7/13-7/19『ON THE WAY HOME』(黒澤世莉演出) 公演情報 7/13-7/19『ON THE WAY HOME』(黒澤世莉演出)」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.2
1-7件 / 7件中
  • 満足度★★★★★

    主演男優賞モノ。
    優しい印象の時間堂以外での黒澤さん演出、初見です。丁寧さや繊細さはそのままに、重厚で湧き上がってくるような底力のある演出。派手なセットは一切無く、美しい照明と役者の力で魅せる辺り、凄い、と感嘆しました。
    主演の菅野貴夫さんはその緻密で思慮深い演技力を遺憾なく発揮して、驚愕に値する存在感で圧倒。もし小劇場アカデミー賞があるとしたら、今年の主演男優賞は間違いなく菅野さん。戦争の真っ只中を兵士として生きてきた人間の思いや覚悟を、静かにしかし滾るような熱情で、リアルタイムでの感情表現と回顧する人間としての感情表現を演じ分けながら見事に体現していました。
    力のある作り手による、重いながらも忘れてはいけないテーマのお芝居を、暑い夏の日に観ることが出来て心から嬉しかったです。

    ちなみに数少ない小道具のほとんどが、銃であったりナイフであったり拷問道具であったり・・・人が人を傷つけるために作り出したもの、ということが偶然かも知れないけれど印象的でした。

  • 満足度★★★★

    梶野春菜さん
    どちらの役も魅力的です。

  • 201007151920
    観劇

  • 満足度★★★★

    丁寧に作られたシーンの力
    シーンの一つずつがとても丁寧で、
    それぞれに色を持っていて・・・。

    語られる物語に込められた思い・・。
    その質感に強く引き込まれました

    ネタバレBOX

    冒頭の「アカシアの雨がやむ時」というのは、
    その時代を象徴する歌といわれていたそうです。

    高度成長期に、義理の娘に初老の男が語りかける
    終戦時のエピソードという体で
    紡がれる物語・・・。

    息子のエピソードなどもイントロにしながら、
    終戦後の
    とある島からの帰国の物語が綴られはじめます。

    ひとつずつのシーンがすごく丁寧に作られていて、
    そこに風景の色や、その場の空気などもしっかりと描き出される。
    それぞれのシーンに
    空気だけではなく、
    温度や光までもが写り込んでいるように感じる。

    義父から娘に語られるという物語の枠があるから、
    物語の展開から浮かんでくる、
    個々のシーンの色の変化が
    拡散していかない。


    教師や日本人会会長、さらに山師たちの行動などにも
    実存感があって、
    その場をお茶をのむ舅と嫁の世界から
    物語ひといろに染め変えていく。

    雲を眺める二人の女性の会話に、
    ゆったりとした時間を感じて・・・。
    英字新聞から自らのふるさとの惨状を知る場面に、
    心の揺らぎが伝わってきて・・・。

    そして、噺を聴いていた嫁が
    物語にとり込まれていくことにも
    違和感がないのです。

    膨らんでいく物語の内側に入り込んだ
    戦時の狂気が降りてくる感じにも説得力があって。
    特攻や花と散るといった感覚の
    とりつかれたような狂気の質感が
    見事に形成されていく。
    どこか短絡的な部分と
    感情にとりつかれていく姿が
    舞台上を占有する・・・。

    その感覚の温度と薄っぺらさが観る側をも押し込んでいるから、
    舞台が物語を抜けて、
    舅と嫁の会話に戻った時、
    日本人たちが抱いた感覚に思い当たる・・。

    多分、文字でも絵でも表現しえないような、
    「アカシアの雨・・・」の時代、
    さらにはその時代にはまだ残っていたであろう
    今では想像すらしにくいような
    終戦前後の時代の残滓に浸されて。

    黒澤演出とそのトーンを作りきった役者たちの力に、
    ゆるやかにやってきて深くとどまる感覚を
    味わうことがきました。

  • 満足度★★★★

    もう一度観たい
     ひとつの戯曲を、演出家とキャストを変えて週替わり4パターンで上演するという企画。トップバッターの今週は時間堂主催 黒澤世莉演出。
     時間堂を観ていると、場面に吸いよせられることがある。
     丁寧に丁寧に物語を積み重ねたバランスの上で、突如、という感じでそれは起きる。
     うまく表現できないのだけど、時間の流れがゆっくりになって、質量のあるものないものすべてが舞台上のある一点にスゥーっと集まっていく。そんな感じだ。今日もあった。
     なんだかわからないが、とにかくわたしはその瞬間が好きだ。

