Yuichi Fukazawaの観てきた!クチコミ一覧

1-20件 / 144件中
ほとびる屋上

ほとびる屋上

ばぶれるりぐる

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2026/10/02 (金) ~ 2026/10/12 (月)上演中

予約受付中

実演鑑賞

満足度★★★

「境界を超える」


 高知県西部の方言「幡多弁」でドラマを紡いできた劇団による新作である。

ネタバレBOX

 やまか製麺の社長である山中克也(石住昭彦)とハナオカ食品の社長の花岡伸夫(や乃えいじ)は、幼馴染でかつては商品を共同開発した仲であったが、仕事の行き違いで絶縁している。二社は同じ階数の自社ビルを隣接しており、屋上を介して互いの敷地に行き来できるため、互いに顔を合わせたら嫌味の応酬合戦がはじまってしまう。それぞれの社員同士も交流が禁止されているのだが、やまか製麺の事務・濱口日和(東千紗都)とハナオカ食品の工場作業員・大島清香(竹田モモコ)、福田ゆき恵(高橋映美子)は、社長の目を盗み四方山話に花を咲かせている。やまか製麺は、社長の克也の調子が優れない日が続くため、息子の倫太郎へ引き継ぎがままならずフラストレーションが溜まっているらしい。社員同士の交流が詳らかになるにつれて、少しずつ二社の距離が縮まっていくのだった。


 隣接しているものの行き来が禁じられている二つのビルの屋上へ、階段扉から俳優が出入りするという空間の制約が、作品に一定の緊張を与えていてまず面白い。幡多弁の台詞は荒々しさのなかに優しさを感じるもので、特に山中と花岡の対立と和解のドラマでうまく生きていた。やや自意識過剰なゆき恵や、どこか抜けていてふてぶてしい電気工事の綿貫健吾(内藤裕志)などが、やすやすと屋上の境界を超えはじめてドラマが動いていくという作劇も見応えがあった。やや暗転が多かったことと、空間がすこし広すぎるように感じた点は残念だった。
秀山祭九月大歌舞伎

秀山祭九月大歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2026/09/02 (水) ~ 2026/09/26 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「国宝二人の『沼津』」

 仁左衛門と歌六、二人の人間国宝による「沼津」を大いに堪能した。

ネタバレBOX

 仁左衛門の十兵衛は花道から出てきたところの柔らかさが身上である。茶店で荷担ぎの平作(歌六)に仕事をくれと請われ、そのヨロヨロ歩きを見守るおおらかさが、舞台に爽やかな風を吹かせる。平作に娘お米(孝太郎)を紹介されたときの恥じらいがほほえましく、平作の家に宿をとり一晩明かすうちお米が窃盗を働いたくだりで真実を知った時のガラリとした変わりようがうまい。

 歌六の平作もまた「旦さん、どこまで」とおぼつかない足取りで十兵衛に問いかけ、そのまま自分の家まで案内するいつものやり取り、無理のない雰囲気がいい。

 この二人で幕切れの千本松原の一連のやり取りは涙を誘われた。
百合鴎

百合鴎

シニフィエ

すみだパークシアター倉(東京都)

2026/09/18 (金) ~ 2026/09/19 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「群像劇で浮かび上がらせる『世界』」


 謡曲「隅田川」や歌舞伎「法界坊」「忍の惣太」をもとに、隅田川近くの劇場で上演された群像劇である。

ネタバレBOX

 行方不明の我が子を探す葉名(菊池佳南)、闇バイトの指導係である操舵(藤家矢麻刀)、奔放な海(原田つむぎ)と二三(金定和沙)のカジュアルな関係など、さまざまな人物たちが入れ替わり、出演者が数役を兼ねる。一見なんのつながりもないように見えてあとあと因果関係がわかるという筋は、作者が原案作品から獲得した点であろう。とはいえ7名の出演者に演じ分けさせるにしてはあまりに役柄が多く、見続けるにはかなりの集中を要した。待機(藤家矢麻刀・二役)と海の権力勾配や、二三との三角関係のくだりは印象に残った。

 群像劇で隅田川のミクロコスモスを浮かび上がらせようとした作者の意欲は高いが、それに見合った強度の作品世界が立ち上がったのかは疑問に感じた。
アーカイブする未来

アーカイブする未来

ビンビンビーン

浅草九劇(東京都)

2026/09/03 (木) ~ 2026/09/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「別の可能性に思いを馳せる」

 縦型ドラマ動画の制作集団「ビンビンビーン」による舞台作品である。

ネタバレBOX

 輝人(増本尚)のもとに現れた未来の自身という人物(ヤザキ)が現れ、急逝した恋人の未来(山口真帆)を立体的なAIとして現出させる。彼女の来し方が再現されるなかで、輝人は学生時代からこれまでを振り返りながら、自身が選べなかった可能性について思いを馳せるのだった。

