
いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した
ロロ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/13 (月)公演終了
満足度★★★
4つの小作品を通して、架空の高校、その生徒たちの日常が浮かび上がります。なんでもない会話やしぐさから、ここにはいない人、どこかで起こったこと、もう過ぎてしまった時間を想像させるという目論見は、高校演劇のために書かれた戯曲としてとても面白いし、やりがいもあるでしょう。また、仕込み、開演アナウンスなど、高校演劇のフォーマットに則った進行も楽しめました。
私は③「すれ違う、渡り廊下の距離って」と④「いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した」を観劇しましたが、特に③の舞台が「放課後の渡り廊下」という、いわば「端物」な時間、場所に設定されていることに惹かれました。思い起こせば確かに、当時はむしろ、そこが自分たちの時間のメインだったのかもしれません。
さて、審査対象となった「いちごオレ飲みながらアイツのうわさ話した」ですが、こちらは女子生徒3人によるうわさ話を軸に進む恋の終わりと始まり(?)の話です。彼女たちのかしましさと、そこにふと訪れる一人の時間、沈黙、甘酸っぱい感情の発露は、(たとえそれが「大人が考えた女生徒」だとしても)微笑ましいものでした。ただ、感情的なクライマックスが一人の場面に訪れる、というのは、表情、目線でそれを見せるしかないという難しさも孕んでいます。一人芝居で正面切って虚空に語りかけては笑ったりする、時にはそのことが賞賛されてしまうような居心地の悪さ、不安をまったく感じなかったかというと……。
随所に顔を出すカルチャーネタは、それぞれの漫画や映画や歌がエバーグリーンなのだとしても、必ずしも現在の高校生のリアルと響きあうものではないでしょう。二次創作もOKとのことですから、現在進行形の「いつ高」も見てみたいと思います。その時盛り込まれる新たなネタはきっと、ロロ版のそれとは異なる匂い、異なる文脈も背負っているに違いありません。
こうして考えてみると、改めて、このロロの「いつ高」は、もう高校生ではない人たちによる、甘酸っぱい「高校演劇」「高校生活」讃歌なのだと思います。では、そうした「思い出」「過ぎ去ってしまった時間」をまだそれほど持ってはいない現役の高校生たちが、演じるとどうなるか、やはり一度見てみたいです。

「母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ~キャンピングカーで巡る真冬の東北二十都市挨拶周りツアー♨いいか、お前ら事故るなよ、ぜったい事故るなよ!!編~」
MICHInoX(旧・劇団 短距離男道ミサイル)
Studio+1(宮城県)
2017/03/01 (水) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★
太宰治の「人間失格」と、目の前の3人の(演劇で身を持ち崩した)俳優の人生の断片が、コラージュされ、やがてその境界線を曖昧にしていくという作品の枠組みが、驚くほどのリアリティを持って迫ってきました。
心身共に裸になればいいというわけではありませんが、それだけの開き直りを見せつつも、きちんと作品を見せようとする謙虚さ、上品さを感じさせる俳優たちには、心魅かれるものがありました。前説で「わりとすぐ脱ぎます!」と宣言して、本当にわりとすぐに脱いでいたのも爽快でした。
衣装や小道具を俳優自らとっかえひっかえする手作り感あふれる上演。観客とのコミュニケーションも多用され、サービス精神にあふれ、愛嬌も感じさせますが、それだけに終始しない作劇、演出だったとも思います。ネットメディア、サブカルチャーネタを挟むガジェット感あふれる見せ方は、現代に生きる個人の孤独にも触れるところがあり、また、古典芸能的な要素、アングラ的な要素なども(的な、ではあるのですが)さまざな演劇のジャンル、歴史とつながる回路を感じさせなくもありません。
キャンピングカーでの東北ツアー企画も含め、「東京で何千人を動員!」とは違う、もっと身近な演劇のあり方を夢見させる上演でもありました。

グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory
劇団印象-indian elephant-
調布市せんがわ劇場(東京都)
2014/03/26 (水) ~ 2014/03/30 (日)公演終了
満足度★★★
社会問題の多面性に挑む真面目さ
インドでの代理母出産をめぐるさまざまな問題点、当事者たちの葛藤を描いた佳作。インドのクリニックに取材したというだけあって、代理母たちの生活、特に帝王切開をめぐるやりとりには痛いほどのリアリティを感じました。
先進国と途上国の関係の複雑さはもちろんですが、この物語の起点にある晩婚・晩産、不妊といった問題もまた、決して当事者本人だけの責任に落とし込まれるべきでない、非常に複雑な背景を持っているものです。さまざまな視点をテンポよく交えて物語を進める本作には、一面的な善/悪を作らない工夫が凝らされているとも感じました。もちろん、そのことによって、多少、典型的な人物造形をせざるを得なかった部分も、ドラマとしての盛り上がりを作りづらかった面もあるかもしれません。しかし、社会問題への取り組み方としては、誠実ですし、だからこそ、「正しさの主張」を感じることもなく、違和感なく観ることができました。
それにしてもなぜ、若い男性がこの問題をとりあげるに至ったのか。そのモチベーションはどこにあったのでしょう。観劇後、ふと疑問に感じたのも事実です。ラストシーンでは、待望の子どもを得た女性が、これまでとは異なる日常に戸惑う姿が描かれます。なんだか皮肉なこの結末は、問題の複雑さを表現してもいるのですが、ここにもう少し、「社会の問題」としてこの課題に取り組んだ、モチベーションが見えても良かったなと思いました。

迷迷Q
Q
こまばアゴラ劇場(東京都)
2014/04/24 (木) ~ 2014/05/01 (木)公演終了
満足度★★★
ポップ、グロテスク、キッチュ……その先にあるのは?
動物や生命、性に対するフラットな視点と禁忌に踏み込む大胆さで異彩を放つQ。そのグロテスクかつキッチュな魅力が、今回はやや自家中毒的に見えてしまいました。母子の語りの中に織り込まれた、あられもなく、多面的なセックスや生殖のアレコレ、そこに横たわる違和感が、それ自体の面白さ、珍しさから抜け出し、外の世界(社会/他人)に開かれていく回路をもっと明確に掴みたかったと思います。たとえば、混血の女の子「バッファローガール」にはその可能性を感じたりもしたのですが……。とはいえ、これだけ悪趣味とも言えるアイテムを、時にはグルービーに、ポップに料理してしまう手腕には、眩しいものを感じています。

3 crock
演劇集団 砂地
吉祥寺シアター(東京都)
2014/05/09 (金) ~ 2014/05/12 (月)公演終了
満足度★★
古典←→現代劇。そのモチベーションとは?
全体に漂う停滞感、殺伐とした空気。吹き消される蝋燭が象徴する命のともしび、そのはかなさ、せつなさ。現代的で洗練された空間設計、演出が印象的でした。ただ、怒号が飛び交う一方で、対話はやや平板に抑えられていたこともあり、三人吉三の複雑な人間関係、ドラマをきっちり把握しきれなかったことには後悔が残りました。この出発点を前半でよりはっきりさせるころができていれば、この物語を現代劇にしたモチベーション、この作品の持つ骨太な魅力もいっそう際立ったのではないでしょうか。やや段取りがかった殺陣も気にかかってしまいました。

緑子の部屋
鳥公園
3331 Arts Chiyoda(東京都)
2014/03/26 (水) ~ 2014/03/31 (月)公演終了
満足度★★★★
生理を揺さぶる知的空間
一枚の絵に書込まれた「視線」のズレを起点に、今はもういない「緑子」の存在/不在が語られます。さまざまな人物、さまざまな側面から語られる「緑子」は、元は学校の教室であった今回の舞台の設計(白い壁に囲まれた空間に裏通路や切り穴、顔を出せる窓などが設置されている)とも相まって、徐々に(不在にも関わらず)その存在感を増していきます。一見、淡々としたテキストの中にも、ドキリとする生々しさが隠されていたり。やや、(空間の)仕掛けが先行した感もありますが、知的な考察と生理を揺さぶる感性を併せ持った、たくさんの可能性を秘めた公演だったと思います。
美術も現代口語の淡々とした語りも、どこかサラリとして洗練されていますが、特に対話のシーンでは、もうちょっとベタな部分があっても、面白かったかもしれません。

