latticeが投票した舞台芸術アワード!

2020年度 1-6位と総評
ロートレック

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ロートレック

Yoshiki Yamamoto Solo Musical

電子ピアノ、ウッドベース、ドラムの生バンドをバックにした山本芳樹さんの一人ミュージカルである。ロートレックの36年余の一生をナレーション、芝居、歌と八面六臂の大活躍で描いていく。燕尾服にシルクハットをかぶれば貴族であるお父さん、ショールを羽織えばお母さんとなり、テーブルを出して酒場を作り、足を上げればムーランルージュの踊り子となる。それにしても山本さん、一人芝居の悲壮感が全く感じられない。これはおそらくバンドが常に空間と時間を埋めているのでいつでも息抜きができるからではないかと思った。

ロートレックというとユニークなポスターの作者という程度の認識しかなかったが、人生も非常に面白いものだった。

この舞台、小さくまとまっていたと見るか適切なスケールと見るか迷うところだが悪くても星4つ半は固い。私の今年のベスト1だ!

「プヒのかあさん」の観てきたに何かピンと来て雨の中を新井薬師まで出かけて大正解。「プヒのかあさん」に感謝。

尺には尺を

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尺には尺を

新国立劇場演劇研修所

研修生の試演会ということでストレートで熱のこもった芝居が楽しめた。

大枠は単純な喜劇の作りなのだがしばしば起こる不調和な出来事によって問題作にも分類される。
最後のシーンでは原作に加筆して(?)あいまいで論の分かれるところをよりダークな方向に振っている。さらに長い余韻で締めくくることによってそれを強調していた。もっともここは私の記憶違いで加筆なんてなかったかもしれないが。

ヴィンセンシオ役の星初音さん、この中でこの役をやるのはこの人しかいないという圧倒的な個性の持ち主。期待に違わぬ熱演で観客を支配していた。今回、私が心を奪われそうになったのはマリアナ役の渡邊清楓(さやか)さん。ピタッと決まった時の美しさは西洋名画の輝きがある。しかし残念なことにその輝きは長続きせずすぐに影が差してしまうのだ。もっともセリフもしっかりしていて十分訓練された方なのでこのマリアナという微妙な役に合わせてわざとオーラを消していたのかもしれない。

メモ:「尺(measure)」とは判断基準のこと。題名「Measure for Measure」は「他人に使った基準を自分にも適用せよ」ということ。「目には目を」は「An eye for an eye」

天神さまのほそみち

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天神さまのほそみち

燐光群

世の中の不条理な出来事をやや不条理な手法で描いた不条理劇。劇そのものは非常によく分かった(と思いたい)。

1席飛びの「ザ・スズナリ」は普段のひどさと比べるとかなり快適だった。
観客は高齢者がほとんどで平均年齢は60歳以上にもなっていたのではないだろうか。
高齢者はコロナで重症化しやすいと言うけれど「ザ・スズナリ」の階段の方がよほど危険だ。

コロナ明けの観劇の2作目。何を書こうか考えているうちに最初のは忘れてしまった。今回もこれだけ(汗)

ツバメの幸福

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ツバメの幸福

ツツシニウム

9月の観劇、オーバーペース気味の7本目。
「幸福の王子」の短い記述を作者の想像力で膨らませた秀作である。
縫子さんとその息子の話、劇作家の話、マッチ売りの少女の話、どれも原作では1ページ程度のあっさりとしたものである。そこに幸福度を計算する父親とその娘、娘の今の恋人と昔の恋人の4人を創造して3つの話に絡ませてくる。

たとえば原作では「マッチ売りの少女がマッチを溝に落としてしまう」としかないところを乱暴な男とぶつかってマッチを落としてしまうということにしている。この男は上記の昔の恋人であってかなり困った人物であることがここまでで観客に十分浸透しているのである。いつマッチを落とすのかと訝しんでいた私は「おおそう来たか」と大きくうなずいた。また作家がマッチ売りの少女に「あなたのことを小説にしても良いですか」と尋ねるところはまあそう書きたくなるよねと思わずニヤついてしまった。

