公演情報
「KYOTO」の観てきた!クチコミ一覧
実演鑑賞
英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーと、難民問題など世界の対立構造に目を向けてきた芸術団体グッドチャンスによる共同製作で、2024年英国での初演作を日本で翻訳上演。1997年京都議定書の採択までの衝突を駆け引きを描く160分。7月13日までザ・スズナリ。
https://kawahira.cocolog-nifty.com/fringe/2025/07/post-9a0b72.html
実演鑑賞
満足度★★★★
ハードな脚本にも関わらず2時間35分の長丁場。理屈に理屈を重ねて人間という存在を描き出すという手法は、さすがの海外脚本という感じ。環境問題が題材だが、本題は「合意」をめぐる価値観。人はなぜ合意を求めるのか、合意するためには、あるいはさせないためにはどうするのか。政治や社会運動に限らず、サークルの運営でも、バンドや演劇のような表現活動でも、合意を巡る問題はつきないし、見ていて身につまされることが多い。物語の終盤、人々たちの姿は少し滑稽で、でも泣ける。
実演鑑賞
いつも自然破壊となると話題になるCOP3(気候変動枠組み条約第三回締結国会議)、俗に言う京都会議、日本が、世界的なようやく締結の会議場になった珍しいケースを舞台に、記録劇というか、コメディというか、国際劇というか、とにかく現実を素材にして、国際関係これでいいのかと問題にしているところは相変わらず燐光群・坂手洋二だが、今回は、原作があって・それがイギリスの台本である。今年のオリビエ賞候補だという。イギリスの戯曲・演劇賞は、種類も部門も、候補も沢山あるから、今後このネタが国際的な場でどのようなことになるか、よくフォローしておくのも、これからは何かとこういう場に素材も作る方も俎上に上がるだろうから、勉強するにはいい機会だ。
おおむね、こういう形の問題劇に日本が登場することはめずらしい。この戯曲でも日本が舞台なのに、日本の登場人物は主要な役どことではなくて、自然保護をネタに商売にしてきたアメリカの弁護士が主人公で、お題目がいいので各国の政治家が、適当に乗ったのがこの排出ガス規制法で、現状ではほぼ、空文化している。しかし、そこを武器に国際間駆け引きは出来るわけで、そこは各国ともになければ取引が進まない関税と同じで、今のトランプの横暴がまかり通らざるを得ない現状では時宜にあったいい企画と言うことになるのだろう。本来はドラマ素材ではないんだが、この経緯をネタに喜劇を作ろうと思えば、ネタに困らない。
戯曲はおおむねそのレベルで、日本人は特殊な専門家(国際的な場が主戦場)以外はこういう場所の処理の仕方は知らないから、これで笑うだろうが、これを実際に食い扶持としてやっている人たちはいるし、本格的に劇化するならそこを踏まえなければ面白くならない。ところが、軸になっているCO2ガスの存在が空を掴むような話になっているところが難しい。また登場人物も人種間、地域間というような今は差別として取り上げにくい差別を基に作っているので専門家しか面白くない。だから中国的エゴ、インド的エゴ、あるいはソ連的強情、ヨーロッパ的、あるいはアメリカ的権威主義というのもこなれていない。今までは、主人公がおおやけの幸せのため、あるいは、真実のため、あるいは出身母国のために涙ぐましい孤軍奮闘するドラマで、できあがってきた世界が民が理想を希求するのそれでは上手くなくなった現状報告の最新作である。
燐光群もやりにくくなった。面白そうなのに、六分といった感じに入りだが、公演期間が長いので、関心を持っている人はあるのだろう。だが問題解決となると、芝居がどれほどの力になるか、これは各国の文化のレベルも関わってくるからますます難しい。俳優陣も各国代表を各国人でやりきるには、藝が足りない。タモリの四カ国麻雀のような芸が要る。それは燐光群の狙いとは違うのだから見る方は、うまく出来れば面白いだろうな、ト見るしかない。
実演鑑賞
満足度★★★★
坂手氏オリジナルと思い込んでいたが翻訳物であった。燐光群の場合翻訳劇はほぼ「本邦初」であるが、本作も非常に興味深く観た。
CO2排出制限目標を出した京都議定書はそれなりに有名だが、今はSDG'sを経てさらに進んだ段階にあるとは言え、意識の面では「慣れ」に拠るものか、相対的に低くなった気がする。ネットの深化によって陰謀論やフェイク、オカルティズムも、様々な「あり得る事実」の一つ程度に光を浴び、等しく無視できるものとなる。現実を捉える感覚が変質し、玉石混淆に存在する有象無象の言説に埋もれて、平準化されると、CO2問題も一旦カッコに括り、「夏は暑い!」けれど「それはそれ」で終ってしまう。
異常気象(以前はこの語句だった気がするが今は「気候変動」?)の問題、実は産業と結びついている眉ツバな分野と自分などは疑う一人だったが、京都議定書を扱うなら脱酸素を「善」とする前提だろうと推測しつつ、温暖化とCO2の因果関係に関する研究がどう絡んで来るのか、芝居の行方を眺めた。
科学の領域の話である「温暖化とCO2の関係」については、劇中ある研究成果に言及されるが、脚光を浴びたその主張は反対勢力の巻き返しにあい、学者は地位を失墜させられる事になる。
本作で「科学的裏付け」について触れられたのはここのみであった。
