オパンポン創造社

写真左から:野村有志、一瀬尚代、川添公二、美香本響、伊藤駿九郎、殿村ゆたか

 CoRich舞台芸術まつり!2018春・グランプリ受賞作のオパンポン創造社『さようなら』が、こりっちスポンサード公演として2019年4/11(木)~14(日)HEP HALL(大阪・梅田)、4/18(木)~21(日)シアターKASSAI(東京・池袋)にて再演されます。

特設ページ 
グランプリ受賞ページ 
審査員クチコミ評

 主宰の野村有志さんをはじめ、出演者の皆様(一瀬尚代さん、川添公二さん、美香本響さん、伊藤駿九郎さん、殿村ゆたかさん)に大阪の稽古場でお話を伺いました。

インタビュアー

 「CoRich舞台芸術まつり!2018春」グランプリ受賞おめでとうございます! 受賞して何か変化はありましたか?

 
 

 結構「おめでとうございます」って言ってもらえました。関西だけではなく全国的に認めていただけたってことで。次もちゃんと面白いものが作れるかな…という不安はあるけど、いいことばかりですね。僕の一人ユニットのオパンポン創造社(以下、オパンポンと省略)の公演を、HEP HALL(大阪の中心地・梅田にある劇場。以下、HEPと省略)で上演しようと思えたのも、グランプリを獲れたからですし。

野村さん
インタビュアー

 100万円の支援があったからですか?

 
 

 そうですね、100万円もものすごく大きいけど、グランプリを獲る作品ができて、面白いと胸張って言えるから。再演できるのは認めていただいてるからです。

野村さん
 

 6月に受賞が決まって、その月の間には全員一致で「再演はHEPでやろう」ってことになったと思う。せっかく賞を獲ったんだからバーンと格上げした方がいい。演劇好きじゃない人も、HEP HALLなら「ああ、あそこ知ってる」となる。それが一番大きいと思う。京都からも来やすいし。今まで観なかった人も観てくれるような気がしまして。ステップアップするために素晴らしいことだと思ってます。

殿村さん
 

 ほんと、いいことしかないですね。大阪の後で東京のシアターKASSAIでも公演ができるのは、グランプリを獲れたから。東京の上演で獲らせていただいたので、東京公演は外せないです。

野村さん
 

 前回グランプリの仙台の劇団 短距離男道ミサイル(以下、ミサイル)のスポンサード公演(『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ(略)』)も、東京の北千住Buoyでやってたでしょ。『さようなら』の東京公演はちょうど同じ時期で、丸被りだったんです。ミサイルの澤野(正樹)くんも本田(椋)くんも知り合いなので、SNSで「一緒にがんばりましょう」って言い合ってました。

殿村さん
稽古場風景 写真1
 

 受賞して意識レベルがちょっと変わりましたね。役者って承認欲求が強いというか、認めてもらいたい。だからグランプリを獲ったのはすごく嬉しくて。自分はまだお芝居を続けててもいいんだなという気持ちが芽生えて、強くなりました。

川添さん
 

 受賞は…びっくりしました。演技賞もありがとうございました。演劇人生で一番嬉しかったかな…本当に。「おめでとう」は人生で一番、言われました。お芝居続けてて良かったなと思いました。
 『さようなら』は自分の出演を差し引いてもすごく面白い作品だと思ってます。大阪でも「また絶対行くから」っていう声が非常に多くて。「演劇を観たことない人も連れてくから」という声も結構いただいてます。そんな作品に出させてもらって、ありがたいな。主宰のおかげですね。しかもHEP HALLだなんて!

美香本さん
 

 東京公演で受賞して、それを大阪のみんながあんなに「おめでとう」って言ってくれて。それだけ関心度が高いんだなってすごく感じました。こりっちの浸透度、知名度というか、「あ、演劇やってる人はみんな、めっちゃ、こりっちチェックしてる!」って。
 大阪の団体が獲ったことを関西のみんなが「オパンポンが獲った! やったな! がんばったな!」って喜んでくれた。ひとつになった感覚がありましたね。東京の団体が獲ると「やっぱり東京だよね…」っていう劣等感があったりして。

一瀬さん
 

 カテゴリーとして別に考えちゃいますよね、東京の団体と大阪の団体って。

野村さん
 

 大阪のオパンポンが獲ったことが、関西でがんばってるみんなの勇気になった…とすごく感じました。

一瀬さん
インタビュアー

 そのような反響をいただけて、主催者としても、とても嬉しいです!

