kikiが投票した舞台芸術アワード!

2021年度 1-10位と総評
ホテルカリフォルニア

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ホテルカリフォルニア

劇団扉座

実演鑑賞

(なるほど、私戯曲ってこういうことか)と観終わって思った。ある劇作家の追憶は、笑いとほろ苦い痛みを伴いつつ、ひとつの時代を鮮やかに描いていく。背伸びをしながらもオトナになりきれない彼らを大人が演じることで見えてくるモノもある。彼がそこで出会った人や出来事は個性的だけれど、同時に普遍性を併せ持っていて観る者に懐かしさを感じさせる。楽しかったこともささやかな後悔もそれぞれに。
開演前や終演後のロビーも含め、総力戦という言葉がふさわしい、劇団らしい面白さがあった。

カナリヤ

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カナリヤ

日本のラジオ

実演鑑賞

とても面白かったのだけれど、どこがどう面白いのか言葉にするのは難しい。緻密で完成度の高い戯曲の持つ世界観とか、個性的な登場人物たちを丁寧に具現化する魅力的な俳優陣とか、シンプルかつ印象的な美術とそれを際立たせる照明とか、そういうありふれた形容では伝えられない独特の空気感があって、それに引き込まれつついろんなことを考えたりする。帰りの電車の中で、観客全員に配布されたパンフレットを読んで、またざわざわする。そうか、そうだったか。ここまでを含めての物語なのかもしれない。

音楽劇 百夜車

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音楽劇 百夜車

あやめ十八番

実演鑑賞

雑然と積み上げられたように見えたデスクや書庫が各場面で効果的に役目を果たしていくように、幾重にも張り巡らされた物語と人の想いに絡め取られていく2時間40分。キャストもそれぞれに魅力的で、特に主役のお二人の圧倒的な歌声が物語を牽引していた。堀越氏の紡ぐ言葉の美しさと音楽との相性の良さも見どころ。

フェイクスピア

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フェイクスピア

NODA・MAP

実演鑑賞

さまざまな仕掛けの詰まった戯曲。二階席にも伝わる人々の熱量と技量。そして終盤、数々の伏線が繋がる快感にも増して、その人が伝えようとした言葉に胸を打たれた。
橋爪功さん、高橋一生さん、白石加代子さんがほぼ出ずっぱり、加えて野田さんご自身が走り回りしゃべり倒す。そういう俳優陣のご活躍だけでも観た甲斐があった。

ワレリー・ベリャコーヴィッチのマクベス

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ワレリー・ベリャコーヴィッチのマクベス

劇団東演

実演鑑賞

故V・ベリャコーヴィッチ氏のダイナミックな演出をO・レウシン氏が引き継いだ圧巻の舞台。シアタートラムで観た初演よりいっそう鮮烈で、よく知ってるはずのストーリーに多くの気づきを与えてくれた。キャストも粒揃いで息つくヒマもない充実の2時間45分。
美術も印象的で、4枚の巨大な扉には登場人物並みの存在感があった。
音楽や様式美を感じさせる独特の動き、衣装、照明、音楽なども演出や演技と相まって劇場内を濃密に満たしていた。

ミュージカル『スリル・ミー』【4月25日(日)~5月2日(日)公演中止、大阪公演中止】

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ミュージカル『スリル・ミー』【4月25日(日)~5月2日(日)公演中止、大阪公演中止】

ホリプロ

実演鑑賞

自分にとって初のスリル・ミー。東京公演は予約した回が中止となり、高崎で拝見した日も急遽のキャストチェンジになる、という波瀾万丈な(?)観劇だったが、期待に違わぬ圧巻の舞台に満足。
53歳の「私」が語る34年前の犯罪の顛末は、ヒリヒリするような緊張感で2人の若者のあやうい関係性を描き出す。ピアノの響きと2人の歌声が会場を満たし、物語の進行を固唾を飲んで見守る客席の集中が心地よい充実の約100分となった。

ミュージカル「北斎マンガ」

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ミュージカル「北斎マンガ」

わらび座

実演鑑賞

ひたすらに絵を描き続けた葛飾北斎の半生を、2度目の妻おことや娘お栄、滝沢馬琴らとの関係を軸に描くミュージカル。ポップな歌とダンスに加えてラップやお笑いなどさまざまな仕掛けと工夫の凝らされたステージから、時代を飛び越えて躍動する人々の情熱が観る者の胸に響く。
マキノノゾミさんによる戯曲と演出は、多くの笑いと切実な想いを丁重に描いて幅広い世代が楽しめる作品を生み出していた。時代モノらしからぬカラフルで個性的な衣装やヘアメイク、北斎の絵を大胆に取り入れた美術や工夫の凝らされた小道具等が物語と登場人物の魅力を増した。

森 フォレ

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森 フォレ

世田谷パブリックシアター

実演鑑賞

『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』同様自らのルーツを辿る旅を描く。いくつもの世代にわたる入り組んだ人間関係とそれぞれの時代背景、そして女性たちの苦しみ。「見捨てない」という言葉の重さ。俳優陣の熱演もあいまって充足感たっぷりの3時間50分。

セーラー服を溶かさないで

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セーラー服を溶かさないで

CACHU!NUTS

実演鑑賞

中嶋康太さん作・演出のチャーミングな会話劇。俳優陣も魅力的で、とても楽しかった。登場人物がみなエッチで、不倫劇だけれどドロドロというより(コイツらもうホントしょうもない)と笑ってしまう。そしてしょうもないけど観ているうちにじんわり愛しくなる、そういう物語だった。

フタマツヅキ

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フタマツヅキ

iaku

実演鑑賞

やるせなく愛おしい人々の営み。応援することが同時に相手を縛ることとなってしまったりもする。夫婦の生き方を正しいとか間違ってるとかそんなふうに結論づけることはもちろんできなくて、それでも共に生きてきた日々はかけがえのないものであったかもしれない。この作品を拝見できてよかった。

総評

2021年に劇場で観たお芝居はのべ72本、演目数でいうと62作で感染症の流行以前と比べると半分くらいですが、前年よりは少し復活しています。
とにかくなんていうか先が見えなくて、感染者数の動向とか緊急事態宣言等の状況とかも予想しきれない中、公演の準備をし稽古をし幕を上げてくださる皆様方の御苦労を思うと本当に頭が下がります。
そんな中で印象に残った作品を10本選んでみました。順位は付けてありますが、実際にはほとんど差がなく、どれも印象的で観ることができて幸せでした。
ありがとうございました。

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