『哀れ、兵士』 公演情報 『哀れ、兵士』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
1-4件 / 4件中
  • 満足度★★★★

    花四つ星
     韓国の劇団コロモッキルが今年3月に韓国で初演した作品の上演である。

    ネタバレBOX

    作家のパク・ウォニョン氏は、現在韓国政府から最も睨まれているアーティストの一人だが、その原因は彼の創造する作品群が、朝鮮半島の歴史を多角的且つ当事者的な視点で見つめ表現しているからだと思われる。国家というものは、その正当性を神話の上に打ち建ててきた訳だが、少なくとも近代以降このような幻想はあっけなく崩されてしまった。何の前に? と問うのか? 愚問である。無論、合理性と力の前にだ。そして近代国家は新たな神話を生み出したのである。それは、合理性と軍事力を持てば、世界の覇者となれるという神話であった。なんだかんだ言っても現代の地球上で覇を唱え得るのは米国と中国であろう。何れも宗教色の強い国家である。アメリカはキリスト教原理主義の国民が人口の40%を占め、中国の一応マルキシズムを継承したとされている共産党の一党独裁がずっと続いているのは、無論本来の社会主義などではない。現代中国のそれは科学的社会主義などとは全く異なる。一党独裁の頂点に神格化した独裁者を頂いた宗教的組織にすぎまい。だから意見の異なる者を異端者として始末・処罰しているのだ。
     ところで、このような覇権国家の植民地として暮らすのが、日韓の民衆である。日本人の中には、地位協定の現実もアメリカの日本侵略も全然見ようとせず、唯々諾々と従う自民党、公明党等、「保守」と呼ばれるA級奴隷の更に下位のB級奴隷として搾取されることに満足している腐れ切った下司共がうようよいるようだが、このような奴隷には元々プライドなどというものが無いらしいので、何も見ず、何も聞かず、何も言わなくても大丈夫なのだろう。どうやら正常の振りをするのは得意なようだ。まあ、底が浅いからすぐ抜けて、何れ露頭に迷い乍ら、負け犬の遠吠えたる愚痴を垂れ流すことしかできまい。
     何れにせよ、今作は1945年迄日本の植民地であった朝鮮半島と其処に住んだ朝鮮の人々が、受けた辱めを何とか返そうと奮闘努力する姿が描かれる。その当事者性が役者達の卓抜な演技で迫ってくる。無論、演出は力のある役者達の力を引き出すように働いていて観易い舞台になっている。時代はこればかりではない。つい最近2010年に起こった北朝鮮軍による魚雷によって沈没させられたことが疑われた韓国哨戒艦の犠牲者達について。
     更には米軍のファルージャ攻撃などイラク「戦争」とそれに派兵した韓国軍によって、韓国民間人が処刑された件などは、現在、囚われている安田 純平氏や、殺害された後藤さん
    湯川氏などのことと、それに対応した日本政府のアリバイ作り見え見えのアホな対応。そして彼らの命を救えなかった我々自身の不如意を如実に思い出させるものであった。
     更には2015年除隊間近に脱走した韓国軍兵士についての、極めて興味深い動機とそれが齎す結末については大いに考えさせられた。
     いくつもの時代を交互に描き、その各々のストーリーで犠牲になる最も弱い者達が現実に生きてゆく中でのアンビヴァレンツを表現することで、現代の治世への強力な異議申し立てとなっている点で、また兵役義務を課せられている韓国の人々の休戦当事者としての緊張感なども実によく表現されていた。自衛隊では、こうはゆくまい。未だ実戦経験がないのだから。但し、日本の軍隊(現在は一応、自衛隊という名であるが)が、一度走り始めたら、また、勝負の終りまで盲進し続けるだろう。アホな国民の持つアホな軍隊にならなければ良いのだが。現在、「最高責任者」を務める安倍がアホを絵に描いて壁に貼り付けたような鉄壁のアホなだけに猶更心配なのである。
  • 満足度★★★★

