
糸洲の壕 (ウッカーガマ)
風雷紡
座・高円寺1(東京都)
2025/08/16 (土) ~ 2025/08/19 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
まずはこのような作品を企画、上演いただいたことに感謝申し上げたい。私は沖縄戦についてほとんど知識がなかったし、この作品に出会わなければ興味を持たずに過ごしていただろう。
さて作品であるが上演時間約130分が私には長く感じられた。何故なら物語としての魅力が乏しかったと思うからである。先の「観てきた!」コメントで「教育演劇のような...」と仰っていた方が居られたが私の抱いた思いも近いかもしれない。少々乱暴で失礼な物言いになるかもしれないがお許しいただきたい。作者は伝えたい思いが溢れていて、それをすべて詰め込んだような物語だな、と思った。「戦時下でもこんな兵隊さんがいました」、「看護活動はこんな悲惨な状況でした」etc...、いくつものエピソードを各場面に当てはめて、それをつなぎ合わせて物語を組み立てているように見えたのだ。もちろん各場面での登場人物は、笑ったり怒ったり舞台上での生が感じられるのだが物語全体を通して見ると物語が本来持っているべきはずの魅力(あえて「物語のうねり」というが)が感じられない。そういう意味では「ふじ学徒隊」と対をなして物語の核となる人物、小池隊長のエピソードも多くのエピソードの中に埋もれてしまった感がある。ついでに言うと、小池隊長と里に残してきた妻が会話を交わす短いシーンが何回か出てくるが(夫婦の愛情や隊長の人柄を表現したものか?)なんとも中途半端なシーンに感じられて必要なシーンだったのか、疑問が残る。
さりとて、戦争における非人間性、残虐性、狂気などを伝え、観客の想像力を喚起し、各自が二度と戦争を起こしてはいけないという思いを抱かせるには十分な力を秘めた作品だったと思う。改めてこの作品に出会えてよかったと思う。
もう一つ、好きなシーンについて書きます。小池隊長が隊の解散を宣言した後、(どしてそうなったのかは忘れたが)少女たちに歌を歌うことを所望し彼女たちが童謡「ふるさと」歌ったシーン、これは沁みた。これこそドラマだな。
余談だが、先日、ニュース番組を観ていたら俳優の渡辺謙さんが反戦への思いについてインタビューを受けている中で次のように語っておられた。「戦争について知らないことばかりなのを引け目に感じることはない。知ろうとすることに意味がある」。心に留めておこうと思った。

記憶の欠片達
株式会社GROW
シアター・アルファ東京(東京都)
2025/07/30 (水) ~ 2025/08/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
遅くなったが感じたことをいくつか書き記す。前半は医師と認知症患者及びその家族の会話のシーンなどはいいセリフがあったりして、自分が患者やその家族の立場になったらどうするだろうと想像することができ素直で入っていきやすい芝居だなという印象だった。
だが中盤以降は疑問符がつく場面が多く、脚本の粗さが目立った。以下、簡潔に記す。まず台詞で状況を説明する場面がいくつかあった。こんな時は往々にして唐突感なり違和感を抱くものだ。また必要性を感じられない場面もあった。これは冗長感につながる。また、結論ありきでそれ以前の筋立てが行われているように感じる場面もあった。
これでは物語を丁寧に紡いでいるとは到底思えない。安易に感動をつくり出そうとしても安っぽい作品にしかならないと思わずにいられない。

煙が目にしみる【Mura.画】
Mura.画
劇場MOMO(東京都)
2025/06/25 (水) ~ 2025/06/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
千秋楽、ウミネコチームを観劇。コミカルとシリアスの要素の配合が絶妙でラストまで目が離せない。
「死者の姿が見えるおばあちゃん」という設定は舞台だからこそ生きてくると思う。観る者との一体感が生まれる、という意味で、映像作品ではなし得ない舞台ならではのマジックである。
現実感のないストーリーは、ともすれば絵空事のように感じてしまうこともあろうが、役者陣の演技力が素晴らしくリアル感があった。特に祖母役の妻木さんのちょっとオーバーなコメディエンヌぶりは作品全体の空気感を作っているようで素晴らしかった。(キーパーソン的な役柄だし)
帰途、プラターズの「煙が目にしみる」が脳内リフレインしていた。

