犬と独裁者 公演情報 犬と独裁者」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.1
1-13件 / 13件中
  • 映像鑑賞

    満足度★★★★

    こちらも未記入だった。劇団印象のこのかんの舞台(テーマ:芸術と戦争の連作)全て配信で見ている。広い舞台で上演したチャペックを題材にした「水のあしおと」の次か。小さな劇場に戻り、今度はロシア文学者ミハイル・ブルガーコフという小説家が題材である。ロシア・ウクライナの文学者である事から掘り下げたものだろうか・・。帝政ロシア時代のウクライナ・キエフに生まれ、ソ連時代を生きた文学者だが、作品が発禁処分となる長い期間が今作の舞台になっている。来歴を見ると興味深いので調べてみるのはお勧め。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    緊張感がひしひしと伝わってくる舞台。のめり込んでしまいました

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    劇団印象-indian elephant-鈴木アツト氏の脚本・演出で評伝劇を上演するのは5作目。その「国家と芸術家シリーズ」4作の評伝劇から次なる評伝劇のスタイルに挑んだのが、本作である。国家と芸術家シリーズは、主人公の生涯をその時代(状況)に重ね合わせた通史的な印象を持っていたが、本作は作家の生涯をその作品を通して時代を切り取ったスタイルにしており、一層 幅と深みを増した公演になっている。

    本編に主人公である作家ミハイル・ブルガーコフの代表作を劇中劇のように取り入れていることから、如何にも芝居がかった演技になっている場面があり、本編の演技との関係では不自然・違和感を覚えるところがある。その調和というか調整に腐心したのではなかろうか。その意味では 同じロシア作家・アントン・チェーホフの「かもめ」や「三人姉妹」等であれば、自然とそれとなく分かり合点がいくところ。しかし 本作の魅力は、ミハイル・ブルガーコフの作品を通して、歴史に名を残したスターリン、それも独裁者としての国家観を描くという着想にある。それまでの評伝劇…芸術(作)家という個人の直接的な観点 ではなく、作(芸術)品という媒介を通して、より一層 作家と作品そして国家の関わりが鮮明に浮かび上がる、そんな重層さが魅力だ。さらに冷徹・客観的に国家観をみる、そんな観察眼のような印象を受ける。ちなみに<眼>と言えば、舞台美術が<眼>を思わせ、物語(内容)に対するセットの拘りを感じる。

    ミハイル・ブルガーコフについては、当日パンフに ある程度詳しい紹介があり、より詳しくはWikipedia等ネット情報で。本作は、説明にもあるように「モスクワ芸術座からスターリン生誕60周年を記念した”スターリンの評伝劇”を書くように依頼される。その二年後、病気でこの世を去る。本作では、この晩年の二年間を描いている」とある。若かりし頃の内容は、彼の作品「犬の心臓」「巨匠とマルガリータ」という批判・風刺を用いて描いているよう。彼の生涯と作品が付かず離れず寄り添うように描かれ、その先に独裁者(国家)を見据えている。劇中 スターリンは登場しないが、演劇という虚構性をもって <詩>では民族を超えることができないが、<死>で国家建設を成し遂げる…そんな強く印象的な台詞を言わせる。まさに虚実綯交ぜの力作だ。

    劇団印象-indian elephant(鈴木アツト氏)は、「国家と芸術家シリーズ」という硬質 骨太作品を上演する前は、別の劇作 例えば子供向けや私小説の戯曲化だったと記憶している。常に新たな試み 挑戦をしており、先にも記したが 本作も違ったスタイルの評伝劇を模索している。自分的には好感が持てる仕上がりになっており観応え十分だ。
    (上演時間2時間10分 途中休憩なし) 追記予定

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    独裁者の作家の殺し方がリアルに納得できたなぁ と
    横長の舞台中央に観音開きの扉付き本棚があり
    左右中央等にテーブルや椅子などを配した舞台セットで
    当時風のへアースタイルとか服飾で
    干された作家と周囲の方々が
    独裁国家内で織りなす話であります

    2時間10分・・・長めっす
    全席指定

    ネタバレBOX

    中央の本棚がファンタジー空間で
    どこでもドアになってる風に
    そこから若きスターリンが出てきたりするのは
    とってもユニ~クで面白かった(^-^)

