jokermanが投票した舞台芸術アワード!

2022年度 1-10位と総評
花柄八景

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花柄八景

Mrs.fictions

実演鑑賞

ある意味で同劇団の代表作とでも言うべき作品。観るべし!80分。
 2012年に初演された作品の再演。20XX年、なんでもコンピュータが人間より巧くやる時代になり、落語でもコンピュータとベテラン落語家・花柄花壇(岡野)が対決し、花壇が負ける。このため人間の落語家がほとんどいなくなり花柄一門も崩壊し、最後に残った前座のプラン太(ぐんぴぃ)も去る。花壇はたまたま出会ったパンクバンドの鉢(今村)とその恋人・苗(永田)やストリート・チルドレンの燐(前田)を弟子にして、抱腹絶倒・前代未聞の落語修業が始まる…、というストーリー。
 芝浜・らくだ等、落語に関する知識が多少は必要だが、最早一般常識と言ってもよいくらいの話なのかもしれない。同じくパンク・バンドに関して、シド・ヴィシャスとかも知っておいた方が良いが、これも一般常識なのかも知れない。初演も観たが、とにかく落語愛に満ちているのがいい。落語「シド&ナンシー」がまた聞ける(観られる)なんて、スゴク幸せだと思った。笑わせてくれて、最後はちょっと泣かせて、微笑んで終わる。とにかく、いい芝居だ、と言いたいです。

・劇中で使われる古典落語リスト。
「地獄八景」…冒頭で花壇が語る
「野ざらし」…タイトルのみ。初音ミクの「野ざらし」はぜひ聞いてみたい。
「死神」…ろうそくがフッと消える
「芝浜」…鉢が語る
「文七元結」…タイトルのみ、ロンドン中を泣かせてほしい
「らくだ」…かんかんのう~
「釜どろ」…燐が語る

・劇中で語られる新作落語リスト。
「プリキュア」…花壇が語る
「シド&ナンシー」…苗が語る。これはなんとかして最後まで聞きたい!
「チェルシーホテルの仇討ち」…タイトルのみ
「(タイトルなし)」…花壇が語る、花壇vs初音ミク、の様子

秒で飛びたつハミングバード

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秒で飛びたつハミングバード

かるがも団地

実演鑑賞

この劇団の本公演を観るのは3回目。とてもいい気持になる芝居。観るべし!112分。
 20代後半の男女が、悩んだり振り返ったり落ち込んだり前を向いたりする群像劇。中心になるのが教員の絵莉子(柿原寛子)とその近所に住む仁科(袖山駿)。さらに、その知己の歯科医・アッキー(武田紗保)と同棲するあきら(大嵜逸生)、絵莉子の同僚後輩の畠中(家入健都)や仁科のパート仲間・氷室(助川紗和子)、仁科や氷室が買いに行く弁当屋の東(一嶋琉衣)も加えて、様々な関係の男女の葛藤を、コメディで描く。とにかくセリフのキレがよく笑わせてくれるが、時にシンミリさせるあたりも脚本の巧さを感じるし、それを笑いにできる役者陣も見事。7人に加えて、老婆や中学生ほか「森羅万象」を演じる宮野風紗音が巧い。間を取らず展開する演出も効果的だ。この年代の持つ、達成感と喪失感を巧みに描いて、とてもいいモノを見せてもらった気になる。
 本劇団の本公演は3回目だが、どれも星5つを付けてる!作・演出の藤田はリアルさに満ちた物語を書き、自分の経験をベースに書いているのではないかと思う。人間を信じる気持を書いているのではと感じる。
 とにかくいい芝居である。

無情

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無情

MCR

実演鑑賞

2007年に初演、2016年に再演作の再々演で再演を観てる。素晴らしい!!(4分押し)109分。
 足から徐々に全身に麻痺が広がる病気にかかった女性とその周辺、目が見えないために他の人からヒドイことをされてしまう女性とその周辺、の2つの物語が交互に3場ずつ展開される。2人を襲う悲劇は確かにツライものなのだけれども、それを笑いに変えるセリフを書く櫻井が凄い。しかも、大笑いしていた観客を一瞬で凍り付かせるセリフのキレは見事。両者の関連は物語上は少ないのだけれど、交互に観ることである種の特徴が浮かび上がってはくる。
 再演を観たときの感想で、「セックスは」「できません」というセリフで爆笑させる櫻井は凄い、と書いているのだが、今回は笑える感じではなかった。何が変わったのだろうか。