    日本語字幕だが観れる(ら抜きで悪いか)
    うまい。演技が的確でシーンが端的で無駄がなく、ステージ上部の字幕を見ながらの観劇でも、伝わる。観れる。
    兵士とはどのような存在か・・犠牲者の観点から、望まぬ加害者という観点から描いている。だから「哀れ」な存在。
    舞台処理がうまく、俳優が必要な芝居をきちんと(笑わせるタイミングも)やっている。
    劇団コルモッキルは日本との演劇交流の実績のある劇団(私は初見)だが、若い俳優が一回り年上の母役をやったりもしていて、「若い集団」の印象が強い。若い作演出家が、年上の俳優を使うのは韓国では難しいのかな・・などと想像したりしたが、堂々たる舞台だった。

    ネタバレBOX

    大東亜戦争時の日本のシーンもある。朝鮮人が軍役を志願し、知覧飛行場から特攻として沖縄へ飛び立つ・・。戦後のある時(年代はいつだったか)軍から逃亡し非業の最期を遂げる・・。2003年イラク戦争への支援を決めた韓国政府の方針に従い、食糧供給のため食品会社に勤務する青年がイラクで人質となる・・そして彼が素朴な心を持つ一民間人に過ぎない事に心が揺らぎ、正義を行なう勇気を与えたもうとアラーに祈る、米軍による「大義なき殺戮」で家族を失った女兵士・・。2010年に起こった巡視鑑攻撃で犠牲になった亡き兵士と生き残った兵士のエピソード・・(攻撃した側の国名「北朝鮮」を出さず、国務に殉じた兵士の姿に焦点を当てていた)。
    日本のシーンは的確にシーンが構成されており、酒の注ぎ方や兄弟や親への接し方などは韓国式だったが、天皇の軍隊として命を捧げるのだから、家族は皆立派な日本人だ(そのために兄は死地へ赴く)・・というくだりは、戦後日本政府が無慈悲にも半島出身者を「外国人」として社会的権利を剥奪した事実が重ね合わさり、「哀れ」極まりない。

    4つの内の一つ、船上で殉死した韓国兵士のエピソードだけは日本人には収まりが悪い。攻撃した相手に矛先を向けないとすれば、美談に包み込むしかやり所がなく、国家に殉じる兵士を顕彰する、というのは日本ではどうにもきな臭い感じが拭えない。が、韓国での「国家」の捉え方は若干違うかも知れない。
    軍政時代はともかく、民主化運動で軍事独裁を倒し民主的な政府を実現させた歴史は、国家意識、国民意識が異なると考えられる。
    また、祖国分断の悲劇は歴史的にみれば「北朝鮮」という悪しき国家(指導者金日成?)によってもたらされたのではなく、大国の都合の産物だという事は韓国の良識のようである。従って潜在的内戦状況にある朝鮮半島での軍事的悲劇の責任は、必ずしも攻撃した相手=北朝鮮だけに帰せられない・・という感覚を、一旦飲み込まねば、このエピソードを正しく咀嚼できないように思う(観ている間自分がそうだった)。
    ・・彼我の違いはあれど、普遍性の高い作品・表現に会場は大きな拍手に包まれていた。(個人的には、あまり普遍的な味わいに均すより、「韓国的」な部分を味わいたい願望が強いけれど)
  • 満足度★★★★★

    なんて悲しい・・・・。
    胸に迫る4つの時代に生きた人々の切実なる命の叫び・・・・。
    涙が止まらないラストでした。

  • 満足度★★★★★

    正攻法の舞台
    韓国にとって、過去から現在まで切実な、戦争・軍隊・兵士についての物語。
    この具体性から、国家や会社などに従い、制度や規律を遵守して生きなければならないあらゆる人間の苦悩が見えてくる。その普遍性に至っている。

    ネタバレBOX

    日本の視点から観ても、朝鮮を支配していた時代のことは言わずもがな、韓国とアメリカ/中東との関係は日本とアメリカ/中東との関係と相似形であり、安全保障関連法の成立によって日本の自衛隊も韓国軍と似た状況に置かれることを考えると、他人事とは思えない。

    ただ、リアリズム演劇なのに、現地の人間(日本、イラク)の言葉がハングルなのは少し違和感があった。特に日本の場合、最初は、ハングルをあえて使っている場面なのか、翻訳された会話なのか、観ていてわからなかったからだ。言葉に付随して、時代考証的な部分でも少し違和感があった。

    そうは言っても、作品の本筋から見れば小さなことなので、今作の良さを損ねるほどのものではない。

    生きるとは何なのか、深く考えさせられた。

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