    世に影響力のある作家の無力化方法が
    リアルに進行表現されていたデス
    亡命は許さず殺したりする事も無く
    書くモノ書くモノ全てダメだしして監視を身近に付けて
    やる気気力を削いでゆく手段がえぐいなぁ と

    最初はスープを欲しがってるだけの
    ロシア語もわからない原人みたいなスターリンが出てきて
    だんだんと革命家になり
    ついには現金輸送車両を襲う計画まで立てて実行するのだが
    その襲撃芝居が演者さん達のりのりだった感じがしました
    毛色の違った演出で力を入れてたなぁ~って

    結局戯曲は完成せず
    眼を病み主人公は病死とあいなるのだが
    毒でも監視者に盛らせていたんじゃなかろうかとか思えたわ

    とにもかくにも
    中央部の本棚と舞台美術が強く印象に残ったのと
    ナルニア的な感じでしたんでーファンタジー好きだしー
    主人公が妙に とある芸能人に似てるなぁとも思えたデスな
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/07/28 (金) 14:00

    130分。休憩なし。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    本当にこの作家は天才だと思う。このレベルの新作を毎回書き下ろしていたら本来はもっと評価されないとおかしい。こういう作品こそ新国立劇場で掛けるべきだろう。
    劇団名は「印象」と書いて「印度の象」の意味だったりする。

    ロシア帝国キエフ(現ウクライナのキーウ)出身の作家ミハイル・ブルガーコフは1891年に生まれる。1917年3月、ロシア革命(二月革命)によりロシア帝国は崩壊。臨時政府と労働者・兵士の代表機関「ソビエト(評議会)」の二重政権状態に。1917年11月、「ソビエト」内の派閥「ボリシェヴィキ(多数派)」を率いたウラジーミル・レーニンが武装蜂起。臨時政府を打倒し新政府「ソビエト」を樹立(十月革命)。1918年からロシア内戦が本格化。ソビエト軍(赤軍)とそれに反旗を翻した白軍(はくぐん)=白衛軍。(反革命軍と呼ばれたが、彼等が反対したのはレーニンが権力奪取した十月革命に対して)。1922年に赤軍が勝利。1924年レーニンが病死。その後を継いだヨシフ・スターリンは自身の権力を絶対的なものにする為、人類史上最大級の虐殺を行なった。スターリン政権時代の犠牲者は約30年間で死者2000万人とも4000万人とも言われる。(虐殺者数トップは中国の毛沢東、ヒトラーは3位)。遠藤ミチロウは自身のバンドに世界で最も憎まれた男の名前を冠した。

    この激動の時代をスターリンと同時期に生きたミハイル・ブルガーコフ。医師から作家へと転身、劇作家としても多くの戯曲を残した。白軍に従軍した経験をもとに書いた処女長編『白衛軍』など。作風は社会風刺、体制批判、ソビエト連邦への痛烈な皮肉。かつての下層階級の屑が支配階級になって慌てふためくドタバタを笑った。勿論、発禁と上演禁止で追い詰められ、どんどん生計を立てられなくなっていく。

    物語は追い詰められたブルガーコフにスターリンの評伝劇の依頼が。かつてスターリンはブルガーコフのファンであり、『トゥルビン家の日々』や『ゾーイカのアパート』を15回観たとも言われる。特別に上演禁止から守ったとさえも。
    憎むべき独裁者を讃美する作品の依頼に葛藤するブルガーコフと、その周辺の芸術家達。

    こう聞くと敷居が高く難解そうな芸術作品だと身構えるだろう。だが全くのエンターテインメント。何でこんな話をメチャクチャ面白く味あわせられるのか?そこが才能、何か手塚治虫っぽさを感じる。登場人物一人ひとりのキャラが立っていて、それぞれの立ち位置と目的を観客に手早く理解させてくれる。スターリンだのソ連だの全く興味無くても存分に楽しめるように作られている。(勿論、知っていたら更に楽しめる)。才能とはここのセンスの違いなんだろう。本当に凄い。

    この作品では三つの物語が奏でられる。第一は前妻と妻がブルガーコフという天才に愛されることを願う話。彼の作品に関われることへの無上の喜び。第二はブルガーコフが自分が本当は何を描きたいのか自身の無意識の中にダイヴしてそれを探す話。第三はグルジア(現ジョージア)の田舎者、ソソの話。彼はロシア語が苦手でロシア人から犬のように扱われる貧しい青年。

