松岡大貴の観てきた!クチコミ一覧

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きく

きく

エンニュイ

SCOOL(東京都)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「きく」ということと、自由な劇構造

ネタバレBOX

グランプリ評もありますので重複を避けますと、「きく」というテーマ設定と同時に、複数の場面が挿入される中でも、「きく」という点において一貫して物語が続く仕掛けは興味深かったです。それほどに「きく」という軸は構成上有用なもので、即興的演劇や要素が入り乱れる劇構造においても機能していたように思います。その上で審査会においては意見が割れていたことも申し上げておきます。自由な劇構造と書きましたが、それは取りようによっては乱暴な、観客を置いてきぼりにする可能性も秘めているという意見だったかと思います。自分はそれぞれの場面や登場人物、セリフも楽しく感じていましたので好意的に捉えていましたが、そこがハマらなければ途端に難しくなるのかもしれません。確かに自分は評価をしていた側ですが、そのテーマ設定以上に、様々挿入されるシーン自体を楽しんでいました。それが団体の狙いと合うかも含めて、次の上演を模索して頂けたらと思います。
あたらしい朝

あたらしい朝

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2023/05/03 (水) ~ 2023/05/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

いつか思い出す旅路と、コロナで流した涙について

ネタバレBOX

2020年10月にアトリエ春風舎で上演された作品のリメイク。ドライブにでた若夫婦がヒッチハイクをしている女性と出会うところから始まる。妻がたずねる 旅行ですか? と。
簡素ながら幻想的な舞台を構成する美術と照明の中で、場面は思い出とも夢とも回想とも呼べるような曖昧さで挿入される。現在の旅行と過去の新婚旅行、車内と飛行機あるいは船の上、登場人物たちも今の役なのか過去の役なのか、あるいは夢の中なのか、その曖昧さは本来観客が場面を認識するのにストレスになってもおかしく無いはずだが、ここでは心地よい。それは、本当は死んでいるかもしれない夫や、もう戻らないかもしれない時間や世界そのものを、曖昧さが包み込んでくれているからかもしれない。思えばこのコロナの数年間は、まるで現実感の無い日々を過ごした人も多いのかもしれない。けれど、決して戻らない時間と失った人々だけが現実にはあって…。その空虚な時間を埋めるような、思い出せない日々を虚構と幻想が補完するような作品に、この作品がなると良いなと思う。最後に、制作だけではなく出演、音楽と八面六臂の活躍を見せていた金澤昭に何らかの賞をおくるべきでは無いかと審査会において複数の意見が出たことを申し添えて置く。残念ながら該当する賞が無かったため、劇団内にて存分に労って頂けますことを。
本人たち

本人たち

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク

STスポット(神奈川県)

2023/03/24 (金) ~ 2023/03/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

小野彩加 中澤陽 スペースノットブランクの実験室

ネタバレBOX

『本人たち』は第一部「共有するビヘイビア」と第二部「また会いましょう」からなる連作。「共有するビヘイビア」ではただ1人の出演者-古賀友樹を観客は眺め続ける。スペースノットブランクの言う「聞き取り」の、さながら調査結果を聞いているよう。被験者-古賀友樹の本人性を元に抽出したテキストと発話、行動様式=ビヘイビアを報告しますと言われれば、そのようにも捉えられる。ただそれを語る古賀の赤らんだ顔や時たま見開く瞳がある種の物語を想起するのだが、それはそれまでの舞台観劇体験を元にした鑑賞をしようとする観客に起こるバグなのかもしれない。一方で第二部「また会いましょう」では登場人物は2人に増え、その発話内容も少し意味をもつようにも感じる。同時に2人になることで起こるある種のリズムが感覚的に心地よくなってしまう部分もあり、2人の発話が、言語なのか、音楽なのか、はたまたそれとも違う振動その他と捉えて良いのか迷う。それらが獲得するものはある種の多声性なのか、あるいはノイズなのか。実験的取り組みとその言語化を為さんとする試みの両方が試されている。
半魚人たちの戯れ