クリキンディの教室

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クリキンディの教室

電動夏子安置システム

実演鑑賞

緻密な脚本のコメディを演じる同劇団だが、今回も緻密で大笑いさせてくれて考えさせられる。観るべし。119分。
 とある小学校の職員室らしい部屋(とてもそうは見えない舞台美術)で展開される、教員たちのSDGs談義。桃太郎を辻褄合わせて荒唐無稽な話にしようとするが、そこにはSDGsの話題…、という展開。それぞれの教員のキャラや、セリフで冒頭から笑わせてくれるし、こんなに大笑いが続く戯曲は同劇団でも珍しいのだが、途中から、深く考えさせられる話題を扱っているな、と気づいてゾクゾクした。タイトルの「クリキンディ」は調べてみて本当に凄いタイトルだと思ったし、同じ学校でも、何を大切にするかは教員により違うし、そんな違いが新たな何かを生むことはある、ということも、実は描いているんだと思う。同劇団を17年観ている私だが、このところ社会派よりのコメディへと変化した一つの究極だと思った。
 10人の登場人物のキャラがしっかりしているし、それを確実に演じる役者陣の手練の技が凄い。小林知未が演じる吉備野の演技は特に凄いと思った。

あまりにも面白かったので、2度目の観劇。確かに面白い。観るべし!118分。
 筋が分かって改めて観てみることで、巧妙な脚本の台詞の構造がしっかり見える。無駄がない。昔話の辻褄を現代の基準に合わせる、というスタイルの演劇やコントはいっぱいあるが、これほど成功しているものは滅多にない。辻褄があっているという意味ではなくて、笑わせるものとして、ということだが…。SDGsを謳っているが、必ずしもそれに準じているわけでなく、それぞれの個人(教員)が思うこと/できることを積み上げると何かが生まれる、という趣旨だと思う。役者陣の技量に基く芝居作りは、とにかくスゴイ。一言で笑わせる台詞もいっぱいある。とにかくスゴイ。こんなに笑いっぱなしの電夏は初めて。

『器』/『薬をもらいにいく薬』

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『器』/『薬をもらいにいく薬』

いいへんじ

実演鑑賞

『薬をもらいにいく薬』を観た。素晴らしい\(^_^)/~~。103分。
 不安障害を抱える女性ハヤママミ(タナカエミ)がバイト仲間のワタナベリュウヘイ(遠藤雄斗)の力を借りて出かけるのだが…、の物語。不安になるんじゃないか、という不安を抱える、というのが、とても良く分かる形で展開される。よくよく考えてみると、この作家はセリフの選択が本当に素晴らしく、普通に会話しているようで見事にテキストを使い分けている。軸になるタナカの演技も見事だが、それを助ける遠藤も見事に演じてる。
 タナカは、くによし組、劇団スポーツ、いいへんじ、と3作続けて観ているのだが、それぞれ異なるキャラクターを巧みに演じて、底力のある人だと改めて思った。

Cloud 9

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Cloud 9

TPT

実演鑑賞

キャリル・チャーチルの傑作をワークショップ型式で積み上げて上演。プレビュー公演だが、やはり面白い。(3分前倒し)90分(休み13分)78分。
 85年にPARCO/劇団青い鳥で上演されたのを観てスッカリ気に入り、上演される度に可能なら観て来たが、その中でも出色の出来と言える素晴らしさだった。1幕はヴィクトリア朝のイギリス植民地であるアフリカが舞台で、2幕はその100年後のロンドンだが登場人物は25歳しか歳を取っていない、という本作の「システム」が活かされた舞台になっていた。(主に)女性の(性の)解放を扱った作品と見えるが、終盤のベティの独白でそれがより明らかになる、というのは95年のメジャーリーグでの上演で初めて強く感じた。その時のベティは確か高畑敦子だと思うが、本作でその役割を演じた水野小論からは、その時に近い感覚を感じた。それと、1幕でジョシュア、2幕でキャシーを演じた兼田利明も見事だった。いや、役者みんな見事だった、です。
 プレビュー公演ということで、若干の不手際があったが、それが気にならない出来。加えて、無料のプログラムが間に合わなかったので後で郵送します、という辺りの良心的な姿勢に感銘した。