    こういう作品を新作として味わえる幸福。
    是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    6年前に別れた前妻、リュボフィ・ベロゼルスカヤ役は金井由妃さん。彼女のキャラの面白さが観客をぐっと掴み、初期黒澤明映画の常連女優・中北千枝子を思わせる。
    現在の奥さん、エレーナ・ブルガーコフ役は佐乃美千子さん。阿川佐和子や香川京子を彷彿とさせるスラリとした美人。綺麗な人だった。個人的MVP。
    天才作家ミハイル・ブルガーコフ役は玉置祐也氏。どんどん太田光に見えてくる。
    舞台美術家の友人、ウラジーミル・ドミートリエフ役は二條正士氏。加瀬亮を美形にした感じ。
    モスクワ芸術座の女優、ワルワーラ・マルコワ役は矢代朝子さん。松島トモ子を思わせる強い目力。
    謎の幻覚の男、ソソ役は武田知久氏。若き柄本明と嶋田久作を足したような異形さ。彼が無学で愛らしい野良犬から、手に負えない悪夢のような巨大な化け物に変貌する様が今作の肝。戸棚から飛び出すシーンは興奮した。クローネンバーグのような日常から非日常が転がり出すシーンが巧い。

    会場は蒸し暑く、そのせいか居眠り客も多かった。具材を無理矢理鍋に詰め込み過ぎて、後半は生煮えの料理になってしまったようにも。
    もっと女性視点の話をメインにするべきだったとも思う。本筋とは一見関係ない女達の話の方が興味深かった。

    『ファウスト』のように想像力の限界に悩むブルガーコフをメフィストフェレス(代表作『巨匠とマルガリータ』を使うならヴォランド)が案内するスタイルも有り得た。時を遡りグルジアの貧しき詩人、ソソに乗り移ったブルガーコフ。赤いインクの代わりに人間の血を使い、紙の上ではなく世界に詩を刻んでいく。“鉄の男”と一体化し世界に向かって高らかに謳い上げる、己の鉄の意志を。そして自分が為したことにハッと我に返り現実に目が覚める。スターリンの昂揚とブルガーコフが一体化する必要があったと思う。その上での否定。

    ラストのスターリンとブルガーコフの対峙はカッコ良かった。失明したブルガーコフは「俺はこの暗闇をインクに詩を綴ってやる!」と宣言。殺戮の赤い詩を暗闇で呑み込んでやる、と。

    ちなみにブルガーコフの代表作、『巨匠とマルガリータ』はローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』の元ネタと言われている。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    戯曲としては、歴史もよく調べてあるし物語としても面白いし、最後の独白もとても熱くてよかった。心のきれいな少年が差別を受けた経験から(ほかにも理由はあるけど)独裁者になるというのは悲しくも人間的で、それに共鳴しつつ断固として愛さない・粛清を恐れない(書きたい)作家の姿勢も史実としてより人間として面白かったです。戯曲として、事実を並べるのではなく想像力で人間足らしめているのが素晴らしいと感じました。

    だからこそ、演技や演出が気になってしまいました。俳優の立ったり座ったりが、それが演劇的であるということに終始して選択されているように見えてしまったり、歴史上の人物としてデフォルメして演技してしまっているのでは?と感じたり。作品から飛び出していないのかな。まるで授業を聞いているよう。もう少し不真面目でもいいのかも?前作のカレルチャペックが、そういうところが端々に見えつつそそられたのは二條正士さんによるところが大きいのかもしれない。彼は今作でも生きているように見えました。武田知久さんの身体能力の高さ・柔さには驚かされました。自由でとても面白い。ご本人も面白がっていらっしゃるのでは。後半までその自由さと狂気さとをあわさっていけたら。

    舞台美術はシンプルながら目の形をはけ口等としてうまく取り入れているのが美しい。難しいですが花がたくさん出てくるところでもうすこし造花じゃなさ・土っぽさがあるといいなあと思いましたその他の衣装や道具が具象で重厚が故。リュボフィの赤に対してエレーナの緑もよかったし、全体的に深い色や茶色でまとめられているのも好きでした。リンゴや傘やお札が「赤」なのも象徴的でした。星空の照明や最後の照明が美しかったです。指定席はうれしいけど、イスが硬くておしりが痛かったです笑。仕方ない面もありつつ、100分くらいになったらもっと好きです。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

