舞台芸術まつり!2026春

やみ・あがりシアター

やみ・あがりシアター(東京都)

作品タイトル「ベガスペガサス

平均合計点:23.4
丘田ミイ子
河野桃子
曽根千智
深沢祐一
松岡大貴

丘田ミイ子

満足度★★★★

書いて字の如くペガサスホールにラスベガスを召喚し、さらに劇中にペガサスも出すという抜かりのなさ。会場だけでなく、北とぴあの建物、もっと言えば東京都北区そのものも巻き込んでの劇作も没入感を手伝い、劇場、いや、会場を大いに盛り上げていました。

ネタバレBOX

タイトルに始まり、舞台セット、シークレットゲストに、マルチエンディングと、まさにギャンブルの如く観客の射幸心を煽りに煽るエンタメ力抜群のステージ。勝つか負けるか。当たりか外れか。回さなくては勝てるかわからない数字と観てみなくては当たるかわからない演劇。「ギャンブル」というテーマが演劇の内外を横断し、どこを切っても薄まることなく貫通しており、清々しい観劇でした。

物語として興味深かったのが、カジノの客を盛り上げるためにうだつの上がらなかった劇団が利用され、イマーシブシアターとしてカジノ向けの劇作と芝居を依頼される、という設定。劇場の中に劇場、演劇の中に演劇という入れ子構造になっており、観客もまた一人の当事者として世界観にグッと引き込まれるような力強いストーリーでした。
大所帯の群像劇ながら、ペアやコンビがきっちり整理され、全員の個性が等しく輝く配役とそれを余すことなく体現するキャスト陣には毎度ながら脱帽です。

もう一つ特筆すべきは、音楽。一度聴いたらたちまち耳から離れない楽曲(小山優梨)に合わせて、自らもルーレットに扮しながら数字を回す俳優たち(=数字に振り回される登場人物たち)の姿が鮮烈で、音楽の力強さが支柱となって観劇の記憶を色濃く彩っていました。スタッフ賞が存在するならば、私は小山さんを推薦したい。そんな風に思いました。

欲を言えば、もう少しドラマ部分が見たかった気もしました。中でも、カジノによって生活が一変してしまった夫婦の姿は物語の主軸でもあるのですが、シンパシーやエンパシーを抱くには展開が速く、ドラマへの没入には及ばなかった感触がありました。とはいえ、押し並べて俳優の表現力が高く、どのキャラもそれぞれスピンオフができそうな味わいがあるので、「もっと見たかった」という感触はそれはそれで正解のような気もしています。

河野桃子

満足度★★★★

いまだに耳からとれないです「べーガス、ペガサス!」の歌。何度も繰り返し聞かされたのに、もう聞きたくないやとならずに、なんなら陽気に口ずさんでいて、たぶん私もあのカジノに囚われてしまっているんでしょうね…

ネタバレBOX

シンプルな舞台ながら、ルーレットをまわす時に開かれる布とゴールドの球のインパクトたるや。焦点を絞った舞台美術によってこの作品に通された一本の線が、天井から床に突き立っていました。こんなにも美術の力が強いのに、けして作品を食わずに芯を通している。もしCoRich舞台芸術まつり!にスタッフ賞があるならこの美術に送りたいです。

北区のペガサスホールを舞台に、イマーシブシアターとはなにかという問いかけとともに、カジノをテーマに人間の欲望や幸福に切り込んでいく充実のエンターテイメント戯曲。そもそも北区の王子には劇場の所在や取り組みをベースにした演劇や劇団や観客の繋がりがあり、多くの観客の反応からも(※客席に挙手や発言を促すシーンがある)、やみ・あがりシアターを何度も観ている、王子によく観劇に来る、という人の多さが伺えました。そのうえでの物語や、日替わりゲストの設定や紹介の仕方など、「どこで」「だれに」観せるかという土台のしっかりとある公演でした。

15人もの登場人物のそれぞれに葛藤があり、変化がある。演じるどの俳優も個性的で、作品において対等でした。今回の観劇で心惹かれて、過去の出演歴や今後の予定を調べてしまった俳優が何名もいました。全員大切ゆえに全員分の背景を描くことで、すこし中だるみしたきらいもありましたが、全体の印象として好ましく、まるでルーレットに並ぶ数字のように誰もが輝いて見えました。

この人数の座組と上演形態を実現する力と積み重ねに対する敬意でいっぱいです。楽しかった!