僕は肉が食べたくて裸(ラ)
南京豆NAMENAME
新宿シアタートップス(東京都)
2025/05/28 (水) ~ 2025/06/01 (日)公演終了
実演鑑賞
遅くなったが観たからには書かないわけにいかない。うーん、訳わからない、というのが正直な感想。皆さんの「観てきた!」コメントを読んでそういう事だったのかと納得するような体たらく。芝居全体が独特の空気感をまとっていて、私などは一歩も踏み込めない感じがした。すべての台詞が目の前をただ通り過ぎていき、こちらに届かない。(私が拒否していたのかも)世代の隔たりによる感性の違いと言ってしまえばそれまでだが。何とも釈然としない。

穴熊の戯言は金色の鉄錆
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2025/05/21 (水) ~ 2025/05/28 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
登場人物のキャラが濃すぎたり、会話がチグハグで現実感がなかったり、物語の展開も(どうしてそうなるのかの)説明が省力されていて雑な感じを受ける。チラシの下方に《これはフィクションなので...》と記されている通り、全くの作り話、究極のフィクションだと感じる。
だが終盤になって全編嘘っぱちのこの物語が大きな意味を持ってくる。「愛」という名の真実が提示されるのだ。ありえない物語だからこそ、このシーンがより詩的で美しい情景に昇華したように思えてならない。

或る、かぎり
HIGHcolors
駅前劇場(東京都)
2025/04/02 (水) ~ 2025/04/06 (日)公演終了

ボンゴレロッソ 2025
A.R.P
小劇場B1(東京都)
2025/02/19 (水) ~ 2025/02/25 (火)公演終了
実演鑑賞
千秋楽を観劇。正直、今回は全くはまらなかった。一言で言ってしまうと全てにおいて「軽い」というのが率直な印象。
登場人物が多いので、前半は各自の紹介シーンが長かったのも物語性が薄いと感じた要因かもしれない。随所に入る笑いも以前感じたような爆発力がなかった。
展開で言うとラストのブルーハーツの「チェインギャング」につなげるなら主人公の愛子にもっとスポットを当ててもよかったのではないか。演奏やダンスは素晴らしかったけど物語としての魅力に乏しいと満足度も半減する。

栗原課長の秘密基地
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了

ジキルの告白
ISAWO BOOKSTORE
サンモールスタジオ(東京都)
2024/11/06 (水) ~ 2024/11/12 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
実際の起こった事件を基にした作品なので、この事件を知らない観客にもその概要を説明するための事実を提示する部分と作品のドラマ性を高めるためのフィクションの部分をどう融合させて一つの作品として見せていくかというのがポイントだったような気がする。

さようなら、シュルツ先生
MODE
座・高円寺1(東京都)
2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
33年ぶりに「MODE」の舞台を鑑賞。ああ、こういうテイストだったのか。超現実で摩訶不思議な世界で、昨今なかなか出会えない作風が新鮮で刺激的だった。私などは舞台を観る時、内容に意味を求めてしまい、わからないと「難解だ」と投げ出してしまうのだが、今回は、素直にその世界に身を沈めてトリップ感を味わった方が気持ちいいし自由になれるような気がした。
またこの作品で特徴的なのは役者の身体が前面に出ている点だ。フェティシズム的な表現が多用されているし(観客の眼はどうしてもその部分をクローズアップして見るだろう)、登場人物の奇妙な動きや静止するシーンも多い。普段観る舞台ではこれほど役者の身体を意識していないと振り返って思う。どちらかというと台詞によって人物の関係性や物語の展開を把握することに腐心しているような気がする。圧倒的に聴覚が先行しているのだ。翻ってこの作品は圧倒的に視覚に訴えてくる。
当日パンフで主宰の松本氏が「劇的とは何か、ということばかり考えていた」と書かれている。一般的には「ドラマチック」ということだが、私は以前から「演劇でしかなしえない表現」という風に勝手に解釈している。その意味では今作は十分に劇的であったと思うのだがいかがだろうか。

