jokermanが投票した舞台芸術アワード!

2019年度 1-10位と総評
ユー・キャント・ハリー・ラブ!

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ユー・キャント・ハリー・ラブ!

弦巻楽団

 札幌で活動する劇団の代表作で、作・演出の弦巻が2003年に他劇団に書き下ろし、自劇団でも何回も上演しているという作品だが、とにかく面白い\(^_^)/~~。高名なシェイクスピア研究家だが恋愛未経験で、ロミ・ジュリさえ否定する大学教授が、ラジオの気象予報師の声に初めて惚れる。実は彼女は、教授の講義を密かに聞いていた教え子で…、という、ウェルメイドのシチュエーションコメディである。すごく巧妙に練られた台詞と、登場人物のキャラクターが実に見事で、エンディングの潔さも素晴らしい。とにかく楽しんだ95分だった。

ベンジャミンの教室

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ベンジャミンの教室

電動夏子安置システム

 初日に観て、あまりに面白いので千穐楽にもう1度観た。2度目なので話の流れが分かっている分、細かい台詞や小ネタの演技等にも反応できる。いつもとはテイストが違うのは確かだが、こういう電夏もまた楽しい。

陰獣 INTO THE DARKNESS

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陰獣 INTO THE DARKNESS

metro

 metroの10年前の旗揚げ公演を再演。初演と変わらず乱歩の世界観に踏み込んでいたと思う。初演は神楽坂 die pratze というアングラテイスト溢れる会場だったのが、今回の赤坂RED/THEATERはハイセンスな劇場というわけで、構成も変わってきている。「陰獣」と「化人幻戯」を混在させた悪女2人と明智小五郎の物語だが、月船の相方だった出口が引退し、サヘル・ローズに変わったことも関係してか、ちょっと違ったテイストの作品になっていた。それは悪いことではなく、進化した、あるいは、変容した、と言うべきものだろう。それは、サブタイトルが「inside beast」から「into the darkness」に変わったことにも現れていると思う。それにしても、月船の役者としての技量の凄さと、それを10年かけて引き出した天願大介の才能には頭が下がる。

Butterflies in my stomach

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Butterflies in my stomach

青☆組

 素晴らしい舞台だった\(^_^)/~~。観るべし!主宰で作・演出の吉田小夏が、女性ユニットOn7の旗揚げ公演の元々はリーディング用に書き下ろした戯曲で、その後、さまざまな形で上演された作品を「本家」で上演する。とある女性の7歳から77歳までを7人の女優で描くというのはありうるアイデアだが、吉田の戯曲は丁寧で細かく、しかも、人生のさまざまな部分での「あるある」を描いて、それは私も経験しました、というようなエピソードに満ちているあたりは巧い。役者陣も、年齢にそれなりにバラツキがあり、容姿もさまざまな人選が見事だ。個人的には、声質の7人の差に気づき、ラジオドラマにしてもよいな、と思う楽しい舞台だった。

月がとっても睨むから

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月がとっても睨むから

Mrs.fictions

 Mrs. fictions らしい「いい芝居」を観せてもらった。江東区が海になってしまった近未来、不幸な事件の加害者と被害者として出会った少女と少年が、20年後に偶然に出会い、周辺の人々もその事件と関わりを持ち…、という設定がなかなか良い。登場人物のキャラクターもある種独特だし、伏線の張り方も巧妙で、最終的にきちんと回収するあたりは、いかにも中島の脚本らしい。本来は1年前の夏に上演する予定だった作品だが、脚本が不十分ということで公演を中止したものを、そのときと同じキャストで上演した。ある意味で理想的な修復作業だが、それができたのは奇跡的と言ってもよいように思う。役者も力量をしっかり表出し、素敵な舞台となっているのだが、日曜の夜の所為かもしれないが空席が目立つのが残念でならない。ちょっと行きにくい劇場ではあるが、是非観てほしいと感じる作品だった。

