舞台芸術まつり!2026春

エリア51

エリア51(東京都)

作品タイトル「音楽演劇『光かもしれない』

平均合計点:24.0
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴

丘田ミイ子

満足度★★★★★

オリジナル楽曲のバンド演奏と俳優の身体表現を同じ地平で立ち上げること。これが、エリア51が標榜する「音楽演劇」の形です。しかし、そこには、単なるジャンルの融合や横断だけではなく、観客が劇場という場や観劇という機会に対して抱える緊張や不安をできる限り解そうとする、演劇におけるアクセシビリティやケアへの観点が忍ばされていました。

ネタバレBOX

日本において「劇場」という場所はまだまだ多くの人にとって緊張を余儀なくされる場所であると感じます。もちろん、その緊張感も時としては濃密な劇体験の一部ではあるですが、体質や体調など様々な事情を持つ観客にとってはその数時間が喜びどころか苦痛に感じられてしまう。
そんな中で、本公演では飲食しながらの観劇やスマホでの撮影、ゆるやかな退場時間の設定や途中入退場がしやすくなるようなアナウンスと、状況や文脈が異なる他者とともに芸術や文化の喜びを体験する上での様々な工夫が凝らされていました。まるでライブやフェスに来た時のような体感で劇場での時間を過ごせること。そうした演劇公演が決して多くない中で、エリア51はこのフォーマットを追求し続けており、実際に多くの観客の方が前のめりかつ自由に楽しんでいる様子が伺えました。

物語としては、人類が「旧人類」と呼ばれるようになった未来のお話で、旧人類である主人公がかつて深い友情を築いたアンドロイドを探し、ロボットと旅に出る、というスペクタクルな宇宙冒険譚でした。そこにギター、マリンバ、ベースの生演奏とボーカルの歌声が並走していて、時には演劇が詩的なMVのように音楽の魅力を引き出し、またある時は音楽が劇伴として物語に流れる変化や予感を引き立てたりと、効果的な相互作用を生んでいました。会場はいわば、音楽と演劇を相乗りさせた一つの宇宙船。そんな風にも思えてくるパフォーマンスでした。

星を越えて紡がれる友愛を描いたこの音楽演劇は、圧倒的に異なる出自や背景や性質を持つ私たちが他者と生きていくことの困難と、それを越えた先にある喜びを伝えるものでもあったのかもしれません。同時に、アンドロイドやロボットといったAIとの共存という喫緊の社会現象を盛り込んだ劇作でもありました。そうしたメッセージを受け取るにあたって、音楽と演劇という異なる文化が同配分で混ざり合うフォーマットは理に叶うものであるとも感じました。

河野桃子

満足度★★★★

飲食OK、アルコールとおつまみあり、途中入退場OK、開場時からスタッフや来場者が談笑することもあり、席につく前からライブハウスにいる感覚に。その雰囲気のなかで、自然と演劇を観に来たという身体ではなくなっていきました。

ネタバレBOX

それは最後まで変わりませんでした。結局、途中退場する人はなくみんな客席に座ってステージを観ていて、その光景はやっぱりいわゆる観劇なのですが、なぜか身体のなかは音楽ライブのままなのです。
ミュージカルやライブ公演を模したものなど音楽×演劇の作品は数ありますが、今まで経験したどれよりも音楽ライブでした(演劇でもありました)。ミュージシャンは全員が団体メンバーだということに加え、作・音楽・演出である神保治暉さんの中に様々な文脈が並列で入っているんだろうかと想像します。

ひとりの旧人類(徐永行)は、かつて友情を結んだアンドロイド(堀春菜)と再び出会うため、ロボットY-3PO(原雄次郎)とともに長い長い宇宙の旅に出ます。3つの種それぞれの関係と、そこで繰り返される「友情」という言葉はいったい何を表すのでしょう。あまりにも長い年月が過ぎ去るなか、思いが変わらないことと変化すること、友達という価値観についてはもうすこし多層的であるといいなと感じました。その方がより多くの観客に自分事として手渡せるし、演劇性が高まるかなと。
多彩な表現の個々がストレートであるぶん、価値観に共感できないと、自分のなかで演劇よりも音楽の比重がどんどん大きくなってしまい、物語がただの筋になってしまうからです。

それらライブ性の強さもあり、今、上演することの意義が色濃い公演だと思います。台詞だけではなく、過ぎ去るスピードやリズムなどが今の世の中に流れる感覚に対してビビッドだと感じました。たとえるなら、音楽を流してなにかを飲みながらスマホのSNSアプリを同時に立ち上げまくってショート動画やタイムラインを渡り歩きながら同時進行している感じ。たまには投稿もするし、突然BeRealの通知がきたりもする。そんな心地よさがありました。
そんな身体感覚は、あと2年くらいたてば「遅いな」あるいは「速いな」になるかもしれません。それでもこの数年、社会と表現の距離感が変化していく中で、今この題材をどう扱うか、上演に対して何がリアルなのかという感度が高かったと感じました。