 
 

 2年前の『さようなら』を観たお客さんからは「正直ちょっとナメてたけど、めっちゃ面白かった」という感想とか、いい評価しかなかったんです。だから僕はグランプリを獲れそうな気が、ちょっとしてたんですよね。そしたらグランプリも獲ったし、響さんが演技賞も獲られて。自分のメンタル的にいい波が来てる気がしました。大阪の人がみんな喜んでくれてるのも嬉しかったですし。
 大阪にこれだけ面白い作品があるんだぞって知らしめていただいて、梅田のド真ん中にあるHEPでドーンとやる。2年前の倍以上の人に観てもらえるはずなので、「舞台も面白いよ!」ってことを広められる、いい機会だと思います。

伊藤さん
稽古場風景 写真2
 

 「CoRich舞台芸術まつり!」は審査の対象になった作品の評価が載りますよね。ああ、(審査員は)ちゃんとシビアなこと言ってるし、ちゃんと見てくれるなら、もしかしたらオパンポンでも獲れるかなって思いがあった。無名でも取り上げてくれるんだな、と。

殿村さん
 

 「これ、ガチ(真剣勝負)のコンクールだったんだ」と思いました。本当にガチだったのかと。

野村さん
インタビュアー

 マジの、ガチですよ!

 
 

 ガチだからこそ、獲れたのがすごい嬉しかったです。

伊藤さん
 

 僕、勝負ごとが好きで、演劇祭が好き。何か燃えられるものがあれば、がんばれますから。絶対獲れるって口癖のように言ってた気がします。たぶんオパンポン以外の団体もそうだったと思うんですけど。

野村さん
インタビュアー

 『さようなら』は東京公演が今催事の審査対象でした。東京で公演をすることになった経緯を教えていただけますか?

 
 

 ここ3年、大阪のin→dependent theatre 1stという劇場で毎週火曜日に、“火曜日のゲキジョウ”が主催する『30GP(サーティーグランプリ)』という、「関西に平日観劇の文化を創ろう!」という趣旨のイベントが開かれてるんです。年間約100団体から8組が選ばれて、30分の短編で競い合います。それで優勝できて、副賞が劇場費無料だったので、2017年3月に『さようなら』を再演しました。14、5年前の初演は合計数十人しか観てないんですよ。舞台上に役者が6人いるのに、客席には3人しかいないみたいな上演で(笑)。

野村さん
インタビュアー

 それは…過酷ですね……。

 
 

 ええ、お客さんのほうが緊張するぐらい(笑)。初めて東京に行った時も、お客さんは全部で9人とかじゃなかったかな…。東京に50万円持って行って、無くなって帰ってきた、みたいな。

野村さん
 

 東京に一緒に行ったスタッフさんが「野村くん、どうしてギャラくれるの?」って聞いてたよね(笑)。

殿村さん
 

 東京で別の演劇祭に出たら、そこでまた優勝できたんです。14年前は数十人しか観てなかったけど、今、上演したら数百人に面白いって言ってもらえた『さようなら』を、東京でもやってみようと思った。そこで観劇三昧の方が「その時期は「CoRich舞台芸術まつり!」やってるよ」と教えてくれたんです。これ、もしかしたら行けるかな、と。自分は井の中の蛙なので評価もしてもらいたいし、こんな機会はないと思って応募してみたら、なんと…

野村さん
インタビュアー

 グランプリを獲得!