 あるカップルを軸に周囲の人々も過不足なく描こうとする本作は、どこかクスリとさせるセリフが耳に残る群像劇でもある。家族の前で自身が監督した映画作品の場面を再現するくだりなど、ややオタク気質の映画好きである輝人の不器用さが遺憾なく発揮され笑いを誘われた。初日ゆえか全体的に芝居が固かったのは残念だが、回を重ねるごとにブラッシュアップされていくことと思う。
八月納涼歌舞伎

八月納涼歌舞伎

松竹

歌舞伎座(東京都)

2026/08/02 (日) ~ 2026/08/26 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「歌舞伎座で観る座敷舞」


 玉三郎が舞う峰崎勾当作曲の地唄舞二題が、涼やか風を歌舞伎座に吹かせた。

ネタバレBOX

 武原はんの代表作として広く知られる「雪」を歌舞伎座でかけるのは3年ぶりである。幕が開くと一面屏風に和蝋燭が立った禁欲的な空間に、傘を差した女(玉三郎)が客席に背を向け佇んでいる。そのうち傘をたたみ「心も遠き夜半の鐘」と袂で雪を払い、「捨てた憂き世の山葛」で黒髪に手をやり現世への思いを断ち切ろうとするくだりの思い溢れんばかりであった。

 続く「残月」でも静謐さはそのままに、踊りの手数が多さが目にも愉しい。玉三郎にだけスポットが当たった幕開きからじょじょに明るくなると、そこには何もない。だからこそ亡き人への思いを月に託した情感が伝わる。20分に満たないなかでも最後に「月日ばかりは巡り来て」で濃密で長い時間を経たような心地になった。

it’s too late.

it’s too late.

終のすみか

カフェムリウイ「屋上劇場」(東京都)

2026/07/18 (土) ~ 2026/07/31 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「盛り場の屈託」


 商店街を進み見逃してしまいそうなちいさい入口から階段を上る。屋上へ至った先に設けられた奥の扉を開けると、幕前ではなかなか聞くことのないEDMが嫌でも耳に残る。ここは各駅停車しか停まらない深夜のクラブハウスというのが本作の設定である。

ネタバレBOX


 休憩スペースで仕事終わりのフジタ(宮地洸成)がタバコを吸いながらスマホをいじっていると、DJフロアから顔見知りのカワサキ(片平友里絵)が、恋敵に頭から酒をかけられたとボヤきながら入ってくる。同棲を解消したばかりというカワサキに「お前の元カノがDJやってるから気まずいだろう」と茶々を入れてくるソエジマ(日和下駄)がそこに加わる。以降この3人が出たり入ったりしながらよもやま話に興じるのだが、盛り場で顔見知りであるだけの関係性ゆえ容易に距離は縮まず、仕事や色恋など当たり障りのない話題がグダグダと続いていく。そこに、今日初めてクラブに来たというミヤノ(高橋あずさ)が姿を現すと空気が一変する。芝居の脚本を書く調査目的で来ているというミヤノは明らかにこの場から浮いており、生きづらさや戦争について真摯に質すも気まずい空気が流れるだけである。

 EDMが流れるなかひたすら酒とタバコ、ときにドラッグで延々続くよもやま話から、盛り場に行かざるを得ない屈託がふんわり浮かび上がる。台詞と俳優の間のとり方が絶妙であった。上演会場は屋上に設けられたカフェであり、この空間設定と音響が作品に貢献していた。ミヤノが加わってからの展開が短いため物足りず、ぜひ完成版を観てみたいと思った。
頭痛肩こり樋口一葉

頭痛肩こり樋口一葉

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/07/29 (水) ~ 2026/08/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「充実の再演」

 座付作者である井上ひさしの作品を上演する制作集団「こまつ座」の旗揚げ公演として1984年に初演され、現在に至るまで再演を繰り返している樋口一葉の評伝劇である。2022年版とほぼ同じ座組での上演となった。

  父や兄に先立たれ若くして樋口家の戸主となった夏子(一葉・貫地谷しほり)は、母の多喜(増子倭文江)と妹の邦子(瀬戸さおり)を養うべく孤軍奮闘の日々を送っている。毎年7月16日のお盆の樋口家には、かつて多喜が乳母として仕えた旗本の娘・稲葉鑛(香寿たつき)や、夏子の旧友の中野八重(岡本玲)らが集い、身の上ばなしに興じていた。やがて筆一本で身を立てようと決心する夏子だったが、そんな彼女にだけ花螢(若村麻由美)という幽霊が見えるようになり――

ネタバレBOX


 42年前に書かれた作品がいまだに多くの観客を惹きつけるのは、登場人物を取り巻く桎梏が形を変えて社会に根付いているからなのだろう。家父長制ならぬ 家母長制下で母の多喜から強い圧力を受け戸主として家計を支える夏子、夫に虐げられた 鑛や八重、そして恨みの連鎖ゆえに幽霊になってしまった花螢。彼女たちの嘆きは笑いになって鋭く胸を突いてきた。初日ゆえか台詞や段取りの間違いが見られたが、そうした瑕疵をすぐに忘れさせる圧倒的な座組であった。