     太平洋戦争がおわって65年。
     戦争というと、真っ先に戦闘を連想してしまうけれど、殺しあいは戦争のほんの一側面でしかないのだなあと、唸るような脚本になっている。そして、多様な側面を置き去りにして戦争を論じるのは、愚かなばかりか危険だということを暗に諭してくれるような作品であった。
     まだ2日目で、正直、俳優さんたちの演技にはかなりの差がある。舞台のつくりが非常にシンプルで、演技力命だから、ちょっとぐらつくと何もかもが嘘っぽく見えてしまう。大変だ。
     主演の菅野貴夫さんと、食堂のおかみを演じた木下祐子さんが、びくともせずに立て直し続けていたのは印象的だった。2人のちょっとしたしぐさ、短い一言で、全員の存在を信じられるっていう、これはもう超人的な演技力だと思う。
     他の演出家さんの舞台を観たくなったのはもちろんのこと、できれば黒澤バージョンももう一度観たい。

  • 満足度★★★★

    ドンキホーテを彷彿とさせる
    戦争は終わってるのに、桜木の中では終わってない軍人魂と他の日本人らの物語。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX


    南太平洋の小島スタボラでは戦闘を知らずに緩やかに暮らしていた日本人達がいた。ある日、彼らは終戦を知り日本を目指して船出する。しかし船は太平洋の真ん中をグルグル、グルグル回っているだけで一向に日本を目指している気配がない。そんな中、軍人だった船長の桜木だけが日本に帰らず船ごと太平洋の真ん中で散らせようとしていた。

    日本に居た頃の桜木は優秀な軍人で、語学が堪能だった事が仇となってスパイ容疑をかけられていた。後に容疑は晴れたが、軍隊に戻れなくなった彼はスタボラ島に配属されたのだった。そんな経緯もあって軍で培った軍人魂は未だ抜けることなく桜木の中で培養されていた。マインドコントロールされた精神から「日本が負けるはずはない。そんなことがあって良い筈がない。この船こそが日本だ。共にいざ、潔く散ろうじゃないか、国の為に死ぬのが誇りだ。」などとのたまう。

    挙句、現地人のハイマと迫田を自分の意のままにコントロールし配下に置いてしまう。小さな軍隊の出来上がりだ。笑
    そして眼の前に見えた孤島を敵と間違えて機関銃を連発させる。前の時代の幻想にへばりついて己を見失い、真実を見ようとしないさまは、まるでドンキホーテのようだった。

    このように日本に帰還するまでの情景を、今は日本で緩やかに暮らす桜木が息子の嫁を相手に昔話として聞かせる。セットは中央に置かれたマットのみ。なのに太平洋の大海原を危なげに泳ぐ船の画や孤島スタボラの情景が見事に想像できるのはキャストらの演技力と脚本力、照明の技に尽きる。

    劇中、ウケ狙いでアドリブの小ネタを披露していたが、見事にスベッテいた。苦笑!
    現代の家族構成、マサオ(実息子)との確執も織り込みながら、息子の嫁と桜木の会話が微笑ましい。
    相変わらず菅野の演技力に唸る。そしてエリ演じる木下裕子の凛とした静けさの中に潜めく気丈さは「日本の女」の代名詞のようだった。キャストの中にはセリフ噛みが目立った輩もいたが、それをカバーするキャストらの全体的な演技力が勝ったチームだった。
  • 満足度★★★★

    若者にも受け入れられる戦争ドラマ。
    シアターKASSAIという今年5月にオープンしたばかりの劇場のオープン記念企画、ONE THE WAY HOME というひとつの作品を4人の演出家がそれぞれの役者を使って上演するという面白い企画。

    私が観たのはその中のトップバッター、時間堂黒澤世莉の演出作品。多分4団体の中で一番若手グループであろう黒澤チームは台本を大幅に脚色して、黒澤版ONE THE WAY HOMEに仕上げた。

    戦争を題材にしたドラマでありながら、至るところでPOPな演出を試み、若い人にも伝わる戦争ドラマに仕上げた。

    役者では桜木を演じた菅野貴夫が当時の日本人の典型的人物を見事に演じた。前回JACROWでは浮気性の軽い男を演じたばかり。今回は徹底した硬派。それぞれ見事にはまっており、演技の幅の広さにただただ感心。また女優の梶野春菜が二役をやったが、その変わり身も見事だった。

    決してじめじめした作りにせず、笑いどころも満載ながら、骨太の部分はしっかりと伝えるという作り。時間があればもう一度観てみたい。

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