CoRich舞台芸術アワード!2018

「遺産」への投票一覧

1-9件 / 9件中

※投票内容を「非公表」に設定しているメンバーは表示されません。

投票者 もらったコメント
t-satt-sat(584)

6位に投票

涙を制してこみ上げる、エゴイストとは何者か。 熱狂のうちに刻み込んだ気で、その実、上っ面を引掻いたに過ぎないようで・・・ 仄めく交差軸の上で 遺産の行方が定まらぬ。 開いてみて開かない選択肢に迷う弱さを嗤えるか。 悟りとも諦めともつかぬ境地へと彷徨う。

GREAT CHIBAGREAT CHIBA(676)

3位に投票

前回公演の「ドキュメンタリー」とのつながりは、パンフレットやここに書かれている皆様のご指摘通り。登場人物が重なっていないとのことだが、西尾友樹氏や浅井伸治氏は役柄が全く異なるのだけれども、岡本篤氏の今井は「ドキュメンタリー」の元グリーン製薬研究員だった老医師とどうしても被るなあ。実際、途中までそういう目で見ていました。
いっそ、それでもよかったのではないかな。この一点で人物の繋がりが明確になると、かなり、731部隊→非加熱製剤投与への連綿とした倫理観の一貫性が判るような気がするので。つまり731部隊で問われる倫理観(軍としての細菌兵器の開発、人体実験)と非加熱製剤投与の倫理観(利益至上主義、官民癒着構造)は、本来異なるもののはずだったのに、実はこの2つに関わった一部の者たちの倫理観には、通底するものがあった(人命の軽視)ということ。
731部隊に関わった「ドキュメンタリー」の老医師と、今回の今井は、共に731部隊での研究時代を至福の時間だったと回顧しながら、前者は非加熱製剤投与に抗い、後者は一生の後悔の念に苛まれる。しかし、そうではない、そうは思えない人々が、間違いなく関与していいたという事実、この方が戦時下という言い訳をも許されない決定的な証拠だと思う。

私は、こうした歴史的事実に基づいたフィクションに、誤謬の指摘をしたり、情報量を求めることにあまり意味があるように思えない。その解釈に意義を唱えるのは自由だけれど、あくまでもこれは創作活動なので、観客は舞台自体がどうなのかを語るべきだと思う。もちろん、その舞台観劇を契機に各々の事件について語ることは、舞台作者の意図するところでもあるかもしれないし、観劇者の探求心の発露でもあろうから、一向に構わないけれど。
だから、731部隊どうこうよりも、人間の宿業や贖罪への意識というものが、どれだけ重要かということを感じた。53人殺めた今井と川口少年に「生きろ」と言った今井は矛盾する存在ではない。それは、匿名な個人と知人との対応の違いではない。

李丹のラスト近くの舞は、見事。誰に悼まれず、隠蔽され続ける死の朦朧が良く表現されていたと思う。終盤に至るまで、その生と死の狭間を行き交うような、儚くそれで強い存在感は秀逸でした。

「マルタ」という表現は、「材料」という意味で「マテリアル」から来ているらしいのですが、私は「ドキュメンタリー」からずっと「丸太」だと思っていました。
枝(手足=自分の行為を司どり死生を左右する部位)を切り取られ、ただ無機質に並べられた材木。何に使われるかをただ待つ存在として。
アフターアクト
・浅井伸治氏=石井四郎中将に寄り添うように生きていく天野少尉の戦後。
       語りのみかと思いきや、死の淵でもはや声も出ないはずの石井と、病院       のベッドの傍らで語り合う芝居が秀逸。また、731部隊を2人で再興させ       ようと話す、おそらくは老境に至っている狂気。
       部隊名を今度は自分に考えさせて欲しい(731部隊の正式名称は「関東       軍防疫給水部」)、大蔵大臣から予算を下ろさせるように脅迫する際に       持っていく毒物の指示を出してくれと、嬉々と話す天野が背筋を寒くす       る。

