不信 ~彼女が嘘をつく理由
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/04/30 (日)公演終了
満足度★★★★
一夜を劇場で芝居を楽しんで過ごすには最適の作品。芝居好きと一緒に見ていたら、帰りにはちょっと飲んでは、芝居の揚げ足を取って幸せな気分になれる。三谷らしい作品で、現代史や本歌取りなどの約束ごとがないだけのびのびと書いている。悪ふざけもなく、大人の芝居だ。役者もいい配役で、段田、戸田は当然として、栗原英雄が予想以上の好演。優香も今どきの無責任女をこちらも予想以上の好演。段田、戸田を囲んで抑えとはじけの脇役の良さもこの芝居の興趣を盛り上げた。変な小理屈や倫理の介入をさせない本もよく出来ている。値段も適当だが、もしこれが主催のパルコ劇場だったら高いんじゃないか? とかチケットを手にれる(正価で)にはいろいろ手を尽くさないといけない、とか余計な付随事項はあるが。
怪人二十面相
キッズシアター~ボクとキミの秘密基地~
文学座アトリエ(東京都)
2017/03/23 (木) ~ 2017/03/26 (日)公演終了
満足度★★★
少年探偵団メンバー10名に小林小年を加えた十人で「怪人二十面相」のエピソードをダンスと演技と語りで見せる。もう誰でも知っている話だから今回の趣向はダンスを入れたところが成功したかどうか、にかかっている。振り付け・木皮成。子供のための公演も意図しているので、極めて単純明快な振り付けでまとまりもよく、文学座だけあって劇団員の動きもそつがない。これでいまの子供が喜ぶだろうか、また、大人が新しい乱歩の魅力の発見と思うかどうか、が問題で、ちょっとかんきゃう参加の趣向を入れたくらいではとてもついてこないのではないかと危惧する。乱歩素材なら、もっと今の人に(子供も大人も含めて)見せる方法が内容の把握も、舞台演出も含めて、あると思う。
3月歌舞伎公演「通し狂言 伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2017/03/04 (土) ~ 2017/03/27 (月)公演終了
満足度★★★★★
伊賀越道中双六と言えば、「沼津」しか知らなかった。それが通しでやると、こんなに複雑怪奇な噺だったとは!しかも、今回は「沼津」はないのだ! 鎌倉から始まって、沼津、藤川、伊賀上野と双六のように仇討を軸に、それぞれの家の物語が噛んでくるのだが、この人間関係が入り組んでいる。その複雑さで、歌舞伎様式で表現できる、愛情や悲しみ武闘などが深まるわけで、数年前にこの一場の「岡崎」が読売演劇大賞を得たのもうなずける。役者もバランスよくまとまっている。しかし、初心者にこれをありがたがるように、と言うのは少し酷だろう。そこが歌舞伎と言う古典の難しいところだ。
The Dark
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2017/03/03 (金) ~ 2017/03/12 (日)公演終了
満足度★★★★
女性プロデューサーの綿貫さんの主宰するオフィスコットーネが久しぶりに大きな劇場へ出ての公演。キャストも一つ格上になっているが、そのためにチラシにもある、このプロデューサーらしさが薄くなった。ここはそういう背景を抜きにして、現代のイギリスの「新劇」を紹介されたところを多としよう。ドンマーハウスと言う劇場は昔行ったことがあるが、その後、(30年ほど前)からはしっかりした芸術監督がついて内容もよくなったと聞いていた。たしか、幸四郎や蜷川もここでやったのではなかったか。今回は、いかにも、現代のイギリス諸問題を埋め込んだ家庭劇で、よくはできているが新しい話題や発見は少ない。イギリスの土地で、イギリスの役者がやればそれなりに生の現代劇の味が出るのだろうが、日本では隔靴掻痒の感が抜きがたい。しかし、こういう小粒な新劇を見せてくれるのは、韓国でテストランしたミュージカルを見せられるよりははるかに貴重で、これからもオフィスコットーネ頑張ってください。期待しています。
始まりのアンティゴネ
椿組
ザ・スズナリ(東京都)
2017/02/24 (金) ~ 2017/03/05 (日)公演終了
満足度★★★★
