カンパニーデラシネラ

写真左から:澤野正樹、本田椋、小濱昭博、加藤隆

 CoRich舞台芸術まつり!2017春・グランプリ受賞作の劇団 短距離男道ミサイル『母さん、たぶん俺ら、人間失格だわ~祝「CoRich舞台芸術まつり!2017春」グランプリ獲得☆汗と涙と感謝の東京公演♨ (首都高怖いゼ・・・)いいか、お前ら事故るなよ、ぜったい事故るなよ!!編~』(以下、『人間失格』)が、こりっちスポンサード公演として2018年4/19(木)~22(日)北千住BUoY4/27(金)~28(土)せんだい演劇工房 10-BOXにて再演されます。

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審査員クチコミ評

 劇団員の澤野正樹さん、本田椋さん、小濱昭博さん、加藤隆さんに本多スタジオでお話を伺いました。

インタビュアー

 劇団 短距離男道ミサイル(以下、“ミサイル”)は2011年の東日本大震災を機に、宮城県の仙台で結成されました。
 今日は日本演出者協会「若手演出家コンクール2017」最終選考の最終日。澤野さんは全国からの応募者89人の中から、最終審査に挑む4人に選ばれました(インタビュー後に上演作『走れタカシ』で最優秀賞と観客賞をダブル受賞されました。おめでとうございます!)。
 「CoRich舞台芸術まつり!」をはじめ、コンクール形式の催事には積極的に応募する方針なのですか?

 
 

 コンペ的なものだけじゃなく演劇祭など、外に出て行けるものには参加しようというのが僕らのモットーです。先行世代への反発みたいなものも少しあって、仙台だけでやっていくのはダメだとも思ってて。できるだけ外に目を向けようという姿勢ですね。

澤野さん
インタビュアー

 今日は3月11日、震災からちょうど7年目です。被災地の方々に「笑って欲しい」「元気になって欲しい」という思いが劇団結成へとつながったわけですが、結成時から仙台だけじゃなく東北全域へ、全国へというお気持ちがあったんですか?

 
 

 そうですね。震災があって外から色んな手を差し伸べていただいた。そのことへのお礼や、被災地の様子を伝えられる者として外に出ようという思いもありましたね。

澤野さん
インタビュー風景 写真1
 

 僕は澤野と近い世代です。「仙台に閉じこもってちゃダメだ」という思いがあってツアーに出ることは多かったですね。震災の時、仙台の演劇人は皆、何かしたいと思っていた。だからARC>T(アルクト:Art Revival Connection TOHOKU)に入ったりもしました。

小濱さん
 

 震災が起きてなかったら、僕は仙台で演劇を続けていなかった可能性が高いですね。地元が新潟なので東北出身でもないんです。東北大学卒業後は東京や関西の大きな都市で芝居を続けようと思ってました。震災があって、自分自身も被災して、この土地だからこそ作れるものがあると思った。ここで演劇をつくっている人間として舞台に立ちたい…という思いがあって、仙台に残ることにしたんです。

本田さん
インタビュアー

 大学在学中に被災されたんですか?

 
 

 そうです。僕が1年生の時に澤野が4年生でした。

本田さん
インタビュー風景 写真2
 

 僕は卒業の4日後に被災して、人生がガラっと変わった。卒業後はバイトしながら俳優をやっていければと思ってたけど、震災で予定が全部まっさらになって、どんどん色んな流れが生まれ、揉まれて行って…そんな中で劇団を作りました。僕が演出家としてのキャリアをスタートしたのは“ミサイル”からです。

澤野さん
インタビュアー

 加藤さんも大学で演劇をされていたんですか?

 
 

 9つ上の兄が今も東京で芝居をしてるんです。兄の姿を見てたから高校で演劇部に入って、卒業したら東京の専門学校か養成所に行くことも頭にあったんですけど、担任の先生から「大学でも部活はできる」とアドバイスされて。入った大学に演劇部がなかったから、大学1年の時に人を集めて、澤野さんがいた東北大の演劇部を観に行ったりして、2年になったら演劇部を立ち上げようと計画しました。ちょうどその時に震災が起こって、僕以外のメンバーが忙しくなって、おじゃんになったというか。

加藤さん
インタビュアー

 小濱さん以外の皆さんは学生時代に震災に遭われたんですね。

 
 

 僕は半分卒業しながらですけど。被災した時は若手の育成や企画の立ち上げに目が向いてました。

澤野さん
 

 小濱:「若伊達(わかだて)プロジェクト」という、仙台の演劇人を招いたワークショップから公演を立ち上げる企画を始めていて、僕がその演出をする予定でした。でも3月末の本番が震災で中止になって。その事務局を立ち上げて、今に至ります。

小濱さん
インタビュー風景 写真3
インタビュアー

 「CoRich舞台芸術まつり!」に応募しようと思った動機は?