 貫地谷しほりの夏子は必死さのなかにどこか間の抜けた可愛らしさがあり、ここが母から目くじらを立てられるところだと納得させる出来である。なかでも後半、女郎になった八重の前で婦人の嘆きを説くくだりが白眉であった。 若村麻由美の花螢の異様なおかしさ、香寿たつきの 鑛による「心」の歌唱、 健気な瀬戸さおりの邦子 、初登場ながら前後半でガラッと変わる難しい八重を演じきった 岡本玲など、出演者皆に見せ場が用意されていた。なかでも 増子倭文江 の多喜がグイグイ夏子を追い詰め、その後じょじょに老いさらばえていく具合を憎らしくもおかしく演じて圧巻であった。
マンザナ、わが町

マンザナ、わが町

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2026/07/10 (金) ~ 2026/07/23 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「戦中から現代を照射する」


 井上ひさしが1993年に書き下ろした作品の8年ぶりの再演である。キャストが一新され舞台に新鮮な風が吹いた。

ネタバレBOX

 1942年のアメリカ合衆国カリフォルニア州の奥地に作られた日系人ばかりを隔離したマンザナ収容所で、ジャーナリストのソフィア岡崎(sara)と浪曲師のオトメ天津(増岡裕子)が、「マンザナ、わが町」という芝居の上演に向けて稽古を重ねていた。質問好きで奇術師のサチコ斎藤(栗田桃子)や新進気鋭の歌手リリアン竹内(福井由峰)、芸者役ばかりやらされてきたという映画俳優のジョイス立花(真飛聖)が加わり稽古が進むが、収容所を美化する芝居の内容に納得がいっていない。財産を没収され居住の事由を奪われた5人は、お互いの素性を打ち明けるうちに結束を強めるが、あるときとんでもない事件が起きてしまうのだった。

 各役それぞれに見せ場のある作品だけに出演者がじつにイキイキと芝居をしていたが、なかでも増岡裕子の浪曲姿に客席は大いに湧いていた。初日ゆえに特に前半やや固い印象はあったものの、排外主義が強まりつつある現代で本作を再演する意義は大いにあったと思う。

ラフカディオ・ハーン 琉球の夢

ラフカディオ・ハーン 琉球の夢

燐光群

新宿シアタートップス(東京都)

2026/07/03 (金) ~ 2026/07/14 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「現代を照射する群像劇」


 沖縄に憧れ続けていた小泉八雲が本当に沖縄を訪れていたら、という発想で坂手洋二が書き下ろした燐光群の新作である。

ネタバレBOX

 太平洋戦争前の沖縄を訪れている小泉八雲(Benjamin Beardsley)が現地でチェンバレン(大西孝洋)や伊波普猷(土屋良太)ら知識人との対話を通して沖縄への理解を深めていく。そこで起こる不思議な出来事から怪談の素地が育まれていく過程と、現代の沖縄をとりまく問題を浮き彫りにしていくという筋立てである。

 Beardsley以外の俳優が数役兼ねてさまざまに演じ分けながら、戦前と現代を行き交う自在な構成のなかで、現実と幻想が入り混じる摩訶不思議な作品である。なかでも森尾愛が演じた龍の女が、沖縄の人々の苦しみを引き受け慟哭するくだりは見ごたえがあった。

6月定例公演 吹取・頼政

6月定例公演 吹取・頼政

国立劇場

国立能楽堂(東京都)

2026/06/19 (金) ~ 2026/06/19 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「友枝昭世の『頼政』」



 西国の寺院を訪ね歩く旅の僧(福王茂十郎)が宇治で出会った老人(友枝昭世・前シテ)にこのあたりの名所について尋ねる。各所を案内した老人は、最後に僧を平等院に連れ、ここでかつて源頼政が合戦の折自害したことを告げ、今日が彼の命日と教えると姿を消す。所の者(野村萬斎)は、老人が告げた事由は事実に相違ないと述べると、やがて現れた頼政の霊(友枝昭世・後シテ)が激しい合戦の様子を僧に物語るのだった。

ネタバレBOX

 友枝昭世が老人の姿で現れた時のあまりの静けさに思わず息を呑んだ。そのあと「宇治の橋守り年を経て 老いの波もうち渡す」と自身が頼政の幽霊であると告げるところに迸る思いの強さが印象に残る。後ジテは黄金色の衣装と「頼政」の面のゴテゴテした異形の風体で、こちらも極端に激しい動作はないもののその分内に込めた感情の強さが目に見えるかのようである。戦物語で「血は涿鹿の河となって 紅波盾を流し 白刃骨を砕く」という凄惨なくだりに、老いた体に鞭を打ち平家を討伐しようとするも失敗に終わった頼政の無念を見た。
第46回台東薪能