椿組と言うのは不思議な劇団で、演目に主張があるわけでもなし、実力派の新劇小劇場系を使うという方針くらいしか浮かばないが、時にこれが演劇界の風見鶏になる。座長もテレビや映画の脇で出るときの気の弱そうな、しかし骨があってと言うガラが舞台への情熱を続けさせているのかもしれない。今回は瀬戸山美咲・新劇界注目の女性作家の登場である。劇団公演だから登場人物も数こなさなければならず、東京近郊らしき地方都市の弁当屋の「通夜の客」ものだ。主人公のひとり会社社長の佐藤誓が初日終ったところで倒れ、本日復帰、という。重要な役で、終わってみればそういう状況の中で小劇場に甘えず大健闘の成果だ。通夜物の定石のようなところもあるが、今までの作品では、家督相続、意外な親族の登場、不倫の結末などが主な材料なのだが、今回は似ているようだが違う。死者の尊厳と言うことがテーマになっていてそこはさすが新進作家の生きの良さがある。俳優の位置取りもこれだけ人数が多いと行き届かないところもあるが、俳優も頑張って、先の佐藤誓、水野あや、占部房子、それにいつも座長で浮いている外波山文明がうまくハマって好演。岡村多加江、も面白い味を出していた。
お勢登場
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2017/02/10 (金) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
乱歩の悪女ものと言えば、「黒蜥蜴」があまりにも有名で、八重子にあてた三島脚本も随分調子にいい本だったので有名だが、こちら、「お勢登場」のお勢はすっかり忘れ去られた作品になっていた。それもそのはず、乱歩は初めの第一犯罪が行われるところまでで投げ出してしまったのだ。今回はそのお勢を軸に現代版乱歩悪女ものを作ると言う企画だが、以上のようなわけで尺がたりない。そこで、乱歩の有名、中名の短編を集めて、なるほどの明キャスト思った黒木華をお勢に一夜芝居にした。
楽しめた、黒木もいい。こういう芝居はどんどん試みてほしい。しかし・・・
注文を挙げれば、数限りない。ネタバレにもなる。主なものだけネタバレで書かせていただくが、これはぜひ練り上げて再演、再再演をやってほしい。公共劇場だってそれくらいの度量はあっていいだろう。この劇場は「炎」と言う難しい芝居を当たり狂言にした実績もある。おごらず、区役所役員の天下りなどの影響を受けず、芝居好きを堪能させてほしいものだ。
陥没
Bunkamura/キューブ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2017/02/04 (土) ~ 2017/02/26 (日)公演終了
満足度★★★★
高度成長期のオリンピック景気を背景にしたケラの新作。昭和三部作と銘打っているが、前二作と違って今回はそろそろケラも生まれている時期だ。それを考えれば、田中さんと鈴木さんの家があっという間に大きくなった【セリフ】時期の生理がもっと描かれてもよかったのではないか。いつものケラ喜劇で、役者も揃い、笑って3時間半の長丁場が持つのだが、人間関係や風俗にもっと時代色が欲しい。
たわけ者の血潮
TRASHMASTERS
座・高円寺1(東京都)
2017/02/02 (木) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
いつもと変わらぬトラッシュマスターである。今回のテーマはかなり複雑で基本的には表現の自由と、具体的には大麻の容認が大筋になっているが、議論の基礎として、日本語と言う言葉の特性とか、憲法と諸法制との整合性とか、演劇の舞台では即断できない問題を扱っているので、いつものように爽快に時代を斬るというわけにはいかない。2時間45分、いつもながら長いが、ひかかる議論とそれを明確にしようとする定義づけが輻輳して疲れる。劇中でも触れられるが、俳優も台詞が肉体化しているかと言うと、いささか疑問。戯曲としてももう少し整理したほうがいいのではないか。
ザ・空気
ニ兎社
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2017/01/20 (金) ~ 2017/02/12 (日)公演終了
満足度★★★★
昔あった懐かしい社会正義・糾弾劇である。だが、今のご時世で敵役も、かつてのように、雲上の人や影の人でなく、法律や組織が明確に糾弾されている。しかし、それでは一筋縄ではいかないところがあり、喜劇仕立て、風俗劇仕立てになっている。ベテランの作者だからそこはうまい。だがドラマの構造として、そもそも、倫理的なジャーナリズム精神と、具体的な法律や組織を対峙させても、笑や糾弾はできるかもしれないが、ドラマ的な成熟はないような気がする。笑って見られるがしらけるところもあるし、この程度のことはお客様が先刻ご承知である。そこがメディアが拡散した現代の難しいところだろう。作者は、新国立の芸術監督問題でよほど傷ついたのであろう。それは理解できるが、そろそろこういう素材から離れて、現代の「時の物置」を探してほしい。