・西尾友樹:今井の残した731部隊の記録を神奈川にいる731部隊の研究者に届けようと      する、中村の後日譚。さっそくその人物の所に向かう中村、その顛末のお
      話。
      結局、彼はその人物ではなく、尊敬する大学の恩師に預けようと気が変わ      りそちらを訪れる。恩師を尊敬するようになったエピソードである、河童      の話でかなり笑わせるのだけれど(それもグダグダ感満載で)、ラスト、      その恩師の姿が判ると、思わずゾクッとする、強めのブラックユーモア。

・岡本篤 :今井と死に面した妻との会話。
      彼に妻が「あの封筒はどこなの?」と聞いた時の話が回顧される。
      今井は、妻に例の記録の入った封筒の話など一切したことがなく、ひどく      驚いた。実は、彼は寝言で「封筒」とうなされることがたびたびあったら      しく、そのことが気になっての発言だったらしいのだが、、、
      封筒のことをどこまで話してしまったのか聞けなった自分、そして封筒の      中身のことを話してあげられない自分、その悔恨の情が吐露される。

どれもよいお芝居でした。この「遺産」観た方で、この計30分ほどの芝居が観れなかった方々は残念かも。

旗森旗森(717)

7位に投票

今年演劇ファンが最も注目している舞台と言っていいだろう。古川健もチョコレートケーキも正念場である。今年の乱作を乗り越えて、その期待に十分に応えた作品だった。
素材は戦時中の日本軍の満州での細菌兵器731部隊である。どの国でもあるが、いったん政府が拙いと秘密にした情報はなかなか出てこない。この舞台では、現在公知の情報に基いて(政府が認めたと言う事ではなく)書かれたフィクションという枠組みで、国という集団と、その中にいる個人、の関係を追っている。戦争が世界各地で目に見える形で行われているいま、極めて現代的なテーマである。
国には、個々の国民にとっては迷惑でしかない「戦争」を行う権力があり、個人には個人の尊厳に加えて、ここでは医学者の倫理と言う国を越えた普遍的なコードがある。
ここでは、戦争遂行のための反倫理的な兵器製造を巡って、両者の様々な尺度から見た対立が描かれ、カタストロフに直面した時の人間の対応と感情が問われる。それぞれの人物も登場人物としてよく書き込まれていて、2時間余だれることなく見せてしまう。相変わらず構成もキャラの設定も旨い。
今回感心したのは、現代の観客、90年代の今井の死、戦時中の満州、という今現在生きている三つの世代に広く網打ちした舞台を作ったことだ。どの世代でも、このドラマが問題にしている対立は続き、それがこの社会の考えるべき問題だ、と演劇の世界から明確に発言している。感動的な舞台でもあった。
しかし、と、ここからは注文になるが、特殊な素材をうまく普遍化することには慣れているはずの古川のはずだが、超特殊な素材だった「治天の君」ほどにも、人間的に広がらない。天皇夫婦に託した演劇性が、このドラマでは中村という医師に託されているが、彼のドラマとしての位置がどうだったのだろうか。また、最後に(以下、ネタバレ欄で)
この公演に先立って、「ドキュメンタリー」と言う公演があったが、これはなくもがなであった。中途半端で意味がない。しかし、情報に立脚している今回の公演が、成立する基礎として、この情報がどう出てきたかというドラマは、別の視点のドラマとして面白いと思う。歴史ドラマを扱うとき、史実かどうかは、今作者が気を配っているほど、重要ではない。デタラメをやれば、ネット攻撃にさらされうっとおしいことは事実だが、たとえ情報操作と言われようとも、世間が納得sる情報で発信するのはやむを得ないし、それでひるむことはない。日本ですら、この731部隊の裏側で、同時期に国内の演劇では、菊田一夫が「花空く港」を書き、森本薫は「女の一生」を書いていた。
現代では、前世代の単眼的視点を複眼で見直すことは必要不可欠である。この作品にはそういう第一歩も感じられた。