第46回台東薪能

台東区芸術文化財団

浅草公会堂(東京都)

2026/06/03 (水) ~ 2026/06/03 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「『隅田川』と『小鍛冶』」


 今年で46回を数える浅草寺の薪能は、台風の影響で浅草公会堂での開催となった。

ネタバレBOX

 前半の「隅田川」は、子どもをさらわれた女性(坂真太郎)が隅田川の河原を物狂いの様相で歩いているときに村人から真実を教わる悲劇を描く。物狂いの心持ちを短い所作で描く演出「彩色」ということで狂女の描き方は割合に淡白だが、右手を面に当てた所作に深い悲しみが出た。

 後半の「小鍛冶」は一条天皇の勅使が三條宗近(舘田善博)に御剣を打つようにとの要望に慄き氏神に祈願すると、不思議な童子(観世喜正)が出てきて剣の故事を語る、それが実は稲荷明神の狐の霊だったということが分かる、という伝承を舞台化したものである。観世喜正は後ジテで右手に持った刀をかざしながら足拍子を踏むあたりの異形の様子が躍動的であった。
ネザー(Su)ポット

ネザー(Su)ポット

劇団しようよ

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2026/05/28 (木) ~ 2026/05/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「電車内を観察する演劇」

 劇場に入ると客席と平行に組まれた電車内を模した舞台美術にまず驚く。そこでは出演者が目を閉じたり、スマートフォンを見たりと思い思いの格好で席に着いている。観客である己が作品に参加しているかのような感覚になる本作は、いわば「観察する演劇」であった。

ネタバレBOX

 最高気温が30度以上に達しようとする日の始発の地下鉄に、ぼそぼそと乗客が集いはじめる。ホームのベンチでサンドイッチを頬張るなおこ(信國ひろみ)は、友人の友人であるみほりん(福原瑞穂)に誘われ車内に座り、彼女のディズニーうんちくを戸惑いながら聞いている。金髪の青年リュウト(杉田一起)は、酩酊している朝帰りのニナ(花純)にあからさまに不機嫌な態度を示す。ベビーカーを押して入ってきたさなえ(池田きくの)の顔は暗く、我が子の泣き声が周囲に迷惑でないかとオドオドしている。自宅に帰る愛梨(小林瑠衣)と見送りに来たケイタ(沼田亮平)のカップルには、やや不穏な空気が流れている。車内で朝マックを食べ始め白眼視された高木(公社流体力学)は、ニナが生真面目そうな羽田(穂積宏和)の眼の前で戻す様子を見てしまい、思わずホームに走りつられて戻す。そこで発車ベルが鳴ると奥にいた木村(田中サキロウ)が手に持ったライトを上に挙げる。するとそこで時間が止まり、出演者たちは一度舞台奥へ消えていく。

 以降同じ場面が繰り返し上演されるのだが、一巡目とはややニュアンスが異なる。二巡目では、一巡目で愛梨が話題に挙げていたもり子(山本祐太)という人物に焦点があたる。もり子は電車の一両目に頻繁に現れる人物で、電車に「けんとくん」と親しく話しかける。もり子は、一巡目の終了時に車内に放置されたままだったベビーカーの子どもをまるで我が子であるかのようにあやすのだった。そして発車ベルの音とともに木村の合図で時間が止まり三巡目、ここではこの子の母親であるさなえの心の内が吐露される。この繰り返しを木村と、一巡目から車内にいる人物たちを終始不安そうに見つめ、ときに撮影している田中さん(筒井詩菜)が共に過ごしている。最後まで観続けるとこの二人の正体が観客に明かされることになる。

 20分弱の同じ場面を繰り返しながらそこで展開される人間模様をつぶさに見せる本作は、刺激的な試みに満ちていて興味が尽きない。公共空間で居合わせた他人の来し方に思いを馳せる、という誰しも口には出さないが日常的にやってしまう行為を舞台上に出現させた光景を私は初めて観た。時間の都合か焦点を当てる人物が限られてしまうのは残念だったが、もり子やさなえ以外の人物の内的独白も聞いてみたかった。上演台本に記された各登場人物の説明をほとんど実際の舞台にあげない姿勢は奥ゆかしいが、内容を刈り込み登場人物を絞って盛り込んでもよかったのでは、という気にもなった。

 圧巻の舞台美術はもとより控えめな照明変化や、タイムループの合間に挟まるユーロビートなどメリハリが効いたスタッフワークが、俳優の芝居を浮き立たせていた。
THE GAME OF POLYAMORY LIFE