鯨よ!私の手に乗れ
オフィス3〇〇
シアタートラム(東京都)
2017/01/18 (水) ~ 2017/02/05 (日)公演終了
満足度★★★★
渡辺えり子と野田秀樹が、岸田演劇賞を同時受賞したのは1983年。もう35年もたつかと思うと感慨深い。えり子は「ゲゲゲのげ』、野田は「野獣降臨」が受賞作だった。年月がたって、今月、野田は池袋で「足跡姫」えり子(子はなくなったが)は三軒茶屋で「鯨よ!・」をやっている。ともに、自らの演劇を回顧しながら今も変わらぬ演劇への思いを舞台に乗せている。好きなんだなぁ、舞台が、と思う。この舞台がともに公共劇場であることも面白い。彼らは、勝手をやっているように見えながら、世間の演劇観を変えたのだ。今回も自分の劇団主宰公演で、松竹でも、エイベックスでもない。野田がこの種の新劇公演で初演大劇場で61公演と言うのは、戦後新記録だろう。えりの方は劇団にこだわっただけ広がりには欠けたが、本人はキャラを売って演劇人の存在を示して、三越や演舞場、明治座でおなじみになった。この二作は還暦を過ぎた二人の自分へのご褒美のようなものだ。よくやった、ご苦労さん、今の若い演劇人も小さな殻や理屈(が多すぎる)に閉じこもらずに、自分の好きを前面に出して破壊的な力(二人の受賞作を見よ!!)を発揮してほしい。「鯨よ!」はキャストも厚く、老人ホームのアイデアもいいが、話が中途半端になったのが残念。島の子供たちの話はなくてもよかったのではないだろうか。中段、久野の歌のあたりまでは好調だったのに、息切れした。
初春歌舞伎公演「通し狂言 しらぬい譚(しらぬいものがたり)」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2017/01/03 (火) ~ 2017/01/27 (金)公演終了
満足度★★
国立の初芝居はここの所あまり調子がよくなく、今回も専門家の渡辺保さんは「芝居として堪能するところも、感動するところも、現代性もない、これでいいのだろうか」と散々だが、まぁ、正月だから、歌舞伎らしいばかばかしさを詰め込んで、大化け猫から、研修生の猫の殺陣、ピコ太郎まで出てくる九州のお家騒動物語を転寝をしながらぼんやり見物するのは悪くない。梅枝がよかった。ほかは宙乗りも今や珍しくもなし、特段のことはなし。無駄に金のかかったところはやはり税金劇場の余裕だが、これもせせこましいよりはいいのだ。
ユー・アー・ミー?
ラッパ屋
紀伊國屋ホール(東京都)
2017/01/14 (土) ~ 2017/01/22 (日)公演終了
満足度★★★
ラッパやはサラリーマン演劇を標榜して90年代の小劇場の中では異色の市民喜劇の劇団だった。サラリーマンの実感に基いた人情喜劇を時にはファンタジーに飛ばす主宰の鈴木聡の才に堅いファンがいた。そのファンも歳をとった。劇団も歳を重ねた。そのサラリーマンたちは今は主に40歳の終わりから50歳代。現在のパソコン片手の若手とはギャップがある。若手の仕事の進め方に馴染めるように「キャラ変」出来ない世代のサラリーマン喜劇である。流石に鈴木はうまいが、若手の生態が類型的なのが惜しい。彼らだって、それなりの切ない情熱をオフィスワークに持っているのだ。そこができていると重層的で面白い新しいラッパやが生まれたかもしれないが、それは次の世代の劇団の役割か。
フランケンシュタイン
東宝
日生劇場(東京都)
2017/01/08 (日) ~ 2017/01/29 (日)公演終了
満足度★★
舞台前のオケピにフルオケが入ったミュージカル。韓国製だけあって全面的にサービスたっぷりで、ホラーの原点的原作の色彩はない。ずいぶん筋も変わっていて、原作におなじみの人はびっくりするだろう。ホラーを甘くするというのはどういう意図かとも思うが、30歳代女性中心の観客はほぼ満足の様子。歌のうまい人が多く、濱田めぐみなど勿体ない使い方だが、それが日生劇場らしいのかもしれない。それにしても原作のつまみかたは随分乱暴だ。
ミュージカル★マーダー・バラッド
ホリプロ
天王洲 銀河劇場(東京都)
2016/11/11 (金) ~ 2016/11/27 (日)公演終了
満足度★★★★★
甘さもある小劇場ミュージカル
