満足度★★★★★
主演男優賞モノ。
優しい印象の時間堂以外での黒澤さん演出、初見です。丁寧さや繊細さはそのままに、重厚で湧き上がってくるような底力のある演出。派手なセットは一切無く、美しい照明と役者の力で魅せる辺り、凄い、と感嘆しました。
主演の菅野貴夫さんはその緻密で思慮深い演技力を遺憾なく発揮して、驚愕に値する存在感で圧倒。もし小劇場アカデミー賞があるとしたら、今年の主演男優賞は間違いなく菅野さん。戦争の真っ只中を兵士として生きてきた人間の思いや覚悟を、静かにしかし滾るような熱情で、リアルタイムでの感情表現と回顧する人間としての感情表現を演じ分けながら見事に体現していました。
力のある作り手による、重いながらも忘れてはいけないテーマのお芝居を、暑い夏の日に観ることが出来て心から嬉しかったです。
ちなみに数少ない小道具のほとんどが、銃であったりナイフであったり拷問道具であったり・・・人が人を傷つけるために作り出したもの、ということが偶然かも知れないけれど印象的でした。
満足度★★★★
丁寧に作られたシーンの力
シーンの一つずつがとても丁寧で、
それぞれに色を持っていて・・・。
語られる物語に込められた思い・・。
その質感に強く引き込まれました
満足度★★★★
もう一度観たい
ひとつの戯曲を、演出家とキャストを変えて週替わり4パターンで上演するという企画。トップバッターの今週は時間堂主催 黒澤世莉演出。
時間堂を観ていると、場面に吸いよせられることがある。
丁寧に丁寧に物語を積み重ねたバランスの上で、突如、という感じでそれは起きる。
うまく表現できないのだけど、時間の流れがゆっくりになって、質量のあるものないものすべてが舞台上のある一点にスゥーっと集まっていく。そんな感じだ。今日もあった。
なんだかわからないが、とにかくわたしはその瞬間が好きだ。
太平洋戦争がおわって65年。
戦争というと、真っ先に戦闘を連想してしまうけれど、殺しあいは戦争のほんの一側面でしかないのだなあと、唸るような脚本になっている。そして、多様な側面を置き去りにして戦争を論じるのは、愚かなばかりか危険だということを暗に諭してくれるような作品であった。
まだ2日目で、正直、俳優さんたちの演技にはかなりの差がある。舞台のつくりが非常にシンプルで、演技力命だから、ちょっとぐらつくと何もかもが嘘っぽく見えてしまう。大変だ。
主演の菅野貴夫さんと、食堂のおかみを演じた木下祐子さんが、びくともせずに立て直し続けていたのは印象的だった。2人のちょっとしたしぐさ、短い一言で、全員の存在を信じられるっていう、これはもう超人的な演技力だと思う。
他の演出家さんの舞台を観たくなったのはもちろんのこと、できれば黒澤バージョンももう一度観たい。
満足度★★★★
若者にも受け入れられる戦争ドラマ。
シアターKASSAIという今年5月にオープンしたばかりの劇場のオープン記念企画、ONE THE WAY HOME というひとつの作品を4人の演出家がそれぞれの役者を使って上演するという面白い企画。
私が観たのはその中のトップバッター、時間堂黒澤世莉の演出作品。多分4団体の中で一番若手グループであろう黒澤チームは台本を大幅に脚色して、黒澤版ONE THE WAY HOMEに仕上げた。
戦争を題材にしたドラマでありながら、至るところでPOPな演出を試み、若い人にも伝わる戦争ドラマに仕上げた。
役者では桜木を演じた菅野貴夫が当時の日本人の典型的人物を見事に演じた。前回JACROWでは浮気性の軽い男を演じたばかり。今回は徹底した硬派。それぞれ見事にはまっており、演技の幅の広さにただただ感心。また女優の梶野春菜が二役をやったが、その変わり身も見事だった。
決してじめじめした作りにせず、笑いどころも満載ながら、骨太の部分はしっかりと伝えるという作り。時間があればもう一度観てみたい。