満足度★★★★
演劇企画として十分楽しめた。
予習せずとも、20分程度×4作品の短編芝居の競演は違う趣同士が太宰のダメ人間さを浮かび上がらせる。アフタートーク込み130分。
ネタバレBOX
短い時間で原作本を演劇化するのは難しいと思うが、言葉を伝えるべくちゃんと発声できる役者をどれだけ抱えてるかで作品の善し悪しがきまってたように思えた。
そういう意味では『燈籠』が一番小説的な文章も台詞もしっかり届き、演劇として昇華していたように感じた。
逆に『HUMAN LOST』は絵面はキレイだし、女性だけで太宰を表現する趣向は面白いものの、肝心の言葉が聞き取れなかったりすることが多く、作品として伝わるものが少なかったように思う。
『ヴィヨンの妻』は女優の見栄えに対して男優陣が演技も含めて劣っていたのが悲しい。
今回一番評価の高い『人間失格』は描く時代も変え、演劇的手法をふんだんに使っただけあってかなり目先も変わっているが、上演時間がずば抜けて長いのでその点ではちょっとズルかったかなぁ。
また、10月5日のアフタートークゲストは映画監督の奥秀太郎氏だったのだが、表現者のわりには感想をなかなか言葉に出来ない方で、話や表現とは関係ない女優の容姿や格好、効果にしか触れないから話全然膨らまないのがかなり残念だった。
満足度★★★
似ている場所に思いを重ねる。
作者や出演者との距離感がいろいろ違うのが面白い。目先だけに囚われず、五感をフルに活用するとより物語に入り込め気も。40分。
ネタバレBOX
観劇当日は少し蒸し暑くてヤブ蚊が大量発生していたために、実際に話が展開していく際に、自分自身の集中力が削がれてしまったのが残念だった。
あとから考えると唯一の夜の回が視界が狭くなるけど静けさも増すのでどんな上演だったのかがとっても気になる。
満足度★★★★
作者の育った街を連れられ辿り…
ここ20年で急速に変貌した湾岸江東地区を歩き、場所の移り変わりを聞きながらも物語も乗っかって。休憩込み250分の大作。
ネタバレBOX
実際に出演者として大倉マヤさんの母君が参加して川辺の風景にエッセンスを加えるのが素敵。
もんじゃ休憩も当日折り込みで紹介された美味しい店で食べられたのも◎。
芝居感覚というよりもお散歩に重心を置くと、街にいる色々な人たちが出演者ばりの効果を発揮してて夕刻~夜の銀座までの道のりはとても楽しかった。
満足度★★★
女性をクローズアップしつつも、
その女性達にいま一歩踏み込みきれない男子の描き方が巧い。再演2作と初演2作の計4作からなる短編集。84分。
ネタバレBOX
販売員役の帯金ゆかり嬢の前説からして本編への期待が高まる(^_^;)
今回3作目に新作として女×女の話が入ったのだが、これが全体のバランスを損ねるような印象を受けてしまったのがとても残念。やっぱり成長できてないおバカな男子の姿をどの作品でも描いててほしかったなぁ。
満足度★★★★
物語にのめり込んでしまう求心力
ベタ色が強めのバックステージもののワンシチュエーションコメディだけれども、とてもよくまとまっており、一気に最後まで楽しめた。91分。
ネタバレBOX
そんなに具体的に描かれてなかったせいか、3年前の脚本とは思えないほど今回の
選挙前でも通用するような話になっている。それともそれだけ世の中が変わらなすぎなのか?
話の落とし処はこれまた大人な裁量という感じで◎。
ちょっと古いネタが残りつつも最近の小ネタもしっかり入れて、しっかり笑いを取ってたのにも関心。
役者陣の力量なのだろう、緩急の付け方や間の取り方が巧く、それが展開から目が離せなかった要因でもあると思う。
小さな小屋だが、開演直前までお客が入場しての満員が頷ける作品だと思う。
満足度★★
輪郭や着地点が捉えにくい。
ベクトルの向きも種類も違う男女の話を散文っぽく抽象的に描いているために、この話としての方向性の提示がわかりにくい感じ。74分。
ネタバレBOX
空間に用意された具体的な小物のセットも抽象的にしか使わず、とても広い空間もただ使いっぱなし感が強く決して活かしているようには思えず。ボクにはこの会場が抱えてる生活音にもこの芝居には邪魔してるようで。
登場人物三人のそれぞれの話を掘り下げて提示するならまだしも、別のキャラクターをやらせたり、時間軸をずらしてみたりというのも表現としてはわかりにくさが強調されたようで。途中に挿入された具象化されたミクロの世界の効果も?
