丘田ミイ子の観てきた!クチコミ一覧

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動物園が消える日

動物園が消える日

劇団唐組

雑司ヶ谷鬼子母神(東京都)

2024/10/26 (土) ~ 2024/11/04 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

鬼子母神にて、10歳の娘と二人で観劇。
(『透明人間』以降娘の推し劇団でもあり、もはや推し活と化しています…!)

閉園された動物園を巡って動物の行方ひいては魂の行方を逡巡する人々。毎度ながら経年の滲む美術や装置に感嘆。
中央に聳え立つ旧式エレベーターが最後の一瞬まで物語とともに昇降/抑揚を重ね、劇におけるフィジカル面メンタル面いずれもの"屋台骨"として代替のきかぬ役割を果たしていた。
頭上から溢れ出る水は潤いよりむしろ渇き、灰牙の表情にたしかな消失と喪失をともに見る。
藤井由紀さん演じるオリゴの後ろ姿が導く情感と余韻よ…。
これまで観てきた唐組の中で、笑いの配分が最も多いようにも感じました。


若手の俳優さん達の言葉の解像度や浸透力がめきめきあがっていて今後が楽しみになる公演でもありました。
4回目の唐組となった10歳の感想は「今までで一番お話が読み込めた」とのこと。
ラストの感動冷めやらず、「ふじいっ!」と初の大向こうまで(ギリギリまで"さん"付けるか迷っていた!私もまだやったことないのに先越された気分!)充実の推し活になった様子でした。

すべてはポーズでしかない

すべてはポーズでしかない

三転倒立

すみだパークギャラリーささや(東京都)

2024/10/25 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初めての三転倒立。同居する二人、本屋の店員さんとお客さん、ヨガの先生と生徒、姉と弟…と様々な形の二人のやりとりがシームレスに繋がっていくことで一つの町(つまりそれは社会)の様相が浮かび上がってくる。ポーズをとること、とらさられること、とらざるをえないこと…あらゆる世界への問いかけが満ちた100分。
生活の中で遭遇する様々な違和感や疑問、祈りや切実が端々に忍ばされていたように思います。
そういった、なかったこと/知らなかったこと/見なかったことにされがちな事柄に辛抱強く向き合い、光を灯そうとするような作品でした。

他者を恐れ拒む時、それはつまるところ「わからなさ」からだろう。そこを飛び越え、世界を変える事は難しいけれど、飛び越え/変えようとする事はできる。そう信じる自分でいたい。たとえ最初はポーズでも。そして体がとるポーズと心がとるそれは違ったりもする。そんなことを考えたりもしました。

おまえの血は汚れているか

おまえの血は汚れているか

鵺的(ぬえてき)

ザ・スズナリ(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全員名字が違うきょうだいの30年ぶりの再会、その背景にある殺人事件の真相を巡って互いが互いの今を揺すぶっていく。
タイトルに違わず、終始ひりひりした会話が続く95分。そして、その緊迫をドライブし続ける俳優陣の集中力と推進力に舌を巻く。

妊娠出産を経験しているがゆえに、どうしても「母」や「妻」である3人の俳優の視線を目で追ってしまった。みなさんすごく細やかで瞳の雄弁さを痛感。名字を変えても、会うことがなくとも付きまとう血縁と埋葬しきれない記憶、そして罪。さらに私は本作に"逃れられない母性"をもみた気がする。
血縁を繋いでいく、いかざるをえない状況が身体に起こるということ、それによって抗い難い本能に苛まれるということ。母性は輝きだけではない。夕暮れの灯りに包まれるラスト、長男の妻の台詞に一筋の光。毎度ながら、舞台美術、音楽、照明が素晴らしく、鵺的ならではの総合芸術の力を堪能!