半魚人たちの戯れ

ダダ・センプチータ

王子小劇場(東京都)

2023/04/13 (木) ~ 2023/04/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★

バンドと、少し先の未来を想定した群像劇

ネタバレBOX

ある売れないバンドのボーカルとそのメンバー、そのボーカルの売れた音楽仲間、そのボーカルのバイト仲間、そのボーカルの死んだ彼女、といった人々の群像劇。死んだ彼女が遺した詩が「半魚人たちの戯れ」であり、ボーカルはそれに曲をつけて成功の兆しを見せる。
舞台は素舞台で、地明かりの照明もそれほど作り込まれてはおらずさながら王子小劇場そのものであった。音楽が重要なモチーフとなるため音響も意識していたが工夫は見られず、スタッフワークに少々疑問が残った。
脚本は近未来を思わせる用語が含まれている一方場面は断続的で、焦点を絞るのが難しかった。
とはいえ自分が見たのは初日であり、展開がスムーズになれば、例えばセリフのやりとりの上では笑いが起き、それを手掛かりに見えてくる部分もあったのでは無いかとも思う。作中言及のあった再生医療や「ムーンショット目標」は現実に存在、あるいは存在しうる物だけに描き方によってはより切実に「死」の曖昧さを描けたのでは無いかとも思う。これから間違いなく「生」と「死」は揺らいでいくのだから。
令和5年の廃刀令

令和5年の廃刀令

Aga-risk Entertainment

としま区民センター・小ホール(東京都)

2023/05/01 (月) ~ 2023/05/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ウェルメイドなシチュエーションコメディ。

ネタバレBOX

もし現代まで帯刀が認められていたら、という世界を舞台にした討論劇。現代に相次ぐ刀剣による殺傷事件を受けて廃刀令の是非を議論するタウンミーティングに観客は参加しているといった構図。
まず真っ先に意識するのはアメリカの銃規制の問題であろう。銃乱射事件が頻発してもアメリカが銃規制に踏み切れずにいるのに対して、それを日本における刀に置き換えるのはそれぞれのナショナル・アイデンティティを上手く置き換えているように感じた。
しかしそれ以上に、コメディとして面白い。廃刀令の推進派、反対派に分かれた有識者が壇上で討論している様子は「朝まで生テレビ!」よろしく、議論の深まり以上にある種のエンターテイメント性を内包している。登場人物たちの造詣も豊かで、全日本刀剣協会の支部長や(さながら全米ライフル協会のような)、いかにもメディアに“美人”政治家と揶揄されそうな女性活動家、斜に構えた歴史小説家など、登場人物それぞれに見せ場があり、魅力があった。もう一点、評価すべきは会場を劇場ではなく区民センターなどの公共施設にしたことであろう。タウンミーティングといった設定を生かす上で、演出と制作体制が一体となった会場選定は観客にとっても効果的で成功していたように思う。応募時に団体が書いていた「ポータブルで持続可能な演目づくり」という点も、各地の行政施設で上演可能な作品と考えれば狙い通りであろう。
概ね面白いエンターテイメント作品として楽しんだが、審査会で別の審査員からは歴史的解釈やリアリズムとしての問題点について指摘があった。「国民皆が帯刀している」という点や、それが何故現代まで許容されているのかといった視点を持つと疑問に感じる観客もいるのだと認識した。シチュエーションコメディの設定にどこまで細部を求めるかは考え方次第の部分もあるかと思うが、指摘には肯く部分もあったので記載しおく。
松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル

松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル

afterimage

七ツ寺共同スタジオ(愛知県)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ダンスカンパニーによる異色の落語会。

