十二月大歌舞伎 公演情報 松竹「十二月大歌舞伎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「玉三郎の富姫」

     歌舞伎座さよなら公演以来15年ぶりに玉三郎の富姫を目にすることが叶った。相手役の図書之助は近年目覚ましい活躍を見せている團子が演じるということで客席は熱気に溢れている。昨年玉三郎演出で富姫を継承した七之助が亀姫を演じ、他の役もこれまでから幾分か若返り、世代交代を目の当たりにする上演となった。

    ネタバレBOX

     客席が暗転すると幕間で披露された田渕俊夫作の緞帳「春秋」の中央に描かれている大きな満月が妖しく光る。唯是震一の電子音楽と相まって客席を鏡花の世界に誘う趣向に驚いていると、いつの間にか折れそうな三日月に変わっていつもの女童たちによる「通りゃんせ」の合唱が聞こえてくる。薄(吉弥)が女童たちに静かにするよう諌めると外の雲行きが悪くなり、やがて福井の夜叉ヶ池から戻ってきたという富姫が登場する。

     玉三郎の富姫は出てきたところやや軽かったが、通りすがりに案山子から取ったという藁蓑を「重くなってきた」と取るあたりからいかにも鏡花ものの異形という風情が出てきてうまいものである。猪苗代からやってきた亀姫とのいつものじゃれ合いは、七之助と息が合って惚れ惚れ見えて、客席からは微苦笑がこぼれるばかりであった。男女蔵の朱の磐坊は亡父左團次を彷彿とさせる手ごわさがあったが、富姫と亀姫が引っ込んでから侍女たちと戯れる場面はもう少し愛嬌がほしい。門之助の舌長姥は武将の生首を舐めるところで「むさや」がやがて「うまや」に変わるあたりがうまい。

     お待ちかね後半の図書之助の出になる。團子の図書之助は明晰な台詞と美しい佇まいがピッタリハマって、警戒していた富姫の「すずしい言葉だね」が生きるいい出来である。今回の収穫は図書之助二度目の出のところで、図書之助が放った鷹を富姫が獲ったことを図書之助が咎めるくだりで、人間界と異界、そして自然界の対立構造がこれまでになく明確になった点である。これは玉三郎と團子の台詞が明らかにした新しい視点であった。

     終盤で追われた図書之助を富姫が獅子頭に匿い、修理(歌昇)率いる侍との戦いのなかで目を刺されて光を失うも、桃六(獅童)がのみで目を開けるところまで一通りである。獅童の桃六はもう少し重厚さを感じたいと思った。

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    2024/12/08 14:20

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