ぬけがら
劇団B級遊撃隊
長久手市文化の家 風のホール(愛知県)
2014/05/31 (土) ~ 2014/06/01 (日)公演終了
満足度★★★★
現在を奮い立たせる記憶
次々と脱げて、若返っていく父たちのそれぞれにトボケた味わいと、ダメ〜な息子のやりとりを微笑ましく、けれど、どこか身につまされる思いで見守りました。また終盤、それまで一見、リアルな日常性に根付いていた舞台空間(内容はまさしく不条理ですが)が、飛行機(爆撃機)の音と共に歪む瞬間に胸を突かれもしました。これはダメ男が立派な中年として立つための物語であると同時に、たくさんの時間=歴史についての物語でもあるのだな、と改めて感じ入りました。
名古屋で活躍中の実力派キャストを集めた公演は、満員御礼。全体的に「手堅い」感もありましたが、目標の一つであった「地元の演劇を盛り上げたい」という思いは充分実現したのではないでしょうか。チャーミングな父たちはもちろん、今ひとつピリッとしない主人公を演じた平塚直隆さんのヨレっとしたムードも忘れられません。

TERAMACHI
Baobab
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2014/05/30 (金) ~ 2014/06/02 (月)公演終了
満足度★★★★
思いきり!巻き込まれる!
ベタベタの「エンターテインメント」でもなく、情動を前面に押し出す「感情表現」でもない、ダンスで状景をつくり、身体と状景との隙間も見せる、その手法がうまくハマっていたと思います。寺町通りの白日夢(?)を語るくだりは特に印象的で、この作品のテーマをうまく伝えていたのではないでしょうか。冒頭の仕掛けも、決して珍しくはありませんが、この方法、テーマなら、観客も共に「巻き込まれる」面白さがありますよね。
テキスト(せりふ)や音楽(特に歌詞のあるもの)の使い方、美術や照明も含めたシーンの作り方には、まだ考える余地がありそうですが、それらもすべて「可能性」だとさえ感じます。小さな実験、遊戯性に拘泥するのではなく、舞台の上に「世界」を立ち上げようという、近年のコンテンポラリーダンスでは(たぶん)珍しい気概にも、打たれるものがありました。
弾力のある動きも魅力的で、このアーティスト、集団の「思い切りの良さ」を見せつけられた気もします。

【無事終演しました】荒川、神キラーチューン【ご来場ありがとうございました!】
ロ字ック
サンモールスタジオ(東京都)
2014/05/14 (水) ~ 2014/05/25 (日)公演終了
満足度★★★★
青春の恥ずかしさは剥がれない
主人公二人の冒頭のマイクパフォーマンス(?)とそのせりふの(明確に内容は分からないけれど)激しさに、一気に「持っていかれた」気がします。
青春の恥ずかしさは、貼り付いて剥がれない。ここに描かれているほどには、不幸でもなければ、痛くもなくても、「昔のこと」として乗り越えて来たはずのあれやこれはは、ずっと自分に貼り付いている。だから、ここに漂う部室臭さは自分のものなのだ–—とつい引き込まれてしまう、力のある舞台だったと思います。あの時の自分を乗り越えるためには、必ず、そこに戻らなければいけない–—そんな大人の視点にも共感を覚えました。
物語が進むにつれて、まったく解決しない問題のアレコレに「いったいどうやって風呂敷を畳むの?」と心配にもなりました。結果、やや「力業!」となった終幕には、乱暴さや多少の悪趣味を感じなくもなかったのですが……ともあれ、最後まで息もつかせぬ展開、カラオケシーンのみならず、数々のせりふに込められたロックな魂に唸り続けた2時間弱でした。

痒み
On7
シアター711(東京都)
2014/03/25 (火) ~ 2014/03/30 (日)公演終了
満足度★★★★
「女」はイタいがOn7は…
結婚、出産、仕事……。日常において「女」をさほど意識しなくとも、その生き方によって分断されがちな「女」たち(一応言っておくと、そこまで明確に分断されない「男」もむしろ大変だと思ってます)。その違和感「痒み」を私たちはどう、乗り越えていくのでしょう。ここに描かれた、あの世ともこの世ともつかぬ不思議な場所で、それぞれに強く、逞しく、身勝手に生きる女たちの姿は、まさにその答えに繫がる入口をみせてくれているように思えました。
はじめのうちは、がなるようなせりふ回しと、かしましくもイタい同級生トークにひるみもしましたが、次第に違った顏を見せる女たちの柔軟さに惹かれていってしまったのは、新劇で腕を磨いてきた俳優たちならではの「上品さ」によるものだったのかもしれません。
俳優集団ということで、作・演出家によって、毎回公演の色合いは変わるのかもしれません。それでも、やっぱり今回のように、リアルで柔軟な女の物語を観続けられればいいなと思います。