白い会場に黒い衣装の役者さんが出てきて、そのコントラストで期待が少し高まったものの、色々と中途半端で消化不良な印象でした。
満足度★★★★
どうにもせつない、やるせない。
見終わって、普通に近くにいる人を大事にしなきゃ、とか自分のためだけじゃなく命を大切にしなきゃって思った。染みる。96分。
ネタバレBOX
近未来、過度な格差社会の中、少女が命と引換えに得た大金で得たのは高価なアンドロイド。でも本当に欲しかったのが"物"ではなくて、分かり合える大切な相手、というのにグッとくるものがある。
一貫して彼女の利益を守ろうとするアンドロイドと見返りを求めずに思い出と通い合いを求める少女。見た目以上に平行線な二人の在り方がすごく心に響く。それはアンドロイドが学習していき、見た目の距離感が近くなればなるほどなおさらに。
役者は二人とも達者。多田淳之介氏の役者姿はやはり魅力的。端田新菜嬢の全開の少女っぷりとのタッグで見せる四季の一コマ一コマは緩急のつけかたも含め絶妙。
満足度★★★★
まさにアラフォー世代には響くような。
バブル期になんとなく社会人になった連中に、躓いたときの行き詰まり感とその先にあるちょっとした希望を提示した作品。123分。
ネタバレBOX
何かを期待して大人になったつもりが頭に描いてた理想像と結構ズレてる現実。それでも信じて突き進んでいるときにはわからなかったが、ちょっとしたきっかけで見つめ直すとそこに感じるギャップの大きさ。そんな人達が巣くってる4階建て2棟の古いアパートメントでの物語はお気楽さも見えるが簡単に笑い飛ばせず胸に刺さる部分もあって。
劇団や劇団員が歳を重ねるのにマッチするように作風もうまく年齢が上がっていると思う。同世代には共感できる点が多々あると思うが、上の世代や若い人達にはこういう中途半端っぽい大人はどういう風に見えたのかがすごく気になった。
満足度★★★★
話にぐいぐい引っ張り込む力は◎
緊張感を持たせたまま、先の見えない展開に、余計ことを考える間もなく巻き込んでいく。この舞台の読者な気分に。102分。
ネタバレBOX
実は最初からある種の違和感を感じてて。それはこの話自体とキャラと視点とのポジショニングが一致してなくてどのレベルで語られてるのかがずっと腑に落ちなくて。そんな中、登場人物達は複雑かつ不条理なルールを簡単にも受け入れるし、すぐにゲームを始めるし。
終盤でネタばれになって、この違和感が説明つく落とし処となっているのだが、だとしたら前半は思考をさせない勢いで突っ走るのではなく、もう少し考えさせる余地があって、その上で騙して欲しかった気も。
'97年に青年座が上演した井上夢人原作の「プラスティック」的な風味といったトコか。
満足度★★★★
昭和を背景に描かれた人間模様
東京オリンピックも向田邦子を知らなくても昔はそんな風だった感で満たされる空間がそこに。93分。アフタートークでの絵面と話のギャップも◎。
ネタバレBOX
セットはかっちりと日本家屋が造られてるわけではなく、真ん中に卓袱台が置かれている程度。そこから音と光と小道具でちゃんと時代に誘っていく、自由さを味方にしたようなつくり。この抽象舞台がシーンの変化や場の使い方に効果的に作用。
パッと見の人物の描き方はデフォルメも含め働く男は強く、そして家を守る女は慎ましやかにだが、そこには家の中でしか威張り散らせない男の弱さや、それを知って立ててる女性達の構図があり、この裏の見え隠れが面白く、そんな互いの人間関係が昭和らしい雰囲気を醸し出している。
その中でも女性ながらも仕事に追われる邦子と、左足が不自由になり仕事もできずに邦子に寄りかかるだけの西沢の、時代の当たり前とは異なる二人の関係性がすごく響いてくる。
全編を通して流れるようなストーリーが見えるわけではないので、起承転結の物語重視だとちょっと消化不良気味かも。
4日のアフタートークは事前予告どおり作・演出の吉田小夏さんが黒いメイド服姿で登場。最初は慣れない格好からくるぎこちなさが見られたが、ゲストの谷賢一氏とはいたって真面目に芝居についてのトークを展開し、見た目の悪のり具合と聞き入るくらいの話への興味深さの差が妙に面白かった。すごく貴重な日の観劇だったと言えよう(^_^;)
満足度★★★★
正面から堂々と芝居を作ってる。
まさに直球勝負な作品ながら、万人受けするようなレベルに仕上がっている。再演でも物語に集中させる求心力は流石。124分。
ネタバレBOX
セットは初演とは左右が逆の配置だが、それは大きな問題でもなくて。
少ししか出てこないキャラについても背景が想起できるような描き方は見事。駆け足で1年間の出来事を取り上げるが、季節毎に切り取り、提示される1場のチョイスが絶妙で、見えていない部分をより膨らませて補完させて。
さすがにもう若手劇団ではなく、どっしり腰を据えた中堅劇団として役者みんなが
安心してみられる。
満足度★★
話の筋を語り過ぎて逆に不親切。
ミスリードなく、ちゃんと隙間を想像力で埋めさせる絶妙な語らなさ加減がこの劇団の持ち味だと思ってたのになぁ。101分。
ネタバレBOX
舞台だと視点の切り替えがない分、提示しすぎるとそれ以上の広がりもなくなってしまう。それがこの作品に深みを感じなかった一番の難点かと。
またキャラの方はもう少し個性を際立たせるくらい描いてもよかったんじゃないかと思うくらい。
流れとしてはほぼ動きのない前半は冗長すぎ。
本筋がしっかりしてない分、アムロのお面で遊びすぎたのがちょっとなぁ…。それと気になった点はアムロの場合レイは名字のハズ。分かってて台詞書いてたのかと思わせるそんな小ネタは必要だったの?