 
 

 京都の劇団“笑の内閣”の高間響さんが申し込んでいたので、フェスティバルの存在は知ってました。

澤野さん
 

 仙台の制作さんたちからも「出してみたら?」と言われたし、大阪の制作さんからも後押しがあって。「応募したらいいんじゃない?」ってお声がけいただいたのが大きかったです。

小濱さん
 

 『人間失格』は東北を我々の拠点にするんだという決意を固めて、かなり力を入れた企画の立ち上げだったので、ぜひ観ていただきたいという思いがありましたね。

澤野さん
インタビュアー

 グランプリを受賞して、何か変化はありましたか?

 
 

 知名度が広がった感覚はありますね。色んなフェスティバルに参加したり、県外の劇団に客演したりすると、「“ミサイル”の本田さんですか」って言ってもらえたりする。大阪の劇団“コトリ会議”の『あ、カッコンの竹』に客演してた時にグランプリが発表されて、「おめでとう!」「よっ、話題の人が来た!」みたいなプチ・フィーバーが起こって。お、これはちょっとすごい賞を獲ったのかなと。

本田さん
 

 仙台の他の演劇人(からの風当たり)がちょっと優しくなった(笑)。「がんばってくれ」というバトンを渡されてる感じはします。

小濱さん
 

 そうだね。「お前らバカなことやってるなぁ!」と言われていた我々が、賞を獲ったことで仙台に居やすくなった(笑)。

澤野さん
 

 最終審査に残った10団体が強豪揃いで、全部名前を聞いたことある人たちだった。その中でグランプリを獲ったから、がんばらないとと思います。「こんな奴らが獲ったのかよ(がっかり)」と思われたくないし、「あの人たちを差し置いて(けしからん)」というファンも大勢いらっしゃるでしょうから。生半可なクオリティーのものを作っちゃダメだという意識が強く芽生えましたね。

小濱さん
インタビュー風景 写真4
インタビュアー

 劇団所属俳優の外部でのご活躍も増えてきましたね。

 
 

 知り合いの紹介ではあったけど、京都の劇団“烏丸ストロークロック”の『まほろばの景』に客演できたのも、「CoRichグランプリの“ミサイル”の小濱」という認知があったからだろうなと思います。東京芸術劇場シアターイーストでやらせてもらって、やはり生半可なものを作ってはダメだと思ったし、もっと精進しなくてはいけないと思う機会は増えていってます。

小濱さん
 

 “コトリ会議”の作・演出の山本正典さんも震災からのご縁です。「若伊達プロジェクト」で、山本さんの戯曲『桃の花を飾る』に出演させてもらった。それを山本さんが観て、いいなと思ってくださったそうで。

本田さん
 

 2011年の秋に大阪で“コトリ会議”の『桃の花を飾る』を観てすごく良かったから、「若伊達プロジェクト」の台本に使わせていただいたんです。

澤野さん
 

 僕は今年2月に、東京の劇団“ロロ”のリーディング公演に客演させていただきました。

加藤さん
 

 “ロロ”は「CoRich舞台芸術まつり!2017春」でグランプリを争った相手です。

澤野さん
 

 震災の翌年に“ロロ”の仙台公演を観てからずっと、むちゃくちゃファンだったので、出られるだけで感動しました。作・演出の三浦直之さんは宮城出身で、三浦さんが作った映画が仙台で上映された時も、映画のアフターイベントを企画してわざわざ来てくれた。東京で活躍している、宮城への思いが強い演出家で、“ミサイル”のことも気にかけてくださってる。そういう方とやれたのは大きかったです。

加藤さん
 

 三浦さんには2016年6月に「せんだい月いちワークショップ」で講師をしていただきました。僕らが色んな地域で得てきた出会いを地元に還元するために、仙台で毎月ワークショップを開いているんです。

小濱さん
インタビュー風景 写真5
インタビュアー

 こつこつと実績を重ねるなかで、人と人がつながってきたんですね。

 
 

 「あぁ、こんなつながり方をするんだな」と年々思いますね。つながるきっかけの大きなものの1つが、フェスティバルだったり、CoRichのグランプリ受賞だったりするんだと思います。

小濱さん
 

 僕は“ロロ”の三浦さん、“範宙遊泳”の山本卓卓さんと同じ1987年生まれなんですよ。東京で人気の人たちが、僕たちのことを認識してくれてることがすごく嬉しい。“烏丸ストロークロック”も"「C.T.T.(Contemporary Theater Training:1995年に設立された現代演劇の試演企画)」で名前は聞いていました。仙台で小さく活動するのではなく、全国的に同世代で演劇をつくれていることが嬉しいし、それがつながるってことなんだと思う。

澤野さん
インタビュアー

 2017年の『走れタカシ』のツアーでは福岡、熊本にも行かれましたね。

 
 

 福岡は2014年に枝光本町商店街アイアンシアターに行ったのが最初です。七福神の格好をして練り歩いて、どんちゃん騒ぐパフォーマンスをしたら、商店街の方々が喜んでくださって。3年ぶりに『走れタカシ』で枝光に行ったら、「ああ、あの神様たちか! あれまたやってくれないの?」と覚えててくださった。

澤野さん
インタビュアー

 熊本も地震の被災地です。どんな反応がありましたか?

