
ミュージカル『青の砦』
演劇によるまちづくり・かわさき実行委員会
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2026/01/28 (水) ~ 2026/02/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
1969年1月18日早朝、バリケードで封鎖された東京大学安田講堂の解除を任務とする機動隊が実力行使した。報道番組に映し出された放水シーンは今となっては時代を象徴する。だが、針が進み日付が変わっても学生達がその場に留まった史実は知られていない。国家権力すら一旦は身を引いた「戦争」だったのである。
本作は若い役者陣が集結するオリジナル・ミュージカルだが、『ウエストサイドストーリー』に着想を得たことは明らかだ。階級内の、つまり小集団をめぐる領域対立を、アトム化した「男と女」=根源価値が飛び越えられるか、という物語である。
運動は失敗に終わることが予期されていたとする議論も存在する。しかし、1960年6月15日「アンポ、ハンタイ」を掛け声に国会議事堂を包囲した20万の群衆を軽んじるべきではないと思う。
その後、最大野党だった社会党を組み込めず、「国民」運動から「学生」運動に縮小していったのは労働者の支持を失ったからだ。ミュージカルではクビを言い渡され途方に暮れる元工場勤務の青年がそれを体現する。進学率が20%に満たない当時、東大生はエリート中のエリートだった。日の当たる階級が「授業料値上げ反対!」を立て看板に書き殴っても、それは条件闘争にしか映らないのである。
ミュージカルを観てあの頃に触れた観客に過った感情は「羨ましい」だった。底抜けの、恥ずかしさをかなぐり捨てた、泥臭いまでの熱量を、わずかでも現代社会に還元できやしないか。

ある夜をめぐって
パンケーキの会
駅前劇場(東京都)
2026/01/29 (木) ~ 2026/02/04 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
「エーリヒ・ケストナー~消された名前~」についてコメントします。非常に質が高かったです。終演後のアフタートークで演出家がおっしゃったとおり、ナチス・ドイツは現代社会において絶対悪です。具体的には称えることを法律で取り締まっている例もあります。ではこの恐ろしい体制を支えた民衆は「悪」だったのでしょうか。これはハッキリしない命題です。なぜなら、ナチス=システムと闘うことは何かを犠牲にすることを強いたからです。私たちには幸福追求権があります。その枠内で、能力を活かした個々の営みを頭ごなしに否定するべきではない。当時の、排外主義が台頭する段階において、弁護士などの資格職に就くことの多かったユダヤ人が資本を蓄積し、労働者階級をコントロールする側に回っていたことは事実でしょう。政治不満は実体を伴っていました。こうした構造格差において庶民の拠り所とした勢力が「人種決定論」を叫び国政を牛耳ったナチスだったのです。門を叩き党員証を受け取れば暮らし向きが良くなります。一党制を掲げるナチスでは党活動と政府が通じており、私生活も優遇される可能性が跳ね上がったからです。
働き口を拡張する動機付けを自己中心的だと我々の視点から断じることはできるのでしょうか。では、それが貧しさに喘ぐ仲間に果実を分け与える目的も兼ねていたらどうでしょうか。舞台を観ていた私は、妥協し国策映画の脚本を書くようケスナーを口説く体制側に共感していました。頑なに申し出を断るケスナーに苛立ちを覚えたほどです。こういう集積がナチスの権力を補い全体を破滅に追い込んだわけですから、やはり「地獄への道は善意で舗装されている」のです。
先日、『新 映像の世紀』(NHK)を観る機会がありました。宣伝省を立ち上げ、世論を特定目標に誘導する過程に関わったゲッペルスが主題でした。番組では同時代における米国が「正義の自由」として描かれますが、私はそうは思いません。なぜなら、初期ナチスを経済的に潤わせていたのが、フォードなど米国産業界だったからです。人種の登録を義務付け、行政サービスを区別する徹底した人種隔離政策も米国から見習っています。だからこそ、英米などアングロ・サクソンの捕虜に対してはむやみやたらに傷つけることなく戦時国際法を遵守したのです。
翻って今日、白人属性の被害を誇張する共和党も、「アイデンティティ政治」と称し属性で分類する民主党も、悲劇を再生産しうる地政学的リスクを抱えています。(欧州では人種分類法を禁じています。その例外が、社会衛生学としてのナチスのモデルとなった北欧諸国です)

