遊民の観てきた!クチコミ一覧

1-20件 / 210件中
天の秤

天の秤

風雷紡

小劇場 楽園(東京都)

2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

様々な点で考え抜かれ作り込まれた舞台だと感じた。
開演前のBGM、劇中での言葉遣いや会話の内容、客室乗務員の制服は「時代」を感じさせる。コックピットを模した舞台装置、冒頭の機内アナウンス、音響や照明、そして「楽園」という劇場が持つ濃密感そのものが飛行機内という「場」を感じさせる。
必定、観客は「よど号」の乗客と化している。臨場感や緊迫感が半端ない訳だ。

物語は歴史的事実を正確に追いながら、登場人物の心の機微にも触れていく。速いテンポのセリフの応酬はますます緊迫感を高める。演者さんたち、見事だったな。犯人役の杉浦さんは口角泡を飛ばしていたし、客室乗務員役の吉水さんは終始、目が潤んでいるように見えた。運輸大臣役の斎藤さんの狡猾さも見ものだったし、指導教官役の下平さんのらしさも光っていた。

そして何より吉水さんの脚本がなければこの作品はこの世に生まれてこなかった訳です。脚本の力を改めて感じました。

観終わった時には何時間も経過していたように感じた(大げさでなく)のだが、劇場を出て時計を見たら2時間経っていなかった。これぞ舞台のマジックだ。映像では決して味わうことのできない感覚。これは演劇初心者の人に観てもらいたい作品だなあ。



いちかと華子~ばあちゃんの匂いと宝物~

いちかと華子~ばあちゃんの匂いと宝物~

東京カンカンブラザーズ

ザ・ポケット(東京都)

2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

老舗クラブ『アカシア』を彩る人々をキャストの皆さんは魅力的に演じていたし、一つの世界が出来上がっていたと思う。反面、脚本は少々空回りしていた印象をぬぐえない。

全体的に見ると、短いエピソードをいくつもつなぎ合わせて一つの物語にしたようで流れがスムーズでない。メインキャストの「いちか」及び「華子」と亡くなった祖母との生前の交流が描かれていないため、クライマックスの再会(?)のシーンで感情移入できない。祖母の化身である新人ホステス(月下ひまり)の登場が唐突だし、彼女がいくらか大人びた物言いはするものの祖母を感じさせる何か(言葉遣いとか立ち居振る舞いとか)が表現されていたのかわからない。(観ている方はそもそも祖母がどんな人だったのか知らない)「香水の匂い」や「娘に対する呼び方」で孫たちに祖母と気付かせるのはいかにも即物的で興を削がれる。

以上、思いつくまま気付いたことを書いた。ハートウォーミング的な作品に仕上げたかったのかも知れないがそこまでたどり着いていなかったように思えてならない。もっと情緒が欲しかった。


イノセント・ピープル

イノセント・ピープル

CoRich舞台芸術!プロデュース

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/03/16 (土) ~ 2024/03/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

外国人が登場する芝居は翻訳劇だという思い込みがあった。だがこの作品は日本人の脚本でアメリカ人を描き、それを日本人の役者が演じるという極めて珍しいパターンだ。さらに、作品に登場するのは原爆製造に関わった科学者たちとその家族。私などは原爆と聞けば広島、長崎の惨状がすぐ思い浮かぶだけで被害者の視点でしか見てこなかった。それを加害者であるアメリカ側の(それも原爆製造の当事者) 視点から描こうというのが画期的だ。これらは特筆すべき点だろう。日本人を悪し様に言うシーンなどはインパクトがあってすごく嫌な気分になった。

役者陣には各々の役柄を深く掘り下げ、それを忠実に体現しようという姿勢が強く感じられ、重いテーマとも相まって舞台に独特の緊張感が漂っていた。観ているこちらも自然と居住まいを正し舞台に集中でき、ある意味とても心地よい緊張感だった。

ネタバレBOX

印象に残ったのは何といっても最終章である加害者側のブライアンと被害者側のタカハシが対峙するシーン。被爆地の惨状が語られた後の「謝罪はないのか」のタカハシの問いかけに口ごもり何も答えられなかったブライアン。その時彼の胸に去来していたものは何だったのか。そして孫娘のハルカとの初対面。彼女は身籠っている。なんとブライアンはゆっくりと彼女に近づきながらその腕を真っ直ぐにそのお腹に伸ばしている。
何ということだろう。生まれ来る命には慈しみを持って迎えようとしているのに原爆の犠牲になったあまたの命については一顧だにしない。彼は先祖から繋いだ命を3代先まで繋ごうとしている。片や自らの命も全うできなかった人々のことを想わずににいられない。これが戦争という魔物が生み出した歪んだ「イノセンス」なのか。人間の持つ二面性を鮮やかに描き出している。

最後、ブライアンがハルカのお腹に触れる寸前で暗転となり、銃声(?)のような音がしての幕切れ。彼に鉄槌が下されたのだろうか?。いずれにしても心に残るラストだった。

この機会がなければ出会えなかったであろう作品。感謝です。今後のCoRich舞台芸術!プロデュースに期待します。
オプティーマへようこそ!

