NY、ウォール街に法律事務所を構える所長に、代書人として雇用された人物の名である。物腰は柔らかで品も良い。シャツの襟も清潔だ。然し、生気が感じられない人物であった。勤め始めた頃、彼は、能率よく筆耕をこなしていた。ところが、ある時所長に点検の為の口述を頼まれると「できれば私、そうしないほうがいいのですが」(因み に原文ではI would prefer not to.)と言って頑として聞き入れない。やがて仕事も、やんわり断りながら、事務所には居座り続ける。終に解雇を告げるが、それでも事務所に居座り続けた。根負けした所長は、彼を置いて事務所を移転する。然し、彼はそれでも其処から動かなかった。家主から苦情が来た為、所長は再度旧事務所を訪れ、新たな仕事を彼に紹介し、個人的に家に引き取ることも提案するが断られる。終に彼は、官権と敵対することになり、監獄にぶち込まれてしまう。原作のラスト、彼は刑務所の庭石に頭を載せたまま、息絶えている。このことで、彼が、我々生きる事に意味を見出そうとする者に突きつけていた問いは、永久の問いと化したのだ。原作の深さは、当にこの点に存する。 ところで、バートルビーは、かつて配達不能郵便を扱う部署で働いていた。Dead letters! does it not sound like dead men? このような問いの前で、存在することはある場所を必要とするが、他の生き物を殺して喰らうことでしか生き延びることのできない人間存在は、果たして生きてゆく正当性を持ち得るのか? という問いにも繋がってゆこう。