荒野1/7【全日程終了・ご来場いただきました皆様ありがとうございました!】 公演情報 荒野1/7【全日程終了・ご来場いただきました皆様ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.5
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  • 満足度★★★★★

    1/7
    灰色で鮮烈な家族もの。痛い。

    ネタバレBOX

    酒乱の父が母を撲殺し、7人の兄弟は別々の家庭へ養子に出される。それから20数年後、長男・真司(成川知也)が話したいことがあると、6人を呼び集める。刑務所に入った後も父と会っていたという真司は、刑期を終えた父が病気で意識もない状態になったことを告げ、延命するかどうかを皆で決めたいという…。

    父が母を撲殺するというショッキングな冒頭から一転、母が虐待を行っていたこと、次男・康輔(平山寛人)らがその記憶から目を背けようとしていることを真司は指摘し、舞台が揺れだす。
    年長者(一番記憶が定かであるはず)で父とも一番接している真司の言葉に動揺するも受け入れることに抵抗のある(目を背ける)、康輔や理佐(古市海見子)や三男・和紀(山ノ井史)。幼くて記憶があまりない末妹・みずき(森南波)も、自分は野島の人間だと言い切る。次女・永遠子(ハマカワフミエ)は、母の子でないことを知り、養父母からは人殺しの子と蔑まれている。

    結局、真司と永遠子以外は、延命に反対して、疲れきった様子で部屋を出て行く(四男・孝弘(小西耕一)はあっけらかんとしてたけど)。一人父を支えるとする真司は、「家族」を否定する。その真司に妊娠していることを告げる永遠子は、「望まない妊娠」(養父の性的虐待?)への憎悪を抱えつつ「家族」を肯定しようとする狭間で悩み続ける。

    「家族」によって深い傷を負わされた人間(子供)が、それでも「家族」を否定できずに、結果逃げるしかできない弱さを、客席と対面で吐露する会話劇。闇の中をあてなく歩きさ迷う子供たちが、とても痛い。
    ラストの永遠子の告白シーンは、足元が熱くなった。血の気がひいたのかもしれないけど。
  • 満足度★★★★★

    会話劇
    やはり前列がお勧め。キャストは座ったままでの会話劇なので前の方の座高が著しく高かったりすると観にくい。

    この物語が事実なら、脚本家は自身の身を削りながら書いたのだと思う。つくづく作家という家業はプライバシーがないらしい。性格やものの考え方など両親からの血の継承なのだが、どれもが歪んだ果実であった。

  • 満足度★★★★★

    本公演初見です。
    「視点」での短編に続き、2回目の鵺的でした。短編では心臓の中まで這いずり回られる感触に驚きを覚えたものでしたが。今回も徐々に心臓が蝕まれ、カーテンコールの頃には吐きそうになるほど息苦しい空気感に支配されてしまいました。

    描かれるのは、不幸な事件をきっかけに離れ離れになった兄妹達の徐々に紐解かれる感情。人は誰でも多かれ少なかれ家庭に痛みを抱えてる筈で、その痛みを伴わずに観られる人はいないはず。

    だったら自分はどうするか、どのように答えを出すだろうかと考えながら、目前の役者さん達の真摯な表情にも目を奪われて。7人の役者さんが個々の役柄をすっかり自分のものとしていて、あの集中力でよく精神的にヤられないなと驚嘆しました。

    ちなみに、これから観る人には最前列はやめた方がいいよ、と言います。よほどの覚悟がないと厳しいです。私は耐えられません。このリアルさは直視出来ません。

    ネタバレBOX

    演技派揃いの役者さん達の確りした芝居を踏まえて、その全てを凌駕してゆくハマカワさん。登場した頃から彷徨う視線の意味を捉えたくてその儚い姿に釘付けになってしまいましたが、トラウマと絶望を語りだす様に戦慄。静かながら凄まじかったです。

    個人的にはハマカワさん復活祭のような気分でもあったけれど。1年ぶりの彼女は、ブランクを感じるどころか、何かを乗り越えた強さを奥底の方に感じて益々凄みを帯びていました。何かを覚悟して舞台を降りた人間が、それを超える何かを覚悟して戻ってくるにはそれなりの資格が必要なんだと実感。

    その資格とは。ズバリ、才能なんじゃないかな、と。
    ハマカワさんは間違いなくこの世界に必要な女優さん。心底憧れます。お帰りなさい(^o^)/
  • 満足度★★★★★

    すごいタイトル
    親の事情で離散した7人の兄弟姉妹が再会する。
    再会を呼びかけた長兄の思い、「忘れたいのに何を今更」と渋々やってきた者、
    厳選された言葉と動きの少ない演出によって
    それぞれが抱える荒涼とした風景が姿を現す、素晴らしい舞台だった。

    ネタバレBOX

    衝撃的な事件によって、幼い7人の兄弟たちは名前を変え
    別々の家に引き取られて育った。
    長兄が声をかけて初めて再結集したものの、
    皆今更なんで?という思いで気持ちはバラバラ、
    懐かしさは同時に苦い思い出でもあった。
    長兄の問いかけに、次第に記憶を辿り始める3人の弟と3人の妹たち。
    ──父親は悪い奴で母親は可哀想な被害者
    彼らが事実を変形させて記憶していたのには、それなりの理由もあって
    辛く悲しい現実から逃げたいという子どもの心を責めることはできない。

    長兄は皆が大人になるのを待っていたのだ。
    事実から目をそらすな、逃げるなと呼びかける。
    でもそんなすぐには変われやしない・・・。
    あの父親の面倒を見るなんて、到底受け入れられない。

    ルデコ5の横長のスペースに、木の丸椅子が7つ並んだだけの舞台。
    一人ずつ登場して全員客席に向かって座る。
    見事に一点に置かれた視線を動かさずに会話が始まる。
    皆自分だけの孤独な荒野を見つめている。
    ほかの誰ともクロスしない。
    この図の素晴らしさは、話が進むにつれて効果を上げていく。

    長兄役の成川知也さん、ストーリーを引っ張るのが
    この方の魅力的な声なので冒頭から引き込まれる。
    親を見るなら全員で、捨てるのも全員でという
    強い決意のもと結集を呼びかけた長兄の思いが切ない。
    最後に一人残った妹に
    「家族が無いから不幸なんじゃない、家族があるから不幸なんだ」
    と吐露する場面で、誰よりも荒涼とした風景を視ていることが伝わってくる。

    理佐役の古市海見子さん、その意思的な強い視線が忘れられない。
    瞬きをしないその視線の先にある過去、そして現在の孤独な結婚生活が感じられる。

    4男を演じた小西耕一さん、一人イマドキの若者っぽくしゃべるのが超リアル。
    本能的に傷つかない方向へ身をかわしながら生きる今の若い人を見事に再現する。

    作・演出の高木登さんは、「家族の事情」という極めて個別のテーマを芯に
    時に「あってもなくても不幸」な「家族」の普遍性を描いている。
    この台詞と演出の前では、ぬるい幸福論など吹っ飛ぶだろう。

    長兄は「今日で兄弟解散だ!」と叫んだ。
    だが私は、このエンディングに何かほの明るいものを感じる。
    「もう二度と会わないだろう」と言って去っていった者でさえ
    きっとまたこの兄の元を訪れるような気がする。
    新しい命の存在もそれを予感させる。
    親はともかく、この「荒野」を共有できるのはこの7人しかいない。
    元はひとつだった荒野を、7人で分け合っているからこそ兄弟なのだから。

    「荒野1/7」、なんてすごいタイトルなんだろう。

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