ネタバレBOX

自分が鑑賞したのは《そば組》の公演で、それぞれ松竹亭白米(おにぎりばくばく丸/上田勇介)が『青菜』、松竹亭ズブロッカ(服部哲郎)が『蒟蒻問答』、松竹亭ごみ箱が『居残り佐平次』、仲入り後には『ダンスで分かる三方一両損』なる演目が行われ、最後にフィナーレのダンスで幕切れとなる。
面白かったです。あの、それは落語の出来を楽しみたかったら寄席に行った方が良いのですが、そこは工夫をしていらして、『青菜』では本当にお酒を飲んだり、『蒟蒻問答』では問答の場面でダンスが挿入されたりと、ダンスカンパニーが落語会をする、といった標題通りになっていたかと思います。いわゆる天狗連とは一味違いました。
一つアイデアがあるとすると、もっとイベントとして、お祭りとしてやっても良いのではないかなと思います。例えば出店を募ってお客さんが買えるようにしたり、地域の他のアーティストにも声をかけて出し物をやってもらったり、もっと言うと一つの公演ではなく“afterimageフェス”みたいにして、そのうちの演目の一つとしてやってみたらより広がりがあるのではないかと思いました。そうすればこういう色物に加えて、本気のダンス演目も加えて締めたりと、客層も広がるのかなと考えたりしていました。制作大変そうですが、出来なくもない気がします。
少女仮面

少女仮面

ゲッコーパレード

OFF OFFシアター(東京都)

2023/03/16 (木) ~ 2023/03/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

唐十郎の名作と、俳優の肉体と。

ネタバレBOX

戯曲は説明するまでもないが1969年初演、岸田國士戯曲賞を受賞した唐十郎の代表作の一つ。まずは若手と呼ばれる団体が日本の既存戯曲に取り組むことは積極的に評価したい。日本の特に小劇場ではやはり新作上演が多く、戯作と演出を兼ねることも多い。それ自体はそれぞれの創作過程の上で選択してきたことであるのだが、やはり古典や名作の再解釈や現代的価値観との化学反応は、演出という職能を考える上で重要に思う。ヨーロッパが文化としての、あるいは市場としての舞台芸術を築けたこともそれぞれの時代の戯曲を再解釈して現代作品として提示する一貫性が観客と共有できる部分として用意されていることも大きいと感じる。大きく様式の異なる近松や南北にすぐに取り組むのは難しくとも、木下順二や宮本研、寺山修司といった近代における名作を再解釈する余地はまさにこれからであろう。どれも新劇やアングラといった枠には収まらないはずだ。

前段が長くなってしまったが、1960年代から連なるアングラ演劇の旗手たる唐十郎の作品にゲッコーパレードが取り組むことは、まさに前述の文脈にも適うことだろう。その上で、その上演をどう評価するかというと少々難しい。ほぼ元の戯曲通りに上演された本作は、その演劇が我々が想像しうる“伝統的”アングラの作法に則っていたようにも思う。デフォルメされた動きに節のついた台詞回し、少し毒を感じる衣装やメイク。俳優達はケレン味たっぷり。特に劇場内を不規則に力強い足どりで移動していた小川哲也演じるボーイは、自分にとって春日野八千代より印象的であった。

今回の応募にあたってゲッコーパレードは「この公演の一番の意気込みは、俳優中心の演劇を作ること」と述べ、それは演劇にとって必要不可欠である俳優が消費されず、主体的に演劇を作ることを目指しているとしていた。なるほど、それは確かに取り組まれていたのかもしれない。俳優はそれぞれ異なる演技体を持って作品に臨み、舞台美術や小道具は排除され、俳優が制約を受けるものは極力取り除かれていた。『少女仮面』の戯曲を読んだことや作品を見たことのない観客は場面が想像できない部分もあったかもしれない。それでも俳優たちは自由であったのかもしれない。では、そして、自由になった後の俳優たちはどうなるのか。舞台の上での虚構を失い、自己の肉体のまま戯曲の台詞を語る俳優は、何者になるのだろう。
ゲッコーパレードの、特にこのシリーズの取り組みは道半ばであろう。俳優が俳優として舞台に存在することになった先に何を描くのか、それは特権的肉体論の先を描かなければならないのではないか。模索してほしい。
あげとーふ

