合わせてくれないし、躓けば置いていかれる。コレをやろうというアイディアは素晴らしいけれど、求められる俳優はシンドイだろう。その要求をクリアして優れた作品に昇華させる俳優の技術の高さのなんたること。
かつて銭湯だったあの場所に、ビーチがあって畳があってスクリーンが幾つもあって、なんともミラクルな空間だった。
BGMはYMOのテクノポリスが溶け出したような曲で、湾岸のロケーションの夜明けを彩る。そのサウンドをサポートするのが、この公演のために九州から5年振りに帰ってきたイナゴさんこと元アマヤドリの糸山和則さん。この再会も堪らなく嬉しかったなぁ。
江本さんの開演前のサービスもそうだけれど、この作品に携わる全ての人が、とにかく演劇を愛しているのを感じる。大好きな遠藤留奈さんと話せたのはいつ以来だろう。covid-19に襲われた世界になってから、終演後のキャストと話せたのは初。もうそういう世界は戻らない気もしていたから感激した。
素晴らしい演劇人に、幸せがたくさん訪れることを願わずにはいられない。
どっか行け!クソたいぎい我が人生
ぱぷりか
こまばアゴラ劇場(東京都)
2022/11/24 (木) ~ 2022/12/06 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#占部房子 #富川一人
#林ちゑ #阿久津京介
#岡本唯(敬称略)
2021岸田國士戯曲賞を受賞した #福名理穂 さんの新作。また更に脂が乗ったのではなかろうか。キャスティングも、依頼できる範囲、選べる範囲が少し広がったはず。今回のキャスティングも素敵だった。
福名さんの本には、少し生き辛そうな人、少し周囲を困らす人がいる。今作も悪気はないけれど人を困らせる人と、それを献身的に支えたり見守ったりする人がいて、観ながら呼吸が苦しくなる。
人の不幸は蜜の味。認めたくはないけれど、誰もが心の奥の奥の隅の方に持っている感情。対象が身近な人であればあるほど、その毒は強く痺れる。
絡まった親子の絆、ちぎれた……或いはちぎれかかった親子の絆の修復は一筋縄ではいかないことを我が家でも実感している。
何を選択したとしても、若者の未来には光が差していて欲しいと切に願う。
瞬きと閃光
ムシラセ
シアター風姿花伝(東京都)
2022/11/30 (水) ~ 2022/12/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#工藤さや #小口ふみか
#辻響平 #輝蕗
#元水颯香 #中野亜美
#土本燈子 #加藤彩
#菊池美里 #つかてつお
#渡辺実希 #松尾太稀
#土橋銘菓(敬称略)
キラキラしてんなぁ……ホントそう。本も演出も良かった上に、キャスティングの勝利。女子高生も教師もハズレ無しの大勝利。
平田オリザ『転校生』や
柴幸男『わたしの星』に
花岡美月『その子17歳』も
みんな女子高生がキラキラしてた。眩しくて凝視できないほどなのだけれど目が離せなかった作品たち。同じキラメキを放つ作品だった。
可愛くて美しい女性が大好きだから、ルッキズムだと叱られてしまうだろうけれど、素直で何かに夢中な女の子たちはみんな美しいと思っている。言い方を変えれば、そうしたキラメキがあってこその可愛いさで美しさだと思う訳で、内面の輝きが無ければ眩しく感じることなんてない。内と外が伴ってこそのルッキズムだと主張したい。
大好きな小口ふみかさんがオトナのポジションにいることも感慨深かった。笑いと涙を両手に持っての二刀流。たくさんの人に味わって欲しい。そして彼女が追いかけるのが工藤さやさんと辻響平さんなのだから堪らない。
そして特筆すべきは女子生徒たち。なんてことだろう。彼女たちみんな、1ミリも個性を失わずに生き抜いて欲しいと切に願う。同時にキャストの皆さんにも明るい俳優人生が広がることを願う。
心にずっと抱いていたい作品とまた出会えた喜びに浸りつつ、幾つものシーンを反芻しながら、長い帰路に身も心も委ねている。
かがやく都市
うさぎストライプ
アトリエ春風舎(東京都)
2022/11/18 (金) ~ 2022/11/30 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#宝保里実 #安藤歩
#伊藤毅 #亀山浩史
#小瀧万梨子(敬称略)
2回目。手触りはサラッとライトなのに観終えるとノスタルジックな気持ちになる濃密で豊潤な50分。
開演前のBGMに安心したりワクワクしたり。嗚呼……うさぎストライプを観に来たんだなぁ……という気持ちになる。それはもう、劇団☆新感線のジューダス・プリーストに匹敵する。
登場した小瀧万梨子さんの、VOGUEから飛び出たようなパリジェンヌばりのモード感にウットリ。声にもウットリ。あの少しニマニマする感じも堪らなく好き。これはもう恋なのだと感じている。
人はみんな寂しがり屋で、誰かに分かってもらいたいのに、分かり合えないことも知っている。分かり合えない他者も、分かって貰えない自分も、自分の前や街から逃げ出した誰かも、み〜んな猫で宇宙人。
作品は育っていた。言葉も動きも表情もイキイキとしてドライブ感が増してサラリとしながらも粘度が上がって、楽しいのに……胸の奥の奥の隅の方がチクッとする。
前半の回を観た人にも、是非もう一度観て欲しい。
伊藤さんの背中から、亀山さんの笑顔からも哀愁が漂う。宝保さんはクセになる。安藤さんはどんどん可愛いくなる。
金澤さんのギターが欲しいと思うのは欲張りかな。
大池容子ワールドを堪能した。まだ、おかわりしたい。
ロミオ アンド ジュリエット アット ドーン!