THE GAME OF POLYAMORY LIFE

趣向

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「パートナーシップのかたちを模索する人々」

 合意のうえ二人以上のパートナーと親密な関係を構築している「ポリアモリー」について丹念に描いた2016年の作品の再演である。Bチームの初回を鑑賞した。

ネタバレBOX

 高校教員のエンジェル(豊田エリー)は医師のムーン(笠木泉)とタイガーという青年(小川ゲン)の三人で共同生活を送っている。三名は互いを恋人と認めているが、学生時代にエンジェルに焦がれていたアリス(阿岐之将一)や、同じくエンジェルに恋するガンダム(笹川幹太)は強い拒否反応を示す。将来は子どもを持ちたいと盛り上がる三人の日々は順調そのものだが、アリスがタイガーと交際をはじめたときから少しずつ変化が生じていくのだった。

 日本に馴染みがあるとはいえないパートナーシップを結ぶ登場人物たちを観ていて、愛情と所有の違いや、互いを認め寛容であることの困難さについてなど、さまざまに思いを巡らせることになった。説明しすぎない照明と音響が、俳優のイキイキした芝居を浮き立たせることに成功していたように思う。ポリアモリーを実践する三名とそれ以外の二名の討論劇のようになった感はあり、やや教条的で図式的になった向きは否めない。各登場人物を掘り下げた内容を観てみたいとも思った。
どっか行け!クソたいぎい我が人生

どっか行け!クソたいぎい我が人生

ぱぷりか

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2026/05/30 (土) ~ 2026/06/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「愛情と共依存の境界」

 ある母娘と周囲の人々の生活を丹念に描き、親子愛と依存感情のままならなさを浮かび上がらせる秀作である。2022年の初演からキャストを入れ替えての再演となった。

ネタバレBOX

 元夫のDVで離婚した赤木かすみ(渡辺真起子)は、一人娘の初衣(仲美海)を女手ひとつで育ててきた。弟の将太朗(松下太亮)と紗々子(岡本唯)夫婦はやや過保護気味のかすみに折に触れて進言するも、初衣もまた母のことが心配で自分の本心を打ち上げられずにいる。かすみと同じ職場の後輩の柴田(松尾潤)が初衣に東京行きを薦めたことで、かすみの行動は一気にエスカレートしてしまい……

 渡辺は一見ざっくばらんで肝っ玉ではあるが、占いやスピリチュアルなものに依存する弱さを抱え、なかなか子離れできないかすみを丁寧に演じていた。渡辺の動の芝居を仲は終始受け止めるものの、耐えきれなくなり爆発するところが盛り上がって見ものである。2時間近く丁寧に母娘関係を描いた説得力は大きいが、その分暗転と場面転換が多くところどころ集中が途切れる向きもまたあった。
何処へ行くギルガメシュ

何処へ行くギルガメシュ

パスプア

カタリナスタジオ(北海道)

2026/05/21 (木) ~ 2026/05/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「複雑怪奇な世界をコミカルに描く」

ネタバレBOX

「ご存知ですかね。移動距離と成功って比例するんですよ(中略)みんなはじーっと動かないでお金失って、私は動き続けてお金もらっちゃって。どっちが人生の成功に近づいてるかって話ですよね」

 実家を出奔しフードデリバリーとして働くギルガメシュ(ともか)は、配達先の住人(田中杏奈)が注文した手の込んだ料理の入った袋の先を指で固く結び、こう言いながら頑なに手渡そうとしない。よい暮らしを満喫しているのであろう住人へのささやかで悪意のある抵抗は、彼女が辿ってきた流転の日々を象徴するようである。

 十字架に似た線画の意匠をあしらったマントが目立つギルガメシュは、高貴な出であるかのような言葉遣いのふてぶてしい人物だ。地下鉄の乗車ホームに迷い、バイト先の店長に時給の値上げを迫り、車中泊を咎められ警官まがいの詐欺師に金を渡すなど、やることなすことずぼらばかりである。彼女のエピソードを軸にほかの登場人物の出来事が挿話として紡がれていく。ガールフレンド(田中杏奈・二役)の父(町田誠也)に結婚の許しを得ようとするものの、断られ続けて家で延々正拳突きを続けているヒロキ(小倉佑介)に、「桃太郎」の改ざん版を物語る噺家(中禰颯十)や、電柱にからむ酔っ払いのラッパー(中禰颯十・二役)。土地を奪われたから返せと現在の所有者夫婦に迫る侵入者(小倉佑介・二役)に、働くことができず生殺与奪の権利を妻に握られていると嘆く男(町田誠也・二役)など、オチがあるわけでもない不条理な人物描写が続いていく。いったいどこへ行きつくのかと袋小路になりかかるとギルガメシュの彷徨となり、じょじょに彼女が家を出た理由が詳らかになっていく。