あげとーふ

無名劇団

無名劇団アトリエ(大阪府)

2023/03/17 (金) ~ 2023/03/21 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

高校生5人組の卒業旅行を描くロードームービー的舞台。

ネタバレBOX

劇団の母体となる演劇部が高校の全国大会で準優勝した時の作品を15年ぶりにリメイクした上演。テキストはテアトロ新人戯曲賞佳作を受賞している。この高校の大会で上演したのが2008年とのことなので、自分とはほぼ同世代ということになる。舞台は卒業旅行中のアメリカで、道中様々なトラブルが起き、それぞれの少年達が抱える葛藤や問題を乗り越えたり抱きしめたりしながら物語は進んでいく。
物語としては映画「スタンド・バイ・ミー」よろしく、ある種の伝統と形式に則ったプロットで描かれ、斬新さの代わりに安心感を得ている。役者の演技は情熱的で、20人程のキャパの会場において熱気が伝わってきた。一歩外に出ると西成の商店街に位置しているということを意識する観客もいただろう。
ここまで書いてきて思うのは、自分は本作の本来の没入感を捉え切れていない気がする。これは、自分が“高校演劇”というジャンルを捉え切れていないことにもつながる気がしている。大人になってから“高校演劇”というものを知った自分は、それが単に「高校生の演劇」であるだけではなく、“高校演劇”自体を愛好する人々がいることを知った。例えだが野球であってもプロ野球の方がレベルが高いことは承知の上で、それとは別に甲子園球児を応援する人々の気持ちと言うべきか。ある種の熱狂は、それを知るものにしか共有出来ないものがあるのかもしれない。その時人々は、技術やクオリティを見ているわけではないのだ。
これは、何も高校演劇が特異なものであると言及したいのではなく、特定の人々が理解できるある種の文脈がその作品にとって重要な場合、そうでない人々はどう観たら良いのか、という他の作品にもつながる課題であるように感じる。
橋の上で

橋の上で

タテヨコ企画

小劇場B1(東京都)

2023/03/08 (水) ~ 2023/03/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

実際に起きた連続児童殺害事件を背景に描いた社会派劇。

ネタバレBOX

2006年に起きた秋田児童連続殺害事件を背景に、登場人物や社名等をフィクションに置き換えている。舞台を事件から20年が経った地元メディアに設定し、事件当時の回想や登場人物の過去を語ると同時にシーンとしても舞台上で見せていく。
リサリーサ演じる藤井あかりは、殺人事件の犯人とされる役の朴訥さと儚さを好演していた。舞台美術と照明も印象的で、出演者による場面転換のスムーズさとも合わさって、転換の多い本公演の各シーンを観客が理解する助けとなっていたように思う。美術・照明はこのテーマでいてリアリズムに依らず、幻想的な雰囲気を構築していたのも成功していたように思う。
脚本については疑問を感じた。物語の軸となる地方メディアや加害者については多面的に描いていた一方で、警察や裁判所など、特に警察については無能で高圧的で人間味のないキャラクターになってしまっていた。意図的にそう描いたのだろう。そこに作者の現場の警察制度や司法制度に対する主張が見て取れると解釈しても良いが、“体制側”もまた一人一人の総体である以上、踏み込んで描いて欲しかった。もう一点、加害者の精神疾患の描き方について。加害者が家族や社会に抑圧され、精神的に追い詰められていく様子は丁寧に描かれており、同情する観客も多いであろう。しかし、こと殺人事件においてはその精神疾患がかなり大きな要因として描かれているように感じた。その点を強調する必要があったのかは今でも疑問に思っている。精神疾患と重大犯罪を結びつけて論じるのは、実際の事件を元にしていたとしても、むしろ実際の事件を題材としていたからこそ、より慎重に扱うべきであったのではないかと今でも考えている。

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