 
 

 日本一ですよ(笑)。3年前から出る演劇祭、出る演劇祭に、ただただ熱意で打ち込めば結果が伴っていってて。ここ数年で、たった数十人だったお客さんが数百人に増えて。非常にありがたく思ってます。

野村さん
稽古場風景 写真3
 

 僕は『さようなら』の前からオパンポンに出させてもらってて。話(台本)がめっちゃ面白いなと。あと、野村くんの芝居に対する真摯な姿勢は偉くて。僕はいい加減な人間なんで、めっちゃ怒られたりして(笑)。そこも向き合って、ちゃんとやってみようと思ってます。

殿村さん
 

 真摯に付き合ってくださってます。

野村さん
 

 野村さんの演出って独特のテンポというか、スピード感が魅力だと思ってて、やってて楽しいんです。野村さんの『アカガミキタカラ、ヨマズニタベタ』という30分程度の悲喜劇に出演した時も、『さようなら』以上にテンポの早いセリフの応酬で。スピード感も好きですし、俳優としての野村さんの個性、キャラクターがすごい好きです。野村さんの演技はスピード感だけじゃなく独特の緩急があって。あと声がすごくイイ。

伊藤さん
 

 おわ〜、めっちゃ優しい! ありがとう。嬉しい。

野村さん
 

 人間の可愛らしさ、いとおしい部分、劣等感や嫌なところ…そういう人間の本質を描こうとすると、下手すると綺麗ごとになったり青臭い感じになる。恥ずかしくて見ていられなくて、避けてしまいそうになる。野村さんはそこを正直に、ストレートに突っ込んでいって作品にしている印象があるんです。一人の人間として、人間を描いている。
 だから私自身が隠していた自分の劣等感や、人間臭さを出して、作品と向き合っていかないと。

一瀬さん
 

 バランスが難しいんですよね。

野村さん
 

 「私はこう生きている」っていうのを、野村さんの作品に乗せるというか。自分がマイナスだと思っていたものがプラスになる、活かせる場なんだと、やってて感じます。私は劇中で不細工と言われる“末田さん”を演じますけど、彼女に対しても「大丈夫、大丈夫だよ(あなたはそのままでいいよ)」って心の中で話しかけてます。

一瀬さん
 

 私、野村くんと知り合って20年近くになるんです。ある時、久々に彼のお芝居を観に行ったら、なんて面白い本を書くようになったんだと驚いて。

美香本さん
 

 2012年の『オパンポンナイト・セレクション』でしたっけ。4つの短編が最終的に繋がるオムニバスです。

野村さん
 

 演出もいいんですけど、脚本が毎回、面白いんです。「本、書いてよ」ってお願いして、2年ぐらい経って書いてもらった二人芝居もむちゃくちゃ面白くて。野村くんも出場した火曜日のゲキジョウ主催「【30GP】サーティー・グランプリ」に私もその二人芝居で参加したんです。そしたら野村くんが優勝、私が準優勝。野村くんは作・演出として優勝と準優勝の両方を獲ったんですよね。
 『さようなら』は14年前に書いたとは思えなくて。20代半ばで書いたなんて、本人を目の前にしてあまり言いたくないんですけど…天才って思った。

美香本さん
 

 ああもう、どんどん言って!(笑)

野村さん
 

 演出も、役者としても、間(ま)がうまい。演出で言われたとおりにすると、絶対に笑いが起きるんですよ。舞台上で実感しています。年下だけどすごいなぁと思ってて。
 おかげさまで私は関西で知名度が上がったんですけど、オパンポン創造社・野村有志の人気も出てくれたら嬉しいし、その作品に出演していることも自分の誇りになると思います。

美香本さん
 

 「オパンポンが獲ったの?意外だね」じゃなくて「オパンポンだもんね、そりゃ獲るわ」「野村さんだもん」「野村くんがやっと獲ったんだ」みたいな、みんなが認めてる感ある。

一瀬さん
インタビュアー

 野村さん、凄いじゃないですか!