リング・アウト
A.R.P
小劇場B1(東京都)
2024/09/25 (水) ~ 2024/09/29 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この団体は3回目の観劇になる。前2作が笑いに溢れ、ダンスシーンなどもありエンタメ感たっぷりだったのに比して、今回は笑いは抑え目でドラマ性が強かった。笑いを期待していただけに少し物足りなったというのが正直なところ。
ただ、物語の中に主要なトピックがいくつか出てくるが、それらを100分という時間にうまく収めて最後は大団円(ちょっと出来過ぎだけど)とするところはロックマン氏のストーリーテラーたる所以か。
特に母娘の惜別のシーンは美しかった。
できれば真正面からのストレートプレイを一度観てみたいものだ。

かげきなデイリープレイス
演劇集団イヌッコロ
ザ・ポケット(東京都)
2024/09/18 (水) ~ 2024/09/22 (日)公演終了
実演鑑賞
「ヤクザが演劇」という設定が充分に納得できる内容かどうか、がこの作品のポイントだと思って観劇に臨んだが、やはり違和感が残った。結局、最後までそのモヤモヤ感が払拭できず、皆さんのように笑えなかったというのが正直なところです。ひたすら「笑い」が主だからか、物語自体にも魅力を感じなかった。(中途半端な終わり方だし)ただ、これだけ次から次に笑いを繰り出してくる発想力と役者の表現力には心から拍手を送りたい。

青い!大劇場結婚式(「劇」小劇場)
藤原たまえプロデュース
「劇」小劇場(東京都)
2024/06/06 (木) ~ 2024/06/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
終始ドタバタしていて落ち着かない。ストーリーは極めて単純で面白みがない。その分、奇抜な演出とクセ強めのキャラで楽しませようという事か。少々奇を衒っているような気がする。

マーヴィンズ ルーム
劇団昴
Pit昴/サイスタジオ大山第1(東京都)
2024/05/24 (金) ~ 2024/06/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
病や生きづらさを抱えた人々が織りなす物語でありながら、ユーモアを交えて明るくカラッとした作風。日本人作家だったらテイストが違っていたかもしれない。

天の秤
風雷紡
小劇場 楽園(東京都)
2024/03/29 (金) ~ 2024/03/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
様々な点で考え抜かれ作り込まれた舞台だと感じた。
開演前のBGM、劇中での言葉遣いや会話の内容、客室乗務員の制服は「時代」を感じさせる。コックピットを模した舞台装置、冒頭の機内アナウンス、音響や照明、そして「楽園」という劇場が持つ濃密感そのものが飛行機内という「場」を感じさせる。
必定、観客は「よど号」の乗客と化している。臨場感や緊迫感が半端ない訳だ。
物語は歴史的事実を正確に追いながら、登場人物の心の機微にも触れていく。速いテンポのセリフの応酬はますます緊迫感を高める。演者さんたち、見事だったな。犯人役の杉浦さんは口角泡を飛ばしていたし、客室乗務員役の吉水さんは終始、目が潤んでいるように見えた。運輸大臣役の斎藤さんの狡猾さも見ものだったし、指導教官役の下平さんのらしさも光っていた。
そして何より吉水さんの脚本がなければこの作品はこの世に生まれてこなかった訳です。脚本の力を改めて感じました。
観終わった時には何時間も経過していたように感じた(大げさでなく)のだが、劇場を出て時計を見たら2時間経っていなかった。これぞ舞台のマジックだ。映像では決して味わうことのできない感覚。これは演劇初心者の人に観てもらいたい作品だなあ。

いちかと華子~ばあちゃんの匂いと宝物~
東京カンカンブラザーズ
ザ・ポケット(東京都)
2024/03/27 (水) ~ 2024/03/31 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
老舗クラブ『アカシア』を彩る人々をキャストの皆さんは魅力的に演じていたし、一つの世界が出来上がっていたと思う。反面、脚本は少々空回りしていた印象をぬぐえない。
全体的に見ると、短いエピソードをいくつもつなぎ合わせて一つの物語にしたようで流れがスムーズでない。メインキャストの「いちか」及び「華子」と亡くなった祖母との生前の交流が描かれていないため、クライマックスの再会(?)のシーンで感情移入できない。祖母の化身である新人ホステス(月下ひまり)の登場が唐突だし、彼女がいくらか大人びた物言いはするものの祖母を感じさせる何か(言葉遣いとか立ち居振る舞いとか)が表現されていたのかわからない。(観ている方はそもそも祖母がどんな人だったのか知らない)「香水の匂い」や「娘に対する呼び方」で孫たちに祖母と気付かせるのはいかにも即物的で興を削がれる。
以上、思いつくまま気付いたことを書いた。ハートウォーミング的な作品に仕上げたかったのかも知れないがそこまでたどり着いていなかったように思えてならない。もっと情緒が欲しかった。