オプティーマへようこそ!

A.R.P

シアター・アルファ東京(東京都)

2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

皆さん仰るように王道の青春ストーリーではあるが、実際に舞台作品にするとどれだけ観客に伝えられるかというのは難しいところだろう。だがこれを見事に舞台上で体現して見せてくれた俳優陣、ダンサー陣に心から拍手を送りたい。登場人物それぞれのキャラが確立されていたし、ダンスも半端なく素晴らしかった。各演者の持つパワーが結集して舞台上からとてつもないパワーが放たれていた。

好きなシーンがある。オプティーマのオーディションでMVPを受賞した夏美たち4人が踊るシーン。踊っている途中で彼女がそれまでかけていた眼鏡を右後方に投げるシーン、これにはシビれた。見せかけの自分を脱ぎ捨て本来の自分に生まれ変わったのだ。
極上のエンタテインメントを堪能しました。次回作も期待します。

Family~冬は君を真っ白に染める~

Family~冬は君を真っ白に染める~

ヒューマン・マーケット

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2024/01/23 (火) ~ 2024/01/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

Familyシリーズは前回が初見だが、今回は前回感じたホームドラマ特有のアットホーム感がなく残念だった。それは単純に登場する家族が「鈴木家の父と長男」1組だった(前回は鈴木家の夫婦、佐藤家の兄弟、リカーショップ「二木」の夫婦の3組)こと、また作品のテーマがややシリアス寄りだった為だろうか。

その他気になったのは前々回位から登場の謎の黒づくめの女の正体が明かされたこと。以前鈴木商会に勤めていた「ゆうみん」なる営業担当の女性の姉だという。(彼女はホームページの人物相関図には載っていない)謎の女がしつこく鈴木商会のバイト面接に来た理由も明かされるが、なんだかボヤっとしていて判然としなかった。
それでいえば、鈴木家の長男、高信が1年ほど失踪していて帰ってきた理由もなんだかわかったようなわからないような感じだった。佐藤家次男、正夫の 恋人の登場もなんだか唐突で今回の脚本には納得いかないところが多かった。

ストレンジャーズ イン ザ ナイト

ストレンジャーズ イン ザ ナイト

スラステslatstick

駅前劇場(東京都)

2024/01/16 (火) ~ 2024/01/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これは必要最小の出演者と舞台装置で、SF映画の世界を舞台で再現しようとした画期的な試みである。

物語自体は作・演出の入江氏が当日パンフで「プロレス好きの中学生が考えたようなストーリー」と書かれているようにある程度展開が見えている分、面白みに欠けていたように思う。だがその分、役者陣の熱演がそれを補って余りあった。特に野口かおるさん。その独特の表情やセリフ回しは昔と寸分違わず、いやむしろパワーアップしていた。(今作の役柄のせいもあるだろうが)

当日パンフで中村なる美さんが書かれていた「お芝居に対する愛」、感じましたよ。

GIRLS TALK TO THE END vol.4

GIRLS TALK TO THE END vol.4

藤原たまえプロデュース

OFF OFFシアター(東京都)

2023/11/01 (水) ~ 2023/11/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

今シリーズを初観劇。期待はしていたけど想像のはるか上を超えてきた。傑作です。後半の怒涛の展開たるや...。一瞬たりとも目が離せない80分。「括目せよ」って感じです。

実は劇場がOFF・OFFシアターと知って「代表作なんだし、もっと広いところでやればいいのに」と思っていたのだが、いやはやとんでもない、このキャパがベストマッチなんだと観終わってから思う。女子6人の会話を覗き見ているようではないか。前回のvol.3はシアター711だったようだが、あそこは多少奥行きがあるからOFF・OFFの方が舞台と客席が近くてこちらの方が相性が良かったかもしれない。何しろこの作品はセリフは言うに及ばず、役者の表情の変化も見逃せないのだ。
そういえばこの間『演劇ターン』を読んでいたら、ある団体を主宰する女優さんが「この作品は絶対この劇場でやりたいと思った」みたいなことを書いていたことを思い出した。作品と劇場の相性ってあるんだな。

小劇場演劇を愛するすべての人に見てもらいたい作品だけど、小さい劇場で公演期間も短いし、せめて末永く再演を重ねてもらうことを切に願う。最高でした!