     作・演を担当している鈴木 アツト氏は役者上がりではない。これが原因か否かは不明であるが、ダメだしに役を生きるような演技をどれだけ出していたのかには興味が湧いた。演技にそれを感じることが余りできなかったからである。演劇は一旦上演が開始されてしまえば、役者の演技が勝負である。(追記7.30)華4つ星

    ネタバレBOX

     舞台美術のセンスが良い。板中央に目の形をした造形があり、瞳の処に書棚がある。この部分は恐らく回り舞台になっているのだろう。グルジアで若い頃詩を書いていたスターリンが、ソソという愛称で登場するが、これはブルガーコフの深層心理が造形した幻であり、ロシアに抑圧されたグルジアそのものであるから、犬のイマージュを纏って現れるが、ソソの書くグルジア語の詩に現れた詩想はこの戯曲中最も素晴らしい。但し詩は、詩才のある者にしか分からないという傾向を持つ文学の王であるから戯曲や散文とが混在する今回のような作品では極めて演出が難しい。然も描かれる時代は革命時代のソ連である。折角戯曲が良いのだから、演出はあまりスタンダードに拘らずもっと前衛的にした方が良かったと自分は感じている。例えばカンディンスキーの「コンポジッション」を舞台上に映写しつつ、シェーンベルグの「月に憑かれたピエロ」を流す等である。「コンポジッション」は絵画の構成要素である円、三角、四角等を恰もそれぞれが音符であるかのように軽妙に描き、今にもその各々の要素が踊りだしそうな感覚を齎す抽象画であるが、革命の齎す一種の高揚感はこのような作品で表し同時に「月に憑かれたピエロ」の持つ不気味で昏い詩想が齎すもの・印象を重ねるのである。このような操作を更に効果的にする照明とセットで用いたら更に舞台はその造形を深めたように思われる。大前提として眼を現した造形が板中央から観客席を監視しているのだから、オーウェルの「1984」の監視社会は、はなっから今作の不可欠の条件として予め視覚化されている。脚本にはゲーテの「ファウスト」を彷彿とさせるような内容も含まれることだし、ソポクレスの「オイディプス」に通じるシーンもある。詩想を舞台で現実化させる為には、このような奇抜な演出が大切だったと思うのである。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    初めて見る劇団だが、もう20年もやっているという。記念公演だ。主催者の鈴木アツトのカンパニーのようで公演数が少ないから見る機会がなかったのか、目立たないようにやってきたのか。作者にこれだけの力量があるなら、もっと注目されるチャンスはあっただろうにとも思う。
    スターリン独裁下のソ連の劇作家・ブルガーコフの話である。鈴木アツトは時代の罠に落ち込んだ芸術家の評伝劇をいくつか書いていて、これもその一作だ。芸術家の伝記というのは数々ある名作を引くまでもなく、演劇向きの材料だ。
    ソビエトの社旗主義国家という構想は今も人類の忘れがたい夢の一つで、ソ連の夢の後引きになったウクライナ戦争が泥沼化している現在、時宜を得た良い企画である。
    物語は、グルジア出身のスターリンが青年時代には現地語で詩を書いていたことを梃子にしている。あの愛に満ちた詩を愛した青年が、社会主義の理想に触れて、なぜ、世紀の殺戮者になったのか。スターリンは、自分の詩を封印してしまう。
    舞台では、頭角を顕しはじめたブルガーノフにスターリンの評伝劇を書くようにとモスクワ芸術座から記念公演のために注文が来る。スターリンの詩人性と、脇目も振らず全体主義国家構想への邁進したスターリンが、劇作家の中では融合していかない。作家自身の身辺の前妻と現在の妻との葛藤、飼い犬と劇作家の関係、モスクワ芸術座の見事なまでの忖度ぶりと変節が、巧みな劇作術の中で展開していく。この実話性は一部は聞いたような記憶もあるが、そこはどうでも良い。今の時代につながる現代の芸術家の当面する現代の病癖をドラマにしている。ほどよい前衛性もあって、忘れ去られている後期ソ連時代に現在の後期アメリカ資本主義が重なってくる。知的な構成で、変なキャンペーン性などまるでないところも見事である。戯曲はうまいものだ。
    しかし、この作品を生かすには、表面に立つ、演出・演技が戯曲に遠く遙かに及ばない。それでも、一応満席になっていたのはひとえに戯曲の力である。そのほかの点は一つ一つ悪口を言うのは止めるが、この本を、文学座のアトリエで今、旬の女性演出家の手で見られなかったのは残念というしかない。30歳代の若い作家たちはかつての新劇の運動性とは無縁である。劇団運営も演出も得意ではないだろう。この惨憺たる俳優陣にもどう言えば良いか解らなかったのではないだろうか。戯曲を他者に渡すという共同作業が出来るオープンな場を積極的に作ることがこれからの日本演劇の課題だろう。