 
 

 熊本では劇場公演と避難所でのヒーローショーをやらせてもらったんです。知的障害を持つ男の子がヒーローショーを観に来てくれて、立って喜んでくれた時に「あぁ、やっててよかったな」って思えた。震災後に立ち上げたのが“ミサイル”だから、何かがつながった感覚がありました。
 熊本地震は被害が大きいのに、東日本大震災に比べると印象の残り方がちょっと薄い。忘れられてしんどい思いをしている人たちのところに行かなくちゃと強く思います。行き来しなくなったら僕らの活動の根本は嘘になってしまう。
 他にも熊本で嬉しかったのが、『走れタカシ』を観た男性が「何かしなきゃ」と思ったみたいで、上演中ずーっと映像を撮ってダイジェスト版の動画をつくってくれたこと。お客さんの中に何かが起こったんですね。演劇ってそういうことでもあると思います。

小濱さん
 

 本公演とヒーローショ―の両輪も震災があったからです。震災後の仙台の演劇には、アウトリーチが当然のように入ってきた。観客に劇場に来ていただくのではなく、劇場に足を運びづらい小さいお子さん、障碍を持つ方々のところに、僕らが作品を持っていく。そういう活動が震災後に何百件と仙台で実施されて、そこで生まれた作品もたくさんあります。

澤野さん
インタビュー風景 写真6
インタビュアー

 4月19日(木)からこりっちスポンサード公演として再演される『人間失格』への意気込み、見どころを教えてください。

 
 

 東北に根差していこうと決意したから、東北の作家である太宰を取り上げました。我々がやってきた自虐性のある作品づくりと、芝居の枠を飛び出す振れ方が、太宰が書いてるものの性質と似てると思うし、(うまく)ハマってる実感はあります。身を粉にして書き続けるという太宰の行為を、我々もしているんだと思う。

澤野さん
 

 当初、「本田は東北出身じゃないから主役にしない」と軽い差別を受けてたんですけど、あまりに僕の私生活が「人間失格」に近かったため、結果的に主人公的ポジションにハマっちゃったぞ、と(笑)。初演を大きく上回れるように全力を注いで、『走れタカシ』にも負けない作品に仕上げていきたいと思います。

本田さん
 

 太宰治や「人間失格」にはとっつきにくい、暗いイメージがあるかもしれないけど、本田さんほどではないにせよ(笑)、共感できるところがかなりあります。それも日本人、特に東北の人に共通する感覚の表現が、すごくうまい。実際、太宰作品には「自分のことのように感じられる」という感想がよくあるんです。ミサイル版『人間失格』は本当にとっつきやすので、太宰入門編にいかがでしょうか!

加藤さん
 

 生きていれば、目を向けなくても簡単に済ませられる、後ろ暗いことがいっぱいあります。でも太宰の「人間失格」は、社会生活を営む中で見なくてもよかったかもしれない弱さや、汚さにちゃんと焦点を当てている。それを僕ら演劇人の視点から浮き彫りにします。そういう弱さや汚さに「向き合わない」「見ないようにする」ような世の中に、ちょっと近づいてる気がするんだけども、この作品を観て「しっかり見てもいいんだぜ」「存在していいんだぜ」と感じてもらえたらいいなと思います。

小濱さん
インタビュー風景 写真7
 

 我々の提供する“情報”が“ネタ”になっちゃったら終わり。リアリティがなきゃいけない。『走れタカシ』で(加藤)隆が走るのも、本当に走ってなければ生み出せないからです。目の前に存在する本物を、生々しいものを見せることをやり続けたい。
 グランプリ受賞後の本公演はすごく重要だし、僕らの意識の変化もある。これで何かの壁を突破したい。だから3~4週間は稽古して、作品を解体・再構築して、しっかり作り直します。お客さんも全国から観にきていただけたらと思います。

澤野さん
 

 東京でやるにはやっぱり気合い入れていかないと。東北人としての大きな戦いだと感じています。

小濱さん
 

 俺の地元は関東甲信越(=新潟)だけどね!(笑)

本田さん
インタビュー風景 写真8
インタビュアー

 (笑) 特別な意気込みで臨む公演になりますね。壁を突破する刺激的な作品をとても楽しみにしています!

 

インタビュー実施日:2018年3月11日 本多スタジオにて 取材・文:高野しのぶ 写真撮影:劇団 短距離男道ミサイル ※文中敬称略

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