フラッシュバック

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フラッシュバック

チタキヨ

 チタキヨの4人が40歳になったのを記念しての公演。物語の達人・米内山の実力を遺憾なく発揮してて、役者陣もしっかり演じて、非常に面白い舞台になっている。20年前にアイドルとしてデビューし、1曲だけヒット曲「フラッシュバック」を出した3人組「イエローバード」が、あの人は今、的な番組で取り上げられる。3人の現状はさまざまで、それが絡み合ってのさまざまな出来事が面白い。最後は少しジンとさせてくれるのも、米内山らしい。チタキヨ3人の女優の歌って踊る姿も興味深い。男性と女性では感じるものが違いそうだが、面白い作品であるのは間違いない。

オルタリティ

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オルタリティ

TRASHMASTERS

 劇団員の6人だけで真っ向勝負の作品を作ったと言える。とある町の、「まちづくり推進課」窓口のある部屋だけが舞台。推進課と言いながらも、ただの苦情処理係と化しているような場所で、「正義・善」と「世の中・みんな」との対立を描く。極限状況の中でも正義や善は意味があるのか、を問い掛ける作品と言えるが、その答を出しているようで、実は出していない気もして、中津留らしい巧い戯曲になっている。最後は個人の感情を見せて終わるあたりが、私がトラッシュが好きな理由なんだろうな、と改めて思った。
 休憩なし2時間35分という舞台は、本来は初心者に薦めるべきではないと思うが、演劇の持つ力を観てほしいという意味で、敢えて「初心者にお薦め」しておきたい。

らぶゆ

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らぶゆ

KAKUTA

 活動を休止していたKAKUTAの2年半ぶりの公演は、豪華な客演陣を迎えて本多劇場進出。良い物を見せてもらった(^_^)v。観るべし。刑務所で知り合った5人が、福島の田舎で過去を隠して共同生活を始める。過疎化に悩む村の人も受け入れてくれるが、それぞれの事情が徐々に明らかになりつつあるときに…、という物語。この間、数多くの賞を受賞した主宰・作・演出・出演の桑原裕子だが、一見無関係な物語が収束する手法で作る作品が多く、本作もその作風が味わいを紡ぎ出す。KAKUTAとしては初の休憩を入れ、全体で2時間40分の大作だが長さは感じない。観ないと勿体ない作品だと思う。

ハケンアニメ!

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ハケンアニメ!

吉本興業

 辻村深月原作の小説(読んでいない)をG2の脚本・演出で舞台化した。久々に観るG2作品だったが、アニメ愛に溢れた秀作だった。面白い。アニメ会社を舞台に、5年前に伝説的な作品を監督した王子千晴(小越勇輝)を迎えての新作を作ろうとする人々の姿を、主に新人制作者の川島加菜美(大場美奈)の目を通して描く。小説の全体ではないようだが、アニメ業界の実態も見え、プロフェッシュナルの姿を描いた作品として見事だった。大場と小越をフィーチャーしているようだが、群像劇として観るべき作品で、やや珍しい座組での各俳優の役割も興味深かった。

音楽劇『母さん』

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音楽劇『母さん』

俳優座劇場

 素晴らしい舞台だった。詩人のサトウハチローの生涯を、母との関わりを軸に構成された音楽劇で、何度もいろいろな所で上演されているそうだが、初めて観た。いきなり、晩年のフォーク・クルセダーズ「悲しくてやりきれない」で始まり、世代的にジャスト・フィットの私は心を捕まれる。詩人として名を為したハチローが息子を叱る戦時中の場面から始まり、時間軸を大きく前後させて、ハチローの生涯を描く。また同じ役者がハチローの息子と若き日のハチローとか、ハチローの娘とハチローの母とか、いくつもの役を演じるのは巧い作りだと思うのだが、芝居を見慣れていない人には分かりにくいかも知れない。しかし、時折はさまれるハチローが作詞した歌が見事に場面にフィットし、役者陣もバランス良く演じていて、とても素敵な時間を過ごすことができた。使用曲のリストがあるのだが、終盤でリストに無い「悲しくてやりきれない」の3番が歌われたときには、ちょっと泣きそうになってしまった。いい作品である。観るべし。

総評

2019年も良い芝居に出会えて幸せです。10本選ぶのも、順位付けるのも、どちらも非常に苦労します。

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