パンドラの鐘

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パンドラの鐘

Bunkamura

実演鑑賞

23年ぶりに観たが、若さを感じた舞台だった。面白い。140分。
 野田秀樹が蜷川幸雄に依頼されて書いた戯曲で、蜷川版(コクーン)と野田版(世田谷パブリックシアター)が同時に上演され話題になった作品を、今回は杉原邦生が演出したが、過去の両作とも観た者として思い出しつつの観劇だった。ミズヲ(成田凌)とヒメ女(葵わかな)の淡い恋を描きつつも社会性のある内容が印象に残っていたが、丁寧に伏線を張りエンターテインメントとしてもしっかりした作品である。今回は主軸となる葵の若さが光っていたと思う。初舞台の成田は前半やや上滑りな印象があったが、後半の葵との2人のシーンから安定し終盤をしっかり背負った。ピンカートン未亡人を演じた南果歩とその娘を演じた前田敦子の母娘コンビのブッ飛び振りも興味深く観た。
 野田版で野田本人が演じたヒィバアを演じた白石加代子はさすがの貫禄だったが、カーテンコールで一人一人舞台後方から走って来るのは、ちょっと気の毒。お決まりのように3回のカーテンコールをするのも…(ー_ー);。

 狂王の遠眼鏡は、大正天皇に関して語られた噂で、その狂王の次の王ということでヒメ女は昭和天皇だから、昭和天皇の戦争責任を扱った、と当時語られたのを思い出す。

ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】

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ショウ・マスト・ゴー・オン【12月3日~4日、12月7日、12月21日~24日昼公演中止】

シス・カンパニー

実演鑑賞

伝説的作品の再々演。面白い。観るべし。(15分押し)50分(休み15分)70分。
 三谷幸喜が東京サンシャインボーイズ時代の91年に初演、94年に再演した戯曲を書き直して再々演する。とある舞台の下手袖で繰り広げられる、文字通り「show must go on」の物語。舞台監督という役柄に焦点を当てて、一旦始めた舞台は終わりまできちんとやる、という舞台魂を展開する。設定を現代に振り替えたり新たなキャラクターを加えたりしているが、原型は変えてないと言う。オープニング直後から笑い続けて、最後にはちょっとシンミリさせる辺りの巧さは見事。豪華な役者陣も丁寧に使って確実に演じ、素敵な舞台だった。この手の話は三谷の得意とするところで、例えば映画「ラジオの時間」もこういう話だったなぁ、と思った。軸になる鈴木京香を久々に舞台で観たが、峯村リエの役柄が実に巧い。

G線上のアリア

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G線上のアリア

PSYCHOSIS

実演鑑賞

本ユニットは2度目。スタイリッシュなアングラ。面白い!観るべし!(7分押し)108分。
 高取英の戯曲を森永理科が演出しての上演するユニットで、戯曲のアングラテイストを活かしつつも「オシャレ」な舞台だった。冒頭、フランス革命時の出来事が展開された後、一転して老婆が死期を迎える場面に変わり、老婆が土地を売って若返りの薬を呑んで女子高生に変わって宝塚に『ベルサイユのバラ』を観に行くが…、というスゴイ展開。島村抱月と松井須磨子も登場して、何が何だか分からないストーリーだが、とにかく一気に見せる見事さで、堪能した。スギウラユカが前説をしつつも、そのまま島村に変わって始まるオープニングや、爆音のロックを流してダンスも見せる等、とても観やすい芝居になっている。特にお目当ての大島朋恵が、声だけで老婆から女子高生に戻る演技には背筋がゾクゾクした。

恋愛論

10

恋愛論

動物自殺倶楽部

実演鑑賞

鵺的主宰・作・演出の高木登と牡丹茶房の女優・赤猫座ちこが立ち上げたユニットの旗揚げ公演。面白い。80分。
 役者(の役を演じる役者)4人が語る、演劇におけるルッキズム、という感じの作品。前半は、現実の小劇場関係での実話を想定した展開で笑わせるが、後半はある意味真正面からルッキズムを扱って、少しシリアスな雰囲気になる。ちこと野花紅葉という「カワイイ」女優を2人配し、金子鈴幸・小西耕一という男優2人はそれぞれの役割を演じて、面白く考えさせられる芝居を展開。小劇場系の話題に付いてこられないと面白味は半減するかもしれないが、ある意味普遍的な展開とも言える芝居を作る巧さは感じた。

総評

新しい劇団に出会うことができた気がする。
「かるがも団地」は本当に新しい発見だった。
また20代女性作家の見事な作品にいくつか出会った。

一方で、再演モノで改めて光った作品も多かったように思う。

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