『武器と羽』 公演情報 Oi-SCALE「『武器と羽』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    嘘を糾すと犯罪者
     登場人物全員が嘘つきという設定で物語が展開する。導入がちょっと変わっていて、この場所に纏わる怖い話が色々語られる。ヤンキーが屯っているとか、女の幽霊が出るとか、通り魔騒ぎとか。そんな話の内容に合わせて、最後まで舞台は、夜の公園程度の明るさだ。

    ネタバレBOX

     この最初の設定に呑まれるか否かで、評価がハッキリ分かれるだろう。因みに場面は、公園という設定だ。下手にベンチが1つ。中に灯りを仕込んだものを含めて、観客席側から、舞台奥へ直線的に置かれたコーン(工事現場などで見る奴。色は、青、緑と寒色系と公園だから、グリーンだ)。公園の傍らには河が流れており、水死の話なども出ていた。公園脇には、コンビニが1軒ある。
     11年前から、この公園にはホームレスが1人住んでいる。彼は、探し物をする為にここにいるのだが、その探し物とは、彼に生きる意味を教えてくれた姪である。然し、姪は11年前に亡くなっているのだ。探している本人もそのことに気付いている。
     ところで、この公園で通り魔事件が、立て続けに起こった。警察が乗り出し、犯人は、自首するという形で捕まったが、事実は、自首した者は犯人ではなく、ホームレスを神と崇めるコンビニのアルバイト店員。神からも「彼には黒い羽が見える」と言われている。つまり烏であると同時にサタンも含意しているかもしれない。何れにせよ物語の中で真実を観ていたのは、公園に居る野良猫と猫の生まれ変わりの烏(猫は何度も生まれ変わるという転生譚と猫の死体が殆ど見付からないという話をミステリアスに結び付けた、神と崇拝者たちの論理ではこうなっているのだ)で、神は己の中にどす黒くとぐろを巻く物から逃れることを願っている。それを烏=サタンに告げるのだ。サタンは理解し実行する。
     以上を深読みすれば、神は自ら善と称する為に、悪を前提とし、それが分かちがたく結びついた身体を殺すことで、自らは存在と袂を分かち偏在することを可能とした。実行する方法としては、殺害という汚れを悪に負わせ、それを忌むべき者として分けた。つまり、汚れ役を知恵者、サタンに任せ、己は良い子ぶることにしたのだ。自殺すれば、済んだことを、他者に汚れを負わせることで、自己純化の縁とし、己独り良い子ぶって、悪を他者に代弁させたのだ。出来レースである。ではサタンにとっての益は何だったのか? それは、地獄というもう一つの世界の頂点に立つ、ということだったのではないか? 何れにせよ、神そのものが、出来レースを演じているということに対する痛烈な皮肉と取れないことも無い内容であった。ホームレスの父は、教会を立てた聖職者で彼を精神的に救った姪の産みの親は姉で敬虔な信者である。然し、自分の立てた文脈に沿って解釈するならば、この姉の祈りは、気違いじみた信仰に対するパロディーである。
     通り魔事件に関しては、狂言であった。というのは、以上のことから必然的に出てくる。そして、殺されたのが、ホームレス(神の遍在を表していようではないか)殺したのが、自称、烏のコンビニアルバイト店員(サタン)、狂言を演じた二人の被害者が、世界の実相を知って絶望した者と娼婦であることも、この神話を現実世界との境目に置くことに役だっていよう。警察が、この物語の中で起こった唯一の事件(ホームレス殺し)を、無かったことにしてしまうのも、神が、不正を犯している以上、被造物でしかないヒトが誤魔化すのは当然のことと言わねばなるまい。また、通り魔だと言って自首した、コンビニアルバイトが、ラストで人を刺すシーンも、この伝で言えば、立件されない可能性が高い。何故なら、正義はサタンにあると本当のことを行為で示してしまったのだから。

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    2013/10/24 11:44

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