waqu:iraz
APOCシアター(東京都)
2022/11/16 (水) ~ 2022/11/20 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#都竹悠河 #隈元梨乃
#尾曲凱 #関森絵美
#松尾音音 #若尾颯太
#植竹悠理 #武井希未
#小林真梨恵(敬称略)
千秋楽 #APOCシアター は第1回公演を上演した劇場。その場所で、また新たな一歩を踏み出した。
ミュージカル!
こだわりを持って企画を立ち上げ上演していることがよくわかる。まずもって音響が素晴らしかった。風変わりな造りの会場なので響き方もイイ環境ではない気がするけれど、クリアでバランスのいい音の世界に包まれた。生演奏というのもミュージカルと銘打ったこだわりと見た。
ダンスが売りのユニットだから、あのスペースにあの人数は窮屈そうではあったけれど、それも迫力に昇華した。
ストーリーも大胆にアレンジが施され、現代社会が抱える問題と融合させた。
ここ数作で恒例となった道先案内人の武井希未さんの解説が見事。今回は『夏の夜の夢』のパックにも思えたのはワタシだけだろうか。作品に安定感と厚み、質の向上を与えていたのはやはり武井さんと関森さん、そして常連になりつつある松尾さんだ。松尾さんは、こんなに歌えたんだっけ?という驚きと、その役なんだぁ……というアップデートを感じた。
トータルで、あのサイズのあの距離でのミュージカルというのは、コチラの問題として気恥ずかしくなってしまうことを再認識した。
意欲作であることは間違いない。
千一夜
ONEOR8
新宿シアタートップス(東京都)
2022/11/26 (土) ~ 2022/12/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
#恩田隆一 #冨田直美
#伊藤俊輔 #山口森広
#矢部太郎 #成田沙織
#高畑裕太 #奥田努
#高畑こと美(敬称略)
初日。明かされるドラマと明かさずに匂わすドラマ。そのバランスが絶妙。だから、スピンオフが欲しくなる。その裏側には何があったのか、あの人のその後はどうなるのか、やじうま根性を刺激されて帰路の電車で脳内は迷走からの暴走中。
人は幾つもの顔を持っている。それを知りたくなり見たくなるのが人情。それはきっと、自分の中にある醜悪な下品さの言い訳にして安心したいから。
冨田さんが魅せた虚勢の仮面と孤独が抜群に素晴らしかった。
山口さんの誠実さと愚かさが胸を締め付けた。
伊藤さんは、ひ弱な不思議ちゃんからマッチョへのキャラ変が完成された。
アノ曲が手を替え品を替え、あのシーンのBGMとして流れる。いま完全に脳内スパイラル。
T Crossroad 短編戯曲祭 <花鳥風月> 秋
ティーファクトリー
雑遊(東京都)
2022/11/22 (火) ~ 2022/11/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
#かれは
#水野小論 #萩原有
#重村真智子(敬称略)初日
コレもある意味、人に歴史あり。音楽や服、食べ物だって、忘れられないシーンや忘れられない人を思い出す。良くも悪くも染み付いている。染み付いてしまう。モノを手放しても思い出を手放せる訳ではない。それでも燃やしたり捨てたりするのではなく、どこかの誰かの元で生き続けていて欲しいと願うのは人情というものなのだろうか。
他人の気持ちは、推し量ってみても分かり得ない。友だちでさえ分からないことはある。大切な人の痛みに寄り添える人間になりたいと願う。
やっぱり水野小論さんは素敵だった。