恋愛漫画~鳳凰篇~
ライオン・パーマ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2025/10/22 (水) ~ 2025/10/26 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
ハズレはない。期待値を上げるようで悪いが、ライオンパーマは誠実だ。どの回でも満足できる仕上がりになっている。最近、演劇界では、「千秋楽まで成長していきます!一度といわず何度でも足をお運びください!」などと意気込むカーテンコールが多い。それではダメなのだ。客席の側からしたら知ったこっちゃない。いかなる瞬間でもベストを届けるのが舞台人の務めだからだ。
ところで、落語用語に「三題噺」というものがある。その名の通り三つの題材を募り、即席で構成する伝統芸だ。漫画の神様こと手塚治虫がシナリオづくりに活かすなど、応用の幅は広い。ライオンパーマを眺めていると「三題噺」が浮かぶ。同時進行のシチュエーションが交差していくからである。だが、途中から「三」どころでないことに気付く。不思議なことに「十」くらいに体感してしまう。だが、観終わって「一」になる。それは「我々が失った男の生き様」だ。なんだかんだ、そこへ収斂する過程がライオンパーマということなのだろう。

家庭教師マミヤ
ライオン・パーマ
駅前劇場(東京都)
2025/02/05 (水) ~ 2025/02/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
なんなんだこの没入感。一度入り込んだら抜け出せない、長尺?いや終わってほしくない、この奇妙な依存。伏線だらけだ。本で例えるなら真っ黒になってしまう。けれども、それが解かれていく様に、「ライオンパーマ」の奇跡を読む。

瀬沼さんのことを誰も知らない
ライオン・パーマ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2024/07/24 (水) ~ 2024/07/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
謎多き「瀬沼さん」。彼を主人公とするキッカケとなったのが数年前、小噺的に仕込まれた一コマだった。その忘れがたい脳裏が大長編という実を結んだのである。しかも、コロナ禍を経ての再演である。とんだ出世だ。
そこで、希望を託して視点を移したい。瀬沼さんという「災い」に直面する街の人らこそ達者ではないか、と。ああいった「災い」を祭る包容力が現代日本社会に欠けている肝ではないか、と。ネタバレなので詳細は省くが、その本質が面接シーンだったと思う。
品を漂わせながら進化を遂げていくライオンパーマに目が離せない。

兵卒タナカ
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2024/02/03 (土) ~ 2024/02/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
それは実在の国か、幻か。いや、虚構とか現実をハナから規定しないのだ。
主人公タナカの純粋な故の、その傾けが反転したとき、裁かれるべき者は誰という「タブー」が表出する。

海辺のメロ刑事
ライオン・パーマ
駅前劇場(東京都)
2023/11/08 (水) ~ 2023/11/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
名だたる刑事ドラマはあれど30年はこれを越える作品は世に浮かばないだろう。それは言い過ぎか。けど、緻密な構成とエスプリの数々には畏れ入った。
※本日追記

フィクション・モテギモテオ 2023
ライオン・パーマ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/05/31 (水) ~ 2023/06/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2023年のモテギモテオは進化し過ぎだ。
男たちの欲望を晒し、現実と擬似の境界線を取り払う。その答えが明らかになっても。
システムを得意とするのが劇団ライオンパーマだ。やはり良さは活かされている。例えば、「レンタルビデオショップ」というシステムを逆手にとり笑いに変える。見ず知らずの大人がシステムで仲良くなったり、または喧嘩する。
本作は人生最高のモテ期を体験できるというシステムを作り上げた。それは架空であり、そこに実在していたのだ。
初演に続く観劇でも、ふと思う。「破滅とは何か?」