 本作のなかには階級格差や男女差別、くらしやケアといった現代のさまざまな問題が織り込まれているが、それらを声高に主張するというよりは、登場人物たちの行動にさりげなく感じさせる作りになっている。一貫した筋がないようで当初は混乱したが、観続けているうちにギルガメシュの物語に繋がっていく。しかしそれよりも本作の主役は、これらの登場人物たちが暮らす奇妙な作品世界そのものである、と私は思う。ギルガメシュを演じたともか以外はほかの出演者が数役を兼ねるという配役も、観客の誰もが作中の登場人物に自身を投影し、複雑怪奇な現代社会と地続きのこの作品に思いを馳せることに寄与していたのではないだろうか。北海道の地名が出てくるもののやや記号化された舞台設定もまた、どこの誰にも起こり得る物語という趣を醸し出していた。

 作者の強固な世界観に負けじと俳優たちも皆力演・怪演が目立った。ともかはもとより小倉佑介の演じたヒロキが俊敏かつ執拗にガールフレンドとの結婚を申し出るくだりや、反目し合う兄妹という設定の中禰颯十とともかによるラップ合戦、ともかと田中杏奈が体の部位を触り合い「あたま」「ひざ」などとその部分を奇妙な声で発話するところなど、印象深い場面が多い。これもまた吹き寄せやボードヴィルのような感覚で観ることができた。

 長旅を終えたギルガメシュは、偶然出会った男(宮下諒平)といい仲になりかけるところで物語は帰結する。企み深いとはいえ手数の多い本作は、どうしても散漫な印象が残ったところが否定できない。1時間半かけて果たしていまなにを観たのかとポカンとした心地にもなったが、他ではなかなか出合えない作品であることも事実である。
ウルトラソウルメイト

ウルトラソウルメイト

ロロ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2026/05/15 (金) ~ 2026/05/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「成長して変わるものと変わらないもの」

 ある幼なじみ二人の友情を平成に流行した音楽や風俗を交え、幻想的に描いた作品である

ネタバレBOX

 千葉から福島の浜通りに越してきた立町リリイ(篠崎大悟)は、森でサッカーの練習をしていたときに偶然、同じく転校生の苺辺祝祭(亀島一徳)と出会う。二人はたびたび森の中で遊び、時計台(大場みなみ)と呼ばれる森の住人と心を通わす。成長したリリイはサッカーの名門に進学し、祝祭は地元の森で過ごしていた。近況を手紙を交わしていたものの次第に疎遠になってしまったのは、リリイが進学先のサッカー部で体験した厳しい現実だった。

 本作は誰しも子どもの頃に備えていた純粋無垢な性格が、成長過程で次第に変化していく過程を丁寧に描いている。他愛もない遊びやちょっと怖い体験、部活のハラスメントや見栄を張る嘘といった光景に身につまされる思いにもなった。こうした出来事の積み重ねが大人になるということと同時に、変わらないものもまたあるということを提示したことが作者の想いであると私は受けとめた。主演二人の無理のない成長の芝居や数役兼ねる共演者の達者ぶりも相まって、俳優の芝居が光っていた。特にリリイの心の揺れを丁寧に描こうとした点には好感を持ったし、さわやかながら苦悩する篠崎は力演であった。しかしやや詰め込み過ぎで、特に後半、ひさしぶりの森の場面で祝祭への思いを独りごちる場があまり感興をそそるものにならなかったのは残念である。
音楽演劇「光かもしれない」

音楽演劇「光かもしれない」

エリア51

スタジオ空洞(東京都)

2026/05/20 (水) ~ 2026/05/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「音楽と映像で彩られた宇宙旅行」

 スペース・オペラを音楽の生演奏や映像を交えて描いた作品である。

ネタバレBOX

 人類が電力など生活インフラを生産するための家畜のような扱われ方をされ「旧人類」と呼ばれるようになってしまった遠い未来、旧人類の主人公(徐永行)は、かつて地球でアンドロイド(堀春菜)と友情を育む。しかし旧人類とアンドロイドは敵対関係にあった。自身の記憶を外部装置に移したアンドロイドを探しもとに戻すべく、主人公は自作したロボットのY-3PO(原雄次郎)とともに旅に出る。道中では、主人公が会いたがっているアンドロイドとよく似たウェイトレス(堀春菜・二役)が加わる。高度に技術が発達した未来では、肉体と記憶を引き継ぎ生き続けることができるようになっていた。ようやく2001年目に目的の星に到着したが……

 映画「ブレードランナー」のような世界観を想起させる本作は、前提としている設定がなかなかに入り組んでいるため、作品に没入するには相応の時間がかかってしまったことが残念である。またボーカル入りの生演奏に負けないためか、俳優三名の芝居が上演会場の空間にそぐわない過剰さであったため、細かな台詞のニュアンスが聞き取りづらかった点も惜しい。