江戸系 諏訪御寮
あやめ十八番
小劇場 楽園(東京都)
2014/03/12 (水) ~ 2014/03/16 (日)公演終了
満足度★★★
重厚なドラマ、ミスマッチの美学?
土地に伝わる「鬼」伝説をめぐる、二つの家族の物語。まるで大河ドラマのような濃厚な設定に、今どきあまりない(スタンダードな意味での)「物語」への強い意欲を感じました。伝説や呪詛といった土俗的な題材を使って人間の情念を描く作風には、どこか懐かしさも漂いますね。
口上があり、歌もあり(生演奏つき)、一つの空間を二つの場で分け合う工夫もあり、「楽園」という狭く特殊な空間で、いかにエンターテインメント性を高めるか、さまざまな創意が凝らされた舞台でもありました。オールディーズを中心とした歌の場面は「和」風の舞台に対するミスマッチの面白さがあり、内容に合っていないような、合っているような微妙なところが味だったのですが、ストーリーが複雑なだけに、あまり頻繁だと、むしろ意識が途切れてしまう面も。
華やかな仕掛けとしての演出もあれば、グッと耐えて戯曲に添う演出もあっていいのだと思います。演技もしかり。もう少し「引きどころ」があると、いっそうの豊かさを味わえたのではないでしょうか。

ツレがウヨになりまして
笑の内閣
KAIKA(京都府)
2014/02/28 (金) ~ 2014/03/04 (火)公演終了
満足度★★★★
この熱気に期待!
時事ネタ、社会の課題に触れつつも、仕上がり自体はウェルメイドな青春ラブストーリーだったと思います。
目新しい実験性といったものはありません。
ですが、むしろ、このウェルメイドさと、集中力と熱気を同時に感じさせる客席が相対する空間には、何か新しい演劇受容(と供給)の芽があるのでは、とさえ感じさせるものがありました。
そう考えると……高間さんの前説(これは笑えた!)、本編、刺激的なアフタートーク、という構成も練られていますね。3つ揃っての「笑の内閣」という気もします。
特に私が観劇した日は、京都第一初級朝鮮学校のオモニ会の代表であった金尚均さんがゲストで、当事者としての体験談や芝居と違う実状(批判でなく)を語ってくださり、この芝居を起点にさらに別の視点を得ることもできました。

黒塚
木ノ下歌舞伎
十六夜吉田町スタジオ(神奈川県)
2013/05/24 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
「解説」ではない古典との向き合い方
古典とされる戯曲や伝統芸能の題材を「現代版」として上演する際、もっとも陥りやすい誤謬は、その物語をより親しみやすく、簡単に解説することこそが、すなわち「現代化」であると思ってしまうことだと思います。
木ノ下歌舞伎版の「黒塚」もまた、もとの歌舞伎舞踊の展開の飛躍を心情的に補足し、より分かりやすくドラマティックな仕上がりを目指したものでしたが、同時に、この作品が所作(そのものは本家に及ばないにしても)の、一足一足を見せる「舞踊劇」であるという前提をしっかり踏まえていることにまずは好感を持ちました。
劇場の設備(箱馬等)をそのまま使って、作られた山(庵)の装置には多くの段差が仕込まれ、そこを上り下りする身体、またそのための時間が、主人公・岩手の心情表現に豊かに結びついていきます。岩手を演じる武谷公雄さんの好演と巧みな空間設計は、確かに現代の小劇場の世界に「舞踊劇」の伝統を浮かび上がらせるものとなっていました。