最初の母と息子の話はドタバタギャグで会場では受けているものの私は完全スルーである。しかし不快感を持つ観客がいることも計算の内なのだろう。その後の二つは基本的に落ち着いたものであった。元々原作者はこのような書き加えを想定して簡潔な記述に徹したのではないかという気になるくらい説得力があった。そういうわけで脚本は星5つ。役者さんもみなさんうまい。ただ舞台があまりに貧相である。背景の一枚くらいはあっても良かったのではないだろうか。

コロナ対策は最低だった。澱んだ空気に気分が悪くなった。若い人々で赤字にするわけにはいかなかったのだろうと同情はするものの、またこういう会場設営であったなら行かないだろう。ここはマイナス1、本当はマイナス3にしたいところだ。

IN HER TWENTIES 2020

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IN HER TWENTIES 2020

TOKYO PLAYERS COLLECTION

9月2本目の観劇。
舞台上手手前から下手手前にかけて半円形に10個の椅子を並べ、反時計回りに20歳から29歳までの主人公役の女優さんが座る。20歳から順に立ち上がって自分のことを語り、過去と未来の自分から突っ込まれるという作りになっている。担当でない年齢の時は友人や同僚役などをも演じる。これが最近ボケの進んだ老人の頭を大いに混乱させてくれたが若い人なら大丈夫だろう。

まあしかし何も大きな事件は起こらない。これならここにいる女優さん達の半生の方がよほど起伏に富んでいるのではないだろうか。今の若い人はそういう現実感のある話の方が共感できて評価するみたいだ。それにしても葛藤がないというか努力が足りないというか、ふあっと流されて行くように見える。それとも努力していることをたとえ物語でも表には出さないというのが現代の若者流なのか。何か年寄りには物足りないので星3つとなる。しかし、24歳役の榎木さりなさんは今田美桜と上戸彩を足して2倍したくらい可愛く美しい。私の子犬のように繊細なハートはいつの間にか盗まれてしまっていた。星1つアップするので返してほしい。

世界も三角、土俵も三角/特殊になれなかった者たちへ

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世界も三角、土俵も三角/特殊になれなかった者たちへ

マチルダアパルトマン

マチルダ・アパルトマンの描く若者の日常は非日常である。登場人物もネジが緩んでいてパッとせず、若い人が好むような職業にはついていない。部屋も汚い(笑)。その辺りが若者の日常を淡々と描いた他の演劇(おそらく主人公の部屋は奇麗)とは違っている。基本的にはその場その場の不思議な状況を楽しむべき作品なのだと思う。ただし「世界も三角、土俵も三角」からは極小偽テロリストの論理みたいなものを読み取ることはできた。

二つ目のお話は一つ目の後日譚ということなのだろう。しかし大きすぎるギャップを私は埋めることができなかった。一つ目の終わりが先行きを不安に思わせるようなものだったのならすんなり腑に落ちたのだが。そして彼の相方があの彼女だったのだろうかという疑問が浮かんでそのまま残ってしまった。

例のイラストを止めてしまったのがちょっと残念。

総評

劇場に行く、というか外出する回数を減らさざるを得ない一年だった。小劇場物はあまり観ることができなかったが記憶に残っているものを挙げることにする。

おまけ:2020年心を奪われた女優さん賞
第一位 榎木さりなさん(IN HER TWENTIES 2020)
第二位 渡邊清楓(さやか)さん(尺には尺を)

大手のランキングは以下の通り:
1.ミュージカル『ローマの休日』
2.十二人の怒れる男:DISCOVER WORLD THEATRE vol.9
3.天保十二年のシェイクスピア
4.真夏の夜の夢:シルヴィウ・プルカレーテ演出
5.いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』
6.歌劇「紅天女」

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