青春日和
都立王子総合高校演劇部
北とぴあ ペガサスホール(東京都)
2022/10/03 (月) ~ 2022/10/03 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
常々思うのだが、物事には適正水準というものがある。それは身の丈の封建を肯定するわけではないが、高校演劇におけるホール公演が仰々しく感じさせるのも事実だろう。ひっきょう、これくらいの「ハコ」はリアルの青春を紡ぐには実に相応しかった。
3年ぶりの外部向けという王子総合高校演劇部。北区は故つかこうへい氏のホームだったから演劇が盛んである。
何ともコンパクトな、常識的な舞台だった。学年に誰もが羨む美少女がおり、その生徒に一目惚れする男子生徒というシナリオはいいとして、恋愛劇ではない。ありふれたローテーションに潜む同世代的共感でも呼ぼうか。私にとってそれは「気遣い」だった。つまり、「好き」を声高に訴えるのもそうだし、その一言を控えるのもまた、そうに違いない。

大豆生田家の庭に咲く花は薔薇かスミレか!
ライオン・パーマ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2022/08/31 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
この劇団には果敢な水しぶきを飛ばす存在感抜群の支流が付きものですが、その筆頭に挙げられるのが大豆生田家でした。しかし、彼ら一家には申し訳ないものの、そこは「スピンオフ」形式なのだと気楽に待ち構えていました。あぁ。裏切られた。内容の濃さに。
名だたるヒットメーカーが取り組んできた「名家」のエッセンスを、これでもかと。身内争い、浮世離れ、禁じられた交際、それらが気品と共に、しかしコント出身(?)の矜持を忘れることなく共存しているのです。

虹の人〜アスアサ四ジ イヅ ジシンアル〜
ラビット番長
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2021/09/30 (木) ~ 2021/10/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
4桁の観劇人生の中で「ラビット番長」の将棋シリーズはベスト5にランクインしてくる。それだけに『コマギレ』は愉しみにしていたのだが、いやはや、上演作を変更しても力作だった。

歌姫・ネバーダイ! in deep
ライオン・パーマ
萬劇場(東京都)
2021/09/08 (水) ~ 2021/09/12 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
劇場前の「手洗い」。そういえば以前から水道の栓っぽいのが備えられていたが、この活用法があったとは!そして、いざ席に座ると、そこは光触媒でシールドされた空間で覆われている。「ここまでやるか!」、いや、生命と演劇を一義に考える日本で最も安全だろう萬劇場というやつである。
ライオンパーマといえば、前回は訪れた客が予約名を紙に書く無音受付の試みがみられたが、我々の予想を五段階くらい飛び越えていく鉄壁ぶりは健在だ。もう一度述べる。ライオンパーマを観ることは自宅の次くらいに安心だ。
「ネバーダイ!」。パッと聴いた感覚だと方言である。妙訳は「ずっとずっとだい」。たしかに、このご時世、ライオンパーマの女性(※役の設定上)に対する扱い方は九州男児なところがある。けれど、「歌姫」の物語を観れば、そういう性の分担の中だからこそ輝く讃美があったってよいのだと改めて思う。みな、たくましい。
滝村千歌役の彩香はシンガーだ。何曲か生歌を披露してくれるのだが、話の流れと見事に連動している。違和感がない。ミュージカルなどでは「プツン」と途切れてしまいがちだが、なんとなく、彩香の場合は精神世界に惹きつける。
意外だったのは加藤だ。ボケない加藤にかっこよさを、凛々しいシルエットを、その目で目撃した私たちは幸運者であろう。
さて、上野ストアハウスにおける公演時の感想は移ろい巡り合う群像的な「縁の再生」だったが、今回は千歌をめぐる同時代人の「変わらぬ絆」がメインだったようだ。もちろん、通常営業のハードボイルドは影を薄め、コメディも控えめであったものの、だからこそ時折のぞくコンセプトは調和していた。おそらく、月に何回か、ふと、あの光景を遡ることだろう。笑いと感動が同居して。
※追記あり

犇犇
TAAC
駅前劇場(東京都)
2021/07/30 (金) ~ 2021/08/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
まず、久しぶりにシモキタらしい良質なストリートプレイを観ることができたことに感謝したい。細部まで技巧した空間が、「素」にはない説得力を有する。
10年以上の刑期を終え、家族の元に舞い戻ってきた加害者の「兄」を迎え入れる弟と妹の、交差せずに各々「変化」していくプロセス。しきりに配達労働の話題がのぼっているが、実は、家庭内ではなく、現代社会が影の主役というべきだ。「兄」に対する一直線ではなく、広い意味での「誰か」が関係性を決める。そして、潜んでいた、矛盾していた厚底が良くも悪くも開花するのである。だから厳密な意味での「変化」でもない。そこを部屋の一室で描き通したのが見事だった。