ハコが銀河なので大型ミュー-ジカルか、と言うとさにあらず、キャバレーショーの趣もある。話は単純な三角関係で、いい加減と言えばいい加減だが、現在のアメリカ(日本も近いが)の女上位の手前勝手さがよく出ているし、韓国で受けたのはあそこでは子供を抱えて家庭で悶々としている女性が多いからだろう。日本では、銀河のいい椅子で歌上手の四人のミュージカル役者を楽しめる。歌だけのミュージカルと言うと、筋売りに無理があったりして、あまり成功しない(レミゼは成功例)ものだか、これは話は単純のので、ソングは面倒な歌詞もなく、曲もさして難しくなく、皆気持ちよさそうに歌っている。ソロはもちろんだが、合わせて歌うところもうまい。中身はどうでもいい。これだけ面倒なtころを抜いてしまうと、当然時間はみぢかくなって、実尺は80分.こんなものを季節もののすぺっしゃる(たとえばクリスマス特番)で見せてくれる粋な劇場はないかしらん。セットはないしバンドも出演者も4人、リサイタル形式でもできる。活きに感じてやる人はいそうに思うが。パルコのラブレターは名企画だがこれだけやると飽きたよ。
貴婦人の訪問~THE VISIT~
東宝
シアタークリエ(東京都)
2016/11/12 (土) ~ 2016/12/04 (日)公演終了
満足度★★★★
ミュージカルに向いている原作なのか?
ミュージカルの原作は難しい。平凡だと客が観ないし、複雑な心理描写が欠かせないとなると、時間が足りなくなる。客も飽きる。このドイツ演劇の代表作は筋書、テーマもはっきりしていて(あざとい話だ)ミュージカルに向いていそうに見える。これは東宝お得意のウイーン仕立てだが、同時期にブロードウエイでもやったそうだ。こちらは情報でしか知らないが、あざとい話を抽象化して表現主義的?にやったらしいが見事失敗。一月持たなかったと聞く。こちらのウイーン版は東宝が知恵をつけているのだからきわめて大衆的な解りやすさをのある宝塚の俳優を生かした東宝ミュージカルだ。元戯曲は金で愛情が買えるのか、金があれば復讐できるのか。現代の社会の法や倫理はそれに対抗できるのか、と言う、まぁ、新書版ハウツーもの向けのテーマをドイツ風にじっくり書いてある4幕物。
対立項が男女の愛と復讐だし、金が前面に出るのでわかりやすいが、そこが落とし穴。今最もモラルが輻輳化しているテーマでもある。終結は明かさないが、これでは今の若者、いや中年も何が言いたいかわからない。原作は別の解決をしていてその方がよかったと思う。
と、中身には疑問だが、クーリエは満員のお客様。音楽は今どきめずらしい絃などもたっぷり入っているし、最近多い凝りまくった曲もなく、ダンスや群舞は手慣れた東宝ミュージカル調で見ている間は楽しく見られる。でも出てからはあれどういうことと?と話し合うネタにはkと欠かないだろう。それでいいのだともいえるか・・・なぁ。
余計なことだが、カーテンコールでもオケが紹介されるのに姿が見えない。カラオケではないと思うが、ミュージカルはオケを見たいのだ
リボルバー
オフィスコットーネ
APOCシアター(東京都)
2016/11/18 (金) ~ 2016/11/23 (水)公演終了
満足度★★★★
埋もれた小劇場脚本の発掘
オフィスコットーネと言う小さな(だが実績も歴史もある)演劇製作社が大阪の小劇場の大竹野正典の義侠を再発掘している。本人は09年になくなっているので戯曲から入るというしゅほうそのものが小劇場としては非常に珍しい試みだ。、生きていればこその作者、演出家が小劇場と思っている人も多いが、こうしてみると、埋もれている小劇場のいまも使える本はある。今回の演出は伊東由美子。なつかしや、離風霊船の作演出だ。この劇団のホンも「ゴジラ」などやってみると面白いのではないか(どこかでやっていたようにも思う)。大竹野は全く東京ではやっていなかった作家、小劇場なのでコットーネの公演で初めて知った。「山の声」は、あまりのストレートな作りに大阪の小劇場にもこんなのがあったかと、感動した。今回の「リボルバー」はかなりコメディ風のつくりなので「山の声」とは違うが、つまらない新作よりはいい。大阪らしい笑いがきついが楽しめる。役者はさすが、三田村周三、伊東由美子の大姉御ぶり、若者の辻井彰大、池田智子は若さで行ける。中年夫婦三組にいますこし粒だった人がいるともっと面白かったかとも思うが、それは千歳船橋の出来たばかりのスペースの公演としてはないものネダリだろう。70人くらいのスペースが月曜夜の公演なのに満席だったのがよかった。
天使も嘘をつく
燐光群
座・高円寺1(東京都)
2016/11/18 (金) ~ 2016/11/27 (日)公演終了
満足度★★★
これでいいのか??