 

とのまわり

とのまわり

山田ジャパン

シアター・アルファ東京(東京都)

2023/10/04 (水) ~ 2023/10/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

芝居全体を通してみると、コメディ感がプンプンするくらい匂うのに終盤の肝心なシーンでは観客の心をグッとつかんでくる何とも不思議な魅力に満ちた舞台。もし、自分が余命わずかだったらどうするだろうかと考えさせられた。やっぱりこういうシンプルでストレートなメッセージが一番観るものに届くのかもしれない。

話は飛ぶが昨日、亡き奈良岡朋子さんのドキュメンタリー番組の録画を観ていたら、彼女の口から『芝居臭い』というワードが何回か出てきた。常々、芝居臭くならないように心掛けていたようだ。そういう意味では、役者が肩の力を抜いて芝居臭くない芝居を見せてくれたように思う。

普通じゃない普通

普通じゃない普通

劇団水中ランナー

駅前劇場(東京都)

2023/07/05 (水) ~ 2023/07/10 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

葬儀場に偶然居合わせ家族に、いかに自然に会話が生まれ、そこにドラマが成立していくのかが最大のポイントだと思いながら観始めたのだが、私の目には不自然な感じが最後まで拭い去れなかった。加えてテンションが高い登場人物が多く(特に小林家の次男の代行を務めた新原などは泣き上戸にも程がある。これじゃコントだよ。)落ち着いて観ていられなかった。終盤になって、タイトルにつながるようなシーンや新原英太郎の役割が明らかになって、いろいろ考えて創作したんだろうなあ、とは感じたが、全体的にもドタバタしていて作家の意図が伝わりづらい。

チョビ

チョビ

ここ風

シアター711(東京都)

2023/07/05 (水) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

現在と過去を交錯させながら、主人公チョビと彼女を取り巻く仲間や家族を淡々と描いていく。さして大きな事件が起こる事もなく、ありふれた会話、日常風景が続き、この先どうなることやらと思っていたが終盤になってそれが杞憂であったことを思い知らされる。登場人物各人のキャラクターとチョビとの関わりを丁寧に描くことでラストのどんでん返しが生きてくるという訳か。この不意打ちを喰らって完全に持っていかれる感覚を舞台で味わったのは十数年ぶりのだろうか。(東京セレソンDXを思い出す)

とは言え、惜しむらくは結論に至るまでの物語の道程に起伏が少なく多少冗長に感じる点。笑いの要素を増やすなり、エピソードを差し挟むなどピリリと効いたスパイスが欲しかった。

何はともあれ「風味絶佳」の作品であることは間違いない。ごちそうさまでした。

黒星の女

黒星の女

演劇ユニット「みそじん」

吉祥寺シアター(東京都)

2023/06/30 (金) ~ 2023/07/02 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

出演者が女性だけの芝居は久しぶりだ。女性が本来持つパワーや明るさが、個性的なキャラクターたちによって存分に発揮されていて楽しい。彼女たちの「孤独」が刑務所という閉鎖的な空間で奇妙な「連帯」を生み出すという物語の流れもスムーズだ。それぞれの犯行に至る経緯が劇中劇で紡がれるが、人間の「弱さ」をまことにわかりやすく描いていて興味深い。(女子高生の自殺を止めようとする「こと美」の件は他のエピソードより長めに感じた。)一人四役の大石ともこの奮戦に拍手!。 

独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

千秋楽の《Team葉》を観劇。
初日のコメントでこのチームの演技の硬さが指摘されていたが、楽日はテンポよく観ていて特に気になる点はなかった。私自身、ファンタジーには興味が湧かないので、物語自体をどうこう言うつもりはないが、奇抜な服装や声高な会話は「奇妙な世界」を表現するには十分だったと思う。今回の収穫はアタシ(アリス)を演じた花房里枝さん。歌も良かったが、終盤の独白シーンの最後のセリフ、「一人でも笑って生きていくわ」(正確に覚えていないがこんなニュアンスだった)。これが圧倒的な説得力で軽い衝撃を覚えた。今後の彼女に注目したい。
この団体の鑑賞は今回で3作目だが、毎回、作品の持つ魅力を最大限に引き出し観客に提示しようとする姿が感じられるし、キャスティングの妙も光っている。