8hのメビウス

8hのメビウス

ウンゲツィーファ

スタジオ空洞(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

ウンゲツィーファ10周年公演であり、本橋龍の最新の長編作品。上演時間に及び腰になっている人にほどおすすめしたい作品でした。140分どこを切り取っても不可欠で少しの弛みも感じなかった。俳優陣の大健闘に思わず感涙。

一見8の字を辿るかのように同じ繰り返しに見えても"淡々とした日常"など本当はどこにもないのかもしれない。その往路と復路の途中で人と人は時にすれ違い、ぶつかり、時に重なり、交わり生きていく。それぞれの幸福を追求しながら、それぞれの不幸に戸惑いながら。

8は横にしたら∞なのだ、とそんなこともふと思った。ハード面ソフト面ともに細部に凝らされた工夫と饒舌な行間に演劇の無限の可能性を幾つも見た。

「普遍的な時の中でこそ人の心は泡立ち、擦れ、やがて波となり、いつしか予想もしないうねりとなっていく。感情の発端と経過に目を凝らし、耳を傾けなければ生まれようのない風景。その痛切と祈り。生活の隙間に落とされたものを決して落とされたままにしないウンゲツィーファの演劇を私は追い続けたい」
そうコメントにお寄せした通り、いやそれ以上に生活の隙間に落とされたものが掬い上げられていた。それは救いであり、禊ぎであり、過ちでもあり、祈りでもあった。
それら瞬間を余すことなく切々と演劇に取り込む本橋さんは劇作家や演出家というよりも演劇作家という言葉が本当によく似合う。素晴らしかった。

再演『エリカによろしく』

再演『エリカによろしく』

イエデイヌ企画

SCOOL(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

イエデイヌ企画初見。
最初から最後までどこを切り取ってもとても丁寧で、余白や行間こそが饒舌な演劇でした。飾り立てた台詞や過度な演出はまるでないのに、こちらに考える/想像することをやめさせない。そういった、ある種の達観のようなものがあり、二人のやりとりを取り溢すまいと見張りました。

静かながらも、時間の経過と関係の変化が相乗してドラマをドライブさせていくようなうねりもあり、自販機やそこから出てくる飲み物の種類といった別れの風景が心に彫刻されていくような痛みを感じたり、また、思い出したりもしました。(そういう風景の解像度ってなぜかやけに高いんだよなってしみじみ感じたりも)
タイトルへの帰結に余韻がどこまでも広がる。次回も楽しみです。

ドクターズジレンマ

ドクターズジレンマ

せんがわ劇場

調布市せんがわ劇場(東京都)

2024/10/18 (金) ~ 2024/10/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日本初演ということで、それ以上は特に前情報を掴むことなくフラットな状態で観劇。
上演時間が2時間半と聞き、少し構えたけれど杞憂でした。さすが手練れの俳優陣、空間を引っ張っていく力が大変大きく、終始のめり込めました。あと、休憩のタイミングがまた絶妙(これはとても大事)。

貧富や立場の差、才能の優劣を秤にかけ、人は人の尊厳を選定することなどできるのか。
医者たちの慢心や欺瞞が皮肉に描かれていく様も興味深かったです。
また、ドクターズのみならず芸術家の生き様、アーティストジレンマも照射。不遜と愛嬌を併走させる俳優陣の技と力も、小さなニュアンスに真意が光る翻訳も素晴らしく、豊かな観劇でした。せんがわ劇場ますます目が離せない!

キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする

キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする

東京芸術劇場

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2024/09/29 (日) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

東京芸術劇場主催の中高生のためのクリエイティブCAMP2024、ゲゲキャン。まず、タイトル『キャンプ場で作るカレーはどこの家にもない味がする』にもとっても惹かれた。バレエにヒップホップにダンスに夢中、最近はコンテポラリーが気になる10歳の娘と、まだまだ考える前に動き出す感性を持つ6歳の息子と観劇しました。
身体の鮮やかな煌めき、心の解放と躍動にこちらもつい前のめりになる時間。 火が灯されればその赤を見つめ、星が瞬けば空を仰ぐ。そういう正直な、祈りのような反射を私たちはこの身体をもっているんだなと改めて...。子どもの五感はもちろん、大人の体や心に子どもの頃から刻まれ、流れ続けているものに触れられるような時間でもありました。シリーズ化に期待!