曽根千智

満足度★★★★★

射幸心という人間の幸せ

ネタバレBOX

カジノと射幸心をめぐる群像劇。オンラインカジノの依存問題が明るみになり、NISAが登場し「資産を増やす」という行為の延長上にギャンブルがあるように思えてくる現代社会の構造をうまく切り出していた。人間は未だ自らの射幸心との付き合い方を十分にはわかっておらず、カジノが日本にできた際の影響は誰にも推し量ることができない(のに開発を急いでいるのである)。一方で、ギャンブルがどうしてダメなのだろうと考えると、社会体制の維持を脅かすから以外の理由が特にないのではないか。ギャンブルの射幸心は確かに人間の(神経学的な)幸せの一部を成すもので、それを国家にとりあげられているとも言えるのだ。
2時間の上演時間ながら長さを感じさせない構成の妙と空間の作り込みが素晴らしい。妙にリアリティのある夫婦の会話もあれば、急にペガサスが下半身と分離させられるなど、作品内のフィクションラインが大きく揺れ動くのが、細やかに作られた美術の中で際立ち冴えていた。俳優の演技も細やかで、出演人数が多いにも関わらずシーンごとに個性が鮮やかに見えた。
ラストシーン、熱気の中でカジノを取り巻く欲望は自己増殖し収拾がつかなくなるのだが、結末は寓話的な類型に見え、尻すぼみを感じた。熱量を維持したまま、もっとぶっ飛んだ結末を見てみたいと思ってしまった。

深沢祐一

満足度★★★★

「賭場の熱狂に湧く群像劇」

ネタバレBOX

 大阪の夢洲でカジノが建設された数年後の近未来、東京都北区の複合文化施設で本公演の上演会場である「北とぴあ」にもカジノができることになった。観客参加型演劇である「イマーシブシアター」の座付き作家である牧師シックスティーン(カトウクリス)は、新しくできるカジノの顧客に参加させる芝居を書き進めていく。夢洲からやってきたマーケター(小嶋直子)の指導もあり、カジノの役者たち(さんなぎ、二宮正晃、田久保柚香、林瑠之介)の芝居、いわば場を盛り上げるディーラーとしての仕事ぶりが日に日に向上していく。

 カジノができたことで北区の住民たちの生活にはさまざまな変化が生じる。育ち盛りの子どもを抱えるある家庭では、夫(薮田凜)が妻(加藤睦望)に呆れられるも、NISAの積立金の半分をルーレットに賭け、没頭するあまりカジノに入り浸ってしまう。妻に泣きつかれた警察官(河村凌)が中に入ろうにも、ディーラーたちに言葉巧みに言いくるめられる始末である。上司から預かった50万円をガールフレンド(安藤優)に預けたまま失くした若者(中川大喜)は、兄(北原州真)から金を借りカジノで取り戻すことに躍起になる。定職に就かない女性(久保瑠衣香)は、道端に落ちていたその50万を元手に、学生時代花札で鍛えた才覚を活かし着実に儲けを増やしていく。儲けるたびに「むなしいなぁ」と叫ぶ男(東直輝)に嬌声をあげる港区女子(久遠明日美)や、カジノの役者の一人のおっかけの女(五十里直子)も巻き込み、終わりの見えない賭場の熱狂は加速するばかりである。

 昨今争点にあがるカジノ建設にイマーシブシアターを掛け合わせた本作は、作者が腕によりをかけた台詞を出演者が活かした秀逸な群像劇である。金の流れがひとを変え、それによって浮かび上がる因縁によって身ぐるみ剥がされていく様は、さながら黙阿弥劇に通じる生々しい感覚であった。賭博のやりすぎで酸欠状態で床を這いながらも賭け続けているあたりまで観続けているうち、ドストエフスキーの『賭博者』を読んだときに抱いた身を滅ぼす興奮を想起した。

 いっぱい飾りながら三箇所に出入り口を設けあるときはカジノに、あるときは夫婦の部屋にとスムーズな転換を実現したことで、空間が実に広々と感じられた。三方を客席で囲んだ舞台を緑色のテーブルに見立て、真ん中に立てた棒を軸に布状に設えた赤黒の回転盤を出演者皆で持ち、「べーガス ペガサス」と呪文のように唱えながらルーレットを廻し続ける様は群舞のような迫力である。群像劇の書き分けと各登場人物の造形、伏線の張り方もよく考えられていたが、終盤ではそこまで盛り上がらずカジノの撤退とともにもとの生活に戻っただけなのはやや物足りないと感じた。

松岡大貴

満足度★★★★

運命のルーレットを廻して

ネタバレBOX

近未来の公共施設に突如として出現したギャンブル場。その特異な空間を舞台に、観客を巻き込む体験型演劇の形式で紡がれる本作は、現実のリアルな議論とフィクションの境界を巧妙に融解させていました。欲望の渦に呑み込まれ、金の流れに翻弄されていく人々の因縁が、伝統的な群像劇に通じる生々しさをもって浮かび上がっていく。その構造自体が、人間の底知れない執着や、狂騒の持つ不穏さを鮮烈に描き出していたように思います。

あれだけの群像劇にも関わらず、登場人物の造形はそれぞれ豊かで、自ずと演じる役者の皆さんも魅力的に見えました。ルーレットを登場人物みんなで回す演出や美術、今でもベガスペガサスと耳に残る音楽や音響など、スタッフワークも高い水準を感じました。実際の会場(北とぴあ)を前提とした作劇や設定も、プロデュースとディレクションが一体となった評価できるポイントだと思います。

社会性も感じさせるエンターテイメント作品として、とても楽しく観劇することができました。

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