Family~明けてほしくなかった梅雨~

Family~明けてほしくなかった梅雨~

ヒューマン・マーケット

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2023/06/13 (火) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「Family」シリーズ、初観劇。観劇中は鈴木家と佐藤家がごっちゃになっていたが後で当日パンフで理解した。確かに分かりやすい芝居で最後まで楽しめた。

ネタバレBOX

照明の暗転や音響がない舞台は極めて珍しい。でもセリフのテンポ、役者の出入りのタイミングがいいので不足感はない。物語はちょっとして事件が起こったりしてホームドラマにありがちなパターンだが、(ちょっとクサいけど)素敵なセリフが散りばめられていたり、個性的でひたむきなキャラクターを役者陣が好演していて、スッと心に入ってきてジンワリ浸み込んでいく佳作になっている。全身黒ずくめの謎の女がいい触媒になっており、まさに“雨降って地固まる”だ。今後の展開にも期待したい。
「その先の闇と光」

「その先の闇と光」

ISAWO BOOKSTORE

雑遊(東京都)

2023/06/03 (土) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

A「壁の向こうの友人」B「明日は運動会」を観劇。
実際に起こった事件を題材にし、それぞれある一つの視点から描くことによって事件の本質なり、(大げさに言えば)日本社会の実像が描かれており目を見開かされる。Aは死刑制度の是非について、Bはマスコミ報道の在り方について、それぞれ考えるいいきっかけになったと思う。
ただそれぞれを一篇の物語として捉えた時に、もどかしさだったり釈然としない感情を抱いてしまった。Aでは被害者の兄が犯人に対して(タイトルにあるように)まるで友人に語り掛けるような口調だった。最後の面会で、何回も面会した理由と合わせてその理由にも言及していたがあまりに複雑な感情で理解することができなかった。これについては実際に被害者の兄が書いた手記が出版されているので是非読んでみたい。
Bは加害者の4人の子供たちが久々に集まった(長男が集めた)家族会議の目的が母の冤罪を兄弟全員で動画で投稿しようというもの。この設定自体何かピンとこなかったし、物語の落ち自体が決まっているので、自然と会話の中に興味を引かれそうなことを探すのだが不覚にも途中で眠気が襲ってきて、肝心な長姉の台詞を聞き逃してしまった。無念。いずれにしてもなかなか出会えない社会派(嫌な表現だが)の作品を観劇できたのは貴重な体験だった。
 

立ちバック・トゥ・ザ・ティーチャー

立ちバック・トゥ・ザ・ティーチャー

Peachboys

ザ・ポケット(東京都)

2023/04/19 (水) ~ 2023/04/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初見で相当期待して観たが少し残念な印象。まだバカになりきれていない。「これからバカやりますよー」といってバカやっている感じ。お行儀のよいバカである。(丁寧な前説にも象徴されている)ギャグは笑えるものもあるがそうでないものも散見される。下ネタはそれほどでもない。物語はグダグダで頭に入ってこない。などなど全体的に中途半端な印象。

短時間だが2部のレビューショーの方が断然よかった。「やれたのに」のネタが好きだった。今回、女優陣が皆輝いていた。特に永吉明日香さん。「この娘、誰っ?」と思ったらこの作品で引退だなんて残念至極です。

播磨谷ムーンショット

播磨谷ムーンショット

ホチキス

あうるすぽっと(東京都)

2023/04/07 (金) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

ホチキスは十年近く前に一度観たきりだったが、今回は前回とは多少印象が違った。前回の「観てきた!」で“観終わって「なんだか、劇画から抜け出た人物たちによる芝居を観た」様な不思議な感覚に襲われた。”と綴っていた。今回はそれよりも数倍劇画チックで、私の場合「ついていけない感」が勝っていた。まあそこがこの団体の真骨頂なんだろうが。笑いの取り方も少々強引な感じで好みではなかった。ただ、効果音や照明を含めて完成された舞台であることは確かだ。 

幸福論

幸福論

wonder×works

新宿シアタートップス(東京都)