  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    本作で取り上げられるブルガーコフの名前を聞いたとき、この人ってSF作家じゃなかったっけ?という記憶があり、説明文にある評伝本を依頼されるような作家というイメージとうまく結び付かず、なんだかモヤモヤ。かなり前に文庫本で何かを読んだ覚えがあるのだが、ネットで出てくるこの人の文庫本の表紙画像を見てもそれらしいものがない。ならばと部屋を探しまくって、ようやくそれが創元から出た『ロシア・ソビエトSF傑作集』というアンソロジーで、読んだのはそれに収録されていた「運命の卵」だったと分かった。この舞台を観る前につい読んでしまったのだけど、読まずにというか、この人の小説を忘れていた状態で観た方が素直に楽しめたかも。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    作家を通した壮大なストーリー
    見応えがありました

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    ブルガーコフなんて、マイナーな作家をよく引っ張り出してきたものだと思っていた。見てみると、なかなかスリリングで深い芝居で、シリーズ第1弾のケストナー以来の秀作である。受付で、戯曲を本にして売っていたのも、この劇団では初めてで驚いた。作者の確実なステップアップを喜びたい。

    「巨匠とマルガリータ」は河出世界文学全集で読んでいたので、ブルガーコフとスターリンの関係は知っていた。しかし、スターリンの評伝劇をモスクワ芸術座から頼まれて書いたとは知らなかった(同書解説にあるが、読み飛ばした)。当局は、どういうつもりで、反体制作家ブルガーコフを選んだのか。最初から上演させないつもりで、ぬか喜びびさせるために依頼したのだろうか。スターリンは知らなかったわけはない。

    よく芝居で寝てしまう連れは、今回は舞台に見入りっぱなし。「一つ一つの台詞がよかった。一言も聞き漏らすまいと、2時間10分集中して、全然眠くならなかった」と興奮気味だった。

    ネタバレBOX

    最初、虐げられたグルシアの犬として出てきた男ソソが、実は若き日のスターリンという仕掛けは見事だった。その男が詩人であり、プーシキンに学び、その分際にレーニンが目をつける……。歴史の皮肉である。

    ブルガーコフは自分の評伝劇「バトゥーム」の穏便さに飽き足らず、ソソに「血が足りない」と指摘されて戦慄する。そんなものは書きたくないし、書けば上演の芽も消える。しかし、スターリンが血と暴力へと踏み込む決定的瞬間へと、一歩一歩近づいていく。コーカサスの市場で現金輸送馬車を若いソソの作戦で、女たちが襲う。狭い舞台でのリアルと象徴が混在する場面だが非常にスリリングで、この芝居の白眉だった。

    ブルガーコフの周囲が、若い演出家も、妻も、当局の監視役だったというのも暗然とさせられる。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/07/25 (火) 14:00

    座席1階

    医師から劇作家に転身したミハイル・ブルガーコフの評伝劇。スターリンの評伝劇を書くように頼まれてからの人生を描いた。力作ではある。だが、やや難解でもあった。

    何せ、自分に反対するものはすべて粛正してしまう独裁者だ。劇中ではスターリン自身は出てこないが、当時の息苦しさは十分に伝わってくる。表現の自由、言論の自由がない世の中というのは、芸術があったとしてもちっとも楽しくない生活であるというのはよく分かる。
    そんな中で、革命家である前は詩人であったというスターリンの詩を、世の中を明るく照らす力としてあでやかな花束に託して舞台で表現してみせた。役者たちによるこの表現力が卓越している。

    この劇作家の思いを反転させるような役割を果たす「犬」の存在は面白い。苦悩や喜びなど胸の内を叫ぶように表現しながら舞台を引っ張っていく。ただ、せりふにのめり込んでいくと頭の回転が追いつかないようにも感じた。百年近く前のソ連という舞台だからスッと頭に入ってこなかったのか。

このページのQRコードです。

拡大