あとは演出の加減もあるんだろうけど、最近のジャブジャブの芝居ってキャラが物わかり
よすぎて、会話のテンポにすごく違和感を感じるようになってるのもマイナス要素。
アフタートークでもはせさんがご自身で似たようなことを言われてたので(全部出しちゃえ、みたいな)、もう少し苦労してでもちゃんと不親切な脚本を書いてほしかったなぁ。
それから、いくらアフタートークでも今回の作品が一番じゃないって作家自身が言うもんじゃないと思う。客はその一番じゃない創出作に対してちゃんとお金払って観に来てるんだから。
満足度★★★★
演出家が全力全開で仕事してる。
劇場の使い方、音楽の使い方、台詞の言い方、間の取り方等色々な面で挑戦的。観ててそのテンポに乗って世界観に飲み込まれる。83分。
ネタバレBOX
三鷹の劇場をフラットに、そして広くしかも円形に使っている。こんなプランを見たのは初めてかも。
話は当パンにも書かれているが、『地球が生まれてから死ぬまでの100億年。 人間が生まれてから死ぬまでの100年。 団地に住む一家をモチーフに、ある女の子の一生と星の一生を重ね合わせて描く』とまさにこのままなんだけど。
歌うわけではないが、音に乗せて台詞が語られる。決してリアルじゃなくてもそれ以上に言葉が響くように届くと思えたこと、それがわかっただけでもこの芝居の効果として素晴らしい。
役者陣は色々な負荷がかかってると思いつつも楽しげに表現してるのがすごい。端田新菜の子役と黒岩三佳の母はしっくりしすぎ。
敢えて難を言うのなら、郡唱の台詞が動きと高い天井で聞き取りづらいこと。別に生声にこだわることもないだろうから、最初だけでも工夫があると後半に活きてくるのになぁ、なんて思ったり。
観に行くのなら個人的には場内入口から右手、いちだんと高くなっているブロックの座席がお勧めかなぁ、と。
日々変化があるみたいだし、楽日に向けてもっと作品が進化することを期待して★は満点にはしておかないで。それでも十分に満足できる作品に仕上がっていると思う。
満足度★★
スタイリッシュな感じはするけど…
原作がある作品は引っ張られる部分が強くて、オリジナル作品より弾け方が少ない分、求心力が弱い気がする。休憩15分込み188分。
ネタバレBOX
別役作品のときも岸田作品の時もおなじような感想を持った覚えがあるから自分にはケラさんのこの手の作品は合わないのかも知れない。
役者陣もさすがに大倉・犬山・みのすけ・峯村・松永といった個性的な面々がいないと個々のパワーの相乗効果みたいなものが出てこなくてちょっと物足りなさも。
それでも劇中でのケラさんのカフカに対する捻れた愛情表現(劇中劇のカフカの舞台の舞台裏や人形劇のシーン)には笑わせてもらった。
満足度★★★
見やすさとかまとまりならこっちか
話としてスポットの当て先が明確な分、わかりやすい。ホラーの風味もコミカルな要素もあるのであっという間に見終わる印象。64分。
ネタバレBOX
いろいろなエピソードがありつつも実はダメすぎるオーナーのダメ人間ぶりが自ら引き起こしただけの顛末なわけで。
亡き父の姿が見えたりするのはありだと思うが、弁護士の仕掛けとの整合性がイマイチ。血や藻のエピソードは無理に入れない方がしっくりいったと思うのだが。
結局双方通してのビルの怪の説得力の足りなさが話自体を中途半端な位置に持っていってしまってる気がする。ちょっともったいない。
満足度★★★
キャラ達の背景が少し見えにくい。
上演時間が短いので、本作だけで納得できるような提示と展開だったかと言われると△。もう少し書き込んで見せてもよかった気が。69分。
ネタバレBOX
見たのはこっちのバージョンが先。キャラ同士の繋がりが薄く、それ故シーンも点描写の連続のイメージ。演技もテンションが高く、感情の起伏も大きいのが多いためちょっと非現実的。別の形で緊張感が出せなかったかものか。
役者は風水コンサルタントを演じた小林タクシーが適度に怪しさを醸し出していて◎。
満足度★★★★
緻密さと滑稽さの匙加減が絶妙。
演劇的手法を駆使することで物語に深みが増している。お互い真っ直ぐな故に己だけでは見えない現実を巧みに表現している。102分。
