ウエア
小野彩加 中澤陽 スペースノットブランク(東京都)
公演に携わっているメンバー:10人
- 【団体紹介】
- 小野彩加と中澤陽が舞台芸術を制作するコレクティブとして2012年に設立。舞台芸術の既成概念に捉われず新しい表現思考や制作手法を開発しながら舞台芸術の在り方と価値を探究している。環境や人との関わり合いと自然なコミュニケーションを基に作品は形成され、作品ごとに異なるアーティストとのコラボレーションを積極的に行なっている。京都芸術センターとロームシアター京都が協働して行なうKIPPUの2020年度上演団体に選出されるなど活動の場を拡大している。2019年3月『言葉だけでは満ちたりぬ舞台』では一般公募による参加者との共同制作を行ない、2019年10月『ささやかなさ』では劇作家・松原俊太郎との協働によりはじめて戯曲を用いた制作を行なうなど、近年は自らの作品と活動を多元的に取り扱い、新しい価値を観客たちと共有するための出入口をいくつか準備している。
- 【応募公演への意気込み】
- 小野彩加と中澤陽の二人組として活動しているスペースノットブランクが一過するコラボレーションとは異なるコレクティブを形成し企画された『ウエア』では、出演者と演出者の純粋なコミュニケーションによる舞台を制作してきたノウハウを活かしてコミュニケーションの枠を拡張します。原作に池田亮、音楽に額田大志、舞台監督に河井朗、音響と照明に櫻内憧海、保存記録と当日運営に植村朔也、出演者たちに荒木知佳、櫻井麻樹、瀧腰教寛、深澤しほを迎え、ドラマをよりドラマに、カオスをよりカオスに進化させることを目指します。
作品の外殻
集団に於けるそれぞれの「役割」とは何か。そもそも「役割」とは何か。を考え、混ざり合う部分は混ざり合い、混ざり合わない部分は混ざり合わないままに制作を行ない、作品に対してそれぞれの参加者の有効射程距離を見極めて複合することを目指します。「個と全体」というテーマに目新しさはありませんが、それぞれの観客が新しい価値の出入口を見つけるためのガイドとして活用します。
作品の内容
「主体の不在」をテーマとして、外殻をそのまま内容に反映するようにひとつの物語とキャラクターを複数の人間と空間によって表します。役を着る時、実存する本人たちはどこへ消えるのか、消えないのか。そもそも存在するのか。主体として現れる「メグハギ」という存在を中心に登場人物たち、出演者たち、観客たちをも巻き込む冒険記を描きます。
これらを起点として、出入口と中身が空中分解しそうになるけどしないギリギリの境界を探究し制作を進めます。
- 【将来のビジョン】
- 「観客たちと共有する作品と市場と劇場へのいくつかの出入口」のための4つの思索
①作品と批評の連携が生む出入口
舞台に関する外殻の情報はインターネットを介して知ることができますが、個人と作品が直接繋がるためには会場(劇場)に足を踏み入れる以外の手段がありません。少しでも出入口を広くするため、スペースノットブランクの変遷と作品に批評を連携し、ひとつの作品とその会場で起きるエコーチェンバーを開放し、観客たちに向けることを目指します。『ウエア』から保存記録として参加いただく大学生の植村朔也さんは、これからの作品のイントロダクションを担います。作品の事前と事後を繋ぐ存在として、観客たちにスペースノットブランクの変化する価値をガイドします。
②制作と研究の連続が生む出入口
制作は上演というゴール、締切に向かってはじまります。制作した作品を稽古することで観客に提供することのできるクオリティが生まれます。制作に必要な手札を増やすための制作以前の時間=研究、勉強、休暇、リサーチなどについて検討しています。作品が「企画としてのおもしろさ」だけでなく「保証されたクオリティ」を保ち「新しい舞台芸術の価値基準の産出」や「プレイヤーの性能向上」に繋げることを目指します。
*レパートリーとして上演できる作品を多く制作し、他方さらなる新作への研究を進めます。
*上演に向けての制作(創作)だけではなく、あらゆる作品に応用できるプレイヤーの性能を向上させるために俳優、ダンサー、パフォーマーとリサーチ(トレーニング)の時間を設けます。
*ドラマトゥルギーを基に舞台芸術、美術史や現代美術を学び、これからの舞台芸術を探究します。
それぞれが新しい創作技術や手法の開発に繋がり、観客たちへ新しい舞台の可能性を提供します。
③新作(初演)と改作(再演)の交互が生む出入口
スペースノットブランクは恒常的に新作を制作すると同時に、既存の作品を都度改作して上演を繰り返しています(単なる再演ではなくオリジナルの上位互換としての上演を試みています)。例えば2019年1月から作り続けている「舞台芸術以前のダンスを探究」する『フィジカル・カタルシス』は、2019年1月、3月、5月、12月とすでに4回の上演を行なっており、2020年8月には京都と東京でその最新形態を上演する予定です(その際にこれまでの制作や上演のメイキングをウェブに掲載予定です)。ひとつの作品をレパートリー的に確立すること、また同テーマに取り組み続けることで、舞台芸術と社会の変遷を汲み取り、観客は継続して作品を追いかけることも、既出の情報を頼りに都度足を踏み入れることもできます。その他にも、2017年7月、2018年4月、5月に上演した『ラブ・ダイアローグ・ナウ』を国内外各地で上演するための準備を行ない、2018年2月に上演した『緑のカラー』の「新しいシーンを作る」という目的で追加制作を行ない、2018年9月から2019年6月にかけて上演した「舞台三部作」と呼ばれる3作品は2021年以降に3作品を同時上演する試みなどを企画しています。「顧客が新作を楽しみにできる」出入口の他に「新しい観客が既出の情報を頼り(ガイド)にできる」出入口を生むことを目指します。
④移動が生む出入口
2020年、スペースノットブランクははじめての京都公演を行ないます。2018年に高松でのレジデンスと発表を行なった後、2019年は再び高松で自主的に新作を上演、さらにダンスレジデンスとして豊橋へ行くことができました。自主在外研修としてベルギーでもリサーチを行ないました。今後より一層さまざまな場所へ自ら出向き、新しい場所の皆様に作品を見ていただくことでこれまで気が付くことのなかった価値を吸収し、それぞれの場所に還元していくことを目指します。2019年10月の高松公演では東京公演よりも高校生や大学生が多く見に来ていただけたことが印象的でした。豊橋ではダンス作品はまだまだ観客が入り難いなどの問題もあるようでした。継続して同じ場所に出向き、上演やワークショップを行なうこと、その場所で作品を作ることで、その場所で生まれた価値を他の場所でも活用するために移動し続けます。場所を問わないインターネットでもコンテンツをさらに増やし、異なる場所の観客たちが繋がる場として確立することを目指します。