 
 

 えー…実感ないですけどね……(一同、笑う)。「ようやく獲れたね」とは同年代の方に言ってもらえてます。

野村さん
稽古場風景 写真4
 

 芸能事務所を辞めて仕事がない。お芝居したいけどどうしたらいいんだろ、あ、自分で作ればいいんだと思って始めたんです。
 森ノ宮プラネットホールという、防音幕(カーテン)で閉めるだけのパブリックスペースがあったんですね(※2009年閉館)。本番の日でも1日9千円で借りられる、むちゃくちゃ安い劇場が。そこで3ヶ月に1回、本公演をやり続けたんです。まあ暇だったんで(笑)。『さようなら』はその時期に書きました。完全に「変わりたい」と思ったんでしょうね(笑)。ここから抜け出したいと。

野村さん
インタビュアー

 その時の作品が報われたわけですね。

 
 

 一人で演劇を始めてからずっと一人ユニットでやってきて、「俺が売れてないのは面白くないからじゃない、知られてないだけだ」ということだけを保険に、心に秘めてやってきて、今回、認めていただけた。もちろん(この場にいる)皆さんがいてこその自分なんですけどね。
 熱意さえありゃなんでもできるので、みんな、やりたい人は気軽に、自分で(演劇を)始めていただいて、関西小劇場はじめ、演劇が盛り上がっていけばなと。そのきっかけになれたらいいな…なんて、カッコつけましたが、そう思ってます。

野村さん
インタビュアー

 では、お客様へのメッセージをお願いします。

 
 

 問題の具体的な解決策が見えるわけではないけど、シンプルに「がんばって生きていこう」「ちょっと一歩踏み出してみよう」と思えるポジティブな作品です。観たら何かいい効果が出ると思うので、ぜひ!

伊藤さん
 

 何よ、いい効果って。健康食品か(笑)。

野村さん
 

 僕が演じる“チェン”という役は人間離れした速度が求められるので、反射神経を鍛える日々です。そうだ、役のこと全然言ってなかった。あの…嫌いにならないでください(笑)。そうならないように、ちょっと愛すべき変態でいたいと思います。

伊藤さん
 

 東京で観た人が、東京は地方出身者が多いから余計に響くんじゃないかと言ってました。大阪もそうなので、地方の人が抱えてる「私も外に行きたい」という気持ちへの共感はあると思う。
 僕の使命は「こんな嫌な奴いるよね」っていうのを見せること。僕、いい人なんですよ?(笑) いい人なんですけど、とにかく嫌な奴に徹してみようと思ってます。共演してる一瀬さんに嫌われるぐらいに。

川添さん
 

 お芝居ってこんなに面白いんだって思ってもらえる作品だと思います。ふわーって気軽に来て観てみたら、「おお!(凄い!面白い!)」ってなるような。上演時間も90分で、そんなに腰もお尻も痛くならないですから、お芝居を観たことない方もぜひぜひ足をお運びいただければ…泣いて喜びます!

一瀬さん
 

 若くても年取っても、変わりたいと思う気持ちってあると思うんですよ。若い人にはその希望があってほしいし、年取った人には励みになればいいなと思う。変わることも、変わらないことも受け入れられるような作品になればいいですね。
 再演はワクワクするけど、演技賞をいただいてハードル上がってるとも思ってて。変な気負いを持たずに、丁寧にお芝居できたらなと思っています。

美香本さん
 

 大阪公演はHEP HALLですので、一本入ってなかった僕の歯が金歯になります…嘘です(笑)。一度観た人は劇場が変わることでどうなるかを観てほしいと思います。東京公演も劇場が池袋で、都心に近くなりますよ。観てない人はぜひ観に来てください。

殿村さん
 

 この作品をもう1度できる機会を与えていただきました。一瀬さん演じる主役の“末田さん”の主観で進むのではなく、僕が演じる“柴田”の視点から俯瞰する構造で、バランスよく観られるお芝居だと思います。映像寄りの構成でもあって、演劇を知らない方にも楽しんでもらえる素敵な作品になってるんじゃないかと。みなさんに面白いと言ってもらえた上での再演なので、自信を持ってお薦めできます!

野村さん
インタビュアー

 野村さんは「一念岩をも通す」「継続は力なり」といった慣用句を、自ら体現して来られたんですね。
 稽古場に伺って、出演者の皆さんの信頼関係と関西演劇人ならではの温かみのある意思疎通を直に感じ取って、『さようなら』という舞台は生まれるべくして生まれたのだなと思いました。初日が本当に楽しみです!

 

インタビュー実施日:2019年3月1日 スタジオクーカイにて 取材・文・撮影:高野しのぶ ※文中敬称略

このページのQRコードです。

拡大