ココロに花を
ピンク地底人
インディペンデントシアターOji(東京都)
2013/05/31 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了
満足度★★★
謎のありか。
舞台上には三つのベッド。そこには意識不明に陥った男女が眠っている。それぞれの病室を訪れる者はみな、起きるはずのない彼らが覚醒したと証言する。ベッドの脇で掘り起こされる記憶、取り返しのつかない出来事、すれ違い……。
シンプルなセットの中で、効果音(これも俳優たちが担当)を巧みに使いながら、現実と幻想、過去と現在を、台詞や演技のみで、切り替えていく様子には心地よささえ感じました。また、「連続変死事件」を絡めたサスペンス的な設定には、どこか平坦で得体の知れないものになってしまったこの世界への違和感、不安感がよく現れてもいました。
終幕に至るまでの人間関係、一人ひとりの心情については、ややカンタンめに収まってしまった感もあり、せりふも演技ももっともっと謎めいていてもよいのではないかという気もしました。やはり、いちばん恐ろしく、魅力的なのは、人間そのものと、人間関係の中に横たわる「謎」でしょうし。簡単なことではありませんが「オチ」を急がず、「謎」に向き合い、ますます色っぽさを増していってほしいなと、期待しています。

兄よ、宇宙へ帰れ。【ご来場ありがとうございました!】
バジリコFバジオ
駅前劇場(東京都)
2013/05/29 (水) ~ 2013/06/03 (月)公演終了
満足度★★★
10年目の「爽やか!」
引きこもりの男を癒すために、捨てたはずの「演劇」の手法を用いる主人公。と、同時に彼は、過去作から飛び出してきた3体の絶滅種(の人形)の案内で、ふたたび自らの「演劇」に出会うことに……。
活動10年目の「演劇で人を救う話」は、「演劇で人を救い、自らも救われる話」でもあり、そのストレートで爽やかな設定、また開演前の客席のわいわい感に「幸せなカンパニーだな」と感じ入りました。
キモかわいい人形の存在感(前説等も含め)は抜群ですから、2時間という上演時間を、いっそうドライブさせるための工夫、という意味でも、もう少し、ストーリー(舞台上の世界)に絡んでもいいのかなという思いは残りました。
率直な芝居づくりと、なんだかちょっとヒネた雰囲気を漂わせる人形。この二つの個性を、今後、さらにさらにうまくミックスさせ、昇華させるような展開があればいいなと期待しています。

My Favorite Phantom
ブルーノプロデュース
吉祥寺シアター(東京都)
2013/04/26 (金) ~ 2013/04/29 (月)公演終了
満足度★★
演劇で「立ち止まって考える」ために
役を演じるということ、すでに語られた物語を語ることの意味とは……といった、演劇にまつわる「前提」への疑いを身体化、空間化すること。あるいは演劇によって召喚される(はずの)あらかじめ失われたもの・ことの正体、その立ち現れ方を探ること。おそらくは、そんな意図を持って上演された作品なのだと思います。
俳優たちは自らの名前/役名を名乗ってみせるだけでなく、それぞれに、複数の役を「演じ(ようとし)て」いる。物語の流れそのものも相対化され、時には複数の人物によって「噂」調で語られたりもする。
こうした手法、考え方自体は挑戦的とも言えるのかもしれませんが、なぜそれが『ハムレット』という題材を通して行われるのかが見えず、さらに、落としどころのない懐疑を身に余らせたまま時に絶叫し、場内を走り回る演技、演出は、どこか閉じられているようで、観客として何に向き合うべきなのか、あるいは何を拒絶されるべきなのかといった入口にさえうまくたどり着けませんでした。
演劇という芸術の形式や古典戯曲と格闘し、そこに(肯定だろうが否定だろうが)新たな表現の可能性を求めるならなおさら、その対象にいったんは寄り添うほどじっくりと、堪えて向き合うことも必要なのではないでしょうか。そうしてはじめて、現在形の思索は鍛えられていくのだと思います。

左の頬(無事全ステージ終了!ご来場まことにありがとうございました))
INUTOKUSHI
シアター風姿花伝(東京都)
2013/04/10 (水) ~ 2013/04/21 (日)公演終了
満足度★★★
意外に?意外に!
鈴木アメリと二階堂瞳子の、ブリブリVSブチキレ対決に、聖書の有名な文句が絡み、両極にあるものがぶつかり合い別の磁場(ステージ)を生み出すという、この芝居のテーマである「世界平和」に向けても、多少深みのあることを感じさせなくもない……いや、まぁ、でもやっぱり、そんなには感じないけど(笑)……な舞台でした。
前説が芝居仕立てなのには「はっ!押し付けがましい、ご親切なエンターテインメントの始まりか?」と多少警戒もしたのですが、本編では多少の暑苦しさも、余裕を持って楽しむことができました。身体もきくし、歌も上手かったりするんですが、そのことに溺れていないせいかもしれませんね。センターの女子2名、周囲を固める男子たち、共にパワーがあり、好感を持って劇場を出ました。

