荒野1/7【全日程終了・ご来場いただきました皆様ありがとうございました!】 公演情報 鵺的(ぬえてき)「荒野1/7【全日程終了・ご来場いただきました皆様ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    すごいタイトル
    親の事情で離散した7人の兄弟姉妹が再会する。
    再会を呼びかけた長兄の思い、「忘れたいのに何を今更」と渋々やってきた者、
    厳選された言葉と動きの少ない演出によって
    それぞれが抱える荒涼とした風景が姿を現す、素晴らしい舞台だった。

    ネタバレBOX

    衝撃的な事件によって、幼い7人の兄弟たちは名前を変え
    別々の家に引き取られて育った。
    長兄が声をかけて初めて再結集したものの、
    皆今更なんで?という思いで気持ちはバラバラ、
    懐かしさは同時に苦い思い出でもあった。
    長兄の問いかけに、次第に記憶を辿り始める3人の弟と3人の妹たち。
    ──父親は悪い奴で母親は可哀想な被害者
    彼らが事実を変形させて記憶していたのには、それなりの理由もあって
    辛く悲しい現実から逃げたいという子どもの心を責めることはできない。

    長兄は皆が大人になるのを待っていたのだ。
    事実から目をそらすな、逃げるなと呼びかける。
    でもそんなすぐには変われやしない・・・。
    あの父親の面倒を見るなんて、到底受け入れられない。

    ルデコ5の横長のスペースに、木の丸椅子が7つ並んだだけの舞台。
    一人ずつ登場して全員客席に向かって座る。
    見事に一点に置かれた視線を動かさずに会話が始まる。
    皆自分だけの孤独な荒野を見つめている。
    ほかの誰ともクロスしない。
    この図の素晴らしさは、話が進むにつれて効果を上げていく。

    長兄役の成川知也さん、ストーリーを引っ張るのが
    この方の魅力的な声なので冒頭から引き込まれる。
    親を見るなら全員で、捨てるのも全員でという
    強い決意のもと結集を呼びかけた長兄の思いが切ない。
    最後に一人残った妹に
    「家族が無いから不幸なんじゃない、家族があるから不幸なんだ」
    と吐露する場面で、誰よりも荒涼とした風景を視ていることが伝わってくる。

    理佐役の古市海見子さん、その意思的な強い視線が忘れられない。
    瞬きをしないその視線の先にある過去、そして現在の孤独な結婚生活が感じられる。

    4男を演じた小西耕一さん、一人イマドキの若者っぽくしゃべるのが超リアル。
    本能的に傷つかない方向へ身をかわしながら生きる今の若い人を見事に再現する。

    作・演出の高木登さんは、「家族の事情」という極めて個別のテーマを芯に
    時に「あってもなくても不幸」な「家族」の普遍性を描いている。
    この台詞と演出の前では、ぬるい幸福論など吹っ飛ぶだろう。

    長兄は「今日で兄弟解散だ!」と叫んだ。
    だが私は、このエンディングに何かほの明るいものを感じる。
    「もう二度と会わないだろう」と言って去っていった者でさえ
    きっとまたこの兄の元を訪れるような気がする。
    新しい命の存在もそれを予感させる。
    親はともかく、この「荒野」を共有できるのはこの7人しかいない。
    元はひとつだった荒野を、7人で分け合っているからこそ兄弟なのだから。

    「荒野1/7」、なんてすごいタイトルなんだろう。

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    2012/08/08 05:44

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