が、この作品のテーマは別の所にある事が見えて来る。物語としての面白さを語りたいが(今書き始めると長大になる事間違いなし)、日を置いて書いてみる。
実演鑑賞
満足度★★★
鑑賞日2025/07/02 (水) 14:00
座席1階
エクソン・モービルなど石油メジャーが雇ったロビイスト(弁護士)の視点で描かれる、京都議定書の舞台裏。ロビイスト、ドン・パールマンを演じた円城寺あやの開幕から終演までの膨大なセリフ量には感服する。燐光群を代表する役者だが、2時間40分の独り舞台といっても過言ではない。わずかにセリフが飛んだりしたところもあったが、その熱演を汚すものではない。ただ、男性をなぜ彼女に演じさせたのか、最後まで違和感が残った。男性の俳優陣に適任はいなかったのか。
国際会議の舞台裏を垣間見せるという会話劇としては面白い。ただ、描かれた各国の駆け引きは今一つ臨場感に欠けたというのが素直な感想だ。利害が対立する多国による国際会議の場で出てくる取引材料は多彩で複雑。見せ方が難しいのは理解できるのだが。
また、京都議定書に至る地球温暖化問題の推移はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)設立から説明されるのだが、たぶん、事前の知識がないと一連の流れを理解するのはとても難しい。パンフレットの「気候変動問題の基礎知識」を一読してから、あるいは事前に調べてからスズナリに行くことをお勧めしたい。
京都議定書の最大の価値は、温室効果ガスの削減量と達成期限について締約国に法的に義務付けたところにある。劇の最終盤でこの一番大切な交渉の状況が描かれるのだが、議長の専横的ともいえる指揮で議定書採択にこぎ着けたというのは本当なのだろうか。初めて知って驚いた。
また、石油ロビーの視点で描かれると書いたが、そもそも米政府(共和党)とつながりがあるロビイストが、正式な国際会議の室内に堂々と入れるものなのだろうか。こんなこと(ロビイストが会議場で暗躍して議定書をつぶそうとする)が事実なら、会議の運営自体がかなり不公正だということになる。これも勉強不足で知らなかったのだが、COP(締約国会議)のセキュリティーは相当緩いんじゃないかと勘繰ってしまう。
もちろん、会場の外から当時はまだあまり普及していなかった高級な携帯電話でサウジなどに指示するという場面もあったのだが。ちなみに、当時の米国製携帯電話の着信音はリアルだった。
演劇として、地球温暖化の国際会議という基礎的な部分を客席に伝えなければならないところに多大な苦労があったと思うが、説明部分だけでなく、せりふも全体的にとっちらかっている印象だ。もっとクリアにしてもらわないと、客席はおいてけぼりになる。このあたりを少し簡潔明瞭にしてもらえば、2時間40分という長尺にはならなかったのではないか。
実演鑑賞
満足度★★★★★
演劇観劇から遠ざかっていたが、誘われておなじみの燐光群へ。「Kyoto」という、京都議定書にまつわるドラマだということで、難しい議題を扱っているのかと思い身構えて行ったが…。
めちゃくちゃ面白い!京都議定書が採択されるに至るまでの軌跡(それは膨大な人たちの血の滲むような努力の上に成り立った)がスリリングな人間ドラマとして描かれる。交渉に次ぐ交渉。息を呑むような各国の駆け引き。ああでも世界って、とどまってはいないよなあと思う。環境破壊が格好悪い、という「ファッション」はこの議定書作成の頃よりずいぶん定着してきた。どんな考えが古びていくのかは後になってみないとわからないし、その流れを作っていく一員に自分もいるのだ、と考えさせられた。7月13日まで。圧巻の舞台です。
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
地球温暖化を巡る国際会議、それを1990年前後からタイトルにもなっている1997年の京都会議(COP3)迄を描いた記録劇であり、主人公ドン・パールマンの記憶劇。観客は、その国際会議を傍聴するといったスタイル。事実を追った感は拭えないが、観せる演出としては巧い。
公演の面白いところは、人間は今しか生きていない、それも国や地域、アイデンティティを背負ってである。それを傍聴という俯瞰した立場から観るという面白さ。しかも、会議ごとに漂流するような議論が どこで決着するのか分からない。圧巻は、京都議定書を採択するまでの様子を分刻みの中継のように早口で喋り臨場感を煽る。
もう一つは、実証なき科学は政治の道具にされるという危険性を孕んでいること。世の中には多くの正義があり、特に国際会議では国や地域ごとの利害関係や思惑が複雑に絡み合い、理論的な正義を導き出すためには確固たる科学的な裏付けが必要になる。時に 政治的判断を求めたがるが、その曖昧さは将来に禍根を残す といったことを訴えている。
気候変動問題という人類にとって重大な課題、一方 合意に係る些細な文書の修正論争という、滑稽な様相が浮き彫りになる。観劇(傍観)者としては面白いが、未来を生きる人にとっては 堪ったものではない。多くの人は、目前の現実の中で考え行動する。公演を観たとしても、地球温暖化の問題と今の自分たちの暮らしが 具体的にどう関わるのかピンとこないところが悔しい。
(上演時間2時間40分 休憩なし)