 ジャズテイストものからラップ、竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」のカバーなど演奏家たち(ボーカル:鈴木美結、ギター:神保治暉、マリンバ:中野志保、ベース:廣戸彰彦)による生演奏は聴き応えがあり、進行に合わせた映像を舞台奥に投射するなどの工夫が光った。特に主人公がアンドロイドとともにスパゲッティを食べた思い出を回想するくだりの静けさ、ほろ苦い甘さが印象的である。他方で主人公の行動が宇宙検閲なる人物に管理される場面では、その検閲官がただ台本を読んでいるように見え残念に思った。
優しい劇団の大恋愛 Volume11『もっと愛してくれよ節』

優しい劇団の大恋愛 Volume11『もっと愛してくれよ節』

優しい劇団

吉祥寺シアター(東京都)

2026/05/10 (日) ~ 2026/05/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「演劇の生産構造への反旗」

 名古屋を中心に活動する劇団が、東京の吉祥寺シアターで過去作品と新作を一挙に上演する企画である。私が観たどの回も満場の客席で溢れかえっており、劇団の晴れ舞台に多くが喝采を送っていた。

ネタバレBOX

 初日の『北極星のがなりマイク』は、主催で作・演出の尾﨑優人が十数役を演じる一人芝居の再演である。地球ではない星や未来で演劇に携わる人々の葛藤を、老若男女を問わず1時間半かけて演じ続ける。全容を把握することが難しいほどにさまざまに設定が飛んでいくものの、口跡の良さにつられて最後まで見入ってしまった。ただ一人数役を演じ分ける変身の面白さに見入ったというよりは、尾﨑というエネルギー溢れる演劇人の魅力の提示にとどまった点が惜しい。

 二日目は出演者の顔合わせと稽古、そして本番を一日で敢行する「大恋愛シリーズ」のVolume10『夕焼け色のダイダラボッチ』である。ひさびさに開催された「大同窓会」に集う人々の邂逅は、トイレの花子さんと理科室の標本の対話、先生に憧れる女性とじつは先生のフリをしていた男子学生の再会など手数が多く面白い。ただ皆大声でまくしたて身振り手振りの大きな芝居は変化に乏しく、言葉遊びと詩的な展開はどうしても先行作品を想起させてしまうものであった。そんななか生徒を演じた今井桃子の、憧れの君になびく様とその後の激しい芝居のギャップがいちばん印象に残った。

 さて三日目の大恋愛シリーズVolume11「もっと愛してくれよ節」は、まず幕開きで暗闇のなか出演者一同で花火があがる様をオノマトペで表現していたところに意表を突かれた。やがて「幸せという名の、遠い国」「こころ、休む場所にゆきたいよ」と合唱しながら皆で姿を表すところに期待が高まる。劇団初の時代劇という触れ込みで花火を「偽物の星」と嫌う江戸幕府天文方(永島敬三)や花火が消える様を嘆く花火師(千賀百子)、すべてを手に入れたはずなのに郷里の母に渡された傘を大事にする悪代官(黒澤多生)に、愛のために盗みを働く義賊の鼠小僧(佐藤新太)まで、さまざまな登場人物が「愛」について怒涛の台詞を交わしていく。現代で言うところの自己承認欲求の発露を外題に込め、さまざまな登場人物が歌い上げながらやがて花火があがる様子を見守るのだが、当然ながら帰結まではなかなかに飛躍が多い。悪代官の「傘」と「かあさん」の言葉遊びにピュアネスを感じる場面など趣向は尽きないのだが、Volume10同様にペアで展開する構成やシャッター、劇場通路の利用など目新しい演出はなかった。客席の反応もVolume10ほどではなく全体を通して芝居が上滑りしていたように思う。

 この企画を通して感じたことは、「大恋愛シリーズ」の可能性と課題である。普段は別の場所で仕事をしている俳優たちが集い、数時間かけて稽古し、スマートフォンの音楽をBluetoothスピーカーで流し工事用ハロゲンランプを照明にして本番を打てば、作品として成立するということをこの企画は証明している。力のある俳優と最低限のスタッフワークが揃えば、ごく短期間であっても芝居ができるということは、多くの演劇人、演劇ファンにとっての希望のように映る。長期にわたる分業体制の演劇の生産構造に対する反旗であり、加速するばかりの現代社会に見合った活動ともいえよう。

 他方で俳優の芝居が大仰な身振り手振りと大声という類型化したものになりがちであり、演じる姿が一人芝居での尾﨑のそれを模倣しているように見えてきてしまった。作劇もまた登場人物のペアの小話を広げた群像劇という形式に陥りがちであり、ドラマを堪能する暇を与えない言葉の羅列の先に作者のピュアネスと演劇愛を感じる、というパターン化したものになっていた。この劇団の活動に賛辞を送る観客が少なくないことは心強く思う一方で、作品の成熟を目にすることが叶えばという思いもした。
御名残五月大歌舞伎

御名残五月大歌舞伎

松竹

大阪松竹座(大阪府)

2026/05/02 (土) ~ 2026/05/26 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「仁左衛門の盛綱」


