1
子守詩
前納依里子
小屋に息合う無言の饒舌さがハッとするほど濃厚に映し出す、従順でしなやかな強さを巡る影燈籠。 違和感なくつながり、でも明らかに擦れ合う童謡を、いつしか静かに、前向きに受け留める子守詩。 風雪を堪え、死生に震撼し、彼我を見つめて来たであろう見事な枝振と重なった。礼賛に値する衝撃。
2
桜歌
ラビット番長
その時に、その場に佇んでいられたから、 見つめていなくても良かった・・・ その、つまり、見つめていられなくなって上を向いてしまうのだった。 帰り道、この ”良い国” をぼんやりと見つめながら、まぶたに映る桜を愛でながら、またあふれてきてしまうのだった・・・。
3
澄み、毒。
teamキーチェーン
丁寧に作り込まれた迫真に息を吞む。 緊迫のボーダーを前に冷汗握る。 ふたりそれぞれの拳が滲む、あんなにすごい よろしくおねがいします があるなんて・・・ うぅ 偽らざるタイトルに頷く。
4
尼を待つ
三度目の思春期
待つこと少しも苦にならぬ、 あがない難い心地よさ。 椿の紅香が誘う刹那の夢意識、 三たび四たびと落ちてみたい。
5
沈黙の音
演劇企画アクタージュ
「私でもあり得た・・・」5人の闇から流れて来る ”沈黙の音” 。 人間心裡の謎解きは、朱い刹那の笑みを炙り出す。 入り組む感情と重なる思惑とが折り込まれたまだら構造は、思い返すほど巧みな企み。 すっきりと飲み込ませてはくれない、透明に隠された毒が回ってきた・・・。
6
遺産
劇団チョコレートケーキ
涙を制してこみ上げる、エゴイストとは何者か。 熱狂のうちに刻み込んだ気で、その実、上っ面を引掻いたに過ぎないようで・・・ 仄めく交差軸の上で 遺産の行方が定まらぬ。 開いてみて開かない選択肢に迷う弱さを嗤えるか。 悟りとも諦めともつかぬ境地へと彷徨う。
7
おくやみ(仮)
京央惨事
1男との 時間 × 濃密度 がほぼ テイリツ な3女の反芻により、曖昧不明にされた4者を変数とする関数 が徐々に解け出す。 座布団1枚、茶碗1個に気まずいスイッチングな攻防、するりと逃げた ”ぎりぎり好き” な答えに辿り着く。 ヘンシンに係る(仮)の世界を生きているのだと実感。 主宰挨拶文が素敵です。
8
ムシ研
劇団オンガクヤマ
目を疑うような日常を虫メガネを通してありありと描き出す傑作。 風土に根差したものは掛け声だけでは変えられない、個性的な ”ヘルメット” 全員がムシであることはムシできない、と他人事に満ちた空気が伝えて来る。 捕食されずに活用されるほどの美しさ、奥床しさを、これからのAIする森でもずっと・・・
9
何度も壊れる赤い橋
The Stone Age ブライアント
いじらしい。 タマイシをめぐりカケまわるオニごっこは 非道くやさしい。 カデンツァのようなラストは 吸い込まれるほど愛らしい。
10
アントニオは死んだ
薬味一味
そんなつもりじゃなかったのに・・・ 甘酸っぱさ と ほの苦さ から立ち上がってきた ピリ辛 に衝かれた。 なかなかどうして、侮れない一味。 期待を裏切るストレート は涙腺を破壊するパンチ力。 あゝこれで良かったのだよなぁ と心の納まりがつく味わい。