最後に李丹の踊りに託したいわば融和のメッセージもあるが、これは無理やりの感じで決めすぎた感じである。かつて、岩松の芝居(水の戯れ)で快演を見せた彼女に出会ったのは嬉しかったが。

数学者の奥さん数学者の奥さん(3657)

9位に投票

いろんな意味で「遺産」でした。視点を多く設定しながらも、ぶれない1本の筋がある。戦後にあったと思われるアメリカとの密約、裏取引に関する作品も見たい。

はみ~にょはみ~にょ(1091)

3位に投票

何が正しいのか!?そんなこと訴える芝居ではない。それは観劇した個個が考え知るものなのだよ、といつも劇団チョコレートケーキを観て思う。今回はさらにそう感じることが出来た。先日の『ドキュメンタリー』とつながった!と思える瞬間がなんか嬉しかったかも。
作・演出はもちろん劇団員3名がすごくいいんだよね。あと今回は青年期・中年期と役者さんが違うのだけど、体型云々思うことなくつながるのは当たり前だろうけどすごい。出来れば、マチネー後に上演されるそれぞれのひとり芝居が観たかった。観たい。

うさぎライターうさぎライター(1778)

1位に投票

独立した作品ながら、9月に上演した「ドキュメンタリー」とゆるやかに繋がる内容。
普通の人間が“組織”や“命令”を理由に凄惨な実験を繰り返した731部隊。
あの現場を嫌悪しつつも、研究者として至福の時だったと回顧する老医師の告白が
淡々としているだけに、彼の背負ったものの重みを感じさせる。
選び抜かれた台詞が素晴らしい。
本編終了後に浅井さんのひとり芝居があり、狂気とはまた別の顔を見せてくれた。


1990年、死の床にある一人の老医師とそこに現れる過去の亡霊たち。
旧満州ハルビン市郊外のピンファンに、陸軍の細菌兵器開発を担う巨大施設があった。
731部隊と呼ばれた集団を率いたのは石井四郎。
彼の強力な推進力のもと、中国人を“マルタ”と呼んで実験に使った。
まさに唾棄すべき行為であったが、同時に研究者にとっては至福の時でもあった。
老医師の死後、貸金庫から彼が遺した一つの資料が発見される。
その“遺産”を託された青年医師のもとに
かつて老医師とともに731部隊にいた男が現れる・・・。

老医師が告白するように、あの数年間は“耐えがたくも至福の時”であったという
まさにそれこそが最も恐ろしい事だ。
そして731部隊の幹部全員が、細菌兵器の研究成果と引き換えに
戦犯訴追を逃れ、米軍の要望に応える形で血液銀行を創業、
幹部の多くは731部隊出身者であった。
高々と理想を掲げて多くの人々の人生を狂わせた連中の、この要領の良さ!
この血液バンクは、やがて薬害エイズを引き起こし
再び研究優先、利益優先、研究者の天国は繰り返されることになる。

岡本篤さん演じる老医師は、終始淡々と自己の半生を振り返る。
己の利己主義に絶望し大学の研究職に未練なく別れを告げる潔さが、彼の覚悟を物語る。
その誠実さから、その後の人生をどこか諦めている風が良く似合ってはまり役。
戦後も731部隊での研究を巧みに加工して論文を発表しようとする
同僚(渡邊りょう)との対比が鮮やかで、作品の救いである彼の良心が際立つ。

浅井伸治さん演じる天野軍医少将は、石井軍医中将を信奉して迷いが無い。
組織と教育・命令の根深さや日本特有の責任の所在を曖昧にしたがる性を考えさせる。
端正な口跡が本当に魅力的でいつも惹きつけられる。