 大阪松竹座のさよなら公演の夜の部は仁左衛門の「盛綱陣屋」で幕を開ける。

ネタバレBOX

 豊臣方と徳川方に袂を分かった真田信幸・幸村兄弟を近江源氏の佐々木盛綱・高綱兄弟に当てはめ敵味方を超えた兄弟愛を描いた時代物の大作である。盛綱(仁左衛門)の一子小三郎(秀乃介)が高綱の一子小四郎(種太郎)を生け捕りにする。母の微妙(魁春)に小四郎を討ってほしいと申し出た盛綱だったが、そこへ高綱討ち死にの知らせが届く。やがて陣屋にやってきた北條時政(歌六)のもと高綱の首実検が行われるが、それが偽首とわかったうえで小四郎は切腹するのだった。

 仁左衛門の盛綱は前半で見せた敵対する兄への厳しい口調と、後半で我が身を犠牲にして切腹した小四郎に見せる気遣いが対照的でドラマティックである。特に瀕死の小四郎の顔を下から覗き込むところが情愛したたるばかりだった。
かいころく

かいころく

安住の地

WAKABACHO WHARF 若葉町ウォーフ(神奈川県)

2026/05/14 (木) ~ 2026/05/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「人間の営みから歴史を浮かび上がらせる試み」

 近代日本の主力産業であった養蚕業(ようさんぎょう)を題材にした「かいころく」三部作を、全国三都市で一挙上演する企画である。横浜公演の初日を鑑賞した。

ネタバレBOX

 2023年初演の「養蚕農家編」は、ある青年(森脇康貴)の内的葛藤を描く一人芝居である。養蚕を生業にする家庭に生まれた青年は、はかない蚕の生き方にいつしか自分自身を投影する。丹精込めて育ててもやがて殺して絹糸にしてしまう蚕に、母が精気のない眼差しを向けていた日のことを、青年は強く記憶していた。やがて青年のもとへ召集令状が届く。そのとき母から向けられた眼差しに、彼はあの日の記憶を重ねるのだった。蚕が口から繭糸を出す指先の美しさや、転げ回りながら青年の苦悩を体現した森脇の動作が強く印象に残る。

 2024年初演の「工女編」もまた養蚕農家に生まれた人物の一人芝居であるが、数世代間に渡る女性たちの物語を軸に、近代日本の歴史を明確に浮かび上がらせた点でより広がりのある作品である。不慮の事故で父を失ったゐと(山下裕英)は、一家の稼ぎ手となるべく製糸工場へ出稼ぎにいく。似たような境遇の女性たちと寝食をともにしながら十年ほど勤め結婚、生まれた娘もまた工女として働く。終戦を迎え次第に養蚕が廃れていくなか、ある日孫に言われた一言にゐとはハッとする。それはかつて自身が祖母にかけたある言葉を想起させて、ゐとは時代の移り変わりをまざまざと感じるのだった。少女から大人、そして老人まで幅広く演じ分けた山下の力量に瞠目するとともに、糸を巻く仕草がじつに美しく映える一作である。

 本公演の新作「蚕種編」は江戸時代に養蚕を学び周囲に広めていった男性(沢栁優大)を描く前半と、明治時代に家計を助けるため蚕の鑑別の職務にあたる女性(雛野あき)を中心にした後半で構成された二人芝居である。

 前半の主人公は水害で家業を失い養蚕を学ぶべく遠路はるばる奥州へ旅立ち、そこで弟子入りした人物から会得した養蚕の術を惜しむことなく周囲に広めていく。彼のお人好しぶりを宿で偶然居合わせた薬売りが皮肉るが、自分が学んだ技術を広めみんなで幸せになるのが一番であると淡々と諭したくだりに、作者の面目躍如と沢栁の口跡が光った。

 後半の主人公は学がなく住み込みの職を解かれ呆然としていたときに蚕種の職に就く。彼女にとって養蚕はあくまで生活の手段であり思い入れは強くないが、着実に昇進し指導する立場になる。しかし自分に仕事を教えてくれた同僚が体格のよくない蚕を弾く様子を見て、生まれてこの方言葉を発さず周囲から冷遇されている自分の弟を想起するのだった。よりよい繊維製品を生み出すためにさまざまに掛け合わせた品種改良は、優生思想に近いところがあるという静かな指摘にハッとさせられる。蚕種について多くを学んだのであろうが、他作品と比べると情報過多で説明的になってしまった点は残念であった。

 三作ともに周囲を客席で囲んだ逃げ場のない空間で、演者のさまざまな表情を感じることのできる贅沢な作品である。登場人物それぞれに合わせ仕立てた衣装が、静謐な照明と抑制的な音楽もあってよく映えた。その分屋外の音が頻繁に聞こえてくる上演会場はやや残念に感じた。

このページのQRコードです。

拡大