ビッグ虚無

ビッグ虚無

コンプソンズ

駅前劇場(東京都)

2024/10/16 (水) ~ 2024/10/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日からずっとまとまらないまま考えてる。金子さんがインタビューで仰っていた通り"やりたい放題"に"全部を詰め込んだ"作品だった。そして、その"やりたいこと"と"全部"の中に逃れようのない今があった。これまで以上に悪夢のような現実を、社会を、世界を穿つ鋭い視点。

「鋭い」の後に「切実な」と一度書いて消した。切実と言われる自身に対してのカウンターみたいな作品でもあった気がするから。 自分もまた暗部の一部なのだ、と言わんばかりの作品だった気がするから。そして、それはそのまま観客も等しく持ち得る、または持ち帰らざるをえない悪夢で混沌だろう。

観客にとっては過去作のどの作品に強く惹かれたかによって、そして演劇に何を求めるかによって本作の好き嫌いや賛否は分かれるけれど、作家や劇団にとってはこの悪夢と混沌、そして虚無こそが現在地であるからして、私はやはりそれを見届けることをいつだって選ぶだろう。 意図的にかはわからないけれど、個人的には『ノーカントリー〜』以降の作品の源流にある様々な要素を点在させているようにも見えた。そこに劇団のある種のシークエンスを見たりした気もするし、コラージュされた様々の集結にある種の臨界点を見た気もする。

THE STUBBORNS

THE STUBBORNS

THE ROB CARLTON

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/10/04 (金) ~ 2024/10/14 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

THE ROB CARLTONの初見となった 『THE STUBBORNS』(MITAKA ”Next”SELLECTION)。 思い立って当日券で観劇。
言い間違い、聞き間違い、読み間違いから、さらに記憶違いへ...。あらゆる誤読や誤解が巻き起こす珠玉の勘違いコメディ。そして、爽快で人間味溢れるユーモラスな3人芝居でもある。
(京都の団体ということもあり)東京で知られていないと仰っていたけど、それで観逃すには余りに勿体ない85分だった。思い切って駆け込んで本当よかった。こんな出会いがあるからやめられないな、観劇。
日本語特有の複雑さと奥行き、人間の可笑しさと頑なさを清々しいまでに使い果たした上質の喜劇で笑いっぱなし。観終わって改めて気づくタイトルの秀逸。2人が話してるシーンも面白のだけど、その間のもう1人の表情も抜かりなくて、3人芝居としても素晴らしかった!
また絶対東京にきてほしいし、帰省にかこつけてホームの京都でも観なあかん。(不労社にせよ、熱いぞ京都!)

個人的には会議シーンにおいて女性の方がより客観的かつ冷静に物事を見ている、という描き方も好きだった女性というだけでしばしば感情的と揶揄されがちな面があるけど、そういう女性の描き方をまるでしてないところすごくよかった。勿論性差問わず起こる誤解はユーモアたっぷりに描かれてるのだけど。本当に気持ちのいい、上質な、だけどそれが振り切っているからこそ個性的なコメディだった。
(上質って書いておきながらなんですが、話の内容は全く難解でもなんでもなく、ご本人が仰る通りまじで不要不毛のくだらないやりとりです(笑)そのくだらなさの解像度にブーストがかかっていく様、それらに振り回される3人の様子が実に爽快!私も初見でしたが、1mmも構えず観られました)

夏の毛になる

夏の毛になる

内藤ゆき企画

下北沢 スターダスト(東京都)

2024/09/05 (木) ~ 2024/09/07 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

駅で保育園の先生に「お出かけ?」と聞かれ「観劇に」と答え「今から?!」とまず驚かれ「21時です、でも炊飯器でお米炊けたら終わるから長くなくて」と伝えたら「えっ、ちょどういう」となり「しかも早炊き」と言ったあたりから先生が無になる、などを経て観てきました(笑)
その名も、炊飯器でお米を炊いて炊けたら終わる演劇『夏の毛になる』です。
(通常と早炊き迷いつつ、コンプソンズの鈴木啓佑さんが出る日に!しかも初日だ!というのもあり早炊きに。)

好きな人に選ばれなかったことがある人、そのことで長く苦しんだことがある人と感想を分かち合いたい。そう思った。
基本的には可笑しくかわいらしいお話だけど、私はきっちり切な痛い苦しかった。
終盤内藤ゆきさんがずっと泣き出しそうな気がして、それは目がうるんでるとか赤いとか肩が震えてるとかそういうんじゃなくて、佇まいから受信する何かで。そして、それは多分自分の心理状態とも連動していて。こういう瞬間に俳優ってすごい仕事だなって思う。演劇観ていてよかったと思う。そのために観てるのかなとか思う。
夏の終わりの侘しさと恋の終わりの寂しさが肩を寄せて励まし合っている。そんな演劇だった。
それこそ米を炊き子どものご飯つくってから観られるのもありがたかったな。もちろん早炊きで炊いた。
「泣きながらご飯食べたことある人は生きていけます」(ドラマ『カルテット』by坂元裕二)という言葉も響くけど、きっと泣きながらご飯食べているんだろうな、という風景がその人の背後に浮かぶお芝居も強く心に残る。つらいときこそご飯炊いて生きていきたい。