無駄のない台詞で緊張感を保ちながら一気に魅せる脚本はさすがで
時空を行き来する演出も違和感なくついていける。
ラスト、片言の日本語を話す“女マルタ”が踊るところだけ、
いたずらにセンチメンタルを絵にした印象で、ちょっと違和感を覚えた。

部隊が全て引き上げた後、証拠隠滅のために300人のマルタを処分し
延々と遺体を焼き続ける傭人役の佐瀬弘幸さんが味わい深い。
その下で手伝いをする少年隊員役足立英さんの瑞々しさが救い。

こういう題材に果敢に取り組む姿勢がまず素晴らしい。
私のように「ボーっと生きてる」者でも考えさせられる、
演劇にはこういう力があるのだといつも改めて思う。
だから劇チョコが見せてくれるものを追いかけたくなる。





おけい@広島おけい@広島(102)

3位に投票

七三一部隊で人体実験を行なった医師と、被験者(マルタ)に接して働いていた特別班の隊員の現在と過去が交錯しながら舞台は進む。
いかにも人の好さげな今井医師(岡本篤)は他の医師が口実を付けて断ったマルタの人体実験も引き受けてしまう気弱なところがある。同時にその今井が平然と白衣を血に染めて人体実験を行なう。
マルタは「丸太」からではなく、素材という意味のマテリアルからつけたものらしい。まさに実験素材だったわけだ。
生きた人間をも解剖したという七三一部隊の人体実験の被害者は3000人にも上り一般市民の中国人も多かったという。
いっそ、医師の彼らが人間の皮をかぶった悪魔であったなら、私たちはどれほど心を撫で下ろしたであろうか。

時代の流れと大きな組織の動きの中で、私たちはどれだけ自分の良心と自分の行動を律することができるだろうか。同じ過ちを犯さないとは言えるだろうか。

今井は、大学で教鞭をとることを退き、七三一部隊関係者が多くかかわったグリーン製薬に転職する。高給が保証されていたことに変わりはないが。グリーン製薬は非加熱製剤でエイズを蔓延させ社会的に責任を問われた会社である。
今井は晩年、自分のしたことの罪を激しく悔やみ、それでも自由に自分のやりたい人体実験ができたあの頃を充実していたと告白する。
実験動物たちの墓に手を合わせていた今井を慕っている後輩の中村医師(西尾友樹)は、死の床にある彼を見舞う。今井が処分をせず密かに持ち帰った人体実験のカルテの秘密とその処遇の顛末が、当時と現在が前後して描かれていく。
当時17歳の少年隊員川口(足立英)は日常的にマルタに接し言葉を交わし逆に慰められたりしていた。天皇陛下のためと教えられていても、目の前で被験者に行われる様々の人体実験を見て腰を抜かす十代の彼が痛々しい。だが、先輩隊員の陸軍傭人西田(佐藤弘幸)が慣れた様子でマルタを引き立て殺害し焼却していく。
現代の場面で、隊員一人である木下(原口健太郎)が登場。戦後帰国した彼らが、互いに連絡を取らないこと、部隊で見たことの守秘義務、公職につかないことを約束させられ、世の中から隠れて生活してきたことが明かされる。
人体実験の結果資料をアメリカ軍に引き渡すことを条件に、罪に問われることもなく医学界の要職に就いた医師たちと、助手となって証拠隠滅活動までした隊員たちとの明暗。同時にその医師たちに命を救われた患者も多いに違いない。

とちとち(1388)

4位に投票

医学の進歩と倫理観。難しい。
2018年は731部隊に関する作品をよく見かけたのですが、「マルタ」側も描いた作品は珍しかったです。
王さんと鏡のくだりに涙腺が緩みました。

kaznet888kaznet888(678)

3位に投票

ステージ上に、アレを置いていったのは、演出家のさすがの感性かと。結局平凡で、常識的な人間を狂気に駆り立てるのが戦争ってこと。

このページのQRコードです。

拡大