浅草紅團・改 公演情報 劇団ドガドガプラス「浅草紅團・改」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    エンコ
    今作は、関東大震災後の浅草模様を描いた、川端 康成原作の新聞小説「浅草紅團」をシナリオ化した作品で、以前シアターXで上演されたことがある。今回は、小屋が東洋館に移ったということもあり、空間的に凝縮され、内容的にも緩急の所を得てずっと締まった舞台になった。(追記2015.9.8)

    ネタバレBOX

     変更した点は、シナリオの構成を若干入れ替えたり、在日の朝鮮族を登場させたりと震災の混乱に乗じて多くの同胞を殺害された側を取り込むことにより、浅草という土地の明暗両面を史的事実に則り、自然に、より深く描くことに成功している。無論、治安維持法下の弾圧、大正リベラリズムからファシズムへ移行してゆく日本の不気味な動きもさりげなく描かれ、F1人災事故後の現代日本とも重なる。
     舞台は、当時の浅草が生き馬の目を抜くと言われたスピード感、疾走感が出、千二百年の伝統を持つ宗教都市、浅草(エンコ)の持つ磁力を、ゴウカイヤの長が元花魁であったこと、身上を潰して迄通い詰めてくれた善さんと心中を図ったことなど、宗教都市には必ずついて回る岡場所との縁起を含めてエンコらしい下世話でキッチュで切ないまでに都会的な猥雑さが表現されていることで、単に、今作が演目や演技ではなくエンコそのものの表象として機能するようになった。これには、新座長の丸山 正吾氏の自らを消すことのできる力が大きいだろう。無論、彼は主役も張れるし、華のある良い役者である。実際、これまではドガドガで主役を張ってきた。だが、役者の力量は目立つこと、華のあることだけではない。その力を殺して見せることができるとき、その両用の形を意識的にコントロールできることが、本当の役者の凄さなのである。彼には、このような才能が備わっている。ゴウカイヤのボスを演じた石井 ひとみの色気のある演技は、流石名花と呼ばれるだけの内容だ。
    いくつかのエピソードも上手に用いられている。鬼健の破産を救う逸話などで上海から来ている張の心を掴むなど、磁場が放つ磁力が人情に作用する姿を描くことでエンコを浮き上がらせたのである。
    在日朝鮮人の話を加えたり、初演とはシーンを入れ替えたりすることによってシナリオ自体が散文的なものから詩的・演劇的なものに変化したことも大きい。こういった変更によって変えなければならない細部は多い。その細部の検討を通して作品の集約力が飛躍的に高まった。一、二例を挙げるならば、暴走した軍部をコントロールできなかった行政の結果として猛威を奮った治安維持法。これを恐れ、雪崩を打って批評精神を喪い、プロパガンダの具と化したメディア。メディアリテラシーを持たず、権威主義の呪縛を逃れる努力もせず唯々諾々と軍部の間違った判断に追随することを選んだ愚衆、というより偽善的プラグマティスト達が狂った魂の奥底に隠している構造的欺瞞と、それらを切り崩すことなしに革命を夢想したイデアリストたるコミュニスト、アナーキストなどの内実であるイデオロギー的内紛。その結果としての裏切り。それら総ての人間的営みの受け皿としての観音信仰は、千二百年の伝統を持ち、宗教エリアの常として苦界を脇に抱える現実を持つ。このどん詰まりで社会のケツを拭くのは、売られた娘たちであり、彼女たちの夢とオトシマエの結末は心中と相場が決まっている。以上総てを天秤に載せて、生まれ変わり、蠢き、蠕動するエンコを表出した作品である。

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    2015/08/22 11:36

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  • 良い舞台でしたね。浅草公会堂での公演に向けてさらに観客動員数が伸びるよう、陰ながら応援しています。
              ハンダラ 拝

    2015/09/08 03:25

    良い舞台でしたね。浅草公会堂での公演に向けてさらに観客動員数が伸びるよう、陰ながら応援しています。
              ハンダラ 拝

    2015/09/08 03:25

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