悪態Q

悪態Q

劇団不労社

北千住BUoY(東京都)

2024/09/06 (金) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

京都を拠点に活動する不労社、初観劇。名前の読みにキュウが入っていたら適応される”キュウ割”というユニークなチケットもあり、丘田の丘のキュウで適応していただきました(笑)。

ユニークなアプローチはもちろんそういった取り組みに止まらず、上演そのものも冒頭からぐぐぐっと不労社ワールドに引き込まれ、いや、「引き込む」というよりむしろ「引き摺り込む」という表現がしっくりくるような引力に呆気に取られた90分。
BUoYという独特な空間をこの上なく活かして、恣に劇世界を構築する強度、そしてその空間に一人でも十分に耐えうる俳優の抜群の表現力×3人、タフなオリジナリティにによって、完全にその場を”占拠”していたように思います。東京でも、他の地域でももっともっと上演してほしい!

内容を語ろうとすると、感覚の裂け目からその魅力がこぼれ落ちていくというか、劇そのものが持つ独特の磁場や強烈なムードを語る言葉を自分がまだ得ていないことが悔しい。
兎にも角にも、最高の訳分からなさ、次から次へと見た事ない風景、Questionと悪態の応酬で痺れました。

昨日みた悪い夢の様で明日起きる破滅の様でBUoYの造り、冷徹で渇いた空間と完全なる共振に到達。俳優の技術力とスタミナも凄まじい。
不気味なのは存在?不在?果たして何方か。

刺青/TATTOOER

刺青/TATTOOER

ルサンチカ

アトリエ春風舎(東京都)

2024/09/20 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日。表題作のみならず『春琴抄』や(個人的には)『猫と庄造と二人のおんな』などに見る谷崎の作家性、ひいては人間としての性やフェティシズムを改めて暴き直すような印象も受けてとても面白かった。

谷崎の文学には平気に「お前は俺の作品」、「お前を立派な女にしてやる」的な言葉がじゃんじゃん出てくるけど、男性にとって女性がそういった「被写体」やら「モデル」として消費されたり、また「ミューズ」と神格化されたり、いずれにしても実体をぼやかされ収められてしまうことへの抵抗みたいなものを感じる部分もあって、そこに谷崎自身の依存や憐憫が重なっていくようで"今谷崎を上演すること"へのこだわりを端々に感じました。

ある時は運命を分け合うように、またある時は共闘するかのように視線を交わし、身体が離れている時ほど一体感を魅せた蒼乃まをさんとAKI NAKAGAWAさんの在り方、居方が私はとても好きだった。上演時間もコンパクトで観やすいけど、一幕と二幕を分けること、また、ライブドローイングによって隔てることにも大きな意味を感じました。

鋭く広い視点で"今"を見つめる兼島拓也さん、河井朗さんという二人の気鋭の劇作家ならではのタッグ作!イギリスでの反応もまた気になります。

球体の球体

球体の球体

梅田芸術劇場

シアタートラム(東京都)

2024/09/14 (土) ~ 2024/09/29 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

これとこれをそう結びつけるのか、これがそんなことに繋がるのか、という感嘆や驚きがありつつ、その何を書いても核心に触れてしまうから書けないのが悩ましい!(やら凄いやら!)