エリア51は「音楽演劇をより多くの方に届けていくことを目指しています」とのこと。ジャンルに縛られず、独自のムーブメントを起こす未来を期待してしまいます。

曽根千智

満足度★★★★★

音楽演劇という未到ジャンルへの挑戦

ネタバレBOX

友情×宇宙×冒険譚をテーマに据えたSF音楽演劇。演奏楽器隊が後方、演者が中央やサイドに縦横無尽に動きながら空間を再設定し続ける舞台面の使い方は、音楽ライブとも演劇ともつかず斬新。手元カメラの撮影によるオブジェクトシアターの手法や、体制批判にも躊躇のないラップシーン、メタシアターへの試行、客席の「観る姿勢」への眼差しなど、演出の手数は多く、かつそれとは別のレイヤーで音楽演奏と歌詞の情報が入るので、頭は演劇の物語を追いながら耳では曲を聴き、聴いている残響で映像を見て、映像の残像が残る中で台詞に耳を澄ませる、という体験したことがない鑑賞であった。気分に従って何に着目するかを決め、しばらく眺め、また興味の赴くままに他の対象を見つめるというシークエンスは現代美術の鑑賞にも近いように思う。客席へも「黙って座ってろ」ではなく「なぜ黙って座っているのか」と問うてくる。
エリア51独自の美学に裏打ちされた制作の工夫が随所に見られ、それが本作のテーマでもある「一緒にいたい」という気持ちと連動しており、成し遂げたいことが何なのかがクリアに伝わってきた。エリア51はコレクティブの形をとっており、これだけの人数を集めてイメージを共有し一緒に作り上げた、集団としての創造性の高さは素晴らしい。一方、演技体はやや単調で、特に後半に向かって一直線に高まっていく構成上の問題から、観客の想像力を蓄えるだけの間を作りきれていなかった印象がある。

深沢祐一

満足度★★★

「音楽と映像で彩られた宇宙旅行」

 スペース・オペラを音楽の生演奏や映像を交えて描いた作品である。

ネタバレBOX

 人類が電力など生活インフラを生産するための家畜のような扱われ方をされ「旧人類」と呼ばれるようになってしまった遠い未来、旧人類の主人公(徐永行)は、かつて地球でアンドロイド(堀春菜)と友情を育む。しかし旧人類とアンドロイドは敵対関係にあった。自身の記憶を外部装置に移したアンドロイドを探しもとに戻すべく、主人公は自作したロボットのY-3PO(原雄次郎)とともに旅に出る。道中では、主人公が会いたがっているアンドロイドとよく似たウェイトレス(堀春菜・二役)が加わる。高度に技術が発達した未来では、肉体と記憶を引き継ぎ生き続けることができるようになっていた。ようやく2001年目に目的の星に到着したが……

 映画「ブレードランナー」のような世界観を想起させる本作は、前提としている設定がなかなかに入り組んでいるため、作品に没入するには相応の時間がかかってしまったことが残念である。またボーカル入りの生演奏に負けないためか、俳優三名の芝居が上演会場の空間にそぐわない過剰さであったため、細かな台詞のニュアンスが聞き取りづらかった点も惜しい。

 ジャズテイストものからラップ、竹内まりやの「プラスティック・ラヴ」のカバーなど演奏家たち(ボーカル:鈴木美結、ギター:神保治暉、マリンバ:中野志保、ベース:廣戸彰彦)による生演奏は聴き応えがあり、進行に合わせた映像を舞台奥に投射するなどの工夫が光った。特に主人公がアンドロイドとともにスパゲッティを食べた思い出を回想するくだりの静けさ、ほろ苦い甘さが印象的である。他方で主人公の行動が宇宙検閲なる人物に管理される場面では、その検閲官がただ台本を読んでいるように見え残念に思った。

松岡大貴

満足度★★★

You can't fake the groove

ネタバレBOX

高度に発達したテクノロジーによって人間の存在価値が変容した世界で、相棒のロボットを伴い果てしない旅を続ける姿を描いた本作。一見すると既視感のあるスペースオペラでありながら、言葉や音楽、映像が独立せず一体となって生み出す圧倒的な「グルーヴ」というべき推進力が、作品を貫いていました。その劇的構造が、客席で静観していることすら不自然に思わせる高揚感を伴って、世界の不穏さや記憶の切実さを浮かび上がらせていたように思います。

音楽演劇という構え方が、図らずも演劇が音楽を包括しうるという部分と、音楽は演劇の中においても独立しうるという部分を両方示せているのは興味深い点でした。同時に、ここで指す演劇とは何か、問いたくなる作品でもありました。

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