桜の園 四幕の喜劇 公演情報 劇団つばめ組「桜の園 四幕の喜劇」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     初日を拝見、序盤ちょっと硬かったが中盤からほぐれ終盤には各々のキャラも立ってグンと良くなった。(華4つ☆)

    ネタバレBOX


     それにしても、ロパーヒンの懸命な嘆願に耳を貸すこともできず、ラネーフスカヤの浪費癖は止まぬ。習慣となったその浪費は当に第2の天性として極楽蜻蛉そのまま。アーニャにしても母の浪費癖を止める手立てはなく、養女でしっかり者のワーニャは敬虔な信徒であっても、作者チェーホフより22歳年下のヴァージニア・ウルフがフェミニズムの先駆者としてその才をジェンダーの壁を超えようとすることで示したような発想さえできず節約することと、祈ることしかできぬ、彼女のキャラ創りは、当時のロシアの先進ヨーロッパ僻地としての複合意識やそのような文化レベルを表してもいよう。いい意味でも悪い意味でもこの指摘は当て嵌まろう。その分、人間存在の不如意をその存在感の深みに於いて表現する文豪が多く生まれたのもまたロシアなのであり、革命を何とか成し遂げたのもロシアであったことは、恐らく偶然ではない。人間存在が支えを失った革命前夜へ至る過程とでも捉えたら良いかも知れぬ。その意味、日本の作品であれば、太宰の「斜陽」の直治のキャラは案外、今作の登場人物に近かろう。例えば直治程自嘲的ではないアンドレーエヴィチはグータラで、オブローモフ程では無いにせよ貴族のプライドばかりで役立たずのウツケである。万年大学生トロフィーモフは、精神の革命を目論んではいそうだが、実務面が弱そうだ。シメオーノフも金銭にだらしないし、シャルロッタは頭も良くしっかりしているものの、出身階層が不確定な弱みを持つ。ドゥニャーシャは移り気、エピホードフは絵に描いたようなミムメモ。ヤーシャは、小手先の効く軽い男、フィールスは、時の流れの残酷を己の身に刻む老婆。旅の男、物乞い等が登場するが、トドのつまり、砂上の楼閣に過ぎなかった没落貴族とその破産を懸命に食い止めようと図った元農奴の倅・ロパーヒンの、現実をしっかり見つめ対処法を示しあまつさえ無駄遣いのフォローさえもしながら、遂には旧主人の魂の痛みを最小限に抑えようとの己の救いの手が届かなかったことに対する苦い人生の苦悩が、唯現実に破産という事態に遭遇して初めて身につまされるほど愚かな旧資産家達・極楽蜻蛉に対比され、それでも尚生きて行かねばならぬ場で、それまでの人生経験で培った人間関係にそれこそ、川島雄三ではないが“さよならだけが人生だ!”と言わざるを得ないような侘しさが表現されており、当にこの点にこそ、今作が我々現代人に訴えてくる底の無い虚無に向き合う人間実存が示されているであろう。今作を選び、今上演することに大きな意味を見た。初日の硬ささえ取れれば評価は更に高くなろう。

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    2020/11/06 04:46

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