ダークファンタジーのようで、その実"親ガチャ"をはじめ、リアルな現代社会にアクセスした物語で、その繋げ方がまさに池田節。岸田戯曲賞受賞後初の新作でもある本作、池田さんの作家性の新たな側面を覗けた様な観劇でした。
美術や劇構造の個性、これまでの歩みで扱ってきた題材の要素が端々に散りばめられつつも、ゆうめい作とはまた別のモーターで動いているような。
ヒヤッとさせるところと笑わせるところが双方きっちり押さえられていて、かつ4名の芸達者な俳優が小さな球も逃すことなくクリーンヒットを。一人の人間が舞台に立つことで生じるエネルギーをまざまざ魅せられ、それぞれの身体性にうなりました。

溶けたアイスのひとしずくの中にだって踊る私はいる

溶けたアイスのひとしずくの中にだって踊る私はいる

焚きびび 

JINNANHOUSE B1F diggin studio(東京都)

2024/09/13 (金) ~ 2024/09/16 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

すごろくや人生ゲームでいうところの「一回休み」、自分だけ時が止まったようなそんな時間こそがその実人生でもっとも大切なきせつだったりする。そんな極私的な記憶の蓋があき"今"と"かつて"の切なるユニゾンにいつしか私も加って、叫んで、泣いて、笑っているような。
そんな演劇だった。
ある"かつて"を巡る旅の様で、まさに目の前にある"今"へのエンパワメントの様で、多分それはどちらでもあるということ、ともにある他ないのだ、ということだったようにも思う。
だから時に希望は絶望に翻るし、しかしそれは私たちが絶望を希望に翻すことができる、というやはり希望であったりもする。

そして、それらのキャッシュやトラウマを「言葉を書くこと」、「文字で刻みつけること」で乗り越えんとする人間の姿、それでしか全うできぬ浄化を描いた物語でもあった気がして、ものを書く人間にとっては厳しく迫るものもあった。
それを書かねばここから前にはすすめない、という主題を持ちながら筆を執れずにいる自分、それとはまるで別の言葉を世の中に届け続けることで精神を保っている自分、そういう自分から自分を解放するのはやはり自分しかない。だけど、そのことに記憶や思い出の中に存る誰かが「あっちだぞ」「さあいこう」と手を差し出してくれることもある。そうしたときに、その冒険に乗る勇気を持っていたい。ラストシーンを見つめながら切にそう願った。

だからこそ蓋のあいた極私的な記憶についても綴りたい。
私は学校という小さなしかしそれが全てに思えていた世の中とうまくやれず、中2で不登校になった。その頃、丁度ロンドン留学中の姉が夏休みで一時帰国をしていて、私は姉や朝晩問わず気まぐれに訪れるその友人たちとひと夏を過ごした。
彼や彼女は一度も私に「学校に行け」とは言わなくて、その代わりに平日の湖や朝方のドライブ、夜明けまでの夜更かしに私を連れ出し、先々でする少し大人な話をきかせ、縮こまって暮らしていた私に存分な背伸びをさせてくれた。
思えば、詩を書き始めたのも、ピアスをあけたのも、古着を買ったのも、初めての恋を失ったのもあの夏だった。「一回休み」にこそ人生が詰まったような。そんな"かつて"の夏の終わり。
激しい感情を持て余すかのようにどしどし、ぺたぺたと部屋中を歩き回るエミルはまるであの夏の自分みたいで、感情移入だけを演劇の没入にしたくない、してはならない気がするという理性とは裏腹に、私には自分と重ねて観る他なかった。
幼く、隙だらけなのにすっかり覚悟を決めているエミルが書く詩を読んでみたい。
嵐のように現れ、そして去ったトキの詩もやっぱり読んでみたい。
そうも思った。

劇中唯一出てきた俗世を思わせる「浜辺美波」という固有名詞に、彼女たち、彼たちの"かつて"が"今"に繋がっている可能性を見て、それはやはり希望のように思えて、嬉しくなった。
あなたもわたしもいる。"かつて"にも"今"にも。だから、きっと、溶けたアイスのひとしずくの中にだって踊る私はいる。

『ミネムラさん』

『ミネムラさん』

劇壇ガルバ

新宿シアタートップス(東京都)

2024/09/13 (金) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演5分前に当日券に滑り込み。
3人の劇作家による3つの物語が追憶のように混ざり合って、時に重なり、時に乱反射しながら人ひとりの存在を縁取っていくような。そして、それは特定のひとりじゃなくて、私であったりあなたであったりする。
そんな演劇でした。