枝光本町商店街
のこされ劇場≡
枝光本町商店街アイアンシアター(福岡県)
2013/03/23 (土) ~ 2013/03/30 (土)公演終了
満足度★★★★
演劇の生まれる町
かつては八幡製鉄所のお膝元として栄えたものの、今はもう、ずいぶんと寂しくなってしまった商店街を、劇団員の女優さんのナビゲートで散歩します。実際にこの町で生活する人たちのお話は、そのどれもが演技のようで演技でなく(演技でないようで実は演技でもあるのですが)、そこで生きてきた時間、町の歴史を感じさせる、味わい深いものでした。また、そうして出会ったいくつかの「現実」が、終幕に用意された明確な「虚構」(演劇)によって、重なり合い、より遠くを、過去や未来を想う「想像力」をもたらすーーという仕掛けにも、驚き、感動を覚えました。

わが友ヒットラー
シアターオルト Theatre Ort
駅前劇場(東京都)
2013/03/27 (水) ~ 2013/03/31 (日)公演終了
満足度★★★
空間と戯曲の関係、その可能性
駅前劇場という小空間で観る「わが友ヒットラー」には、戯曲の質量とも相まって、強い圧迫感のようなものを感じました。それはこの作品を上演する演劇人たち、そして私たち自身が、昨今の世の流れに感じる違和感、不安をそのまま映していたのかもしれません。
2ブロックに分かれた客席に挟まれた、ランウェイのような舞台の上で物語は展開します。青春時代の友情/幻想に浸り続ける突撃隊長・レームとヒトラーの運命を分ける会談の切なさ、反主流派(左派)のシュトラッサーの悲痛な闘い、武器商人クルップの不気味な存在感を、観客はごく間近に体験するわけです。さらに舞台は天井に向かって高さを増すスロープになっていますから、俳優たちも時には身を屈めて演技をすることになりますが、その窮屈さが、このドラマの背景にある政治的構造やそれに伴う恐怖をいっそう強く印象づけます(ヒトラーを含め、登場人物たちもまた、この恐怖から自由ではないのです)。
強い空間設計と計算された演技は、テーマの重さ、戯曲の重厚さを伝えるには充分でしたが、3時間近い大作ということもあり、沈滞感も漂っていたように思います。例えば、レームの、ヒトラーへの一種ホモセクシュアル的な執着には、もう少し色気も滑稽さもあっていいですし……そういった人間のあり方の複雑さ、幅こそが、この悲劇の深さ、面白さにも繫がっているのだと思うのです。

『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!
劇団チョコレートケーキ
サンモールスタジオ(東京都)
2013/03/23 (土) ~ 2013/03/31 (日)公演終了
満足度★★
その問いはどこへ、誰に、向かう?
スケジュールの関係で「あの記憶の記録」のみの観劇となりました。複雑かつシビアな題材に取り組んでいるのだ、という自負に満ちた、集中力の高い上演でした。
意欲を持って、沢山の資料に向き合いつつ、書かれた戯曲だと思いますが、どこか「勉強して構成した」感は拭えず、設定やせりふのディテールにも、今ひとつリアリティを感じることができませんでした。
遠く離れた場所の出来事を、(一見)無関係な者たちが物語化し、演じることの意味とはなんでしょう。劇中にも「体験した者にしか分からない」といったせりふは出てきましたが、まずはそのことを表現者自身が自らに繰り返し問うことこそが、当事者/非当事者の間に横たわる距離を埋める”想像力”を育てるのだと思います。リアリティもまた、そうして生み出されるのではないでしょうか。
イスラエルの事例は決して他人事ではないのですが、とはいえ、この劇団の高い志、集団性をいっそうよい形で生かすためにも、まずは身の回りにある溝、亀裂を見つめた作品づくりに取り組まれるもよいのではないかと思いました。私たちの身近な生活の中にも、さまざまな社会的課題の影を見出すことはできるはずです。また、そうして見出された小さな違和感こそが、時には宗教や民族をめぐる争いの本質を表すこともあるのではないでしょうか。