あらすじの筆頭に似掲げられている社会性のあるドラマ。確かに西南諸島の諸問題を扱っているが、切実さがまるでない。坂手洋二どうしてしまったのだろう。二十年前は、それこそさまざまな社会問題を、物語の中に取り込んでしかも一種独特の叙情性もある舞台を作っていた。「屋根裏」を最後に続く『社会問題劇』は、もう誰もがよく知っている情報を並べて悪代官裁きをするようなドラマばかりだ。社会劇作家はほかにいないと思っているかもしれないが、中津留や古川のように繊細な才能を持つ作家が出てくるとこの精選されていない情報過多、妥協的な結末ではもう、若者はついてこない。それにやたらに体言止めが多く、役者で台詞割にしたような台詞のくせも気になる。最初は、情報ならそれで却って効果があるかとも思っていたが、これだけ連発されると、役者をどう考えているのか疑問になる。ベテランにはちゃんと台詞が書いてあるではないか。今回は、舞台俳優としてはなかなかの力量のある馬淵英里何を連れてきているのに、なんだかよくわからない役になってしまった。
本心を言えば、坂手、鐘下、は大いに期待していたのだ。それだけにこういう作品を見せられると奮起一番、あたらしい世界を目指してほしいと思う。劇団を持っていてその売りが固定していることが足かせになっているのかもしれない。それでは客足が遠のいたのに銘柄にこだわった三劇団と同じではないか。
猿川方程式の誤算あるいは死亡フラグの正しい折り方
劇団ジャブジャブサーキット
ザ・スズナリ(東京都)
2016/11/11 (金) ~ 2016/11/13 (日)公演終了
満足度★★★★
不思議な地方劇団
今回も筋書だけ読むと、なんだこれ!と言うむちゃくちゃな内容だが不思議につられてみてしまう。不思議と言えば、何年も岐阜の地方劇団が上京して打てるのはなぜだろう。作演出の長谷も最初の頃から脱力風だったがまだわかものの風貌だった。いまはさえない中年男風だが、作風は変わらない。細かいところは随分乱暴なところもあり、いいかげんにしろ!というような安易な性格設定があったりするが、時に、滅多に見られないすごくシャレているところがあって、全部許せてしまう。いや、ご苦労様、ぜひ次も見せてね、と言う気分になるのだ。ほんとに不思議な劇団だ。ひょっとすると、宇宙人の劇団かもしれない。
ゴドーを待ちながら
Kawai Project
こまばアゴラ劇場(東京都)
2016/10/19 (水) ~ 2016/10/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
生き生きしたゴドー
今までのゴドーは基本的には現代絶望型。アー空しいなーと言う基本路線だったが、この芝居は違う。この戯曲が興行としても面白いものだと確信して、観客に見せようとする。それが成功してこの芝居で珍しく一睡もしなかった。演技の中でも特にセリフ術がよく、耳に心地よい。秀逸だった。
治天ノ君【次回公演は来年5月!】
劇団チョコレートケーキ
シアタートラム(東京都)
2016/10/27 (木) ~ 2016/11/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
治天ノ君
トラムのベンチ席で二時間半休みなしは拷問かと思っていたが、俳優熱演でこの劇場ではそれがよく見え面白かった。天皇家をホームドラマで見せるという卓抜なアイディアでそれが現代史の根幹にかかわっているところが素晴らしい。もっとも私は政治的テーマにつられないよう、気をつけて見た。どの家でもタブーはあってそれを抱えながら肉親の関係はできていくのだ。そのドラマを的確に見せた脚本と俳優陣、ことに大正天皇夫妻は特にすばらしい。松本紀保のうまさとガラがこのように生かされた舞台は初めてだろう。間違っても肉親の情につられて帝劇なんか出るな!