タイトルから峯村リエさんの半生を辿ったりするのかしら?または、峯村さんをモデルにした物語?などと思っていたのですが、全くそうではなく。むしろ観終わったときに、きっと誰しもの近くにいるだろうミネムラさんを、自身ですらあるかもしれないミネムラさんに思いを馳せるような。そんな時間。

人って、掴みどころがないものなのだ。それはちょうど外側から見る窓の風景みたいに。私たちはいつだって互いに窓の内側にいかなくては触れることすら叶わない。山崎一さんが発したある劇中のセリフからつくづくそんなことを知らされたりもして。峯村リエさんの様々な横顔により痛感したりもして。

だけど、窓の中でも外でも人と生きていくのが人だったりもする。そういう瞬間に劇にぐっと奥行きが生まれていたような気がするし、"ミネムラさん"と人生を交える笠木泉さん、森谷ふみさんそれぞれの切実も素晴らしかったです。
窓の向こうと此方を往来しながら人ひとりの存在の奥行きと深さを噛み締める観劇でした。

バード・バーダー・バーデスト

バード・バーダー・バーデスト

南極

すみだパークシアター倉(東京都)

2024/09/19 (木) ~ 2024/09/23 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

面白かった、よかったのその前に「みんなのことが大好き」と叫びたくなる演劇だった。一人一人(一頭一頭?)がぐっと愛おしく、きちんと哀しかった。ラスト、涙で霞んでゆくその風景は雲への突入を思わせるようで、空へ、もっと空へと祈るように見ていた。

青春の終焉と世界の終末が互いを乱反射する様に立ち上がっていって、その狭間から溢れる光が眩しかった。"想像の翼"なんて言葉があるけれど、これこそまさに、という滑走をからだが、浮遊をこころが感じていた。
あのシーンを生み出したのは大袈裟でなく愛と信頼と想像なのだと本気で思った。思えた。

本当にきれいだった。
130分とあり正直身構えていたけれど、どの時間も、そしてどの記録も大切で、置き去りにして飛んでいくなんてできなくて。観終わった後にここまでタイトルが刺さる、刺さっていつまでも抜けない作品も珍しい。

俳優各々のチャームが活かされた配役も、そして音楽が物語に与えるドライブも素晴らしくて、さまざまな瞬間を忘れられそうにない。
前作に引き続き瀬安勇志さんの悪役に滲む悲哀、対極の役とをこなす力にも魅せられた。揺楽瑠香さん演じるアンテナの辛抱強い明るさが灯す解放と浄化には、人間に叶わぬ飛ぶことへの憧れと衝動が忍ばされているようでもあって。行き場のない意固地さや持て余したエネルギーを時に大胆に時に繊細に体現した端栞里さんとユガミノーマルさんも愛おしく。そしてそんなみんなを守り、そして愛され慕われる先生役の亀島一徳さんの包容力...。
賑やかな青春の中で密やかに芽生える恋心や友情の描写もかわいくて、切なくて好きでした。

前作よりもぐっと劇世界の密度があがっていてそこにも羽ばたきを感じていました。
今後の飛躍がますます楽しみです!
誰も彼もが自分の空を飛ぼうとしていることに胸を打たれた。そのことを互いに信じることができたら私たちはきっと鳥に、もっと鳥に。
『バード・バーダー・バーデスト』

許し

許し

avenir'e

新宿眼科画廊(東京都)

2024/09/14 (土) ~ 2024/09/24 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

イタリア人の劇作家であり、avenir'eのメンバーでもあるダニエーレ・レオーニさんによる新作海外戯曲。
いくつかの出来事から一家離散したある家族がミラノの町の片隅で再会、から繰り広げられる75分のノンストップバトル劇でした。
(以下ネタバレBOXへ)