イノセント・ピープル
CoRich舞台芸術!プロデュース
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2024/03/16 (土) ~ 2024/03/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
外国人が登場する芝居は翻訳劇だという思い込みがあった。だがこの作品は日本人の脚本でアメリカ人を描き、それを日本人の役者が演じるという極めて珍しいパターンだ。さらに、作品に登場するのは原爆製造に関わった科学者たちとその家族。私などは原爆と聞けば広島、長崎の惨状がすぐ思い浮かぶだけで被害者の視点でしか見てこなかった。それを加害者であるアメリカ側の(それも原爆製造の当事者) 視点から描こうというのが画期的だ。これらは特筆すべき点だろう。日本人を悪し様に言うシーンなどはインパクトがあってすごく嫌な気分になった。
役者陣には各々の役柄を深く掘り下げ、それを忠実に体現しようという姿勢が強く感じられ、重いテーマとも相まって舞台に独特の緊張感が漂っていた。観ているこちらも自然と居住まいを正し舞台に集中でき、ある意味とても心地よい緊張感だった。

オプティーマへようこそ!
A.R.P
シアター・アルファ東京(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
皆さん仰るように王道の青春ストーリーではあるが、実際に舞台作品にするとどれだけ観客に伝えられるかというのは難しいところだろう。だがこれを見事に舞台上で体現して見せてくれた俳優陣、ダンサー陣に心から拍手を送りたい。登場人物それぞれのキャラが確立されていたし、ダンスも半端なく素晴らしかった。各演者の持つパワーが結集して舞台上からとてつもないパワーが放たれていた。
好きなシーンがある。オプティーマのオーディションでMVPを受賞した夏美たち4人が踊るシーン。踊っている途中で彼女がそれまでかけていた眼鏡を右後方に投げるシーン、これにはシビれた。見せかけの自分を脱ぎ捨て本来の自分に生まれ変わったのだ。
極上のエンタテインメントを堪能しました。次回作も期待します。

Family~冬は君を真っ白に染める~
ヒューマン・マーケット
ウエストエンドスタジオ(東京都)
2024/01/23 (火) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
Familyシリーズは前回が初見だが、今回は前回感じたホームドラマ特有のアットホーム感がなく残念だった。それは単純に登場する家族が「鈴木家の父と長男」1組だった(前回は鈴木家の夫婦、佐藤家の兄弟、リカーショップ「二木」の夫婦の3組)こと、また作品のテーマがややシリアス寄りだった為だろうか。
その他気になったのは前々回位から登場の謎の黒づくめの女の正体が明かされたこと。以前鈴木商会に勤めていた「ゆうみん」なる営業担当の女性の姉だという。(彼女はホームページの人物相関図には載っていない)謎の女がしつこく鈴木商会のバイト面接に来た理由も明かされるが、なんだかボヤっとしていて判然としなかった。
それでいえば、鈴木家の長男、高信が1年ほど失踪していて帰ってきた理由もなんだかわかったようなわからないような感じだった。佐藤家次男、正夫の 恋人の登場もなんだか唐突で今回の脚本には納得いかないところが多かった。

ストレンジャーズ イン ザ ナイト
スラステslatstick
駅前劇場(東京都)
2024/01/16 (火) ~ 2024/01/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
これは必要最小の出演者と舞台装置で、SF映画の世界を舞台で再現しようとした画期的な試みである。
物語自体は作・演出の入江氏が当日パンフで「プロレス好きの中学生が考えたようなストーリー」と書かれているようにある程度展開が見えている分、面白みに欠けていたように思う。だがその分、役者陣の熱演がそれを補って余りあった。特に野口かおるさん。その独特の表情やセリフ回しは昔と寸分違わず、いやむしろパワーアップしていた。(今作の役柄のせいもあるだろうが)
当日パンフで中村なる美さんが書かれていた「お芝居に対する愛」、感じましたよ。