ネタバレBOX
次郎の目から見た事実と通子が見ていた現実の差違をリフレインのズレで見せることに脱帽。さらにはそれぞれしか見えてないシーンの挿入がより事態を明らかにさせていく。決してすごい物語ではないのだけど、その求心力に自然と引き込まれてしまう。
交わされる会話もかっちりハッキリした台詞ではなく、どこか噛み合ってなかったり、ちゃんと話を聞いてなかったりといっぱいいっぱいの人達が微妙なタイミングでやりとりしてるので、どこまでが戯曲化されてるのかすごく気になるくらい。
描かれてる家族も、他のキャラもとても個性的でクセがある人達なだけに、こうなると登場人物全員の視点から見た現実を重ねて、より壮大な人間模様の物語を長編で見てみたいかも。
#これが家族に起こったことはほぼ事実だということ、だからとはいえそれだったらいくらでも描けるという岩井氏の手腕にも驚きっ。
満足度★★★
たしかに衣装は可愛くてエロティック
作品のドキドキ感は高い肌の露出度からではなく、無茶とも思えるような身体の使い方から。いくらダンサーが動けるとはいえ…。67分。
ネタバレBOX
女性らしさが前面にくるよりも各人の鍛えられた背中のラインが印象的で、この筋肉が逆にテーマと反する結果になってしまった感も。
ひとつひとつのダンスが大きな流れで繋がってるというより、大きなテーマを掲げたレビューのよう。だとしたらそれぞれにもっとメリハリ付けたり色の違いをハッキリさせた方がよかったかも。
「ふぞろいの果実」でもそうだったが、集団で形作った動きやポーズはかなり工夫されていて面白いので個人的にはこの部分をもっと広げていってほしいなぁ。
満足度★★★
最後まで張りつめた緊張感が続く
極限的に追い込まれた状況での人間同士の微妙な均衡を描いている。背景があまりに見えなさすぎる故にただ傍観な印象。104分。
ネタバレBOX
劇場真ん中に空間的に解放されたセットを作り、腰丈の敷居で閉鎖的な空間を作り上げている。舞台はシェルター内のリビングという設定だろうが、セットの両側に出捌けを設けた分逆に閉塞感がなくなっている気が。
最大公約的世界の終末を想像してあげればよいのかも知れないが、それにしてもこの状況や各人物が描ききれておらず、話として成り立ってないとも思えて。緊迫感が途切れないのはよいと思うが、闇雲に煽っただけではそれが世界観とは言えないような。
1時間過ぎるまでの淡々とした進行とそれ以降の急激な展開にはあまりにギャップがあってついていけない。特に伏線を張ってたわけでもないし、その振り幅には違和感さえも。
楕円形のセットを囲むようにして配された座席はどの席からも必ず死角ができてしまう。カッコよいセットだと思うけど、定位置での座り芝居が多いため、座った席によって見える役者に偏りが出てしまい、観客が抱く印象も変わってくる気が。凝った空間のこの空気を見せるというのなら仕方ないけど、それ以前に観客に役者をちゃんと見せる演出的工夫が必要かと。
満足度★★★★★
漫画的世界をそのままやりきる。
極端な設定とキャラを突きつけたまま、観客の思考を入れる余地なく作り上げた世界を突っ走り、まとめあげ、エンタメに昇華してる。70分。
ネタバレBOX
柿喰う客とはまた違ったテイストで勝負。バカバカしさとそれが成立してる世界観に大笑いし、涙まで流すほど。細かい点までよくできている作品。
キャラ同士の対立軸がはっきりとしている上での面白さと、後半の物語が流入して混沌となる様子のバランスが実によい。
役者は物語を支える伊東沙保と荻野友里の二人の予想以上と予想外の押出しに、実は重要な役割を担ってて後半その存在がとても効果的な今村圭佑が素晴らしい。
アフタートークでは演出家が本当にやりたいことをやった結果が今回の芝居だということを言っていた。"柿"では劇団としてのアピールや箍があったりと色々と力が働くらしい。
個人的には中屋敷オリジナルの追求がつかっぽいものから新感線らしきものに変化した印象。このままコクーンにでも行けそうな勢いさえ感じたが、彼が他の劇団を知らないまま模索して行った先がどこに到達するのか知りたい気がする。