ネタバレBOX

どうしようもない父親VS捨てられた息子のバトルに始まり、かつて妹に手をあげた兄VSそれによって家を出た妹に繋がり、「そういえばあれも」「これも!」と対戦相手がどんどん錯綜してクロスバトルに転じていく。家族関係の歪みや軋轢がガシガシ、みしみしと、シリアスに迫りくる部分もありつつも、フリースタイルダンジョン顔負けの「許す/許すまじ」バトルシーンでは瞬発的に露呈する人間の情けなさや滑稽さに、こちらも瞬発的に笑ってしまう部分もあって我ながらひやっとしてしまったり。会話の積み上げによってバトルにアクセルがかかっていくのも、かと思ったら、ぽつりと長年言えなかった本音が一言溢されたことで急ブレーキがかかったりと、俳優が巧みな分だけそのドライブに相乗りせざるえない感触もあり、まさに振り落とされぬようしがみつくのみ、という感じだった。「そんな簡単には許せない」と「これさえあれば許せたのに」は表裏一体でその瀬戸際を見せられることで、観る者の感情もあちらこちらへと揺すぶられていく。どうしようもない父親を可哀想に思ってしまう一瞬も、そんな父を見限って再生しつつある兄妹の仲を清々しく思う瞬間もあって、自分の中にもたしかにある激しい感情の在処を見破られているような気がして動揺も。
そんな観客に寄り添うかの様にバトルに慌てふためく他者の存在が一人あったことも劇のうねりにおいて重要だった気がする。
文学座公演ではなかなか観られない柴田美波さんの目つきが見られたこともよかった...文字通り人が変わったようだった...!
The Human Condition

The Human Condition

人間の条件

アートスタジオアイムヒア(神奈川県)

2024/12/07 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了

実演鑑賞

「いらない」と、思われたことはありますか。
「いらない」と、思ったことはありますか。
本作のキャッチコピーである。

人間の条件『The Human Condition』は相模原障害者施設殺傷事件が題材ということで観る前からきちんと受け取れるか、耐え切れるかの不安もあり、かなりの覚悟で観劇を決めた。この事件を扱う限り問題作にしかならない、ならざる/せざるをえないという気持ちがあったし、そういう意味ではやはり問題作だった。

ただ、思うところやきついことも沢山あったけど、「一人の男の思想と罪を糾弾し、許さないとすることだけではこの事件は終わらない、終わらせてはならないのではないか」、「その思想や罪と果たして自分は無関係だろうか、社会は無関係だろうか」という視点から考えて、考えて、そして応答することなしではこの先の劇作に向かえないという思いの片鱗を端々にみた。上演にあたって膨大なステイトメントが発表されていたことも影響していると思う。いつもの観劇だと、そのことは上演ではなくその周辺情報の力でともすれば劇の強度の評価は損なわれたりするのだけど、この題材を扱う本作においては全てが必要で連動しているものとして私は捉えた。

カンパニー名とタイトルが同一であることが示す通り、本作以前と以降で劇団や劇作家としての在り方も変わるのだとも感じました。

作品が与えるショックを鑑みて上演前には入退室自由のアナウンスがあり、植松死刑囚の思想や言動をなぞるシーンでは私も心身への負担から一時退室も考えたけれど、全編観た今は、少なくとも今は必要なシーンであったように思う。直接的な描写を避けた「配慮」ともとれる演出もあって、そのことを被害を受けた人や遺族に対する姿勢として受け取りつつ、それが同時に観客へ配慮でもあることから色んなことを考えさせられたりもした。

カンパニー側からのアナウンスは丁寧にされているのですが、劇場の客席のつくり上、なかなか途中・一時退室する勇気が出しにくいかもしれない。だけど、そこは本当に誰しもに無理せずに観てほしいし、そういうことがどんどんされていくこともまたこの作品を通じて目指す社会の在り方なのではないかとも感じた。

あと、私は人間の条件の持ち味とも言えるドラスティックな劇中音楽の持ち込み方が本来はとても好きで、今回も際立っていたし、必要な箇所もあったのだけど、激しい音楽がドラマの盛り立てを手伝わざるをえない部分もあり、題材が題材だけにそのあたりのバランスはかなり悩ましいところだなという気づきもありました。
まだ全然頭も心も整理がついていないけど、観たということを残しておくべきだと感じたので、まとまらないままですが書きました。

※"ネタバレ"や"満足度"というものを本作に持ち込むことに抵抗があるため、ネタバレBOXの使用や満足度の設定は控えます。

三ノ輪の三姉妹

三ノ輪の三姉妹

かるがも団地

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2024/08/31 (土) ~ 2024/09/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

チラシの写真も素敵で気になっていた、かるがも団地『三ノ輪の三姉妹』。初日観劇。
登場人物たちの心の動線が丁寧に張り巡らされていて、そのことが導く風景にも奥行きがありました。独特のチャームをもった台詞回し、語りと会話の継ぎ目のシームレスさ、作家の個性、俳優の魅力を端々に感じる演劇で、観られてとてもよかった!

