バートルビーズ 公演情報 バートルビーズ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★

    劇団初見/約135分
    バートルビーとは何者なのか? 知りたい気持ちと、知りたくない気持ちが相半ばするなか観劇。

    けっきょく私には、バートルビーが何者なのかよく分からなかった。

    残念に思われたのは、作者独自のバートルビー観が強く打ち出されていること。

    観てゆくうち、バートルビーの謎めきに魅かれ始めた私にとって、バートルビーに固定したイメージがつけられてゆくのは少し興醒めであった。

    もっと多様なバートルビー観を提示し、客の頭を混乱させるような作り方は出来なかったものか?

    そうすれば、バートルビーを知りたいという気持ちと、謎めいた不気味な存在であってほしいという思い、その双方に応えられる。


    燐光群は初見だったが、断片の積み重ねで劇世界を構築してゆく方法論に面白味を感じた。
    そして、セリフの洪水に心地好い音楽性を帯びさせてゆく独特の演出にも。

    ネタバレBOX

    作者はバートルビーに義士のイメージを重ねる。
    バートルビーを“資本主義への反逆者”と捉える向きもあるようなので、バートルビーを義士とするのはそう突飛な見立てではないのかもしれないが、そもそも“資本主義への反逆者”にしたところで一つの解釈に過ぎない。

    事によったらバートルビーは鬱病者だったのかもしれないし、ただの怠け者だったのかもしれない。あるいは「こんな人物を主役にしたら面白いかも(笑)」と原作者のメルヴィルが酔狂で作り上げたキャラクターだったのかもしれない。

    そんな具合に色んなバートルビー観を提示して、バートルビーを理解しやすいものにすると同時に、ますます謎めいた存在にしてほしかった。
  • 満足度★★★★

    フクシマを投影する衝撃
    坂手洋二さんのことだから、NYウオール街の代書人の話をどう今の日本に引っ張ってくるか、その驚きを味わおうとスズナリへ行った。劇場を出たときの衝撃度は、想像を超えていた。バートルビー的人間はあちこちにいるんだろうが、福島第一原発事故の被災地でこれを目撃するなんて。

    I would prefer not to. できれば私、そうしないほうがいいのですが。

    この言葉が矢のように飛び交い、残像を残して重なっていく。ラストシーンの衝撃度もかなりのものだ。特に、原発事故後にフクシマに行き、被災地の現状を見た人には、特に胸に突き刺さるだろう。

  • 満足度★★★★★

    バートルビー
     「バートルビー」とは、「白鯨」で有名なメルヴィルによって書かれた小説で1853年に出版された。{(更なる追記後送)原作は、読んで置いた方が良い。}

    ネタバレBOX

    NY、ウォール街に法律事務所を構える所長に、代書人として雇用された人物の名である。物腰は柔らかで品も良い。シャツの襟も清潔だ。然し、生気が感じられない人物であった。勤め始めた頃、彼は、能率よく筆耕をこなしていた。ところが、ある時所長に点検の為の口述を頼まれると「できれば私、そうしないほうがいいのですが」(因み
    に原文ではI would prefer not to.)と言って頑として聞き入れない。やがて仕事も、やんわり断りながら、事務所には居座り続ける。終に解雇を告げるが、それでも事務所に居座り続けた。根負けした所長は、彼を置いて事務所を移転する。然し、彼はそれでも其処から動かなかった。家主から苦情が来た為、所長は再度旧事務所を訪れ、新たな仕事を彼に紹介し、個人的に家に引き取ることも提案するが断られる。終に彼は、官権と敵対することになり、監獄にぶち込まれてしまう。原作のラスト、彼は刑務所の庭石に頭を載せたまま、息絶えている。このことで、彼が、我々生きる事に意味を見出そうとする者に突きつけていた問いは、永久の問いと化したのだ。原作の深さは、当にこの点に存する。
     ところで、バートルビーは、かつて配達不能郵便を扱う部署で働いていた。Dead letters! does it not sound like dead men? このような問いの前で、存在することはある場所を必要とするが、他の生き物を殺して喰らうことでしか生き延びることのできない人間存在は、果たして生きてゆく正当性を持ち得るのか? という問いにも繋がってゆこう。

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