2023/03/15 (水) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

作品のテーマもさることながら、事態が紛糾する展開や主人公の小児科医、三谷昇の迫力ある物言いに気圧されるようで、観てるだけなのに終演後、軽い疲労感に襲われる。それだけ今起きている現実をリアルに切り取っているということだろう。思い通りにいかないのだ。
それにしても三谷は何故、町の核のゴミの最終処分場候補地の立候補に頑強に反対し続けたのだろうか?。何が彼を突き動かしているのか。私には冒頭からこの事が謎だった。物語が進むにつれ、どうやら幼い娘の死が大きく関係しているのではと思い至った。娘は病院で亡くなったっというだけで、事故とも病気とも、またはその他の理由とも死因には言及されなかった。
後半、自宅の庭先で行った反町長の集会で彼の「これ以上犠牲者を出したくない」という発言があった。町議の上光が「犠牲者とは誰なのか」と問うたが答えはなかった。犠牲者とは娘のことではなかったのか?また、集会が終わり庭の花を踏み荒らすように帰っていく住民に憤り三谷夫妻の大家、由紀江が「公民館でもどこでも他で集会をやれなかったのか」の問いに三谷の妻、結花が「どうしてもここでやりたかった」ときっぱりと返す。娘との思い出が詰まったこの家でやりたかったという強い意志の表れではないのか。このように物語の余白(語られなかった部分)に思いを馳せるのも興趣があるというものだ。
町長選挙は現町長の再選というかたちで反対派の敗北に終わった。三谷夫妻は町に留まるようだ。ラスト、床下から娘の宝物だったビー玉を見つけ愛おしそうに眺める二人には輝くビー玉の先に一筋の光を見出すことができるのだろうか。

カミサマの恋

カミサマの恋

ことのはbox

萬劇場(東京都)

2023/03/01 (水) ~ 2023/03/05 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

《Team葉》を鑑賞。既成戯曲を上演する団体なので、脚本と芝居を別にして感じたことを記す。

まず脚本について。舞台上の出入りが多くて慌ただしく感じる。(その都度、玄関のチャイムが鳴るので余計に)登場人物が多い分、各人のエピソードが積み重なっていくと多少冗長感がある。(嫁姑問題はいかにもありそうな内容で面白いけど)話の展開に、飛躍を感じたり疑問の残るシーンがある、など気になる点はあるもののラストは一気に巻き返して静かに胸を打つ佳作になっている。

上演された芝居について。文句なしです。遠藤道子を演じる木村望子さんはじめベテラン女優陣がいかにも津軽地方のおばさん、でいい味出してます。他の俳優さんも含めて、この団体は本当に言葉を大切にしているということが深く伝わってくる。日本家屋のセットも質素ながらいかにもな造りで、まさに目の前で津軽の一家庭で起こる出来事を観ているような空気感に包まれていました。お見事。

2222年の雨宿り

2222年の雨宿り

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2022/11/30 (水) ~ 2022/12/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

物語の設定はユニークだが、何しろ二百年後の火星でのお話である。共感するにはハードルが高そうなので「雨の日の思い出」に過剰な期待をかけてしまったが、少々期待外れだったようだ。

主人公、四葉の思い出の謎を早く解き明かしてほしかったが後半まで引っ張られるので、前半の冗漫感も相まって焦れてしまった。結果は母親の隕石による衝突事故という悲しい思い出だったが、ここで唐突に母親が登場(それも事故死というかたちで)し、それが雨の日だったと言われても観ている方としては何の感慨も起きないのだ。このシーンの描かれ方も淡白だったように思う。ドラマ性が希薄だと言わざるを得ない。四葉の「雨の日の思い出」が中心に回っているお話なのでここは核となる部分だろう。

物語は何となくコミカルタッチなのだが、さして笑えるわけでもなく全体的に中途半端な印象。ただラストは唯一、ひと捻りしていた。地球時代の若かりし頃の四葉だろうか。煙草屋の軒先で雨宿りしながら何かに気付いたように「あっ」と声にする。未来の記憶が呼び覚まされたかのようだ。ポストの横の道祖神の周りに生えていたのはクローバーだったのか。

役者陣はそれぞれのキャラクターを忠実に演じていて好感が持てた。舞台装置は煙草屋の店先や赤いポストは見事に再現されていて風情があった。

オーガッタジャ!

オーガッタジャ!

発条ロールシアター

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2022/11/03 (木) ~ 2022/11/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

シンプルな舞台装置だが、廃ビルという異世界への入り口(壁の裂け目を木枠で覆っている)だけは精巧にできている。ここを出入りするだけで廃ビル感が出るから驚きだ。
会社をクビになって廃ビルをねぐらにしようとする男、環が様々な人物(フリーライターや掏摸たち)がいる世界と和服の男が出てくる世界を行き来し、どちらが現実なのか夢なのかわからなくなる件とか、元刑場の斬首役だった和服の男と環を重ね合わせて見せるところなどは脚本の巧さが光る。
細かいところでは、環がクビになった会社の作業着を着ていたり(会社に未練があるのか、もう着るものがないのか)名うての掏摸だった拝島のズボンが両ひざとも穴が開いていて落ちぶれた感が出てる、廃墟マニアがいかにもな格好だったりと衣装にも心配りがされていた。

このページのQRコードです。

拡大