誰を切り取っても人物造形が丁寧で、どこか自分に似たあの人も、全然似てないその人も、其々ちがうみんなの気持ちが少しずつわかってシンパシーとエンパシーを重ねながら観ました。
自分の家族にもこう思えたらな。下町でそれぞれの暮らしを送る姉妹とも、そして、姉妹を生み育てたお母さんとも手を取り合いたい。そんな気持ちでした。

俳優さんがとにかくチャーミングで、みんな少し可笑しくて、でもその可笑しさの裏でそれぞれが何かを背負ったり抱えたりしていて、姉妹に限らずそれゆえの明るさがとても愛おしかった。生きてきた歩みや人生の見えるお芝居の数々でした。

四人姉妹に生まれ、卒論を向田邦子で書いた身としては(あくまで単なる設定という意味で)『阿修羅のごとく』を想起もしたけれど、家父長制(のようなもの)や男性性(のようなもの)についての視点を携えつつ、ただの批判や糾弾に収めないことでより人間やその関わるの複雑さがリアルに描かれているように感じました。
あと、選べない境遇の元で今を生きていく上での息苦しさを生々しく切り取っていたところにも惹かれました。明るく、温かいけれど、きちんと生々しい。そんなところに惹かれました。

グッとくるシーンたくさんあったのですが、美容室のシーン好きだったな。
(以下ネタバレBOXへ)

ネタバレBOX

誰かに髪をなでられるときにだけ緩まる何かを私たちはこの身体にもっているような気がしていて、三姉妹にとってそういう場所があることが私はとてもうれしかった。
あと、生まれ育った環境が真逆の恋人の存在も。「わかりあえなさ」だけでなく、そこを飛び越えようとする姿までを筆と芝居が追ってくれたことに救われた。
同棲と一人暮らしについての議論も必要なシーンだったと感じました。

家族の仲の良さなんてものは本当に外からはわからないもので、それぞれの形があるけれど、不器用だけど懸命な人たちがそれぞれの場所で、たとえば商店街や海のそば、2LDKのマンションなんかでそれぞれ楽しく生きていてほしい。それから時々つながって、相変わらずのその煩わしさに嫌気がさしたり、それでもやっぱり気にしあったりしながら生きていけますように。

ちなみに私は四姉妹の三女。誰かと誰かの間に時々挟まり、おしゃれと居酒屋はとても好きで、ここだと思う職場と出会うまでに遠回りをしてきました。ちなみにちなみに、姉妹との最後のやりとりは昨晩のグループライン。ある必要に迫られて4人全員が映っている写真を送り合った。気に入る写真も夕飯に食べたいものも、いつも意見は割れるし、些細なことで揉めたりもするけど、雨が降ったら傘の中に入れてあげるし、入れてくれる人たちではあるかなあ。
"Gouche"

"Gouche"

PANCETTA

小劇場B1(東京都)

2024/07/31 (水) ~ 2024/08/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

初日を6歳の息子と10歳の娘とともに観劇。
味あるキャラクターに、さらにさらにといのちの躍動を灯す様なお芝居、ゴーシュの心象風景と観客の想像力に寄り添う豊かな演奏も素晴らしく、夏休みに親子で観るぴったりの作品でした。

ゴーシュと父の在りし日の忘れえぬ触れ合いが、セロとの対話やともに奏でる音楽にシームレスに繋がっていく様子、個性あふれる動物たちとの出会いによって、自身の表現や心を磨いていく様子、シーンが重なっていく度にゴーシュの心が成長していくようでもありました。

劇場に入ると、音符と花が一つになったような小道具が観客へ配られ、そして最後には、それを観客からステージへと手渡していく。その温かな循環にもグッとくるものがありました。
歌唱そのものがものすごくハイクオリティなミュージカルというわけではないのですが、プロによる楽器演奏がしっかりとベースを支え、等身大の声色で語りかけるような歌が躍動感を持って心に伝わってきました。子どもたちも満足していた様子でした。
そして、演劇の町・下北沢での観劇では、町中でさっき観た演劇のポスター見つけてはしゃぐまでがお約束です(笑)

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