山姥の息子
水中散歩
シアター風姿花伝(東京都)
2021/06/23 (水) ~ 2021/06/27 (日)公演終了

超ではない能力
24/7lavo
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2021/05/13 (木) ~ 2021/05/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
フェイスガードを着用しての観劇。(湿気の関係か)序盤はクリアに表情を接することが叶わず、負担はある。しかし、「対話の妙」を構築していき、気が付かないうちにトランス状態にもっていくあたりが秀逸だと思った。
「役に立たない超能力」、拠り所のないイマドキ若者たちの笑って手に汗握る奮闘劇。

たちきり
ハコボレ
インディペンデントシアターOji(東京都)
2021/03/09 (火) ~ 2021/03/09 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
個人的な話をして申し訳ないが、落語と演劇をハイブリッドする題材を目の当たりにした初体験は高校演劇だった。小ネタで「日大タックル」が披露されていたから、あれは、2018年ごろだろうか。作者兼主演は生徒だった。かなり緊張した面持ちの青年が、落語のマクラを触媒にし、「像」へ立体化させていくのだった。海のものとも山のものともわからぬが、やはり、落語は境界線の芸術である。得体の知れなさは都合がいい。本来的な落語も、お客と共有されていた空間が、たった1秒で江戸に迷い込むことがある。そこでは噺家の意識が時の流れの境界線となっている。しかし、聴く側は、噺家を漫然と「観ている」わけではなく、ごく自然に、その意識の一部を戴いているからだ。「落語を聴いてきた」という言い回しになった。本劇団は境界線の芸術を、試行することを、本領としているのだろう。
話は脱線するが、演者を幼く感じられた。貶しているのではない。そんじゃそこらの学生劇団より若々しさを帯びており、数年前に鑑賞した高校演劇との点と点が繋がった所以である。男2人だったことも、熱量においてはこの上なく機能していたように思う。

絶対、押すなよ!
東京AZARASHI団
サンモールスタジオ(東京都)
2020/12/22 (火) ~ 2020/12/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
なんて言うか、これは許される笑いだよな。
途中、冗長に感じちまったり、今ひとつ しっくりこない種明かしはあるけどよ。まぁ、本当にこれさ、うん、笑い納めの大役を務めたぜ。バラエティー番組を観ているような気にさせるよな。けど、それがチープじゃないのよ、心から楽しめるっていうかね、うん。
オジサンたちの論争は無敵よ。

♭1~役者への道~
ThreeQuarter
JOY JOY THEATRE(東京都)
2020/10/25 (日) ~ 2020/10/25 (日)公演終了

ゲバルトローザ
獏天
Geki地下Liberty(東京都)
2020/10/29 (木) ~ 2020/11/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
学園紛争の1960年代。現代日本の視点に浸りつつ、 狂わしくも愛おしい「あのタイムカプセル」を目の当たりにする。やや誇張かもしれないが、つかこうへい以来ではないか。伝説的とも言える内容だった。
機動隊員の役が掠れ声なのだ。稽古のし過ぎで声を潰したのか、役柄なのか、今ひとつ断定しえないが、兎にも角にも熱量に感化される。
もちろん、雰囲気を重んじるあまり、台詞が聴き取れなかったのは事実だ。初心者向けの構成ではあるまい。

You'll Never Walk Alone
青春事情
ザ・スズナリ(東京都)
2020/11/26 (木) ~ 2020/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
いやはや。FC東京公認でもよいのではないか。それくらい、汎用性が高かった。実在する味の素スタジアムの観客席で応援する3組を、それぞれの物語から描いていくが、群像劇に見えなくもない。なぜか。やはり大観衆のサポーターという匿名性からだと思う。そこに色付けしていく快活さが魅力である。
観客というのは「観る」側であるが、ここでは客体ではなく主体となっている。サッカーの試合展開を感じられる臨場感は、彼らの応援やアナウンスによってものの見事に再現されている。