満足度★★★
mixiネタ
母親からの保険金2000万円を妻に騙し取られ、妻どころか人を信用しなくなった ハンドルネーム「HP600万」くんは手元に残った600万円をくだらないことばかりに使い全て使い切ったら死ぬ。とWEB上の日記にそう記した。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
彼のマイミクたちは、その日記に反応し、彼の日記に書き込む一方で彼の死を待つもの、彼の再生を願うものと分かれるが、その日記を見た一人の女性・スマイルが「私を買ってください」とのメッセージを送信したことで彼の人生が変わるのだった。スマイルを買ったHP600万はデートを繰り返しながらもいつしかお互いの心に愛情が芽生え、終盤では、信じることの大切さや、支えあうことを前面に押し出し、観客を泣かせる。
自分は孤独だと感じていたマイミク達も、誰かに支えられて生きていることに気付かされる。特に引きこもりだったもなが、自分から姉の元に寄っていく姿には落涙した。序盤から中盤にかけて、セーラームーンが登場したりして、ちょっとぐだぐだな感はあったけれど、終わってみればいいお話だった。もうちょっといらない箇所を削ぎ落としたら、もっといい舞台になったと感じる。
コメディというよりも温もりを感じた舞台だった。
満足度★★★★
江戸川乱歩「怪人と少年探偵」の世界感
この本は本当によく読んだ物語の一つだ。だから少年の格好をして登場したキャストらを観ると頬が緩んでしまう。東京のデパートの洋服売り場で、人形に扮した宝石泥棒「人形怪盗」が現れたことから始まるこの物語は、どちらかというとシリアスではなくコミカルでハイテンポなさまで始まるが、この始まりはワタクシ達を直ぐに物語の世界感に誘導する。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
小林少年率いる「少年探偵団」の団員である、井上一郎とポケット小僧は、町のはずれで顔の動かない怪しい男を目撃し、尾行しはじめるが、まんまと男の罠にはまり睡眠術をかけられてしまう。二人を助けるべく少年探偵団は中村警部を巻き込み、事件の真相に迫るのだが、中盤にセリフる「私にも少年時代がありました。あの頃の事を思い出すと、なんとも言えない妙な気分になります。それは淡い大冒険の記憶です。少年時代とはいったいいつからいつまでをいうのか解りませんが、とにかく大きな出来事の連続でした。」は、眼の前の芝居に郷愁じみた感覚があいまって、なんとも不思議な気持ちにさせられるのだ。
美しい思い出は歩んだ人生の宝物だが、観客の殆どが若い女性だったことがひじょうに惜しい。本来ならもっと高い年齢の観客に観てほしい舞台だ。そして自分にも、あのキラキラ光った美しい少年時代があったことを思い出して欲しい。世界が希望で満ち溢れていたあの頃。勇気と無謀を勘違いしていたあの頃。危険なことにワクワクしたあの頃。それらの出来事はずっと続くものだと信じていたあの頃。この淡い思いをこの舞台を観て
思い出して欲しいのだ。
「人形怪盗」のごとく怪しい人形は複数、登場する。見方によっては子供じみたように受けるかもしれない。しかし、登場人物の主役は少年だ。だから、ワタクシ達自身が少年になった気持ちで観れば、あの頃に一瞬でも戻れるのだ。
教師役の石倉良信がいい演技をしている。
満足度★★★★★
あまりにも素晴らしい!
2007年、紀伊國屋サザンシアターで好評を博した「獅子吼」の再演。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
舞台は海に囲まれた南国の島の洞窟。
洞窟の中で暮らし、洞窟を出る日を待ちわびている十数人の男女は、ある日、自分たちが死んでいる、という事実を知る。しかし彼らは死んだ記憶がなかった。私たちは、何者か?なぜ、ここにいるのか?
彼らは、かすんでゆくそれぞれの記憶を手繰り寄せながら、自分たちの過去を「芝居」として演じることで、記憶の奥、闇に包まれた真実を、解き明かしていくことを決意する。
演じながら彼らは敵の攻撃を受けて死んだ、とするも何かが違う。過去の記憶は何者かによって作為的に操作されているかのようにも感じる。そして壕の中で起こった事柄を何度も演じなおすことで彼らの記憶が鮮やかに蘇ってくるのだった。
神の国として日本全体を統合していったが為の軍人達のマインドコントロールされた独特の意識は、日本人の誇りや恥や敵に屈しない自害精神を高く掲げ個人の死など所詮意味を持たないなどと言い放つ日本帝国陸軍徳之沖島地区隊の小隊長のセリフが痛い。
一方で小隊長に対して、「自分に陶酔しているだけ。この混沌とした世界を導こうとするなら、この自分が生きて導かねばならない。」と吐くユタのセリフがズシン!と響く。
こうして彼らは記憶のピースが繋がり一つの絵画となったとき、彼らの彷徨い続けた魂を回収するかのようにその記憶も彼ら自身も消えてなくなるのだ。
素晴らしい舞台だった。導入音楽、照明、舞台衣装、演出、キャストらの欠点のない演技力。これらが一つにまとまり芸術的舞台だった。特に照明の川口の仕事が神がかり。
満足度★★★★★
「どん底」そのもの
舞台は「どん底」をモチーフに再現しており、キャストの演技力も抜群だった。 地下の傾きかけた木賃宿で暮らす貧困層の人々のその日暮らしを描いた物語。
以下はネタばれBOXにて。。
ネタバレBOX
宿主・コストゥイリョフを雁次郎、その妻ワシリーサをお万、ワシリーサの情夫ペーペルを権八、ナターシャをお花とし、日本名に置き換えているところは実に馴染みやすかった。
人生の底辺に暮らす人々の可笑しくも悲しい人間模様と、貧困という牢獄から抜け出すことを夢見ながらも、抜け出せない彼らは誰一人幸福になることがなく、どん底にいる市民たちは、歌と酒だけを娯楽に日々の生活を送っていく。
ここでは、鍵屋の女房や役者は登場しないが、他人を当てにして自らは何も行動しようとしない3人の暮らしの描写だけでも充分に可笑しみを表現していた。その悲惨な姿は悲しみを通り越し異様なほど面白いのである。
舞台セットは木賃宿の湿った不潔感や泥臭い雰囲気が見事に演出されていて、見応えのあるお芝居。また、ここの劇場は初めて来たが30~40人程度の客席で、まさに眼の前、直近で演じられる濃厚なお芝居を堪能した。是非にお勧めしたい。